鉱山最深部に溜まるエクスブロジオンオーガ
「ん? すみません、ちょっと止まって下さい」
「どうされたのですか? もう少しで、一番奥ですけど……?」
「いえ……」
女性を手で制して進んでいた歩みを止める。
さっきエクスブロジオンオーガを倒してから、ここまで一切魔物と遭遇する事はなかったんだけど、ちょっとした違和感を感じたから。
隣で不思議そうな顔をする女性に答えず、少しだけ鼻に意識を集中して、臭いを嗅ぐ……多分、違和感はこれだね。
「やっぱり、他とは違う臭いがしますね」
「臭い……? まさか私!?」
「いえ……そうではなくて……」
臭いと聞いて、焦って自分の着ている服やらを引っ張って嗅ぎ始める女性。
だけど俺が言いたいのはそうじゃなくて……エアラハールさんにも教えられた事の一つで、魔物によっては、その場にそぐわない臭いを発生させている可能性だ。
何度も嗅いだ臭い……汗臭いとも感じる臭い……間違いなく、この奥にエクスブロジオンオーガがいるんだろうね。
「えっと……この先って、どうなっていますか?」
地図を何度も見たが、一番奥がどうなっているのかまではわからないので、女性に聞く。
今るのは通路だけど、臭いが流れてきているらしい奥は角になっており、どうなっているのかを見る事ができないから。
「そうですね……鉱山で一番奥まった場所なので、よく覚えています。そこの角を曲がるとすぐに、資材置き場のようになっていて、通路より広くなっていますね」
「資材置き場というのは?」
「採掘をする際、掘った場所を補強するために、使用する木材なんかを近くに置いておくんです。通路を広げたり、奥へ掘り進むごとに、わざわざ鉱山を出て資材を持ち込んで……とすると手間ですから。あと、採掘するための道具も置いてあります」
「成る程……という事は、本来この先はさらに掘り進める予定なんですね?」
「はい。資材置き場の奥というよりは、今角になっている場所をここから真っ直ぐ掘り進める、という予定だったはずです」
女性は鉱夫組合の人だから、地図も見ているし一番奥にある場所の事だから、よく覚えているんだろう。
奥へ掘り進める時には、資材置き場のような一種の拠点を作って、そこから奥へと掘り進むよう計画的に行沸得ているのは納得だけど……そうかぁ資材かぁ……。
「えーと……多分、この奥にエクスブロジオンオーガがいます」
「……はい」
まだ目で見ていないから確定ではないけど、臭いからするといるのは間違いなさそうだ……これまでもそうだったからね。
俺の言葉を聞いて、神妙に頷く女性。
「もちろん、今からエクスブロジオンオーガを倒すんですが……もしかしたら資材が壊れるかもしれません」
「エクスブロジオンオーガが、爆発するからですか?」
「それもあるんですけど、エクスブロジオンオーガは持てる物を使って、武器にする事が多いんです。それと戦うので、武器を破壊する事もあるかなと……」
資材というのは、おそらく通路を補強している木材と同じ物だろう。
見た感じ、長さは物によるけどそのほとんどが細長く切りそろえられた物だから、エクスブロジオンオーガが持って武器に使ってもおかしくない。
他にも採掘に使う道具が置いてあるのなら、ツルハシとかあるだろうし……そっちも同じく使われてそうだね。
武器を使っている場合、わざと狙うわけじゃないけど、それを排除してからエクスブロジオンオーガを倒す場合だってあるし、爆発の影響で壊れてしまう事だってある。
使い古して捨てられた物ならともかく、これから使う予定の物だったらまた補充しなきゃいけないから、前もって伝えておこうと思った。
「ここまで運ぶのに、それなりに時間を使うので……できるだけ破壊しないで欲しいのですけど……でも、それは魔物を相手にする事を考えると、無理なお願いですよね。わかりました、魔物とリク様がいくら資材を破壊しようと、フォルガットさんと相談して新しく用意するとします」
「すみません……」
「いえ、エクスブロジオンオーガを倒して下さるのでしたら、構いません。資材は替えがききますからね」
とりあえずは、これでもしエクスブロジオンオーガを倒す時に、武器にしていた物を壊しても怒られないはずだ。
やり過ぎると、置いてある物全てが台無しになってしまうので、一応気を付けるけど……先制攻撃で、さっさと魔法で凍らせてしまおうかとも考えたけど、アメリさんを助ける時の事を考えると、やらない方がいい気がした。
エクスブロジオンオーガだけならともかく、周囲を凍らせすぎたり、ひどいと閉じ込められたり……なんて事も考えられるから。
さすがに、空気の流れが少ない場所で火を使って溶かすのは危険だし、エルサがいれば代わりにやってもらうんだけど、ソフィーと一緒にいるから俺がやるしかない。
「よし、とりあえず先に行きますね」
「はい。私は、少し離れておきます。よろしくお願いします」
「わかりました」
俺が結界を使って、爆発の影響を鉱山へ伝えないようにして戦っているのを見ているから、スッと後ろに下がる女性。
戦う場面を見ないようにとかではなく、観察はするようだけどそれはともかく、ゆっくりと歩を進めて角を曲がって奥を見る。
「うわぁ……結構いるなぁ……」
「行き止まりなので、溜まっているのでしょうか?」
「そうみたいですね。では、突っ込みながら結界を使って閉じ込めるので、ここで」
「はい! リク様の勇姿を目に空き付けさせてもらいます! 御武運を! ……皆に、後で話して聞かせなきゃいけないからね~」
奥には、少しだけ広くなった場所があり、その場所で緑や赤色のエクスブロジオンオーガがすし詰め状態になって、ひしめき合っていた。
予想通り、採掘道具らしきツルハシやスコップを持っている奴の他に、木材を持っているのもいた。
場所が狭く、各々が持っている物がお互いに当たったりもしているので、このまま放っておいたら不可抗力で爆発してしまう事も考えられるかもね……その前に見つけられて良かったと考えるべきかな。
ともあれ、向こうにも気付かれ始めたようだし、やる事は変わらないので、結界のイメージをしながら女性に声をかけ、ひしめき合っているエクスブロジオンオーガへと向かう。
後ろから女性が何やら呟くのが聞こえたけど……勇姿はともかく、帰ったら組合の人達に誇張して話しそうだなぁ、まだ結界を張っていないから、小さく呟いても結局聞こえてますからね?
「……結界! さぁ来い! って……あれ?」
「GIGIGI……」
「GIIIII!」
壁から少しだけ隙間を空けて結界を発動、爆発しても鉱山に衝撃が伝わらないように自分も含めてエクスブロジオンオーガを包み込む。
俺が来た背後も閉じて、万が一にも女性に爆風が行ったりもしないようにしつつ、剣を抜いて今にも襲い掛かろうとしていたエクスブロジオンオーガと対峙。
近付いてきた奴から、さっさと切り伏せよう……なんて考えていたんだけど、エクスブロジオンオーガは俺に気付いていながら、その場から動く事はなかった……あれ?
威嚇するように声を上げている事から、俺を敵視しているのはわかるんだけど、なぜ動かないのか……って、あれは……。
リクを見つけても、エクスブロジオンオーガは動く様子はない事には、何か理由があるのでしょうか?
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