結界の交代
国境付近でエルサを止め、旋回するような動きに移行させる。
さすがに、このまま国境を越えるのは不味いだろうからな。
本来ならパスポート……はないだろうけど、出入国の審査とかそれに近い事があってもおかしくないしな。
このまま上空から別の国に行くと、領空侵犯とかそういう心配が……いや、空を飛ぶ方法が確立されていない世界なら、そんな事もないのか?
とにかく、このまま北へ向かって別の国に入るのは何となく不味い気がするな……別に今アテトリア王国以外の場所に行きたいわけでもないし。
世界中を飛び回った経験のあるエルサはともかく、ユノは不思議そうに首を傾げているけど、元神様なだけあって、国家間の境目とかそういうのに頓着しないのかもしれない。
「ここが北の端なら……ここから南に引き返そう。それなら距離もあるだろうからな」
「わかったのだわ! ……そろそろ、結界を交代するのだわ?」
「そうだな……わかった。なんとかやってみる。さっきまでよりも、少し速めに移動すると考えていいんだな?」
「そうなのだわ。速度は多分、もう少し出るはずなのだわ。高度はもっと上がるのだわ!」
「そうか……少し待ってくれ」
アテトリア王国は、北と南に少しだけ伸びている長方形に近い形をしていたはず。
北西や北東から、対角線上に移動するのが一番距離が稼げそうだけど、北から南というだけでも十分だろう。
そう提案して、エルサが承諾するように頷くと、結界を俺が使うように聞かれた。
ある程度乗っていて、エルサが飛ぶ速度も把握できて来たし、確かにそろそろ頃合いか。
確認する事をエルサに聞き、結界を作るようイメージを始める。
速度よりも高度が上がるという事は、速度は翼による影響で、既に八翼出ているから魔力は間接的に影響があるだけで、直接的には影響がないという事か。
逆に、高度に関しては魔力が直接関わっているから、高く飛べるようになるんだろう。
どちらにせよ、魔力が多く使える事で翼の数が多くなり、それが影響して速度も高度も上がるというのは間違いないようだけど。
っと、そんな事を考えている場合じゃないな……結界のイメージを明確にしないと。
結界は、何度も使っているからイメージは容易くなっている。
移動するエルサに合わせて結界を使うのも、以前の経験から大体わかる。
あとは速度と……高度か。
「ちゃんと、空気穴は空けておくのだわー。だけど、広すぎてもいけないのだわ。リクとユノなら大丈夫だろうけど、人間は簡単に吹っ飛ぶくらいの風が来るのだわ!」
「……わかった」
エルサの速度を考えると、突風どころでは済まされない風が襲い掛かって来るだろう。
俺とユノなら、エルサにしがみ付くくらいでなんとかできるかもしれないけど、そうなるとこの空の旅を楽しむ事もできなくなるからな。
エルサの注意に従って、小さな穴がいくつか作るような結界をイメージする。
空間を広く取れば、酸素不足になる事もないだろう。
小指くらいの大きさで大丈夫そうだな……一個じゃなく、複数あれば多少は空気の入れ替えもできるだろう。
あとは……穴の位置を前後左右に決めて、後ろを多めにする。
空気の通り道を作る感覚だけど、前方の穴は少なくイメージしているので、先程より速度が出ても、風はそんなに入って来そうにないな。
「よし……それじゃ行くぞ。……結界!」
くるくるその場を旋回して、回るように飛んでいるエルサの動きに合わせて、結界を発動。
まだエルサの結界が張られているから、その外側に展開して包み込むようなイメージだ。
「ちゃんとできてるのだわ?」
「もちろんだ。ほら、エルサの動きに合わせて動いているだろ?」
「……見えないの」
「……まぁ、魔力を感じればと思うけど、ともかくぶつかっていないという事は、そういう事かな」
「とりあえずはオーケーのだわ。私の結界を解くのだわー」
俺の結界に対してエルサが半信半疑なのは、以前咄嗟に張った結界にぶち当たったからだろうか。
今回はエルサが張っている結界に触れる事なく、ちゃんと動きに合わせて俺の張った結界も動いているから大丈夫だ。
自分の張った結界を示すように、エルサとユノを促すけど無色透明なうえに暗闇の現状で結界が見えるはずもなく……とりあえず魔力を感じて欲しい。
結界を確認して安心したのか、オーケーを出したエルサが、自分の結界を解いた。
「それじゃあ、南に向かって飛ぶのだわー! ちゃんと、移動させるように気を付けるのだわ!」
「わかってる。それじゃ、行こう」
「行こ―行こー!」
旋回していた動きを止め、体をさらに浮上させながら、南へ向くエルサ。
移動を開始する前に声をかけてくれたエルサに応えつつ、自分で結界を張るとこんな感覚何だという事を実感する。
いつもなら、結界そのものが強くて特別な感覚はないんだけど、高高度ともなると何もないわけではないようだね。
気圧の変化なのかなんなのか、軽くだけど結界が圧迫されている感覚がある……空を飛んでいるエルサに結界を張るのは初めてじゃないけど、こういう感覚は初めてだなぁ。
「飛ばすのだわ!!」
「お……成る程、こういう感じか」
ユノが手を振り上げて、急かすように叫んでいるのに応えるように、高度を上げたエルサが、南へ向かって一気に加速。
さっきまでの飛行で全力を出す感覚を思い出したんだろう、すぐに北へ向かっていた時と同じかそれ以上の速度になる。
それに合わせて結界を動かすのは、少しだけ集中力がいる作業だったけど、とりあえずはなんとかなった。
使い慣れていたおかげかな。
さっきまで感じていた結界への圧迫感は消え、今は前方の結界は震えているような感覚。
多分、空気の抵抗とかそういうのを関しているんだろうと思う。
「まだまだ行くのだわ! リク、ちゃんとするのだわ!」
「わかってる!」
再度エルサから声がかかり、結界の維持と移動に集中する。
グンッとほほに当たる風が強くなり、結界のおかげで感じにくかった重圧も少し強くなった気がする。
間違いなく、速度が上がったためだろう。
それに合わせるように結界の移動をさせ、エルサがぶつかったりしないように気をつけた。
……なんとか、なりそうだな。
「……大丈夫そうなのだわ! このまま行くのだわ!」
「速い速いのー!」
俺の結界が大丈夫だと判断したエルサは、全力で飛ぶ事に集中し始めた。
その事で、また少し速度が上がった気がしたけど、動きに合わせて結界を移動させる事に慣れて来たので、難なく対処できた。
ユノは、地上を見下ろしながら速くなったのを確認して、喜んでいる。
……というか、もしかしてユノって、これだけ高かったり暗くても地上が見えてるのかな?
俺は見えないのに……。
「ユノ、もしかして地上とか見えてるのか?」
「もちろんなの」
「こんなに暗くて高いのに?」
「上から見下ろすのには慣れているの! これでも、元々は神様なの! ……これでもは失礼なの!」
「それを言ったのはユノ本人だろ……。でもそうか……空というか、宇宙? ともかく上から世界を見ることに慣れているからなのかな?」
「多分、そうなの!」
疑問に思い、ユノに聞いてみると、問題なく地上を見れているようだ。
目がいいというだけでは説明がつかないような気もするし、逆に慣れていればどうこうという事でもないような気もするけど……ユノだからね。
神様的な力とかが働いていてもおかしくはない……一応体は人間となっているけど、多少なりとも影響はあるだろうしね。
じゃないと、この小さい体でエアラハールさんを簡単に殴り飛ばしたり、結界を壊したりエルサの毛を斬る程の斬撃なんてできないか……。
なんとかリクの結界を張ったまま移動できそうです。
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