続く戦闘
「はぁ……このぉ!」
抜けて街へと向かっているキマイラを追おうとする俺に、立ちはだかるようにしているキュクロップスに対し、飛び上がって大きな目に剣を突き刺した。
巨体の目に剣を突き刺せるほど、飛び上がれる自分の身体能力に今更驚く余裕もない……。
ちなみにキュクロップスは、一つ目が特徴であり弱点らしく、そこを潰してしまえば倒せるようだ。
とはいえ、五メートルの巨体なために中々そこを狙う事はできないし、当然キュクロップスも抵抗するから、有り余るパワーと目以外を狙うと、マンティコラース以上のしぶとさを発揮するため、Aランク討伐対象の魔物になっているのも頷ける。
キュクロップスの目から突き刺した剣を抜き、地面に着地してすぐ、抜け出したキマイラを追おうと駆け出そうとしたところで、遠くからエルサの叫びが響いた。
「少しくらい魔物が抜けても、気にするなだわ! あっちにはユノがいるのだから、今は目の前の魔物に集中するのだわ!」
「……わかった! くそぉ!」
「GYUUUAAA!!」
エルサの叫びに、多少の魔物なら抜け出してもユノがなんとかしてくれる事を思い出し、近くのサイクロプスを八つ当たり気味に切り裂く。
サイクロプスは、キュクロップスの下位互換のような魔物で、それでも十分に強いけど……今はあまり気にする余裕はない。
剣を振りながら、大分距離が離れてしまったエルサを見ると、そちらでは血塗れになって真っ赤な巨体が、魔物を投げ飛ばしたり引き千切ったりと大活躍していた。
エルサが血塗れなのは、引き千切った魔物の返り血が原因で、少し前に大丈夫か確認したけど、一切怪我をしていないらしい……さすがドラゴン。
まぁ、今のところ俺も怪我すらしていないから、似たようなものだけどね。
「はっ! ふっ! っと……はぁ……はぁ……」
「GYUUAAA!」
もはや聞きなれた感すらある、魔物の断末魔を聞きながら、息を整える。
もうどれくらい戦っているだろう……?
たったの数十分のような気もするし、数時間……数日の間戦っているような気すらする。
ひたすら迫る魔物を切り伏せ、攻撃を避け、エルサか投げ飛ばす魔物も避けるの繰り返し。
時折、呼び出した火の精霊に指示を出しつつ、ただただ魔物を倒してゆく……。
街へと向かって行こうとした魔物は、今や俺達を倒す事を目的としたようで、すり抜けようとするやつは少なくなった。
合間に周囲を見渡しても、大きな魔物に囲まれて視界が遮られているため、どれだけ残っているかの全貌がつかめない。
さすがにそろそろ半分以上は倒したと思うんだけど……?
「疲れたのだわー! こら! 足に張り付くなだわ!」
「GYAN!」
絶えず魔物達を投げ飛ばし、引き千切ったりしているエルサだが、向こうも俺と同じくで疲れてきたらしく、ぼやきながら魔物を倒している。
あ、エルサの足に取り付こうとした魔物が、踏みつぶされた。
あれはなんの魔物だろう……離れているからはっきりと見えないけど、あまり大きくない魔物だった。
キュクロップスのような大型の魔物以外にも、大小さまざまな魔物がいるけど、さすがにどの魔物がこうで……なんていう事を考えている余裕はない。
「あ!」
「GYUGYU!!」
ハッと気づくと、火の精霊の一体がキュクロップスによって踏み潰されていた。
俺から供給される魔力が下がったのか、それとも長時間召喚されていたからなのか、炎の勢いが衰えて来ていた一体だ。
召喚してなんらかの繋がりがあるおかげで、火の精霊がどういう状態か……というのはなんとなくわかるようになっているけど……これはまずいかな?
体の疲労だけでなく、ぼんやりとした感覚ではあるのだけど、自分の中にある力の源のようなものが小さくなっているような気がする。
もしかして、魔力が枯渇しかけている?
「うぉ!? 危ない危ない。はぁ!」
「GRUUUUU!!」
マンティコラースの尻尾が、俺を突き刺そうと頭上から迫って来たのを避け、剣で斬り裂く。
体と尻尾、顔をそれぞれ斬られたマンティコラースが、動かなくなっていくのを見ながら、額の汗をぬぐう……と。
「うへ……」
汗をぬぐったと思ったら、手に付いたのは魔物による返り血だった。
大量の魔物を剣で斬っているから、当然返り血はかかってしまうし、囲まれて延々と攻撃を仕掛けられるので、返り血を避けるのも難しい。
今は体力の消耗を抑えるため、最小限の動きで攻撃を躱して倒すようにしているからね。
ちらりと見ると、エルサの方も先程よりさらに全身が真っ赤になっていた。
……それは俺もか。
エルサだけでなく、気付くと俺も全身真っ赤だ。
剣には魔法がかかっているおかげなのか、鈍く輝いているだけだかど、それ以外の場所で血の付いていない場所がないんじゃないか……と思える程だった。
こんなに血で汚れているのに、俺もエルサも、自分の血じゃないんだよなぁ。
「あ……」
「エルサ!?」
「リク―、魔力が切れたのだわー!」
「おいおい……」
いきなり場違いな声が聞こえたかと思うと、今まで大きくなってその存在感をいかんなく発揮していたエルサが、俺から見えなくなった。
思わず叫ぶ俺に、魔物達の頭上をフワフワと飛びながら寄って来る赤くて小さな毛玉……もとい、返り血で全身を濡らしたエルサ。
俺の頭にくっ付きながら、泣き言のように魔力がなくなったと言っている。
「魔力が切れたって、俺から魔力が行っているんじゃないのか? っと! せいやぁ!」
「本来ならそうなのだわ。けど、リクの魔力が減ったのと、召喚を続けているせいで私の方にはほとんど魔力が来ていないのだわ。ここまで来るのに全力で飛んだせいもあって、残っている魔力が少ないのだわ!」
「そうなのか……はぁ!」
キマイラを切り裂き、飛び上がってキュクロップスの目を突き刺しながら、避難してくっ付いたままのエルサと話す。
俺が剣を使っている事も関係しているんだろう。
本来エルサに流れるはずの魔力が、剣や火の精霊へ行ってしまって、エルサへの供給が途絶えていたようだ。
これまで、ずっと自分の魔力だけで戦っていたのか……。
エルサは大きくなっていたせいもあって、俊敏に魔物の攻撃を避けたりはしていないように見えた。
魔力を防御にも使っていた……もしくは簡単に結界を使ったりもしていたんだろうし、戦闘開始まで多少寝たりしていても足りなくなってしまったらしい。
俺から流れる魔力も戦闘開始前までで、流れる量もゆっくりとみたいだから、鉱山や全力飛行での魔力消費分を回復させるには全然足りない。
鉱山で魔力を使ったのは、俺も同じだし……遠慮なく結界を使っていたからなぁ。
「せいっ! ……さすがに、ちょっと無謀だったかな?」
「万全の状態なら、そうでもないと思うのだわ。けど、さすがに短時間で色々やり過ぎたのだわぁ……」
「まさか、今日魔物達が襲って来るとは、予想していなかったしね……せやっ!」
大型の魔物を倒す合間に、小さい魔物が隙間を縫って飛びかかって来たのを、左手の拳で叩き落した。
時折遠くから氷の矢だったり、火の矢だったり球だったりと、魔法も飛んで来るのだから、さらに辛い。
さっきまで、火の精霊が激しく燃え盛ってくれていたおかげで、氷系や水系の魔法は防げていたし、火系の魔法は勢いを衰えさせてくれていたんだけどなぁ。
数が少なくなったせいで、燃える勢いも半分以下になっているし、もう魔物の魔法を防ぐ役割は期待できそうにないかな――。
火の精霊は魔物を燃やす以外にも、足止めの壁にもなったりと大活躍ていたようです。
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