オーガの実験と魔力混在
「……魔力を流し込む、爆発って、もしかして……オーガの実験?」
「あ!」
「うーむ、状況としては似ているとも言えるか」
「もしかして、ツヴァイの魔力を混ぜて混在させる事から、オーガを爆発させる実験を思いついた……とか?」
「両方、魔力を注ぎ込むという事は同じよ。核から復元させるのはともかく、注ぎ込む魔力に細工をして、爆発の性質を持たせるか、混ざり合わせるようにするかの違いね」
手順としては、オーガの実験とツヴァイに混ぜた魔力というのは似ている。
ツヴァイに魔力を注ぎ込み、それを混在させる事に成功して、そこから細工した魔力でオーガを爆発させるという研究が開始されたのかもしれない。
確か、ツヴァイが言っていたけど、その膨大な魔力で、もしもの際は奥歯に仕込んだ毒で自決させるように仕組まれているらしいから、爆発させるように仕組みを変える事だってできるかもしれない。
「オーガの実験から、ツヴァイに魔力を注ぐ方法を思いついたのかもしれないし、どちらが先かはわからないけど、同じところから来ている考え方のようね」
「そうだね。まぁ、だからといって、あの方って言うのが誰かはわからないけど……とにかく、その人は人間かどうかすらわからず、さらにとんでもない魔力を持っている、という事だね」
「とんでもない魔力かぁ……リクさんと同等なら、心酔するのもわからなくもないわね」
「うむ。リクの場合は魔物に対する魔法が主だが、王都での人々を見ればよく理解できるな」
「そうね。どちらも異常と言える魔力を持っていて、誰かに心酔されている。使い方に関しては、リクの方が正しいと言えるのでしょうけど」
いやいや、魔力が多いだけで心酔って……。
俺にはよくわからない感覚だけど、他の皆には納得できる事だったんだろうなぁ……まぁ、魔法の威力がちょっとおかしな事になるから、とんでもない効果をもたらしたりするのはわかるんだけどね。
「リク様! リク様、ご報告申し上げます!」
「ん、どうしたんだろう?」
あの方というのはとんでもない魔力の持ち主、という結論を出したところで、街道とは逆の森の方から一人の兵士さんが俺の前に駆け込んできた。
凄く慌てている様子だけど、何か大きな問題でも起きたんだろうか?
「リク様! 緊急です!」
「どうしたんですか!?」
完全に俺が上官のようになっているけど、今回は指揮をしているような感じだし、それも仕方ないんだろう。
「ヴェンツェル様が調査していた……その……」
駆け寄ってきた兵士さんは、ヴェンツェルさんの名前を出しながら俺へと近付き、周囲を見回しながら、声を潜めながら顔を寄せてきた。
報告! とか叫んでいたのに、肝心の内容は周囲には秘密のようだ……という事は、調べてもらうようお願いしていた事に関してだろうね。
すぐ近くというわけではないけど、俺達の近くには他の兵士さんもいるから。
「……実験に関係していたとみられる者が、逃げ出しました。現在追っ手を差し向けてはいますが……」
「逃げ出した……はい、はい……わかりました」
「リクさん、どうしたの?」
「問題が発生したのはその様子を見ればわかるが、何があったんだ?」
「詳しい話は移動しながらで! ちょっとエルサに頼まないといけない事があるから、ここを離れよう!」
「はぁ……仕方ないのだわ……」
耳に顔を寄せた兵士さんが、他に聞こえないよう小声で状況を説明してくれる。
それによると、ヴェンツェルさんが調査をしていた、兵士に紛れ込んでいると思われる実験の協力者が、逃げ出したらしい。
一応、ヴェンツェルさんを先頭に追いかけているみたいだけど、気付くのが少し遅れた事と、馬に乗って逃げたから、追いつくのは難しいかもしれないとの事だ。
ちなみに兵士さんが言うには、協力者を探すのに細心の注意を払っていたので、こちらが探しているのは知らないはずだけど、ツヴァイを含めて施設が制圧されたのを見て逃げる頃合いを見計らっていたんだろう。
協力者は一人で、そいつは確かにフィリーナの魔法が方向を変えた時に、俺から数人を挟んで後ろにいた事がわかっているとの事。
そして、逃げ道を探索していた小隊の一人で、同じ隊の人達はその人の事をよく知らない様子だったらしく、ここで部隊を混ぜて役割を分けた事での弊害が出た……とヴェンツェルさんは言っていたらしい。
普段ならある程度役割を固めて隊を組むらしいけど、今回は新兵さんがいる事で、突入前に編成したからというのもあって、ごちゃごちゃになっていたらしいので、紛れ込みやすかったんだろうね。
まぁ、それは突入する際に急に考えた事だから仕方ないとして、今は逃げた人を追いかけて捕まえるのが先だ。
建物から離れ、周囲に障害物がない場所まで移動しながら、モニカさん達に説明しておく。
ヴェンツェルさんが追っているらしいけど、向こうも馬でこちらも馬なら、先に移動していた方が逃げ切る可能性が高いため、エルサに乗って追いかけようと思ったからだ。
建物の近くだと、木があったりで大きくなるのに邪魔だからね……エルサは、人間より耳がいいから小声で報告してくれた兵士さんの話を聞いていて、どうせ自分が飛ぶ事になるんだろうと考えていたようだ。
「リク様? そんなに急いでどうなされたのですか?」
「マルクスさん! えっと……詳しくは後で話しますが、昨日から調査していた兵士の中に紛れ込んでいるという人が、逃げ出したらしいんです。ヴェンツェルさんが今追いかけているようですけど、俺もエルサに乗って追いかけようと……」
「そんな事が……わかりました。私はこちらの指揮があるので離れられませんが、エルサ様が大きくなった際の混乱もあるでしょうし、そちらはお任せください」
「はい、お願いします!――エルサ、頼む!」
「わかったのだわー」
「リクさん、私も行くわ!」
「私達は……あまり多く行っても意味はないし、こちらを手伝っておくか」
「そうね。リク、頑張ってね」
街道近くの、障害物がなさそうなところに出た辺りで、マルクスさんがいた。
マルクスさんはツヴァイの尋問の後、拘束した人達を王都まで連行するため、野営地に置いてある幌馬車へと人を詰め込む監督をしていたようで、ここにいたみたいだ。
ともかく、詳しく説明している時間はあまりないので、簡単に探していた人物が逃げて追いかけるという事を伝える。
エルサが大きくなったら、間近で見た事のない兵士さんや、連行されている研究者さん達が騒ぐだろうから、そちらを収めるようにしてくれるみたいだ、ありがたい。
エルサに頼んで大きくなってもらい、モニカさんと一緒に乗り込む。
あまり多く行く必要もないだろうから、ソフィーとフィリーナはここに残ってマルクスさんを手伝ってくれるらしい。
「それじゃあ、そっちはお任せします!――よし、エルサ、モニカさん行こう!」
「えぇ!」
「了解だわー」
二人とマルクスさんに施設の方を任せ、声をかけて飛び立ってもらう。
羽ばたきながら上昇したエルサは、いつもより少し低めの高さで街道を横切るように移動を開始した。
逃げた人物は、どうやら野営地の馬に乗って、街道や建物とは別の方向へと向かったらしいからね……街道じゃない場所には木々や川があるから、馬だと迂回したり移動に手間取る事があるみたいだけど、こちらは空からだから一直線に追いかけられる!
それに、逃げた相手と同条件のヴェンツェルさんよりも速度を出せば、すぐに追いつけるはずだ……。
馬と違って速度も速く一直線に進めるエルサなら、追いつくのは簡単なのかもしれません。
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