訓練の開始
「それにじゃ、ソフィーの方は魔法を使う事はできないようじゃが、魔法具を使うのじゃろ? 確か、氷の魔法じゃったかの?」
「はい。氷弾を放つようなものではなく、広い範囲を凍らせて足止をするようなものですが……」
「魔法が不得意な自分を考えての選択じゃろうから、それで良いじゃろ。氷の魔法なら、坑道で使っても問題はなかろう? ……まぁ、乱発するのは止めて欲しいがの、寒そうじゃし」
ソフィーは自分で魔法を使えないからか、直接攻撃するよりも足止めをして隙を作るという効果の方を選んだ。
多分それは、自分で魔法を使うという感覚がないせいか、あくまで補助として考えて、攻撃は自分の剣で……と考えてなんだろうと思う。
氷の弾を打ち出して、相手を攻撃という魔法もあると言うのを聞いた事があるけど、それとは違って、凍らせるだけなら坑道が崩れたり、空気の心配をする必要は少なくなるね。
まぁ、エアラハールさんの言う通り、乱発していたら坑道内部の気温が下がって、寒くなるだろうけど……念のため、厚めの服を着て行った方がいいだろうか?
「……さすがに、乱発をするような事は……。調査が目的ですし、本来は剣で戦うのが私の戦い方です。状況により魔法具を使う事は考えますが、それに頼り切りという事にはしません」
エアラハールさんが寒そうと言った言葉に、俺が思案する表情をしたのに気付いたソフィーが、乱発をするような事はしないと約束してくれた。
ソフィー自身も寒いのは嫌だろうし、これで坑道内の気温が必要以上に下がる事はない……と思う。
「それじゃ、また王城で。帰ったら、昼食後に訓練ですね」
「ユノがしっかり見張っておくの!」
「……外ではおかしな行動はしないと言うのにのう……まったく、ユノちゃんには敵わんわい。容赦なく拳を決めてくるからのう……」
「いや、外だとか室内だとかは関係なく、女性に無断で体を触るというのはいけないですからね……?」
冒険者ギルドの入り口で、町中を歩いて帰るユノとソフィー、エアラハールさんを見送る。
ユノにエアラハールさんが変な事をしないよう頼んで見張ってもらう事になってるけど、大丈夫だろうか……?
やり過ぎて怪我をさせたり、さらに酷い事になったり……というのは、ソフィーが止めてくれると信じよう。
そもそも、一応冒険者ギルドへ来る時に町中を歩いても何もなかったようだから、大丈夫だろうしね。
……ギルドに来てから、建物に入ってはしゃいじゃったようだけど。
ともあれ、ソフィー達と別れて俺とモニカさんは来た時にも使った、地下通路の方へ。
案内してくれた兵士さんが待っていてくれて、帰りもお世話になる事に。
ありがとうございます、兵士さん。
「さて、肝心の訓練じゃが……」
王城へと帰り、昼食を頂いた後、また訓練場に来てエアラハールさんによる訓練。
帰る道すがら、ユノが拳を使う事はなかったようでなによりだ。
並んで立つ俺や、モニカさんとソフィーの前に立ち、エアラハールさんが話し始める。
ちなみにだけど、今日は訓練場に他の兵士さん達が複数いて、それぞれ何かしらの訓練をしていた。
一部の人は、遠目にだけどこちらを見ていて、どんな訓練をするのか興味深々の様子だね。
訓練という事で、ヴェンツェルさんも来るかと思ったけど、ハーロルトさんが逃がしてくれないらしく、今日も仕事に励んでいるらしい。
「まずはそうじゃのう……モニカ嬢ちゃんとソフィーちゃん、リクに全力で襲い掛かるのじゃ」
「私達が、リクさんにですか?」
「うむ。さすがに魔法は……今回の訓練ではあまり考えておらんから、武器を使ってじゃの。なに、リクならば怪我はすまいて」
「それは……そうでしょうけど……ちょっと気が引けますね」
「私は大丈夫です。訓練であれば、そういう事もあると考えていましたから。――それにモニカも、私と手合わせする事もあるだろう?」
「まぁ……ね。……うん、わかったわ。気が引けるのは間違いないけど、これは訓練だものね!」
「……えっと、さすがに二人が一緒に向かって来るのは……」
最初の訓練として、エアラハールさんから言われたのは、モニカさんとソフィーが二人がかりで俺に向かって来るという事。
モニカさんは、少し気後れしているようでなんとなく安心だけど、ソフィーの方はやる気満々だ。
まぁ、訓練と割り切っているし、本気で命を狙っているわけでもないからできるんだろうけどね。
それはともかく、さすがにこの二人を俺が一人で相手にするのは、ちょっと難しいんじゃないかな?
「何を言うておるのじゃ。Aランクなんじゃろ? Cランクの二人が向かって来ても、軽くあしらうくらいはせねばならん。なぁに、ワシ相手にあれ程動けたのじゃから、なんとかなるじゃろう。それにじゃ、一応目的もあるからの」
「目的、ですか?」
「うむ。まぁ、格上の相手と戦うという事を、二人に経験させるのも一つ。そして、リク……お主の癖を改善させる事じゃの」
「癖、ですか?」
「昨日も言ったが、体を緊張状態にさせ過ぎじゃ。向かって来る二人の攻撃を受けに回って、それを改善させる事じゃの」
「……確かに、昨日はそう言われましたけど」
Aランクってそういうものなのかな?
まぁ、一応エルサが言うには俺は戦闘へ意識が向いていると、そうそう怪我をしたりはしないし、実際野盗と戦った時は素手で受け止めたりもできたけどね。
というか、格上の相手と戦う経験って、二人はマックスさんやマリーさんから特訓されてるいるから、それには慣れてるんじゃないかな?
緊張状態の方は、二人が向かって来るという事で、痴漢させる余裕がなさそうなんだけど……エアラハールさんには何か考えがあるのかもしれない。
一応、ユノには殴り飛ばされたりしているけど、れっきとした元Aランク冒険者なんだから、きっと大丈夫だろうと思う……ちょっと不安だけど。
それに、俺の方からモニカさんやソフィーに攻撃を、という事じゃなくてちょっと安心。
モニカさんじゃないけど、いつも一緒に活動している仲間に対して攻撃を……というのは訓練でもちょっと気後れする部分もあるからね。
訓練なんだから、ソフィーのように大丈夫ならないといけないんだろうし、冒険者としてはどんな時でも実力を発揮できるようにならないといけないのかもしれないけども。
「ま、とにかくやってみる事じゃ。なに、訓練用の木剣なんかも用意してもらっておるからの。怪我はせんじゃろう。……よくて打ち身かのう」
「……わかりました」
「リクさんが相手……全力で行かないと……」
「下手したら、こちらが危ないからな……」
いや、モニカさんとソフィー? 俺からは攻撃したりせず、受けに回るって事なんだから二人が危険になる事なんてないんだけど……。
あと、少しくらいは手加減を……と考えるのは、訓練としては駄目なんだろうけど、お願いしたくなるね。
ともあれ、エアラハールさんの言う事に従って、俺とソフィーが木剣、モニカさんが槍に似せた木の棒(仮に模造槍と呼ぼう)を持って、少し距離を取る。
元々が剣の鍛錬なんだし、素手でも魔力と契約のおかげでなんとかなるんだろうけど、ちゃんと剣で受ける訓練もしないといけない。
反撃しないにしても、払ったり受けたりするのに木剣は必要だからね。
無防備に二人の攻撃を受けるだけ……という訓練なわけでもないわけだし。
二人からの攻撃を防ぐ訓練をするようです。
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