リクは馬鹿魔力の持ち主
目の前のクォンツァイタは、ブハギムノングで見た物と違ったようには見えないけど、魔法具になっているようだ。
ヘルサルでフィリーナがガラスを魔法具にして、結界維持のために使った時もそうだったけど、はっきりと見た目で違いがわかるような事じゃないんだろう、魔法具にするというのは。
脆い鉱石で加工に耐えられない鉱石だけど、何かを刻んだり形を変えようとするのでなければ問題ないんだろうね。
「それで、このクォンツァイタが魔物を集める効力を持つ魔法具だったとして、どうしようかと考えていた時に……」
「俺がここに来たんだね」
「えぇ」
ちょうどこちらでクォンツァイタを使った魔法具が見つかって、俺がタイミングよく来たというわけか。
だからさっき、モニカさんが意見を聞きたいとか言っていたんだね。
「リク様が来られるまでは、この魔法具をどうするかと悩んでおりました」
「そうなんですね。えーと、触っても?」
「はい。今は効力も失っているので、触っても問題ありません」
フランクさんに許可を取り、手を伸ばしてクォンツァイタを両手で持ち上げる。
まぁ、触ったからといって何かがわかるというわけではないんだけど、一応ね。
それにしても、見た目ではわからないと言われた通り、確かにこのクォンツァイタが魔法具になっているとういうのは、近くで見てもわからない。
落としたりしないようしっかり持って、いろんな角度で見てみたけど……やっぱりよくわからないか。
ブハギムノングで、フォルガットさんからもらったクォンツァイタとの違いもないし、目をこらしても不純物が混ざっているようには見えない。
もらった物より、少し大きめだな……というくらいの感想しかなく、どちらかというと紫がかったピンク色になっているのが綺麗だな、と思う程度だ……うん、ピンク?
「リクさん、魔力を与えたの?」
「いや……俺は何もしていないんだけど。ただ、手に持って調べていただけで」
「……これがもし、魔物を引き寄せる効力があるとしたら……危なくないか?」
「まぁ、リク様達がいらっしゃるので、滅多な事にはならないと思いますが……現在も付近に強力な魔物がいるという報告はないわけですし……」
特に魔力を放出したり、クォンツァイタに蓄積させようとは全く考えていなかったんだけど……。
全体がはっきりと紫に近いピンク色なのは、ブハギムノングで見たクォンツァイタと一緒で、それ自体に不思議はないけど、さっきまでの話が間違っていなければ、これは魔法具で魔物を引き寄せる可能性があるわけだ。
警戒している人達もいるし、近くに強力な魔物がいない事が確認されているから、すぐに魔物が襲ってきたりはしないけど……あまりこの状態はいいとは言えないね。
「……リクが無自覚に魔力を垂れ流しているからだわ」
「エルサ。そう言えば、魔力がにじみ出てるとかなんとか……もしかして?」
「そうなのエルサちゃん?」
「リクの膨大な魔力は、前より多くなっているのだわ。それで、人一人分以上は常に魔力をお漏らしさせているのと変わらない状態になっているのだわ。おかげで、私はここにいるのが気持ちいいだけどだわー」
「お漏らしとは人聞きの悪い。それに、勝手に人の魔力を吸収するなよ……まぁ、俺もモフモフを感じられるから、お互い様なのかもしれないけど。――とにかく、俺に近付けておくといけないみたいだから……」
「そ、そうね。置いておいた方が良さそうね……って、あぁ!」
「どうしたのモニカさ……あ!」
クォンツァイタの魔法具は、知らないうちに俺から漏れ出した魔力を吸収したって事らしい。
確かに、持っている間に段々とクォンツァイタの色が鮮やかに濃くなっているから、今も吸収しているんだろう。
これ以上は危険な可能性があるので、机に置いて手を放そうとしたとその時、横でモニカさんが大きく声を上げた。
それを不思議に思って、モニカさんへ問いかけた瞬間、離そうとしていた手の中でクォンツァイタから微かな衝撃。
「……割れた?」
「割れましたな」
「間違いなく割れたな」
「割れたみたいね」
「割れたのだわ」
クォンツァイタから微かな衝撃は、割れたからだった……。
真ん中から、真っ二つに割れたクォンツァイタを見て、思わずエルサも含めて全員で呟く。
「見て、割れたクォンツァイタが黄色いわ」
「大方、魔力の限界を越えたのだわ。リクの馬鹿魔力が多過ぎたのだわー」
「馬鹿魔力って言わないでよ……」
「魔法具として使われ、土に埋められていたので消耗していたのも、もしかしたらあるのかもしれません」
フランクさんのフォローに、割ってしまった張本人の俺は何度も首を縦に振って肯定する。
クォンツァイタは脆くて加工には適さないから、土に埋められたりしていた事で、壊れやすくなっていたんだよ、きっと!
魔法具としても使われていたのなら、それこそ寿命が近かったのかもしれないからね! と、思っておきたい……。
「あ、黄色から白に……魔力を蓄積できなくなったのね」
「壊れたというか、形が崩れたからなんだと思うけど……」
皆が見ている前で、スゥッ……と色が抜けるように白くなっていクォンツァイタ。
魔法具としての役割を終えたからか、割れてしまったからなのかはわからないが、魔力の蓄積ができなくなって限界まで溜まっていた魔力が抜けて行っているようだ。
黄色からピンクになる事もなく、白になっている事から、急速に魔力がなくなっているのだとわかる。
「……魔法具って、寿命があったりするんでしょうか?」
俺のせいなのは間違いないけど、これが壊れやすくなっているのかどうかを確かめたくて、恐る恐る部屋の皆に聞いてみる。
クォンツァイタの魔力蓄積が、この程度で限界を……となると、結界の維持には使えるか微妙だとも思ったからね。
大量に用意したらできるのかもしれないけど、いくらクズ鉱石と言っても、結構大変だろうし。
「私はあまり詳しいとは言えませんが……複数回、繰り返し使う魔法具は魔力を補充して使いますが、その際に少しずつ劣化すると言われていますな。早い話が、使えば使う程壊れやすくなり、今見たようにはっきりと壊れなくとも、いずれ使えなくなる物です」
「俺も、魔法具を使う冒険者はいるし、俺自身も使った事はある。物によって回数が変わるが、多い程質が良いと言われるぞ。魔物が集結していた時期を考えると、ずっと効力を発揮し続けていたのなら、そろそろ限界だったのかもしれねぇな」
「ブハギムノングで、リクさんが捕まえた人の話を聞くに、元々ずっと魔物を集めるだけでなく、ルジナウムを襲う気だったみたいだし……最初からこのくらいで壊れるようになっていたのかもしれないわね」
困った顔になっている自覚がある俺に、皆で一斉にフォローするように魔法具の寿命について語られる。
……皆からの気遣いが心に痛いけど、今はありがたくそれに乗っておこうと思う……馬鹿魔力でゴメンナサイ。
ともかく、もしかしたらモニカさんの言う通り、最初からイオスがどうするかに関わらず、魔法具にしていたクォンツァイタが壊れて、自然と魔物がルジナウムに向かうようにしていたというのは考えられる。
大きな実験場にしようという、計画もあったらしいから――。
原因は陸男魔力が多過ぎる事ですが、元々の寿命のような物もあったのかもしれません。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。






