漂う臭い
休憩する事にして、ふと探査魔法を使ってみても結果は入り口で使った時と同じ……どころかさらによくわからなかった。
鉱山の奥へ来たからなのか、この場所は壁に鉱石が多くあるからなのか、さらに狭い範囲しかわからない状態だ。
手を伸ばした範囲より、狭い場所しかわからないくらいかな。
魔力溜まりにならないのが不思議だけど、多分鉱石が蓄積した魔力自体はそこまで多くないからなんだろう……なんとなく、放出されている魔力も流れがあるようで、空気のように入れ替わってずっと留まっているわけでもなさそうだし。
「リク、気付いておるかの?」
「……何がですか?」
「ふむ、先程からの戦いで、慣れてしまったのかもしれんの」
「エアラハールさん……臭い、ですね……?」
「その通りじゃ。ソフィー嬢ちゃんは心得ておるのう……」
「臭い……? 言われてみれば……」
少しの間座って休憩していると、おもむろにエアラハールさんから話しかけられた。
何かを言いたいらしいけど、俺にはよくわからない。
首を傾げていると、別の場所で道の奥を見通して警戒していたソフィーが、臭いだと言う。
それにエアラハールさんは頷いていた……臭い……かぁ。
確かに言われてみれば、この場所での臭いは他の場所よりも少し違うというか……。
エアラハールさん達に言われて、鼻に意識を集中させて臭いを嗅いでみると、少しだけ慣れたエクスブロジオンオーガの物と思われる臭いがする気がする。
鼻が慣れてしまっているせいなのかもしれないけど、指摘されるまで気が付けなかった……注意しないと。
「という事は、近付いて来ているという事……ですかね?」
「いや……別の場所から流れて来るという感じではないの。この場所に留まった臭いという感じじゃ」
「この場所に……という事は、ここを最近エクスブロジオンオーガが通ったんでしょうね」
鼻が鋭いのか、それとも今までの感覚でそういった事に注意を向ける癖が抜けていないのか、エアラハールさんが言うにはどこかからエクスブロジオンオーガが近付いて来ているというわけではないようだね。
むしろ、エクスブロジオンオーガが通った後の残り香、という事なんだろう。
汗臭さと生臭さが混じった臭いなので、あまりじっくり残り香を嗅いでいたいとは思わないけど、それも限られた空間で、危険を察知するためには必要な事だ。
そしてエクスブロジオンオーガが通ったという事は、やはりさっき見つけた穴を通って移動しているのかもしれない。
穴からこちらに来たのか、こちらから穴へと向かったのかまではわからないけど、酒場で聞いた目撃情報とは違うエクスブロジオンオーガだという事は間違いないだろう。
鉱山内なので、空気の入れ替わりは少ないけども、数日以上経っているのにまだ臭いが残っているなんて事はないと思う。
完全に空気が停滞しているならまだしも、一応空気が流れているようで、他の場所から埃やカビのような臭いもしているようだし。
「先程、私が戦ったエクスブロジオンオーガでしょうか?」
「ふむ……それはわからんの。ここに来るまでも、分かれ道はあった。ソフィー嬢ちゃんが戦ったのは、別の場所から来たのかもしれんし、ここを通って来たのかもしれん」
「少なくとも、他にも近くにいる可能性を考えておかないといけませんね」
「その通りじゃの。まぁ、待つ間休憩するのも良いが、完全に油断はせぬように……」
「「はい」」
残っている臭いが何を示しているのかまではわからないけど、発見した穴以外からもエクスブロジオンオーガが来る可能性は当然あるので、警戒を怠るな……という事を、エアラハールさんは言いたかったんだろう。
他にもいるのはわかっていた事だけど、残り香がソフィーや俺と戦ったエクスブロジオンオーガではなかった場合、付近にまだいる可能性もあるわけだしね。
ソフィーと二人で神妙に頷き、休みながらも周囲の警戒を怠らない気を引き締めた。
……エルサは、暢気にソフィーの頭にくっ付いて寝ているようだったけど。
「来た、かの?」
「……おそらく」
「そのようですね」
一時間くらいが経った頃だろうか……空が見えない場所なので、時間の感覚が正しいかはわからないが、体感でそれくらいが経った頃、発見した穴の奥から何か金属のようなものを引きずる音が聞こえてきた。
反響もあるから判断しづらいけど、段々と近付いて来ている……音が大きくなってきているようだから、穴からこちらへと近付いて来ているんだと思う。
警戒を俺達に任せ、座ったまま目を閉じていたエアラハールさんが片目を開け、俺とソフィーに視線を投げかけつつ小声で確認。
俺もソフィーも、その視線と声に頷いて応える。
正確な事は音だけなのでまだわからないけど、引きずる音は一つではないため、穴から来ているのは二体以上だという事が確認できる。
ともかく、俺とソフィーは立ち上がり、いつでも戦闘ができるように剣を抜いておく。
エアラハールさんは近付くエクスブロージオンオーガから離れるように、ひょいひょいと動いて俺達が来た狭い道の方へと避難した。
「……リク、あっちの方からも音が聞こえる」
「え? ……確かに。どうする?」
「そうだな……私があちらを迎え撃つので、リクは穴から来るエクスブロジオンオーガを頼む」
「わかった。――エルサ、仕事だぞー。起きろー」
「ふわぁ~……だわ。眠いけど仕方ないのだわー、キューのためなのだわー」
「終わったらあげるから、頼む」
穴の方を注視して、エクスブロジオンオーガが出て来るのを待っていると、ソフィーが今まで見張っていた地図にない道の方を示した。
耳を澄ましてみると、確かにそちらからも微かに音が聞こえてくる。
こちらは道幅が広いためか、何かを引きずるような音ではなく、微かな足音と金属がぶつかる音。
おそらく、エクスブロジオンオーガが拾ったスコップなどの道具が、移動している途中で壁や床に当たる音だろう。
ソフィーの提案の通り、そちらを任せる事にしてエルサを起こす。
欠伸をしながら起きたエルサはキューのため、ソフィーと一緒に穴とは別の道へと向かった。
あっちは任せておいて大丈夫だろうから、俺はこっちに集中だな。
……そうだ!
「エアラハールさん。もう少し奥に行って、身を隠していてもらえますか?」
「それは構わんが、どうするのじゃ?」
「エクスブロジオンオーガが、どれだけ来るのかわからないので、まずは全部穴からこちらの広場に出すべきかと。なので、俺も身を隠して穴から全て出て来るまで待ちます。そこから広場を包むように結界を張って倒そうかと」
「成る程の……それでよいじゃろう」
エアラハールさんに頼んで、狭い道の奥へと身を隠してもらう。
俺も同様に、少しだけ道へと体を潜り込ませて、身を潜めた。
穴からはほとんど見えない位置だし、暗がりになっているから、余程エクスブロジオンオーガが注意深くない限り気付かれないだろう。
向こうが何体いるのかはわからないから、全て穴から出てきたところで一網打尽……と考えた。
穴から出て来ない奴がいたとして、それが他へ移動したり逃げたりしても面倒だし、下手に刺激して結界外で爆発しないようにだね……可能性は低いだろうけど、何が引き金で爆発されるかわかったもんじゃないから。
穴の中に結界を張ってもいいんだけど、それだと俺が入って戦うことができないため、できれば広場で戦いたい。
念のため、ソフィーが向かった道と、俺がいる方の入り口は結界を先に張って塞いでおく。
これで、エクスブロジオンオーガが出て来ても、広場に留めておく事ができる。
穴は狭いから、全部が一度広場に出ないと引き返せないだろうし、戦う時は改めて囲むように結界を張ればいいだけだしね。
エクスブロジオンオーガは広場で倒す事に決めたようです。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。






