大空へ
「それじゃ、一緒に行こう。神界? とかだと空を飛ぶ事もないだろうしなぁ」
「うーん、飛ぼうとしたら飛べたけど、あまり面白くないの。あそこは何もないから。でも全力のエルサに乗るのは楽しそうなの!」
「……空は飛べたんだ……」
「リク、ユノならそれくらいできると考えるべきなのだわ」
「……まぁ、神様ならできても不思議はないか」
俺がユノを誘った動機としては、通常なら空を飛ぶ事なんてできなさそうだから……という事だったんだけど、元神様は飛ぶ事ができたみたいだ。
それとは別に、あの何もなさそうな場所では、飛ぶのは面白くないとの事。
確かに、何もないただ白い空間が広がってる場所を飛び回るのは、面白くなさそうだ。
期待して楽しそうなユノを見ながら、エルサのツッコミと共に元神様という事で納得して、ヒルダさんが戻って来るのを待った。
「それでは、お気をつけて……」
「はい、ありがとうございます。行って来ます」
「思いっきり飛ぶのだわー」
「行って来るのー」
昼間よりも大分静かな王城の中庭にて、大きくなったエルサの背中に乗る。
確認して来てくれたヒルダさんは、俺達の見送りだ。
姉さんがエルサに乗りたいと言い出したらしいけど、全力で飛ぶから落ちたら危険と聞いて、引き下がったみたいだ。
その時、安全装置のないジェットコースターみたいなものかしら? とか言っていたらしく、ジェットコースターとは何かとヒルダさんに聞かれたけど、とりあえずすごく早い鉄の乗りものとしか答えられなかった。
姉さん……説明くらいはしてよ……。
まぁ、さすがに安全が確保されていないから、ジェットコースターが好きだった姉さんも乗る気にはならなかったみたいだけど。
意気揚々と声を出すエルサがふわりと浮かび上がり、ユノも楽しそうに声を上げた。
ヒルダさんはそんな俺達に一礼した後、手を振って見送ってくれた。
全力とは言っても、王城の中庭からなので、高度を上げるまで勢いを出す事はできない。
思いっきり飛べることを喜んでいるエルサも、そこはわかっているようで、建物に当たったりしないよう垂直にゆっくりと高度を上げていく。
はしゃいで勢いよく飛び上がったりしたら、建物にエルサの体が当たって壊したりするかもしれないし、ヘリコプター程じゃないだろうけど、羽ばたきとかの風圧でヒルダさんが飛ばされてしまうかもしれないからね。
「この辺りでいいのだわ?」
「うん、そろそろ大丈夫だと思うよ。でも、ちゃんと結界は張ってくれよ?」
「わかっているのだわー。けど、本当に全力を出すのなら、結界も張らない方がいいのだわ。その方が魔力を飛ぶ事に使えるのだわ」
「まぁ、そこは途中から俺が変わるよ。まだエルサがどれだけの速度で飛ぶかわからないから……また結界にぶつかったりはしたくないだろ?」
「……二度とごめんなのだわ!」
数十メートルはあろうかという王城よりも高く浮かび、見下ろすくらいになってからエルサから聞かれた。
ヘルサルに向かって焦って飛んだ時のように、結界を張らなかったら風圧やら何やらで息も苦しくなってしまうから、前もって注意しておく。
ただ、本当の意味で全力を出すのなら、結界を使わない方がいいらしい。
まぁ、飛んでいるエルサ自身は飛ぶのに結界は必要ないからね。
けど結界を俺が使うにしても、エルサの動く速度に合わせないといけないから、まずはそれを把握してからだ。
何も考えずにただ結界を使うだけだったら、ワイバーンを王都へ持って帰る時のように、エルサが結界に衝突してしまう。
ヘルサルに向かう途中くらいならまだしも、今回はもっと速そうだしなぁ……多少の誤差なら対処できるだろうから、エルサ自身が結界を使わなくなった後の全力には対処するためにも、まずは結界を張っている状態での全力を把握しないとね。
「エルサ、もう少し高くするの。地上が危険なの」
「そうなのだわ? わかったのだわ……けど、このままじゃそこまで行けないから、翼だけは出すのだわー……だわ!」
「おぉ……!」
ワクワクしながら王城を見下ろしていたユノが、結界を張って移動を開始しようとしたエルサに忠告した。
地上が危険って……これだけ高く飛んだら影響はなさそうだけど……ソニックブームでも発生するんだろうか……?
あれは、戦闘機とかの飛行物体が音速を越える速度で飛行するために起こる現象だと、何かで見た気がするけど、さすがに詳しくはない。
けど、音速を越えるって事はさすがにないんじゃないかと思う。
まぁ、そこまで出なくともエルサの巨体がかなりの速度で飛ぶために、風圧とか衝撃波のようなものが発生するのかもしれないけどね。
ともあれ、ユノの忠告を受けて高度を上げようとしたエルサだけど、中庭から浮かび上がるために二翼しか出していない。
さすがにこれ以上は難しいという事で、追加の翼を出すように気合を入れた。
……それはいいんだけど、気合を入れる言葉がだわ! っていうのはどうなんだろう?
という事を頭の隅で考えつつ、エルサが出した翼に感嘆の声が漏れた。
部屋では六翼くらいと言っていたはずだけど、エルサの背中からは左右に伸びる綺麗なモフモフの翼が四翼ずつ……計八翼の翼が生えていた。
夜だから、暗くて全体ははっきりと見えないけど、月明かりを反射する白いモフモフは、この世のものとは思えないほどの美しさだった。
全力で飛ばないにしても、モニカさん達や姉さんにも、エルサのこの姿は見せてやりたいな……。
「思ったよりも出たのだわ。とりあえず、高度を上げるのだわー」
自分でも、八翼出るとは思っていなかったエルサは、気楽そうに言って再び高度を上げ始める。
今度は結界が張ってある事と、周囲に障害物がないため、上がる速度は速めで翼も忙しなく羽ばたいている。
段々と小さくなっていく眼下の王城、目測だとどれだけの高さになっているのかわからないけど、多分地上との距離は数百メートルは軽く越えていると思う。
高所恐怖症だと、捕まるものがエルサの毛しかない今の状況では足がすくんでしまいそうだけど、結界で守られていて安全とわかるから、割と平気で下を覗き込めた。
とはいえ、エルサの出した翼の動きを阻害するわけにもいかないから、そっと隙間から覗くくらいだけどね。
「そろそろいいのだわ?」
「んー、多分大丈夫だと思うの。でも、山には気を付けるの」
「わかっているのだわ。地上との距離が近くなったら、さらに高く飛ぶのだわ。……そして、山から離れたら降下しながら速度を上げるのだわ。一番気持ちいい瞬間なのだわ」
「地面には、ぶつからないでくれよ?」
「大丈夫なのだわ、ちゃんと地上との距離は保つのだわー」
今いる高度に届くような標高の山があるか、俺は知らないけど……それでも山の上を通るとその標高分地上が近くなる。
ユノの忠告は、山の上を通る時はそれに注意しないと、地上に影響が出るかもしれないと考えているからだろうと思う。
エルサの方はもちろんそれをわかっているようで、山の上を通る時はさらに高度を上げるつもりのようだ。
その後、離れた地上との距離を調節するために降下して、さらに速度を上げるとの事だ。
確かに、降下する時は速度が出るもので、エルサにとっては気持ちいんだろうけど、さすがにその勢いで地上にぶつかったらたまったものじゃないと注意をしておく。
結界がどれだけの耐久力なのか、試したことがないからわからないけど……ユノの一撃で壊れるくらいなんだから、エルサの巨体が凄い勢いで地面に激突するのに耐えられるとは考えにくいしね――。
さすがの結界も、エルサの巨体と速度で地上に激突しては、危険かもしれませんね。
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