厳重に閉じられている扉
侵入した建物の内部にある数部屋のうち、大きさに見合わない台所……というよりは厨房と言った方が正しそうな、大きめの調理場があったのは、地上階の人間だけでなく、地下にいるはずの人間の分も料理を賄うためだろう。
各部屋に兵士さんに入ってもらって確認をし、合計で十人程度の人間を拘束、運び出した頃、ようやく廊下の終着点に到着した。
「リクさん、あれ……」
「うん、間違いなく地下への通路だね」
俺の後ろから、モニカさんが廊下の突き当りの床……どう見ても何かがありますと言わんばかりの、床に設置した扉を示す。
床に偽装すらしていないので、隠す気はないのかと一瞬考えたけど、奥まで来る人がいなければ隠さなくてもいいのかと考え直した。
一応、警戒はしているし、通常の家のように見せかけているけど、こんな場所を捜査されるとは考えていなかったんだろうな。
「……うん、昨日とほとんど変わらない反応だね。やっぱり何か違和感というか、魔力が充満しているような感覚で、これ以上は実際に突入しないとわからないかな」
「いよいよか……」
床の扉の傍でしゃがみ、地下を探知魔法で調べるけど、やっぱり大まかに人間やオーガが複数いるというくらいしかわからない。
なんだか、地下全体に魔力が張り巡らされているというか、充満しているような感覚で、幾重にも膜があるように感じられてはっきりと細かい反応がわからないためだ。
うーん……魔力は空気に溶け込むから、いくら地下とは言っても充満するような事はほぼないはずなんだけど……何かしらの研究成果なのか、それとも探知魔法に対する対策なのか……。
後者は可能性が低いか……探知魔法を使えるのは俺やエルサみたいな、ドラゴンの魔法を使える者だけだからね。
「この先は階段になっているようですね。調べた限りでは、階段の先に出入り口にあったような大きめの扉があって、そこから中に入るようです。その先は……大きさはなんとなくわかりますが、かなり大きく地下を掘って施設を作っているようです」
「この扉も大きい、廊下もそうだ……地下で研究し、オーガを作り出して外へ出すためなのは間違いないな。……よし、リク殿、行こう」
「はい」
ゆっくりと扉を開け放ち、俺が先頭になって階段を降り始める。
地上から地下の扉までは、誰もいない事を確認しているから、大きな物音さえ立てなければ大丈夫そうだ。
建物の中は、日の光が差し込んでそれなりに明るかったけど、さすがに階段にまで日が差し込まないので薄暗いため、足元に気を付けながら降りて行く。
踏み外したりして、階段を転げ落ちたりしたら格好がつかないどころか、皆を危険に晒してしまう事になりかねないからね。
「ここ……ですね……」
「厳重だな。どうする?」
「無理矢理開けたら、絶対中に気付かれますよね……?」
「まぁ、だろうな」
階段の先、下まで降り切ったところの大きな扉の前で立ち止まり、ヴェンツェルさんと相談する。
扉の大きさは建物の入り口と同じくらいなんだけど、金属で作られていて頑丈そうなうえ、左右の取ってが鎖でがちがちに固められているので、一目見てこっそり中に入るのは難しそうだとわかる。
さらに鎖をゆっくり解いて……という事ができないよう、南京錠に似た鍵のような物が取り付けられていた。
地上階にいた誰かがカギを持っていたのか、それとも建物内のどこかにあるのかもしれない。
というか、内側からならともかく、外側から厳重に閉じられているのはどうしてだろう? これじゃ中にいる人が外に出ようとしても自由に出られそうにない。
オーガが暴れたり、外に出ようとしないために固く閉じておくのは必要なのかもしれないけど……それなら内側でもいいわけだし……不自由さしか感じられない。
中に人がいなくて、地下室そのものを封印しているというのならわからなくもないけど、探査魔法で調べた限りでは、オーガ以外にも人間が確実にいるのは間違いないのに……人数はわからないけど。
「ねぇリクさん? 外からは無理でも、ここからならちょっとした隙間から魔法を使えないかしら? ほら、さっきもやった眠らせた魔法とか……あれなら、中が見えないくらいの隙間でも、入っていくでしょ?」
鎖を見つめて思案する俺やヴェンツェルさんに、モニカさんからここでスリープクラウドを使ってみてはどうかと提案される。
けど、それはちょっと難しいかな。
「うーん、確実に中へ送り込めるのなら悪くはないかもしれないけど、止めておいた方がいいと思う」
「どうして?」
「あの霧、実は量の調節が難しいんだ。隙間から送り込むとしたら、少しづつしか入って行かないでしょ? それなのに、建物の地上階に充満するくらいの量が出たら、先に階段に充満する事になるからね。結界を張ってもいいけど……時間もかかるし、少しずつって言うのは難しいかな」
あの魔法、魔力自体はほとんど使わなくて、魔力使用量だけで言えばモニカさんがよく牽制に使う魔法の方が多くの魔力を使うくらいなんだけど、細かい調整が難しいんだよね。
だから、使うとなったらできれば広い場所で一気に霧を送り出したいんだけど、狭い隙間や空気穴からだと自分達がいる場所に充満する方が早い。
しかも地下で空気の流れが少ないし、フィリーナに頼んで空気の入れ替えをしても、霧がなくなるよりも皆が寝る方が早いだろう。
だからといって、送り込むために皆を地上に上げて階段に霧を充満させ、地下室に流れ込むのを待つのは時間がかかり過ぎるし、流れ込むよりも霧がなくなる方が早いだろう。
ずっと俺が霧を出し続けて充満するまで、とするのも悪くないけど、そうしたら俺が霧を吸い込んで眠ってしまいそうだ……結界で顔を覆ってとかも一瞬考えたけど、霧が地下室に入り込むよりも結界内の酸素がなくなる方が早いだろうし、何より自分の魔法で自分が寝てしまう事態は避けたい。
王城で姉さんを助ける時にも使ったけど、あの時は広めの場所だったし、空気の循環は十分にしていたから、息を止めていられる時間程度で効き目がなくなっていたんだけども。
「それに、なんらかの方法で地下室内に霧を送り込めても、向こう側の空気がどうなっているかわからないから、結局は止めておいた方がいいと思う。突入した途端、こちらの人達も寝る事になってしまいかねないからね」
「そうなのね……でも、だったらどうしようかしら?」
地下室内での空気循環がどうなっているのか、中を見た事のない俺達にはわからない。
鉱山と同じか、それ以上に空気が滞っていたら、眠りの霧が充満したままになってしまうし、階段までならともかく、それだけ空気が滞っている場所だとフィリーナも新しい空気を送り込むのも難しいだろう。
眠ったのを確認したら、霧の効果がなくなるまで待っていてもいいんだけど、そうしていると起きてしまう人も出て来る可能性もあるからね……意外と、霧での眠り効果は時間が短いから。
よっぽど寝不足で熟睡しているとかではない限り、すぐに起きてしまう魔法でもあるから――。
眠りの霧を発生させる魔法は、便利なようで扱いが難しそうです。
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