ルジナウム防衛戦開始
「そろそろ来るのだわー」
「……俺を中心に、横に広がって! 魔物を押しとどめる壁になるんだ! ――エルサ、燃やされるなよ?」
「私を誰だと思っているのだわー。その程度じゃ燃えないのだわ!」
大きくなっているから、俺以上に正確に魔物との距離を把握しているエルサの声で、そろそろ準備にかける時間がない事を教えられる。
とは言えまぁ、巨体が迫ってきているから、俺から見ても近い事はわかるんだけどね。
ともかく、呼び出した数十のウィルオウィスプに指示を出し、横に広がって壁になってもらう。
暴走しているような魔物達だから、火の精霊がいても気にせず飛び込んでは来るだろうけど、これで多少は漏れが少なくなるはずだ。
エルサのモフモフがチリチリになってはいけないと、一応注意だけはしておくけど、大丈夫みたいだね。
……ただ、ウィルオウィスプの数が多いから、予想以上に魔力が取られているようで、どんどんと体の力を抜かれているような感覚があった。
それでもまだまだ、魔力の余裕があるのを感じるから、長時間はまだしもしばらくはこのまま戦えるし、多少なら魔法も使えるだろう。
そして……。
「久々に使うね……。今は手加減しなくていいし、思いっきり暴れよう! 行くぞ、エルサ!」
「行くのだわー! グルゥアァァァァ!!」
ボロボロの剣ではなく、以前ヘルサルで買った黒い剣。
常に持ってはいたんだけど、エアラハールさんの訓練があったから、使うのは久々だ。
魔力を使って強化されるこの剣なら、キマイラだろうとキュクロップスだろうと、簡単に斬り裂けるはず!
一度剣を掲げ、自分を鼓舞した後エルサに叫んで魔物達の集団へと駆け出す。
火の精霊達も、俺に呼応するように体なのか顔なのかよくわからない、火の玉を燃え上がらせて真っ直ぐ魔物達へと向かう。
エルサももう一度咆哮をして、魔物達へと突撃した。
踏まないようになのだろう、俺から少し離れた場所に二本足で駆けている姿は、モフモフな事を除けば立派なドラゴンだ。
「まずは足止めだよ、フリージング!」
「手伝うのだわー。ぐばー!」
魔物達へと突撃し、お互いが迫っている状況でまずは、氷の魔法。
口から魔法をブレスのように使うエルサと一緒に、魔物達の足元を凍らせていく。
魔物自体を凍らせるのではなく、足元を凍らせて滑らせたり、足を動かなくするためだ。
これなら、範囲を広くしても魔力を節約できるからね。
鉱山からこっち、散々結界魔法を使っていたし、ウィルオウィスプを使ったり……さらに魔力を吸われる剣を抜いたから、少しでも魔力節約をしないと。
魔力が枯渇状態になると命の危険があるうえ、少なくなるといつぞやの赤信号さんのように、意識を失ってしまうかもしれないから。
戦闘中にそんな事になったら、結果は火を見るより明らかだし、俺の魔力を使っている火の精霊は消えてしまう。
エルサも一部俺の魔力を使っているようだし、魔物にやられる事はなくとも全部倒す事はできなくなって、結果、ルジナウムは壊滅してしまうだろうから、気をつけなくちゃ。
「GUOOOOOO!!」
「最初のキュクロップスの相手は任せたよ、エルサ!」
「任せろなのだわー!」
「俺の相手は、まずお前だ!」
「RYUAAAAAA!!」
先頭で、足を凍らされながらも無理矢理地面から引きはがして、こちらへ向かっているキュクロップス。
話通りの巨体だがエルサ程じゃない。
そのキュクロップスの相手をエルサに任せ、俺は別の方にいたキマイラへと剣を振りかぶって突撃した。
「はぁっ! てやっ!」
「RYUOAA!! RYU!?」
「ていっだわ!」
「GUO!?」
俺にをかみ砕こうとしているのか、口を開いて尋常じゃない速度で襲って来るキマイラ。
こちらもキマイラに走り込みながら、口で噛み付かれる前に、振りかぶった剣を振り下ろす。
口先を真ん中から切り裂かれたキマイラが、悲鳴を上げる。
さらに横に剣を薙いで、首を飛ばして一体討伐完了。
少し離れた場所では、エルサが気の抜ける声を出して、キュクロップスを両前足……手で顔を捕まえて後続の魔物達の方へと投げ飛ばしていた。
エルサ……肉弾戦もできるんだな、いや、投げ飛ばすのが肉弾戦と言うのかわからないけど。
「「「「GYUAAAAAAAAAAAAA!!!」」」」
「お、火の精霊たちも頑張ってるみたいだ!」
「まだまだ来るのだわ。どんとこいなのだわ! これが終わったら、リクが大量のキューをご褒美にくれるのだわー!」
さらに別の場所では、キマイラだけでなくマンティコラースのものや、キュクロップス、他にも複数の魔物達が一斉に悲鳴とも言える咆哮を上げていた。
そちらでは、激しい炎が魔物達を包んでいたので、火の精霊が燃やし始めたんだろう……本当に悲鳴だったみたいだ。
火の精霊を頼もしく思っていると、エルサが約束をした覚えのない事を叫びながら、魔物達を迎え撃とうとしていた……。
……まぁ、頑張っているんだから、キューをご褒美に用意するくらい、なんでもないか……品薄になっている可能性もあるから、フランクさんに言って協力してもらおう。
多少場違いとも思える事を考えながら、先程倒したキマイラの屍を踏みつけて、別の魔物が襲い掛かる。
さて、全力で魔物を倒し続けるとしますか――。
「はぁ……さすがにちょっと疲れた……ねっ! くっ……この!」
「GAUUUUU!!」
ぼやきながら、マンティコラースの顔を切り落とす。
人の顔を切り落とすのは躊躇れるけど、今はそんな事を言っている状況じゃない。
マンティコラースは、顔や胴体、尻尾がそれぞれ独立して動くらしく、顔を切り落としても尚体当たりしようとしてくる体に剣を突き刺し、さらに毒の針を突き刺そうとする尻尾を切り落とした。
キマイラよりも小さく動きも鈍いし、パワーもキュクロップスに劣るため、強さとしては脅威ではないんだけど、それぞれが独立してそれぞれに止めを刺さないと止まらないので、ちょっと厄介だ。
動かなくなったマンティコラースを一瞥し、再び別の魔物へと剣を振り下ろす……。
戦闘開始から大体一時間程度……かな? 夢中になって戦っていたから、詳しくはわからないけど、体感ではそのくらいだ。
俺の周囲には、切り裂かれた魔物の死骸が山となりつつある。
他にも焼け焦げた死骸は火の精霊が、引き裂かれた死骸はエルサが力任せに引き千切ったのだろう。
呼吸が苦しくなるという程ではないけど、体に鈍い疲労感を感じているけど、まだまだ魔物はいなくならない。
大きな魔物で視界が塞がれているため、あとどれくらいいるのかはわからないけど、最初程の勢いはなくなっているようにも思うから、確実に数を減らせているはずだ。
「ふぅ……あ!」
「GRYUAAAA!!」
少しだけ息を吐いた隙に、キマイラが一体俺や火の精霊をすり抜けて、ルジナウムの街へと向かってしまう。
「くっ……!」
「GUUUAAAA!!」
振り返り、走って追いかけようとする俺の前に、キュクロップスが立ちはだかった――
数が多いので、ちょっとした隙に魔物が抜けてしまうようです。
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