村への帰還
「こういう物は、これを使うんだリク。これに包んで鞄に入れれば、他の物がぬるぬるになる事もないだろう」
「あぁ、そうか。そうだね、ありがとう」
ソフィーが自分の鞄から取り出したのは、何の変哲もない布切れ。
布で包んでおけば、他の物にぬるぬるが触れないからなんだろう。
ソフィーが取り出した布切れを、俺とモニカさんが受け取り、拾った素材をそれぞれ包む。
各自である程度の物を収納して、持ち帰る準備は終わった。
これで、ギルドに持って行けば、討伐報酬か素材買取のお金がもらえるだろう。
まぁ、お金には困ってないから、どうしても必要な作業というわけでもないんだけどね。
ある程度は、畑に邪魔な物を取り除いたというだけだ……ビッグフロッグの大きいからだは丸々残ってるけど……。
モニカさん達も、余裕があるとわかってるから、無理して素材を持ち帰ろうとしない。
これが駆けだし冒険者の貧乏パーティとかだったら、無理して拾ったり、何度も往復して素材を運んだんだろうなぁ。
……冒険者になってからの日数を考えると、俺やモニカさんは駆け出しと言えるはずなんだけど。
「よし、皆大丈夫そうだね。それじゃ、村に帰ろうか」
「えぇ、そうね。早く帰って村の人達を安心させてあげないと」
「私は、ロータに剣を教えないといけないがな」
「お腹が空いたのだわ! 早く帰るのだわ!」
「帰るのー!」
パンパンになった鞄をそれぞれが持ち、俺が皆を見渡しながら声をかける。
モニカさんの言う通り、今までいつ魔物に襲われるかと不安がっていた村の人達を、安心させてあげないとな。
エルサの言うように、俺も少しお腹が減って来たしね。
頑張ったユノの頭を撫でながら、いつものようにエルサが頭にドッキングして来たのを確認して、皆で来た道を引き返した。
……村への道ってこっちで良かったんだよね?
「……何とか、帰れたみたいだね……」
「リクさんが先々歩いてたから、道を覚えてるのかと安心してたわ……」
「こんな事なら、一旦畑横の街道から村へ向かった方が早かったな……」
「キューが……キューが不足しているのだわ……」
「ちょっと歩き疲れたの……」
近づく村に視線を送りながら、ようやく帰れた事に安堵する。
他の皆は、俺に対してジト目で見ているようだけど……仕方ないじゃないか! 一度通っただけで完全に道を覚えられなかったんだから!
……俺は断じて、方向音痴ではない……はず!
こうなっている原因は簡単だ。
さっさと村に戻ろうとした俺が、皆を先導して歩き始めた。
そこまでは良かったんだけど、一度しか通ってない道……しかも、広い農地の中を通って来たから、道らしい道も無く……どっちへ進めば良いのか途中で軽く迷ってしまったんだ。
何とか日が傾き始める前には、村に帰り着けることができそうだけど、こんな事ならソフィーの言う通り、確かに街道に出てから村に向かった方が早かっただろうね。
畑の横、魔物と戦った場所からすぐの所に、街道があったし……。
「おぉ、リクさん。ご無事で何よりでございます! 帰りが遅かったので、心配しておりました! おーい、リクさん達が帰って来たぞー!」
「ははは、本当はもう少し早く帰れる予定だったんですが……ちょっと道に迷いまして……」
「そ、そうですか。それなら、やはり村の者を置いておいた方が良かったのかもしれませんね……」
村に入ると、外で待っていてくれたイオニスさんが迎えてくれた。
どうやら、帰りが遅い俺達を心配してくれていたらしい。
イオニスさんが周囲に大きな声で俺達の帰還を伝えると、それぞれ建物の中から村の人達が出て来た。
それを見ながら、イオニスさんにちょっとだけ迷った事を言うと、村の人を魔物達がいる場所で待たせておけば……なんて考えたようだ。
けど、それはもしもの事があったら危ないからね。
俺やユノがリザードマンを取りこぼしたりしたら、村の人に向かってたかもしれないし。
俺達が少し迷うくらいで済むなら、危険な目に合わせるよりもよっぽどいい。
「リク兄ちゃん! お帰り!」
「ロータ」
建物の中から出て来た人の中に、ロータがいたようで、俺を見つけてすぐに駆け寄って来た。
魔物を倒したかどうか、というよりも俺達が帰って来たら、剣を教えてもらえる事を期待してた様子だ。
一緒に、ロータの母親に支えられながら立っている老人もいる……あれがロータのお爺さんかな、確か、足が悪いとか言ってたっけ。
ロータのお爺さんが、こちらに向かってお礼を伝えるように頭を下げたので、俺も会釈して返しておいた。
足が悪いというのは本当なようで、頭を下げてバランスを崩しそうになったのを、ロータの母親に支えられてた……危ない。
「それで、リクさん。魔物なんですが……」
「あぁ、全部倒してきましたよ。思ったより数が多かったですけど、何とかなりました」
「おぉ、おぉ……! 皆、聞いたか! リクさん達が村の近くにいる魔物を倒して下さったぞ!」
「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」
イオニスさんに魔物の事を聞かれて、倒して来たと答える。
討伐証明部位を見せて欲しいとか言われると思ってたけど、俺の言葉だけで信用してくれるようだ。
Aランクだからかな?
それはともかく、イオニスさんの言葉に呼応して、村の人達は歓声を上げた。
ここしばらくの間、ずっと不安だったんだろう……皆の表情は晴れ晴れとしたものに見えた。
皆が喜んでくれたようで、なによりだ。
「リク様、お待ちしておりました。こちらは何事も無く、平和でしたよ」
「マルクスさん。ありがとうございます。何とか、魔物を村に向かわせる事無く殲滅できました」
「リク様達が向かわれたのなら、そうなるでしょう」
「ははは、もう少し数が多かったら、わからなかったと思いますけどね?」
喜ぶ村人達の中から、マルクスさんが進み出て来て話しかけられる。
俺の事を随分信用してくれてるようだけど、もう少しリザードマンやビッグフロッグの数が多かったら、わからなかったと思うんだよなぁ。
モニカさんやソフィーも多くの魔物を相手にするのは大変だし、俺やユノが取りこぼす可能性だってあったんだ。
特にグリーンタートルを持てなかったリザードマンが、村の方向へ逃げたりする可能性だってあったわけだし。
「リク兄ちゃん! 魔物を倒したんなら、次は僕に剣を教える番だね!」
「ロータ、皆さんは魔物の討伐で疲れてるのよ。村のために頑張ってくれたんだから、休んでもらわないと」
「……母ちゃん。そりゃそうだけど……」
やっぱりロータは、魔物の事よりも、自分が剣を習う事で頭がいっぱいなようだ。
まぁ、野盗でのあれこれが知ってるから、魔物を倒せるかどうかなんて心配してなかったのかもしれないね。
意気込んで俺に言い募るロータに、母親から注意の言葉が飛んで来て、少し意気消沈した。
「ははは、ロータに教えるのは、俺じゃなくてソフィーだからね。聞くならそっちだよ? あと……さすがにお昼くらいは食べさせて欲しいな……さすがにお腹が減って……」
「そこで私に振るのか……。そうだな、ロータ。昼食を頂いたら、剣の事を教えるから、少し待っていてくれるか?」
「うん! わかった。お昼を食べたら、すぐにお願いね、ソフィー姉ちゃん!」
「あぁ、わかった。だが、剣を使えるようになるのは、辛い事でもある。覚悟はあるか?」
「……大丈夫! 僕、早く父ちゃんみたいな強い男になりたいんだ!」
「ロータ……」
ロータの事はソフィーさんに丸投げする。
ソフィーさんが少しだけロータに待ってもらえるよう言い、それに頷くロータ。
まだ小さいロータには、ソフィーが行う剣の訓練は中々辛いだろう……その覚悟があるのかと聞くと、早く父親のようになりたいと言う。
そのロータの言葉に、成長を喜ぶ感情と、故人を思っての悲しい感情が入り混じった、複雑な顔をするロータの母親とお爺さん。
父親の背中を追うロータを嬉しく思いつつも、亡くなってしまったヌートさんの事を考えての事なんだろうなぁ。
ロータは父親の形見である剣を、早く使えるようになりたいようです。
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