ツヴァイ達の攻撃目標
「あと、研究者達はともかく、ツヴァイはオーガを外に出して実験しようともしていたので……つまり研究が完成した際には、この国を攻撃するつもりだったとも考えられますかね?」
「そうですね……はっきりと攻撃目標が我が国だとは断言できませんが、可能性は高いかと。自国の強化をするために、自国の民を犠牲にするのは、よっぽどの馬鹿でしょうから。いずれ攻撃する対象として見ているからこそ、この国で実験をして被害が出る事も厭わなかったのでしょう」
「そんな事をしていたら、いずれ今回のように見つかる可能性もあったのに、そこは考えなかったのかな? いや、ツヴァイがフュンフという人が焦っていたと言っていたから、なりふり構わずとも考えられますね」
「もしくは、見つかってもすぐに逃げられる準備も進めていたか……ですね。本来なら事前に備えておき、踏み込まれたと同時にオーガをけしかけて、その混乱に乗じて逃げるつもりだったんでしょう」
マルクスさんと話して、ツヴァイの行動から考えなどを予想する。
さっきも想像したけど、オーガを一斉に爆発させたら、威力が高い事もあって地下施設は一気に埋もれてしまう可能性が高い。
証拠隠滅と、自分達が逃げる時間稼ぎ、さらには踏み込んできた人達の足止めや処分も含めて、一石二鳥……いや、一石三鳥を狙っていたんだろうね。
「この国で集めた研究者と、他国から来た指導者……やっぱり、逃げる時には……」
「一緒に処分する、と考えられます。わざわざ研究者を連れて逃げるのも手間ですし、研究していた内容を漏らさない一番の手は、それにかかわっていた者を消す事……ですから」
「考えれば考える程、あのツヴァイというエルフが非道な事をしようとしていたのがわかるわね」
「……エルフが全員そうだと、誤解しないでね?」
「大丈夫よフィリーナ。話を聞く限りだと、それを指示した人物が何人かいるみたいだし、実行しようとしていたツヴァイが非道なのはそうでも、エルフ全体がそうだとは思わないわ。私は、集落にも行ったし、フィリーナやアルネっていう友人もいるからね」
「ありがとう」
やっぱり、研究者は口封じのために最終的には処分するつもりだったんだろうなぁ……ツヴァイも、拘束する前にそれっぽい事を言っていたからね。
マルクスさんと顔を突き合わせて、色々と予想している後ろでは、モニカさんとフィリーナが話していて、お互いの友情的なものを確認している様子だ。
俺も、エヴァルトさんを始めとした集落のエルフ達は知っているし、皆が同じような事をするとは思っていないから、大丈夫。
アルネはちょっと、研究にのめり込んでいるようだけど、非道な研究や行為をしないと思うくらいには信頼している……むしろ、のめり込み過ぎて体を壊さないかという方が、心配になるくらい。
「リク様、ありがとうございます。私共だけでは、あの者から情報を引き出すのは難しかったでしょうから」
「いえ、これくらいは。それに、肝心な情報は引き出せませんでしたからね……とりあえず、国内の事だけではないとわかっただけでも、良しとしましょうか」
「はい。ここから先は王都へ連行し、しかるべき部署が情報を引き出す事に期待しましょう」
改めて、マルクスさんからお礼を言われる。
この場では、ツヴァイが暴れる可能性もあるため、俺がいたりフレイちゃんがいないと脅しておとなしくさせるのが難しかっただろうからなぁ。
一応、最初にマルクスさんが指示したように、剣を突きつけてという事もできただろうけど、恐怖心を煽るという意味では、一度燃やされたフレイちゃんを見せる方が効果的だ。
……もう少し穏便に話を聞こうと思ってフレイちゃんを呼び出したんだけど、結果オーライとしておこうかな、うん。
「……それで、リクさん? フレイちゃんっていうのは誰かしら……随分仲良さそうな声が部屋から聞こえてきたけど?」
マルクスさんとの話を終え、建物の外に出て新鮮な空気を吸いながら体を伸ばしていると、何やら不穏な空気を醸しだしたモニカさんが、剣呑な目で見ながら聞いて来る。
ツヴァイや俺達の声が、部屋の外に聞こえるようにしてあるのなら、当然フレイちゃんの声も聞こえているはずなんだけど、もしかして断片的に聞いて想像力が掻き立てられているとか、かな?
「え、えーっと……そんな目で見られる覚えはないんだけど……ともかく、フレイちゃんっていうのは火の精霊……であっているのかな、多分。ほら、キマイラ討伐の時に呼び出したでしょ?」
「……確かにあの時は、リクさんが急に召喚魔法を使って驚いたわね。でも、あの時は名前とかなかったわよね? 楽しそうな声も聞こえてたし……」
「あぁ、それはなぜか俺にもわからないんだけど、昨日ツヴァイを相手にする時に呼び出したら、急に人に近い形で召喚できたんだ。とは言っても、上半身だけだし、髪は炎のようだけど……」
「安心していいわよ、モニカ。私は部屋に入った時に見たけど、本当に火の精霊だったわ。召喚主だからか、リクにだけは話している内容が理解できるみたいだけど、だからこそ名前を付けたんじゃないかしら?」
「そう、そうなのね……」
「ははは、モニカはこういう事でも気が気じゃないのかもな」
フィリーナがフォローを入れてくれて、ようやく落ち着くモニカさん。
横でソフィーが笑っているけど、あの目を向けられた側としては、笑い事じゃない……マリーさんがマックスさんを怒る時とかに近くて、身がすくむ思いだったよ……血は争えないとはこういう事なのかな?
「まぁ、その火の精霊に、なんでフレイちゃんなんて可愛く読んでいるのかは、私は知らないけど……」
「っ!」
フィリーナがボソッと呟いた言葉に反応し、モニカさんがガバっと俺の方へ再び顔を向ける……だから怖いよ、モニカさん。
「あれは、フレイムスピリットっていう精霊だって言われたから、略してというか簡単に呼んだら、それを気に入ったらしかったからそのまま呼んでいるだけだよ」
「ふーん……まぁ、私が見ると魔力が異常と言わざるを得ないけど、精霊とリクだからで納得できるわね。モニカ、安心していいわ、フレイちゃんは女の子ではさそうだったから」
「そ、そうなのね……」
弁解するようにフレイちゃんと呼んでいる理由を説明し、ようやく落ち着いてくれたモニカさん。
……というか、フレイちゃんに性別ってあるのかな? 見た目は男女どちらかはっきりとはわからないくらい、中性的だったから、どちらとでも言えそうだけど。
そもそも、精霊に人間やエルフで言う男女の概念があるのかもよく知らないから、どちらでもいいか。
「そんな事より、フィリーナ」
「ん、どうしたのリク?」
「魔力が混ざるっていうのは、どういう事なんだろう? さっきの話を聞いていたら、不自然な事だと言っているようだったけど」
危険な香りがする話題は、すぐに変えるに限る。
モニカさんには、フレイちゃんは火の精霊で、男女とか関係ないと無理矢理にでも納得していてもらおう――。
説明はしたので大丈夫でしょうけど、危険な香りがする話題は別の話題にすぐ変えた方が良さそうです。
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