珍しい形のリュックを発見
お世話されるのはさすがにどうかなと思いながら返し、アメリさんの言葉で足を止め、ユノが近くにいない事に気付く。
アメリさんとの話に気が向いていたから、いつの間にか離れてしまっていたかな?
見た目はともかく、そこらの人が束になっても敵わないから、ユノが一人になっても滅多な事はないと思うけど……迷子になっていないか心配だ。
もしかして何か興味のある物を見つけて、そちらへフラフラと言ってしまったんだろうか? エルサを抱いていたから、探せば見つかるだろうけど……と思いながら辺りを見渡す。
「んー……離れ過ぎていなければ、契約で魔力が流れているとかなんとかで、エルサを探せばみつかるだろうけど……って、あんなところにいた」
「いつの間にか、あんな所に行っていたのね。何か興味をそそられる物を見つけたのかしら?」
「そうかもしれませんね。ユノちゃんは、ルジナウムにいた時もよく食べ物に釣られていましたから。――リクさん、行ってみましょう」
「うん」
俺達がいる場所から、数メートルくらい離れた先にあるお店の前で、エルサを抱いたまま何かをジッと見ているユノをすぐに発見した。
そこまで離れていなかったのは、アメリさんが気付いてくれるのが早かったからだろう……妹さん達の面倒を見慣れているから、気付けたのかもしれないね。
ともあれ、モニカさんと頷き合って皆でユノがいる場所へと近付く。
「ユノ、勝手に離れちゃ駄目だろう? 迷子になるかもしれないんだぞ?」
「あ、リク! えっと……あ、ごめんなさいなの……」
「まぁ、すぐに見つかったし、そんなに離れていなかったから良かったけど。それで、何を見ていたんだ?」
「これなの!」
それなりに立派な店構えをしている……色んな種類の商品を取り扱っている店の前で、何かをジッと見ているユノに声をかける。
すぐに振り向いたユノは、俺達を見てすぐに謝った……勝手に動いた自覚はあったみたいだ。
ともあれ、あまり責めるのもなんなので、ユノが興味を持って見ていた物がなんなのかを聞く。
すぐに、楽しそうな表情でユノが示したのは……鞄だった。
「鞄? あ、でもこの形は……」
「これって、ユノちゃんが持っているお金を入れる袋、かしら?」
「大きさは違うが、形はそっくりだな」
「中々可愛い形ねぇ?」
「あまり見ない形ですけど、これに興味を持ったんですね」
「そうなの。これ、私がリクに買ってもらった物と似ているの!」
ユノが示したのは、店先に目玉商品とばかりに飾られている物。
誰にでも見られるように飾られてはいるけど、盗まれたりしないよう、何本もの鎖で結ばれていた……そこまで厳重にするような物なのか、少し疑問ではあるけど。
ともかく、その鞄の形はユノが首から下げている、がま口財布にそっくりで、それを大きくして背負えるように革紐を取り付けてある物だった……こういうの、ショルダーストラップって言うんだっけ?
大きさは、大人の人間が背負うのにちょうどいい大きさなので、財布というよりリュック……さながら、がま口リュックといったところだろう。
「確かに似ているけど、大きすぎないか? ユノにはもう少し小さい方が、似合っていると思うんだけど……」
大人の人間が背負うくらいなので、当然子供サイズではないため、ユノに背負わせたら大きすぎる気がする。
まぁ、似合う似合わないを考えなければ、子供が使っちゃ駄目という決まりがあるわけでもないので、悪くはないと思うけど。
「でも、これならいっぱい食べ物を入れられそうなの!」
「うん、まぁ……そうだな」
基準が食べ物のなのか……よく食べるからわからなくもないけど。
今は、俺もそうだけどモニカさんやソフィーが用意してくれた、口紐と一緒になった紐を肩に掛けて持つリュックを使っているけど、それだと手が塞がるしずっと持っていなければいけない。
すぐに荷物から手を離して身軽になり、戦闘態勢になれる……という部分では優秀なんだけど、背負う形のリュックより入る物は多くないし、片方の肩が痛くなったりもして、不便な事も多いからなぁ。
それに、ユノなら荷物を持っていてもいざという時邪魔になったり、という事もなさそうだから、背負うタイプのリュックでもいいのかもしれないな。
……大きさは、少し考える必要があるかもしれないけど。
「ねぇリクさん。お店の中に入って、ユノちゃんに合う大きさの物があるか見てみましょう? それに、ユノちゃんが見ていたあれ、ちょっと気になるのよ」
「そうだね。とりあえずお店に入ってみようか。でも、気になるって?」
「リク、値札があるだろう? そこを見てみろ」
「値札……リュックの前に置いてあるけど……え!?」
モニカさんに提案され、お店に入る事に頷いたのはいいけど、モニカさんがなんで気になるのかがわからない。
首を傾げる俺に、ソフィーが視線でリュックの傍にある値札を示したので、見てみると……そこには金貨五枚という値段が……。
たかが、というのは失礼だろうけど、ちょっと珍しいがま口の形をしているだけで、あの値段というのは高すぎる。
荷物を入れるための物なんだから、高くても銀貨数枚程度というのが相場だったと思うけど……あれじゃ、リュックを買うだけでお金がなくなって、中に入れる荷物を買えずに本末転倒とかありそうだ。
「……なんだか、普通じゃないのかしらね? 面白そう!」
「アメリさん、生き生きし始めましたね……」
「リク、とにかく中に入るのー」
「わかったから、ひっぱらないでくれー」
女性というのは、こういった珍しい物を見たり買い物をしたりするのが楽しい生き物なのか、アメリさんが生き生きして店の中へ入っていく。
モニカさんやフィネさんも似たような雰囲気で中に入り、ソフィーまでもどこか楽しそうな様子で、アメリさんに付いて行った。
こういう時、男って置いてきぼりになるよなぁ……なんて考えている俺の腕を引っ張って、楽しそうな様子のユノに引っ張られ、俺も扉をくぐる……なんだかんだ言っても、ユノだって女の子なんだから、こういったお買い物が楽しいのかもな。
お気に入りのがま口財布と、同じ見た目の物があったからかもしれないけど。
「すみませーん」
「はーい、いらっしゃいませー! 何か御入用でしょうか?」
アメリさんが中に入って声をかけると、奥からちょっと高めな声で応答しながら、男性が姿を現した。
頭は剃っているのか禿げているのか、つるりとしたスキンヘッドに立派な顎髭を蓄えた……中年くらいに見える強面のおじさんだ。
少し痩せ型で長身ではあるけど、なぜか内股で裏声にも感じるような高い声……色々とアンバランスな印象だ。
「えっと、店の前に置いてあった鞄なんですけど……」
「あらぁ、あれを気にするとはお目が高いわ! あれは最近ちょっとした素材が手に入って、それで作った特別製なのよ!」
「へ、へぇ……特別製、ですか……」
アメリさんが、強面の男性に物怖じせず尋ねると、両手を合わせて頬に持って行きながら、喜色満面といった表情を浮かべて先程よりもさらに高い声を上げた。
……見るからに男性なんだけど、仕草とか声の出し方とか喋り方から察するに……まぁ、あまりそこには触れないようにしておこう。
喋り方もそうだけど、考え方は人それぞれだし、自由だからね――。
個性的な店主さんがやっているお店のようでした。
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