祝勝パレード開始
「リクさん、おはよう。いよいよね」
「おはよう、リク。勲章授与式の時も緊張したが、今日もまた緊張するな」
「リク、よく眠れたかしら? 今日は特別な日になりそうね」
「英雄リクを皆に知らしめる日だ。空も、それを祝っているようだな」
「リク殿、こちらの馬を……」
「皆、おはよう。ハーロルトさんも、ありがとうございます」
ヴェンツェルさんの指示で、ハーロルトさんの所へ伝令が走り、それを受け取ったハーロルトさんが俺が乗る予定の馬を連れて来てくれる。
ヴェンツェルさんが大きな声を出したら、簡単に聞こえそうな距離にいたんだけど、これも儀礼的なものなのかもしれないね。
馬は、練習でもお世話になった、他の馬よりもひときわ大きい馬だ。
ハーロルトさんの連れて来た馬と一緒に、モニカさん達も一緒俺の所へ来た。
「では、リク殿……」
「はい。……今日はよろしくな?」
「ヒヒーン!」
ヴェンツェルさんに促され、馬に乗る俺。
今日1日お世話になる馬にも、乗る前に一言かけておくのを忘れない。
何度か練習するうちに俺に慣れて来たからか、返事をするようにいななく馬。
こうしてると、馬も結構可愛いよね。
「では、他の皆様はこちらへ」
「はい。後ろで見てるから、頑張ってねリクさん」
「しっかりやるんだぞ」
「ははは、はい」
俺が馬に乗り、他の皆はハーロルトさんに連れられて、屋根の無い馬車へと乗り込んだ。
ヴェンツェルさん達が列の前後を固め、その間に俺達が入る形だ。
少し馬を移動させて、所定の位置につく。
先頭のヴェンツェルさんから少し後ろに俺、さらに数人程の間を開けて馬車を曳く馬がいて、その馬車に皆が乗っている。
「リク、準備はできたか?」
「はい、できました。陛下」
「うむ」
出発する準備が整ったあたりで、馬に乗った女性が俺に近付いて来た。
鎧姿に身を包んだ姉さんだ。
当然、部屋にいる時とは違って、他に人が大勢いるので女王様モードだ。
間違えて姉さんと呼ばないように気を付けないとね。
「リク殿、我々も楽しみにしていました。本日は、楽しみましょうぞ」
「フランクさん。はい、よろしくお願いします」
姉さんは勲章授与式で見た、薄赤のドレスに黄金の鎧。
そのまま馬に乗って俺の横につき、その前後を、装飾の付いた服を着た貴族達が固めた。
全員ではないらしいけど、10人近くの貴族達がいる。
観衆が俺を見るのを邪魔しないよう、俺と姉さんの横は開けているし、俺の乗ってる馬は他の馬よりも大きいので十分に見えるだろう。
「ヴェンツェル、良いぞ」
「はっ! では……これより、英雄リクのパレードを開始する! これより進む道は我らが女王陛下、並びに英雄リクの進む道! 何人たりとも進行の邪魔をさせるな!」
「「「ははっ!」」」
姉さんに言葉をかけられたヴェンツェルさんは、揃っている兵士達に気を吐いてゆっくりと進み始めた。
馬には乗っているけど、進みは人が歩く速度とあまり変わらない程度だ。
このままゆっくりと、城下町の各通りを周って、最終的にここまで戻って来たらパレードの終了だったはず。
……その前に、俺の魔法でデモンストレーションするイベントがあるけどね。
「リク様よ! あれがリク様よ!」
「おぉ……女王陛下の隣にいるのがリク様か……何と凛々しい……!」
「陛下も、変わらず麗しく……」
「陛下とリク様、二人が並んでいる姿を見られるなんて……!」
「リク様、抱いて―!」
城門を出て、大通りへと差し掛かったあたりで、既に人が集まっていた。
行列が通るからか、先に兵士さん達が道を開けてくれていて、観衆が列に近付き過ぎないよう整理してくれている。
俺達が通る道の左右に、溢れんばかりの人達が集まっていて、俺や姉さんを見た瞬間から、色んな歓声が聞こえて来た。
ヘルサルでもそうだったけど、一部おかしな声が聞こえるのは、この国の伝統か何かなのかな?
俺も男だから、女性に言われるのは嬉しいと思ってしまうけど、聞こえて来た声は男の声だったし……。
「りっくん、人気ね?」
「姉さん……小声とはいえ、皆に聞こえたら大変だよ? それに、俺だけじゃなく姉さんも人気があるようだよ?」
「大丈夫よ、周囲の歓声で小さい声なら聞こえないわ。私の人気は女王だからでしょ。それに比べて、りっくんはこの国を救った英雄としての人気……モテモテね!」
「モテモテって……別にそんな事のために、魔物を退治したわけじゃないんだけどね……」
ゆっくりと行列が進む中、姉さんが乗ってる馬を近づけて俺に小声で話しかけて来る。
姉さんの言う通り、ヘルサルでも見た事がない程、人で溢れて皆が歓声を送って来る中だ、小声なら周囲には聞こえないだろうと思う。
でも、もし周囲に聞こえたら、変な噂が立ってしまわないかと冷や冷やするなぁ。
「きゃー、リク様素敵ー!」
「陛下も素敵よー!」
「陛下……お美しい……!」
「「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」
観衆の声を聞きながら、大通りをゆっくり進む。
王都に来てからゆっくり大通りを見る事はできなかったけど、こうなってたんだなぁ。
ヘルサルの大通りと似ていて、道の左右には色んな店があるようだ。
今は、パレードの行列を見るためか、ほとんどの店は閉まっていて、店前には人が溢れる程集まってこちらを見ているけど。
一度ゆっくり見てみたいと考えてたけど、こんな形で実現するとはなぁ……今度は、店が開いてる時に観光しよう。
「凄いね……」
「でしょう? 私の即位パレードの時もそうだったけど、今回も王都中の人が集まってるみたいね。……もしかしたら、私の時よりも多いかも?」
「姉さんの時よりも?」
観衆の声を聞きながら、ごった返している人達を見ながら、左右に向かって適当に手を振る俺。
そうしながら、小さな声で姉さんに声をかけると、姉さんの即位パレードよりも人が多くいるかもしれないとの事。
そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、俺なんかよりも、国の重要な国王様のパレードの方が人は多かったんじゃないかと思う。
英雄なんて言われても、ただの冒険者を見る人よりは、これから国を背負っていくであろう人物を見る方が、重要だろうしね。
「……あまり信じて無いようだけど、本当にそう思うわよ? 私の時は、珍しい女王という事で集まっただけの人達だったし」
「そんな事、無いんじゃないかな? まぁ、俺はその時この世界にいなかったから、見て無いけど……」
「はぁ……いつものりっくんね。まぁ良いわ。とにかく……魔物の襲撃があって、それを救った英雄を皆、歓迎してるって事ね」
「うん、そうみたいだね」
人がどちらの方が多いか……なんて今はどうでも良いか。
歓声を聞いている限り、皆俺を歓迎してくれているようだ。
全ての声に応える事はできないだろうけど、これだけ歓迎されるなら、頑張って皆と王都を魔物達から守ったかいがあったってものだね。
「そろそろ、大通りを抜けます」
「はい、わかりました」
しばらく歓声を聞きながら進んでいると、兵士の一人が、そう俺に声をかけて来る。
確かに、列の先の方を見ると、大きな通りが途切れてるのがわかる。
貴族や兵士、ヴェンツェルさん達が前を固めてるから、隙間から少ししか見えないけどね。
もう少し、前方の視界を確保したいとも思うけど……護衛や列としての役割を考えると、仕方ない事なんだろうなぁ。
観衆の声で、小さな声なら話していてもあまり周囲にははっきりと聞こえないようですね。
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