魔物の集団へと向かうリク
兵士さんの報告を聞いて南の方へ向くと、薄っすらと何かが街へ向かって来ているのが、遠目に見えた。
俺達は門の近くで高い場所にいるわけではないので、魔物の姿がはっきり見えるわけじゃないけど、それでもあれが人間じゃない事はわかる。
人間だったら、もっと近寄らないと見えないくらいの大きさだからね。
キュクロップスが先頭だから、巨体のおかげで微かにでも確認できるんだろう。
「来たみたいですね……」
「そのようです。……本当に、よろしいのですか?」
「大丈夫です。なんとかしますよ」
「……自分の無力さが、これ程までに苦しいものとは。リク殿……いえ、英雄リク様。我々を、ルジナウムの街をよろしくお願い致します」
「はい」
俺だけでなく、他の人達も遠目に確認したようで、にわかに緊張が走る西門前。
俺が突撃をする事は、既に全体へ伝えているので、とりあえず浮足立った様子がないのは助かる。
深々と頭を下げるフランクさんは、俺一人に任せて自分の不甲斐なさを悔いるよう、下唇を噛みしめていた。
「リクさん……リクさんなら大丈夫だと信じているけど、無事で帰って来てね?」
「うん、もちろんだよ。また、モニカさんの料理が食べたいからね」
「もう……これが終わったら、腕によりをかけて用意させてもらうわ。父さんの料理には負けるけど……」
「それは楽しみだ、頑張らないとね。マックスさんの料理は確かに美味しいけど、俺はモニカさんの料理も好きだよ?」
「……リクさんったら」
「なんじゃ、こんな状況でモニカ嬢ちゃんを口説いておるのかの? 大物じゃのう……こりゃ、マックスに報告するかの……」
「エアラハールさん……そんなんじゃありませんよ?」
「モニカ嬢ちゃんは、そんなつもりのようじゃぞ?」
「エアラハールさん! もう……! リクさん、とにかく戻って来たら、美味しい料理をいっぱい用意するからね!」
「その時は、私も協力させてもらうとしますよ。街中、いや我が領地から食材をかき集めて、提供させて頂きましょう!」
「いや……あははは、それはさすがに食べきれないんじゃないかなぁ? うん、よし……それじゃユノ、ここは頼んだよ?」
「任せるのー!」
「モニカさん、エアラハールさん、フランクさん、ちょっと行って来ます!」
「行ってらっしゃい。月並みだけど、気を付けて!」
「遊びに行くような気軽さで言うのう……。うむ、気張るのじゃぞ!」
「よろしくお願い致します……っ!」
「それじゃ、行くよエルサ!」
「わかったのだわー」
モニカさん、エアラハールさん、フランクさんとそれぞれ軽く話し、ユノにここの事を任せてエルサを頭にくっ付けたまま、魔物が迫ってきている方向へ駆けだす。
戻って来たら、モニカさんの手料理か……楽しみだね。
「おー、いっぱいいるなぁ」
「ふてぶてしいのだわ。ドラゴンがここにいるのにだわ……」
「ははは、向こうはまだこっちの事が見えてないんじゃないかな?」
街から全速力で走り、かなりの距離を取って立ち止まって魔物達を見る。
これくらい離れれば、街への影響は少ないだろう……と、ちらりと振り返って確認。
エルサは魔物の様子を見て、何やら憤慨している様子。
向こうはキュクロプスとかキマイラとか、大型の魔物が多いんだから、人間一人やその頭にくっ付いている小さい毛玉……ドラゴンには気づかないだろうな、まだ相当な距離があるし。
「焼き払っていいのだわ?」
「いいけど、さらに南下したら森があるんだから、そっちを燃やさないようにね?」
「森程度、数百年も経てば再生するのだわ」
「いやいや、それはエルサがドラゴンで、長い間生きているから言える事だからな? 人間は良くても百年前後しか生きられないし、森がなくなると街にも迷惑がかかるから!」
「面倒だけど、仕方ないのだわー」
木の一本や二本ならともかく、森全体が再生する時間なんて、人間が生まれて寿命で亡くなるよりも長い時間が必要だ。
千年以上も生きているエルサだから、気軽に言える事だけど、人間からしてみればとてつもなく長い時間になる。
その間、森からの恵みがなくなるだけでなく、場合によっては、この辺りの環境ががらりと変わる可能性だってあるから……森まで燃やしてしまうのはなしだ。
……俺も、やり過ぎないよう気を付けないとね。
とは言え、大きな魔物が多いおかげで、多少なら壁代わりになってくれそうでもあるけど。
「それじゃ、エルサは大きくなって魔物を威嚇。それと、大きめの魔物を相手にしてくれるかな?」
「わかったのだわー。動きやすいように、少し小さめにしておくのだわ。リクは私に踏まれないよう気を付けるのだわ?」
「……そこは、エルサにも気を付けて欲しいけど……俺も踏まれたくないから、気を付けるよ」
「よろしくなのだわー……」
エルサに言って、大きくなってもらうようお願いする。
一番大きな魔物はキュクロップスだろうけど、俺は人間で今のままの大きさでしかないから、巨大な魔物を相手にするのは時間がかかってしまいそうだからね。
……とりあえず、エルサに踏まれるのは俺も勘弁だから、気を付けよう。
体を発光させて、徐々に大きくなって行くエルサ。
いつも俺達を乗せて飛ぶよりは小さいけど、それでもキュクロップスより大きいだろう……大体、七、八メートルくらいかな。
エルサにばかりじゃなく、俺の方も魔物と戦う準備をしないとね。
「グルゥ……やるのだわ」
「頼む」
「グルゥアァァァァァァァァ!!」
大きくなった状態で、一度こちらを窺うエルサ。
頷いて促し、念のため耳に手を当てて塞いでおく。
塞いだ耳すらも貫通する程、激しい咆哮が辺りに響き渡った。
「少しは、向こうの足も遅くなったかな? よし、今のうちに……」
エルサの咆哮に驚いたのか怖れをなしたのか、先頭にいるキュクロップスを始めとした魔物達の進行が少し遅くなる。
とはいえ、その後ろからも続々と魔物が押し寄せているため、完全に止まる事はなさそうだ。
エルサの咆哮で稼いだ時間を有効に使うため、先程からイメージしていた魔法を解き放つ――。
「ウィルオウィスプ……ウィルオウィスプ……ウィルオウィスプ……」
何度も続けて、火の魔法……いや、火の精霊だったっけ? それを呼ぶ魔法を発動させる。
俺の周囲に、人の頭くらいの火の玉が続々と出現。
「って、こんな感じだったっけ?」
俺が使っているのは、火の魔法というよりも召喚魔法の一種らしく、火の精霊を召喚するものになっているらしいけど、以前召喚した時よりも、少しだけ様子が違っていた。
火の精霊……早い話が大きな火の玉なんだけど、その火の玉の中にぼんやりと目や口が付いているように見えるんだ。
なんというか、つぶらな瞳をしているようにも見えて、ちょっと可愛い。
いや、今は和んでいる場合じゃないな。
理由はわからないけど、ちょっと変わった精霊を呼び出しても、やる事は変わらない。
「魔物達をできるだけ逃さないように、でも、森や木々は燃やさないように……できるかな?」
俺の指示を聞いて、コクコク頷く火の玉は何処か愛嬌があるように見える。
火の精霊らしく、無暗に対象を焼いて周囲に影響を及ぼす事が少ないのは、以前呼び出して確認している。
これなら、魔物達を倒した後も、この周辺には強い影響は残らないはずだ……多分。
火の精霊はリクが慣れる事で、イメージのようなものが固定化されたのかもしれません。
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