露店の男性に話を聞く
「お婆ちゃん、怪我したの?」
ふと、俺達の話を聞いていたユノが呟く。
お婆さんに懐いてたから、心配なんだろうな。
その表情は、少し俯き加減ではっきりと見えなかったが、少し寂しそうだ。
「……推測なんだがな。もしかしたら、怪我をしているから店にいないのかもしれないんだ」
「ユノちゃん……だったかしらぁ? えっとね、その……ね? 私達は、絡んできた奴らを追い払っただけなのよぉ。それでね、そのぉ……」
「アンリさんが狼狽してる?」
「アンリは、かわいいものに弱いうえ、子供にも弱いんだ」
「……ずり落ちそうなのだわ」
ユノの呟きに、ルギネさんが頬をかきながらばつが悪そうに説明。
さらにアンリさんは、手をわたわたさせながら、ユノに向かって言い訳のような弁解のような事を言ってる。
ルギネさんをからかったり、エルサを抱き締めてる姿からは想像できない様子だけど……まぁ、エルサの時は取り乱しまくってたね。
そんなアンリさんの様子を見ながら、ルギネさんがボソっと教えてくれる……いつの間にか、普通に話してくれるようになったなぁ。
ともあれ、子供に弱いアンリさんは、ユノの寂しそうな様子に戸惑っているようだ。
手をわたわたと動かしてたから、お胸様に抱き締められてたエルサが、落ちそうになってガシッと胸を掴んでるけど……落ちれば良かったと思うよ。
決して……決して、巨大で柔らかそうなお胸様に埋まってるエルサを羨ましくなんて思ってないからな!
そんなこと考えたら、姉さんやモニカさんに怒られそうだし……。
「とにかく、どういう状況なのか確認しよう。もし怪我をしてたら、お見舞いもしたいしね」
「うん、わかったの。お婆ちゃん、元気だといいの……」
「私達にも、責任はあるからな。一緒に行こう」
「そ、そうねぇ。お婆さんが元気だったらいいのよねぇ。うん。大丈夫。私は子供を泣かせたりしてないわ……」
「この体勢、結構辛いのだわ……」
ここで話してても、お婆さんがどうなっているのかわからないからね。
ユノに声をかけて露店へと向かう事にした。
代わりに商売してる男性に聞けば、何かわかるだろうし。
ルギネさんは、責任を感じて付いて来てくれるようだ。
ソフィーとの事があって、俺には色々と叫んできたりもしたけれど、悪い人ではないんだろう……多分。
ちゃんと冒険者として、依頼のためではあるけど、魔物を討伐してたしね。
アンリさんは……自分に言い聞かせるように、小さな声で落ち着こうとしてるけど……そこまで子供を泣かせる事に危機感を持たなくても……と思う。
まぁ、泣かせたりはしたくないのは確かだけど。
エルサは……日頃俺の頭にくっ付いているのに、余裕がなくなったアンリさんはエルサから手を放してる分、お胸様にくっ付いているのが辛いようだ。
頭に乗っかるようにくっ付くのと違って、柔らかいお胸様にしがみ付いてるみたいだから、仕方ない。
……やっぱり、落ちればいいと思うよ。
「……すみません、少しいいですか?」
「いらっしゃいませ! 何か、気になる商品でもございましたか?」
俺達が露店に近付き、男性に話し掛けると、嬉しそうに迎えてくれた。
お客さんだと思ってるんだろうな。
物を買うために声をかけたのは、申し訳ないと思うけど、聞く事はちゃんと聞かないと。
「いえ、すみません。買い物をしに来たんじゃないんです。その……以前この露店はお婆さんがやってたと思うですけど……?」
「あぁ、婆ちゃんの知り合いかい?」
「まぁ、そうですね。こっちの……ユノ、挨拶を」
「ユノです。お婆ちゃんに会いに来たの!」
お婆さんの事を聞くと、男性は営業スマイルを止めた……客じゃないから、仕方ないね。
それに、婆ちゃんと言ってたから、やっぱり孫とかなんだろうと思う。
一緒に来ていたユノを示し、挨拶をさせる。
片手を挙げて、元気に挨拶するユノに、目を細める男性。
「……婆ちゃんが好きそうな、元気な女の子だね。あぁ、いつもここにいる婆ちゃんは、今怪我をして安静にしてるよ。怪我をしても、露店を開こうとしてたから、代わりに孫の俺がやってるってわけ」
「そうなんですね。……やっぱり怪我をしてたんだ」
「失礼。すまないが、怪我の具合を教えてくれないか?」
「貴女は?」
「……そのお婆さんの怪我の原因になったかもしれない者だ」
予想通り、男性はお婆さんの孫だったようで、ユノを見て頷くと怪我をして休んでる事を教えてくれた。
話を聞いていると、ルギネさんが話に入って来て、お婆さんの怪我の具合を聞く。
それに、少し訝し気な表情をさせながら、男性からの質問にはっきりとルギネさんが怪我をさせたかもしれないという事を伝えた。
言い訳とか自分の事を隠して聞くんじゃなく、ちゃんと自分に責任があると考えて話しかけてるようだね。
責任逃れを考えるんじゃなく、真正直に言うのは、好感が持てる。
その後ろにいるアンリさんは、ユノが元気に挨拶していたのにホッとした様子だ。
「あぁ、貴女が! 婆ちゃんが言ってました。破廉恥な冒険者風の女性が、店に突っ込んで来たって。まぁ、男達が絡んで来た事も見ているので、婆ちゃんは特に恨んでたりはしません。こうして、店の修理費ももらって修繕できましたしね」
「そ、そうか……それは良かった。……破廉恥」
「ルギネは格好がねぇ……」
「仕方ないよなぁ」
男性はお婆さんに説明されており、ルギネさんの恰好を見て合点がいったようだ。
ルギネさん、目立つ赤い鎧だけど、覆ってる部分は一部だけだからなぁ。
正直、ビキニを着てる水着の女性と露出してる部分は大差ない。
……一応、籠手やグリーブ、肩当なんかは付けてるけど。
これで平気な顔をして外を歩いてるんだから、破廉恥と言われても仕方ない。
この世界には、あまり露出面を大きくしてオシャレをする文化はないみたいだしね。
ユノの様子に安心して、いつもの調子に戻ったアンリさんと、自分の恰好を見下ろして小さく呟くルギネさんを見ながら、うんうんと頷いた。
「自分の恰好は自分が一番理解している。そう言われるのは仕方ないか。――それで、お婆さんの具合はどうなんだ?」
ルギネさん自分が破廉恥な格好をしているって、自覚してたんだ。
いやまぁ、あれだけの恰好をしてたら、自覚するのも当然だけど……というか、絡んできた男達もアンリさんの色気に誘われただけじゃなく、ルギネさんの恰好も問題なんじゃないだろうか……?
という、俺の疑問は余所に、男性へ説明を求めるルギネさん。
「あ、あぁ。婆ちゃん様子だね。えっと、元々あまり足の具合が良くなかったんだが……足首の骨に異常があるみたいでね。あと、突っ込んで来られた時に、自分を支えようとして、手首も痛めてたかな。結構な年だから、治りも遅いみたいでね。それでも露店に命かけてる婆ちゃんだから……無理して店を開こうとしてたんだ。あと、最近見なくなった子供を見るのが楽しみって言ってたね。多分、そこのユノちゃんの事かもしれないね」
「そう、なのか……」
ルギネさんは思ったよりも酷い怪我だと感じたのか、意気消沈したように俯いた。
責任感が強い人なのかもね。
まぁ、そうじゃないとあのまとまりの悪そうな、リリーフラワーのリーダーはやれないか。
多少強引というか、猪突猛進のような気質はあるのは間違いないけど――。
さすがのルギネさんも、怪我をさせていた事に落ち込んでいる様子です。
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