お婆さんの怪我を治療
「それよりも、ユノちゃん達はどうしてたんだい? 最近めっきり姿を見なくなったけど……?」
「ユノ達はね、王都にいたの! 女王様と遊んだり、魔物が襲ってきたのをやっつけたりしたの!」
「「!?」」
「女王様に? そりゃ凄いね!」
王都に行っていたから、ヘルサルにいなかったためしばらくお婆さんの店には行けなかった。
事情を聞くお婆さんに、ユノが素直に教えると、後ろの方で驚愕する声が……まぁ、女王様とか出て来たら、驚くのも無理はないか。
確かに、ユノは姉さんと遊んでたりもしたからなぁ……というかユノ、いつもよりさらに幼い感じになってるな。
まぁ、お婆さんに甘える少女、という風に見えて違和感は何もないんだけど……わざとなのか天然なのかわからないところだ。
お婆さんの方は、ルギネさん達程の驚愕は示さなかったけど、十分驚いたようにユノと話してる。
俺の噂を聞いてたなら、勲章授与式の事も聞いてそうだし、女王様と会ってもおかしくないと考えてるんだろう。
「お婆ちゃん、寂しかった?」
「そりゃ、ユノちゃんの姿が見えなかったのは寂しかったね。けど、アタシにゃたくさんのお客さんがいるし、大丈夫だよ。なにより、ユノちゃんが頑張ってるのがわかったから、それが一番嬉しいね」
「うん、ユノ頑張ったの!」
心配するように上目遣いで聞くユノに対し、お客さんがいる事と、ユノが頑張ってるのが嬉しいと言うお婆さん。
目を細めて言うその姿からは、嘘は感じられない。
本当に、露店を通してお客さんとの触れ合いが好きなんだろうな。
じゃなきゃ、この年で孫に任せず自分で商売したりしないか……。
ちなみに、ユノが頑張ったと言うのは本当だ。
確かに、魔物が押し寄せて来てる時は、魔物の大群の真ん中でひたすら切り伏せてたりしたし、バルテルに姉さんが捕らえられた時も、囮をやってくれたしね。
ユノがいなかったら、もっと犠牲者が多かっただろうと思う。
「そうかい。それは良かったねぇ。アタシも、ユノちゃんに負けないよう、もっと頑張らないとね!」
「うん、そうだね! お婆ちゃんが頑張れるように……リク、お願いなの」
「あぁ、わかってるよ」
「ん? どうしたんだい?」
嬉しそうにお婆さんと話すユノ。
それを見ていて、微笑ましい気持ちになり、さらに怪我を治してあげたいという、使命感のようなものが沸いてきた。
元々、魔法で治そうとは考えてたけど、さっきより意気込みが少しだけ違う。
……意気込みがどうであれ、ちゃんと治すから結果は変わらないんだけどね。
ユノに声をかけられ、お婆さんの横に進み出る俺。
それを見て、お婆さんは不思議そうに首を傾げた。
「今から、魔法で怪我を治しますね」
「……そんな事、できるのかい? 英雄様なら、できてもおかしくはないんだろうけど……」
「大丈夫なの、リクに任せるの! すぐにお婆ちゃんは元気になるの!」
「そうかい? ユノちゃんがそう言うなら、任せようかねぇ」
本当にユノに弱いな、このお婆さん。
訝し気に俺を見たお婆さんも、ユノに言われて即座に頷く。
ユノの言ってる事だしと、信じられないながらも、俺に任せてみようと考えたんだろう。
さて、集中しよう。
……空きっぱなしの扉から、ルギネさんとアンリさんの視線を感じるけど、とにかく集中だ!
「……ヒーリング」
お婆さんの手首に触れ、そこからゆっくり全身に行き渡るようにイメージし、魔法を発動。
捻ったらしい手首には、邪魔だからなのか包帯が巻かれていない。
多分、痛みはあってもあまりひどくないからだろうね、外から見た限りでは変わった様子は見られない。
それとは別に、右足首の方は布が包帯代わりに巻かれており、離れて見てもわかるくらい不自然に膨らんでいた。
骨に異常があるため、腫れているんだろう。
足が動かないという事はなさそうなので、折れてるんじゃなさそうだね。
悪くともひびが入ってるくらいかな。
エルフの集落で治癒魔法を使った時は、折れていた手足も治せたので、これで完全に治るはずだ。
「ん……優しい何かが、体に染み渡るねぇ……おや?」
「……終わりました。もう、手や足を動かしても、痛くないと思いますよ?」
俺が触れていた右手首から、魔法が体に流れて行くのを感じているんだろう。
目を閉じてその感覚に浸っていたお婆さんに、治療が済んだことを告げた。
「……おぉ、ほんとだ、痛くないよ!」
「お婆ちゃん、元気になったの!」
俺が少し離れ、手首を動かして感覚を確かめたり、少し立ち上がって足の具合を確かめていたお婆さんが、驚きと喜びが入り混じったような声を上げる。
ユノも、傍でそれを見守りながら、手を上げて喜んでる。
お婆さんの右足首は、先程とは違い、不自然に膨らんでいる事はなく、通常の状態に見えるから、もう大丈夫だろうね。
「凄いねぇ。それなりに生きて来たけど、こんな魔法を見るのは初めてだよ! おっと……」
「お婆ちゃん?」
「すまないねぇ、ユノちゃん。年には勝てないようで、少しはしゃいだだけでクラッときちまったよ」
椅子に座っていた先程までと違い、立ち上がって手首を動かしながら、足の感覚を確かめていたお婆さんが、唐突にフラッと倒れ掛かった。
軽くだったので、すぐに戻ったし、ユノが隣で支えたので問題はなかった。
俺の治癒魔法のイメージは、自然治癒力を高めるようにしてるから、体力をかなり使ったため……なのかもしれないな。
魔法で働きかけているとはいえ、元々自然治癒力は本人に備わっている力だ。
どこからか不思議な力が溢れて怪我を治す……というわけじゃないから、本人の体力も使ってしまうだろう。
エルフの集落でも後から聞いた話だと、大きな怪我をしていた人達は、怪我が治ってすぐは喜んでいても、短時間で疲れてしばらく寝ていたみたいだしね。
「怪我を治しただけなので、疲れがあるのかもしれませんね。無理はしない方がいいですよ」
「そうかい? ……そうだね。今日くらいはゆっくり休んでおこうかね。おかげで、明日からまた店をやれそうだよ。ありがとうねぇ……」
「いえいえ。役に立てて良かったですよ」
「お婆ちゃん、またお店やるの?」
「もちろんだよ。ユノちゃんみたいな子も来るしねぇ。珍しい物を売って、客の喜ぶ顔を見るのが、アタシの楽しみだからねぇ。……それにしても」
「はい?」
お婆さんに注意をして、座ってもらう。
あまり無理をして、また別の事で怪我をしたりしちゃいけないからね。
感謝を受け取りつつ、良くなったお婆さんを見て微笑む。
ユノの方は、またお婆さんがお店をやるのが気になっているようで、少し心配顔だ。
そんなユノの頭を撫でつつ、生き甲斐を語るように言うお婆さん。
露店は利益を得るためだけじゃなくて、お客さんを喜ばせるためにやっているようだ。
マックスさん達も、お客さんが喜んで料理を食べるのが嬉しいというような事を、働いている時に聞いた事があるけど、それと同じなのかもしれない。
まぁ、お店をやる以上、ある程度の利益は必要だろうけどね。
そんな話をしながら、座ったままでふとお婆さんが俺を見上げた。
元気になったお婆さんですが、怪我が治ってすぐはしゃぐのはいただけません。
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