研究の完成
「あら、リクさん。もう大丈夫そうね?」
「まぁなんとかね。とは言っても、もう今日は動く気がないけど……」
「残念なの。面白かったのー」
「そりゃ、ユノは楽しかっただろうなぁ……俺が一方的にやられていただけだったし」
「私から見れば、そうでもないように思ったが……まぁ、真似をしようとすら思わないくらい、高度な戦闘だったがな」
「ほんとよね。途中、ユノちゃんの動きを追い切れない事も多かったわ。あ、ありがとうリクさん」
お風呂から上がって、俺の部屋へと戻ってきたモニカさん達。
エルサの毛を乾かし終わって、ソファーでくつろいでいるのを見て呟くモニカさん……まぁ、ユノとの訓練でよろよろしていた俺を見ているからね。
ソフィーとモニカさんが俺とユノの模擬戦の感想を言いながら、同じくソファーへと座る。
……俺の近くに並んで座っているのは、ドライヤーもどきを期待しての事だろうと思って、立ち上がって後ろから温風を出してあげた。
フィネさんは、どちらかというとお世話をする方に慣れているのか、ヒルダさんがお茶を用意するのを手伝おうとして断られ、離れた場所でシュンとなって座っていたりする。
ここ数日で、ヒルダさんとフィネさんのやり取りにも慣れたなぁ……最初は、皆のお世話をするヒルダさんを手伝うとかたくなに言っていたのに……。
「あ、フィネさん。こっちこっち」
「……はい。リク様、申し訳ありません。本来なら、私がリク様にお世話されてはいけないのでしょうけど……」
「いえいえ、いいんですよ。ついでですからね」
「ほんと、リクのこれは気持ちがいいな……」
ソファーの端っこに座っているフィネさんを手招きして、自分達の隣に座らせるモニカさん。
少しだけ範囲を広げて、三人……ユノもいるから四人に温風が当たるように調節して、皆の髪を乾かす。
訓練後の大浴場と同様に、これも恒例となっているんだけど、いつもフィネさんは恐縮してばかりだ。
まぁ、お世話する側からお世話される側になると、落ち着かないんだろう。
さすがに、俺が遠慮なく女性の髪に触るわけにもいかないので、髪型のセットとかは各自でやってもらっているけど、しっかり乾くまで自分が温風を出す機械になったような気分で過ごす。
皆気持ち良さそうにしてくれているし、喜んでもらえるならそれでいいんだけどね――。
「リク!」
「お、アルネ。どうしたの?」
皆の髪を乾かし、夕食まで各々のんびりと過ごしていると、アルネが勢いよく部屋のドアを開けて飛び込んできた。
何やら焦っているというか、急いでいる様子だけど……何かあったんだろうか?
「ついに、クォンツァイタにある程度以上の魔力を保持させ、魔法維持に利用させる事ができたぞ!」
喜色満面で報告するアルネ。
研究の成果が出たのだから、そりゃ喜ぶか。
「凄いじゃないかアルネ! さすがだね!」
「まぁ、研究を補佐してくれていた者達もいるからな。さすがに国の中枢にいる者達だ……エルフ程に知識の蓄積はなくとも、発想や着眼点は見事だろう。おかげで、想像よりもかなり早く研究が実った!」
アルネに協力している研究者さん達は、ツヴァイの所にいた研究者さん達とは違って、正規に国から研究職を任されている人達だ。
もちろん、研究する事は魔法に関する事だけじゃないし、アルネ達エルフのように長生きじゃないから、知識に関しては敵わないんだろうけど、それでも研究者として考え方や発想が良かったらしい。
こんなに興奮して、喜んでいるアルネは初めて見た……というか、本来はドラゴンの魔法や俺の魔法の使い方から、新しく人間やエルフが使う魔法や魔力の使い方を研究していたはずなんだけど……そこは今言う必要はないか。
本来していた研究じゃなくても、自分で考えて成果が実りそうになれば、喜ぶのも当然だよね。
「それじゃ、これで心置きなくヘルサル以外でえっと……ハウス栽培、だったかしら? ができるのね?」
「そうだな。まぁ、ヘルサルでフィリーナがやったガラスを魔法具への措置とは、少し変えなきゃいけないが、問題ないだろう。あとは、内部の温度調整をどうにかできればというところだな」
「そこは、エルフの集落で研究している者次第か。ともあれ、陛下が喜びそうな報告だな。国が豊かになるのは良い事だ」
「うん。姉さんは間違いなく喜ぶと思うよ」
モニカさんやソフィーも、アルネの勢いと報告に喜んでいるようで笑顔だ。
あとは、温度管理が上手くできるようになれば、何も問題なくハウス栽培が実現できる。
まぁ、作物の収穫量が劇的に増える……という程じゃないはずだけど、外敵から守られている状態で気温や天候に左右されないのは大きい。
もしかすると、寒い地域の物を暖かい地域で栽培したり、その逆もできたりするかもしれないし、一年で何度も同じ作物を育てて収穫する事だって可能になるかもしれないから。
「とにかく、これがその魔力を蓄積させたクォンツァイタだ。蓄積自体はそもそもに備わっているから問題はなかったんだが、それを放出させる方法に手間取ったな」
「へぇ~、そうなんだ……そういえば、蓄積させられるとは何度も聞いたけど、放出したりその魔力を利用する方法って聞いてなかったね」
「私が見た文献でも、蓄積された魔力を利用する方法までは書かれていなかったからな。というより、そもそも蓄積と放出は性質が逆であって、両方の性質を持たせるのは中々な。方向として内側に向いている……外側に向けるには……」
クォンツァイタは魔力を蓄積させる鉱石、というのは何度も話していた事だけど、その魔力を利用する方法というのはそういえば聞いた事がなかった。
アルネが懐から取り出したクォンツァイタは、野球ボールくらいの大きさで既にある程度魔力が蓄積されているらしく、透明ではなくなっている。
それを皆で覗き込みながら、アルネは蓄積と放出の性質について説明を始めた。
それはいいんだけど、さすがにエルフと人間が協力して研究するだけあって、ちんぷんかんぷんな内容だ。
魔力の方向性とか、指向性、鉱石の物質として魔力との相関関係だのなんだの……数式っぽいのもいくつか出てきたし、よくわからない内容だった。
でもまぁ、皆わからないながらもアルネの努力した結果だと思って、何も言わずに聞いていた。
エルサとユノは興味なかったのか、ベッドに転がってゴロゴロしていたけど……。
ともかく、要約すると自然に魔力を蓄積させる鉱石に、魔法式らしきものを組み込んで接続、外と内側を繋げて双方向へ魔力が行き来できるようにした……という事らしい。
魔法具にも備わっている機能なんだけど、クォンツァイタは大量の魔力を蓄積する物質だから、今まで使ってきた物よりも特殊で特化していたとかなんとか。
ともかく、アルネ達が研究成果を組み込む事で、蓄積された魔力を取り出して使用する事ができるようになった、と考えればいいかな。
理解しようにも、そこまでの知識がなくてなんとなくしかわからないアルネの説明を聞きながら、持っているクォンツァイタの状態に気付いた――。
異常というわけではないようですが、クォンツァイタの状態にリクは何か気になったようでした。
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