実は召喚魔法を使っていたリク
「これは使えるかもね……」
過信はできないだろうけど、放った火が自分で判断して標的のみを燃やす……周りに被害が出ないようにと考えると、便利な魔法だね。
どれだけの判断ができるかわからないから、多用できるかはわからないけど。
「ま、とりあえず練習はできたわけだから、上出来としよう」
そう結論付けて、ボスキマイラから視線を外し、皆の所へ戻るため後ろを振り返った。
「「「……」」」
「ん? どうしたの?」
振り返った先では、怪我をして痛がっていたコルネリウスさん、その怪我の手当てをしていたフィネさん、あまりしゃべらないカルステンさんも含めて、三人とも口をあんぐりと開けて呆然とこちらを見ていた。
……どうかしたのかな?
「はぁ……やっぱりリクさんに任せるとこうなるわよね」
「キマイラを相手にどう戦うか……参考にさせてもらおうかと思ったが……これではな」
「キマイラの攻撃をものともしない事もそうだけど、さっきの魔法はねぇ……」
「エルフから見ても、わけがわからんな」
「練習になったの?」
呆然としている三人に近よって来ながら、モニカさん達が溜め息を吐くように話してる。
皆やれやれといった表情だけど……そこまでの事を俺ってしたのかな?
唯一まともに話して来てるのはユノだけだ。
「まぁ、一応ね」
「妙な事をかんがえるのだわ。精霊召喚なんて」
「召喚? あれって召喚なのか?」
ユノに答えながら、皆の所へ近づいて行くと、エルサが翼をはためかせて俺の頭へとドッキング。
そうしながら、気になる事を呟いた。
召喚って……精霊だとか、魔物だとかを魔法で呼び出す事だよな?
確かに精霊っぽいイメージをしたのは確かだけど、召喚をしようとまでは考えて無かったぞ?
「さっきのは下級精霊なのだわ。だからリクの声を聞いたのだわ」
「精霊はほとんどが自然に溶け込んでいるの。それを実体化させるリクはとんでもないの!」
「実体化……召喚……えー?」
「溶け込んで、まとまっていない精霊をまとめ、実体化させて呼び出すという事なのだわ。……立派な召喚なのだわ」
召喚自体は、サマナースケルトンが魔物を呼び出すのを見た事があるから知っていたけど、ユノが言った実体化というのと繋がらずに戸惑っていると、エルサが説明してくれた。
それによると、精霊は目に見えず自然に溶け込んでバラバラになっている。
それを俺が魔力を使って集め、さらに実体化して呼び出す……という事らしい。
……火の魔法に持続性を……とか考えてイメージした事だったんだけど、どうやら召喚魔法まで使ってしまったらしい。
「まぁ、リクさんがとんでもない魔法をつかうのはいつもの事として……この人たちはどうするの?」
「おーい、おーい」
「何の反応もしないな」
モニカさんに声を掛けられて、コルネリウスさん達の方を見る。
そちらでは、ユノが三人の顔の前で手を振って呼び掛けていたけど、目と口を開けたまま何も反応しない。
そんなに今見た事が驚きだったのかな?
「あ、美味しいね、これ」
「でしょう? 王都で良い携帯食を売ってる所を見つけたのよ」
「モニカの作ったスープも良いな。体が温まる」
「ありがと、ソフィー」
コルネリウスさん達が正気に戻らず、日も暮れて来たので、とりあえず焚き火をして夕食を頂く事にした。
ここで野営をするかはともかく、コルネリウスさん達をこのまま置いて行くわけにはいかないしね。
夕食が始まる前に、キマイラの討伐証明部位である尻尾の蛇を切り取ったり、バラバラになった体を埋めたりと後片付けをした。
ちなみに、討伐証明部位である尻尾を集める時、モニカさんとフィリーナがすさまじい勢いで逃げ出した。
どうやら爬虫類というか、蛇が苦手らしい。
女性だから仕方ないと考えていたら、ユノとソフィーは特に表情も変えずに蛇部分に触っていた……個人差、かな?
まぁ、苦手な物は仕方ないと二人には焚き火に使えそうな枝を集めるのと、夕食の準備を任せておいた。
「「「はっ!」」」
ほとんど日が落ち、辺りは暗く焚き火の火で照らされているくらいになった頃、ようやくコルネリウスさん達が正気を取り戻した。
「キ、キマイラは!? 一体どうなったんだ!?」
「……リク様? ご無事でしたか。それで、キマイラはどうなりましたか?」
「……なにかとてつもないものを見たような気がする」
コルネリウスさんがキマイラを探してキョロキョロする中、フィネさんがくつろいでいる俺を見つけてキマイラの事を聞いて来る。
カルステンさんは、何やら首を振っているけど……。
キマイラの片付けは終わっているから、どれだけ探してももう見つからないだろう。
「キマイラなら全部倒したよ。討伐証明部位以外は、全部埋めたしね」
「キマイラを……もしかして……リク様は魔法をお使いに?」
「うん、使ったね」
「……夢では無かった」
魔法を使った事を伝えると、三人共また呆然としてしまった……そんなに呆然とするものなのだろうか?
まぁ、ドラゴンの魔法……というのを見る機会が普通は無いのはわかるから、こうなるのも仕方ないのかもしれないね。
「討伐証明部位……そうだ、キマイラから切り取った証明部位があるだろう! それをよこせ?」
「……何を言っているのだ、あいつは?」
「さぁ……?」
突然コルネリウスさんが騒ぎして、討伐証明部位をよこせと言って来た。
邪魔……とまでは言わないけど、フィネさんとカルステンさんがいなかったら命が危なかったくらいで、キマイラに対して何もできなかった人が、討伐証明部位を欲しがって何になるのだろう?
「あれがあれば僕がキマイラを倒したのだと言えるんだ! そうすれば僕は一躍有名に……!」
「役立たずだったのに、何を言ってるのよ?」
「本当だな……」
「何を言う、僕だって勇敢にキマイラへと立ち向かって行ったじゃないか!」
フィリーナとアルネが呆れた様子で呟いたのを、コルネリウスさんが聞き咎める。
確かにキマイラに向かって行ったのは本当だけど、傷一つ負わせられなかったんだよなぁ。
フィリーナ達が呆れるのも無理はないと思う。
「コルネリウス様、落ち着いて下さい。私達はキマイラ相手に、まともに戦えていませんでした。それどころか、こうして生きていられるのも、彼らのおかげなのですよ?」
「何を言っているんだフィネ、討伐証明部位さえあれば、僕の勇名を轟かせる事ができるんだ! それをお前は……あの時邪魔をしたな!」
「な……」
「邪魔って……フィネさん達の助けが無かったら、キマイラの一撃でやられてたわよね……?」
「そうだな……むしろリク達の邪魔をした方だろう。リクに任せておけば惨事にはならなかっただろうがな」
「うむ。私達が加勢しても相手はキマイラだ。大した戦力にはならなかっただろうしな」
「それを見極められるかどうか……あの人間はもちろん見極められない方ね」
フィネさんがコルネリウスさんを止めようとしてるけど、火に油を注いだように喚き散らしている。
言葉を失った様子のフィネさん、それを見るこちら側の皆は、コルネリウスさんに対して冷たい目だ。
命がけでキマイラからの攻撃を逸らし、頬に怪我を負った程度で済ませられたのは、フィネさん達のおかげだっていうのに、何を言ってるのやら。
……大した怪我じゃなかったんだろう、頬の傷は既に血が止まっている……すぐにフィネさんが処置したからかな?
自分の実力を過信し過ぎる人は、他人の実力を過小評価するのかもしれません。
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