すでに手遅れだった事
「エルサ、考える必要がないってのはどういう事だ?」
「簡単な事なのだわー。もし本当に魔力の線を繋げていても、既に切れているのだわ」
「なんだと……?」
「切れているって、どうして?」
「ちょっと前に私が言った事を忘れたのだわ? 結界で完全にこの空間を覆っているのだわ。物や衝撃だけでなく、魔力を通さないのだわー」
「あ……そうか……」
男を逃がさないために、結界で今いる場所を完全に覆っている。
咄嗟に使った結界だから、空気穴だとか魔力を通す穴だとかのイメージは全くなく、完全いこの場所を覆っている状態だ。
つまり、魔力の線が本当にあったとしても、男を捕まえるまでもなく、既に切れてしまっているという事だ。
「って、それじゃ……!」
「リクは引き金を既に引いてるのだわ?」
「だわじゃないよ! それって……つまり、ルジナウムの街が……」
「魔物達が動き始めていてもおかしくないのだわ。そこの人間が言う事を信じれば、だけどだわ。けど、急げば間に合うのだわ?」
「……そうなの?」
「忘れたのだわ? 私の全力をだわ。魔物の集団なんて統率されているわけないのだわ。街まで到達するのも時間がかかるのだわ。全力で使えば間に合うのだわー……多分だわ」
「多分って……」
暢気に言うエルサに、既に引き金が引かれてしまっていると焦る俺。
そこで思い出させるように言うエルサの言葉で、全力で飛んだ時の速度を思い出す。
国の北端から南端まで、時間をかけずに移動できるあの速度なら、確かに魔物が移動するまでの間で、ルジナウムの街へと行ける!
若干どころか、凄く不安になる一言を付け加えるエルサに、本当に大丈夫か微妙な気持ちになるが……それなら、魔物達にルジナウムが襲われても間に合うかもしれない!
「……なんだ!? どうなっている……! 魔力の線が、繋がっている感覚が消失しているだと!?」
男の方も、エルサに言われて初めて魔力線を確認したらしく、繋がっていない事を今知った様子だ。
多分、細い線で繋がっていて感覚が希薄なため、意識したり集中しないとわからないんだろう……予想だけど。
ずっと何かに繋がっている状態の感覚が、強く感じられると紛れ込むための生活にも支障が出そうだしね。
「という事は……すぐにでもルジナウムに向かわないといけない……って事だよね?」
「そうなるのだわー」
「貴様らぁ!」
やけくそなのかなんなのか、自分に有利な条件がなくなって焦りが臨界点にでも達したんだろう。
黒装束の男が、折れた剣を振りかぶって俺へと向かう。
だけど……。
「ぐぅ!?」
「……おとなしくなったな」
「ソフィー」
向かって来る男を見たまま、俺は動かない。
剣が俺へと振り下ろされそうになった瞬間、くぐもった声を出して、俺を睨んでいた目がグルンと白目を剥き地面に倒れた。
その後ろでは、ソフィーが剣の鞘を持って立っている。
男は話しや逃げる事に集中し過ぎて、ソフィーの動きに気付かなかったようだね。
エルサが俺の所に来た時から動き出してたのに……。
……結構、痛そうな音が聞こえたけど……頭がへこんだりしていないだろうか?
一応、呼吸はしているようだから、死んだりはしてないみたいだけど……しぶとい。
鞘で後ろから男をぶっ叩いて気絶させたソフィーは、なんでもない事のようにまた鞘を腰へと取りつけながら、声をかけてくる。
「リク、ここの事は私に任せろ。リクはすぐにルジナウムへ向かうんだ」
「大丈夫?」
「なに、おかげで大分休めたし、もうエクスブロジオンオーガはここにいないからな。鉱山にはまだ散らばった奴がいるだろうが、外へ出るだけなら問題ない。あいつらの鈍い動きでは私を捕まえられんだろう」
「……わかった。とりあえず男を縛って、応援を鉱夫さん達に頼むといいと思うよ」
「あぁ、そうさせてもらう」
もし鉱山から出る時に、エクスブロジオンオーガと遭遇しても、ソフィーなら逃げるのになんの問題もないだろう。
あの鈍い動きで、素早いソフィーを捕まえる事はできないだろうし。
とりあえず、男を縛って身動きが取れないようにする事を勧めておき、ソフィーに背中を押されるようにして、その場を駆けだした。
「って言っても、この穴をまた通らなきゃいけないんだよね……隠し通路があるみたいだけど、何処にあるのか探している暇もないし、そっちへ行っても、出口までの道がわかるかどうか……」
とりあえず結界を解いて、先程通った穴の前で立ち止まる。
鉱山内は入り組んだ坑道があるため、知らない道を通ると迷う危険もあれば、出口まで時間がかかったりもする。
だから、結局知っている道……穴の中を再び通って帰るのが一番なんだけど、そちらはそちらで、匍匐前進で移動のために時間がかかってしまう。
とはいえ、こうしている間にも、ルジナウムは危険に晒され始めているのだから、躊躇している暇はないか。
「……仕方ないか。よし!」
「待つのだわ」
「エルサ……?」
「素早く移動する方法があるのだわ」
「そんな方法あるの?」
「簡単なのだわ。まず、穴の中全体を凍らせるように、魔法を使うのだわー。こうして……」
「あ、おいエルサ!?」
「ぶはー……なのだわ!」
意気込んで、穴の中へ突入しようとする俺を、エルサに止められた。
急がないと、と気が逸っている俺とは別に、いつも通り暢気な声を出しながら、穴へと近付き、口からブレスを出すようにして魔法を発動。
穴の中から冷気を感じる……寒そうだ。
「……硬い、完全に凍ってるね。でも、これだと逆に通れないじゃないか!」
穴の中は、匍匐前進をじゃないと通れないくらい狭い。
カチコチに凍ってしまった穴を確認しながら、頭にドッキングしたエルサを問い詰める。
凍った床なんて、冷たくて匍匐なんてできないぞ?
「落ち着くのだわ。リク、さっきエクスブロジオンオーガを倒した時みたいに、全身を結界で包むのだわ」
「全身を?」
「もちろん、私がいる事も考えて覆うのだわー。結界の外には出さないように気を付けるのだわー」
「……えっと、結界!」
どうするのか、詳しい説明がないため、何を考えているのかわからないけど、とりあえずエルサに従って結界を発動させる。
さっきも使った形だから、イメージもしやすい……もちろん、エルサが頭にくっ付いているから、それも考慮しての形だけど。
「結界で覆ったけど、この後は?」
「上出来なのだわ。そうしたら、穴の中に勢いをつけて飛び込むのだわー!」
「勢いを……こう、かな!」
少し穴から距離を取って、助走をつけて穴の中へと飛び込む。
走り出す直前、何処からか取り出した縄で、男をぐるぐる巻きのみのむし状態にしているソフィーに対し、軽く手を上げて合図を送っておく。
ソフィーが気付いたかどうかはわからないけど、離れていて結界に覆われているため、空気穴があっても向こうからの声やこちらからの声は届かない。
そのまま、水泳の飛び込みのような格好で、穴の中に突撃する俺……焦っていたから、エルサの言う通りにしたけど、大丈夫だろうか――?
結界はツルツル、凍らせた表面もツルツルならよく滑りそうです。
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