コルネリウス乱入
「さぁ……来い!」
キマイラを待ち構え、近づいて来るのを待つ。
今度のキマイラは、俺を口で引き千切ろうとしているのか、大きく開けた口を俺に向けている。
数秒後、キマイラが数メートルくらいまで近づいて来た辺りで剣を大きく頭上にかざす。
「……ふっ!」
呼気とともに、大上段に構えた剣を真っ直ぐ振り下ろす!
ワイバーンの皮を容易く切り裂く剣だ、キマイラを相手にしても折れる事はないだろうと信頼しての攻撃。
微かに抵抗を感じる程度で、あっさり剣は地面に振り下ろされる。
「GA!」
キマイラが何かに引っかかったような声を上げ、大きく開けた口から縦に真っ二つになった。
半分になった体は、走って来た勢いのまま俺の左右に分かれて横を通過。
少し後ろで静止して地面に崩れた。
「……真っ二つ……」
「……人間技じゃ……ない」
剣を振り下ろした格好のまま、後ろから小さく聞こえる声を聞く。
剣の切れ味が良すぎたおかげだけど、ここまで綺麗に切れると思わなかったな……最悪、斬り損ねた部分が自分にぶつかって来るのも覚悟してたしね。
「リク、力を籠め過ぎなの。地面を見るの」
「ん? ……あ」
横に来たユノが地面を指さしながら言う言葉に従い、下を見てみると、地面がパックリと裂けていた。
そこまで深そうには見えないし、足がはまり込むような幅でもないけど、俺が振り下ろした剣は、キマイラだけじゃなく地面も切り裂いてしまっていたようだ。
……魔力だけじゃなく、剣の切れ味のおかげで力の調整もしなきゃいけないかな……?
「お前達ばかり目立つんじゃない! キマイラは僕の獲物だ!」
「コルネリウス様!?」
地面まで切ってしまった事を反省していると、後ろから怒声が聞こえ、さっきまで震えてたコルネリウスさんがフィネさんの制止を振り切って、俺達がいる場所に来た。
……別に目立とうとしてるわけじゃないんだけどな……。
「お前達程度でキマイラを倒せるのなら、僕にだってできるはずだ!」
何を見てそんな自信がわいて来たのかはわからないけど、さっきまで震えていた様子はもうなく、今は勇ましく剣を構えている。
「コルネリウス様、危険です!」
「うるさい!」
フィネさんとカルステンさんが、コルネリウスさんに駆け寄って止めようとしているけど、聞く耳を持たないようだ。
勇ましいのは良い事かもしれないけどなぁ。
「GARYUAAA!」
「RYUUU!」
そんな事をしている間に、先に突撃したキマイラが2体やられた事に業を煮やしたのか、ボスキマイラが吠える。
その雄叫びを聞いて、残った3匹のキマイラが一斉に俺達へと向かって走り出した!
「コルネリウス様、下がって!」
「うるさい! 私がキマイラを倒すんだ!」
フィネさんが叫ぶけど、コルネリウスさんは聞く様子がない。
そうこうしている間にも、キマイラは俺達のすぐ近くまで来ていた。
「ユノ!」
「はいなの!」
ユノと二人、迫って来るキマイラに向かって踏み込み、それぞれ別のキマイラへ剣を振る。
しかし、俺もユノも、それなりに大きいキマイラを相手にするのは、一度に1匹が限界だ。
全てが俺かユノに集中してくれたら良かったんだけど、残りの1匹がコルネリウスさんに向かってしまう。
「……くっ……僕は恐れないぞ……ふん!」
「RYUAAA!」
コルネリウスさんは、勇気を振り絞って向かって来るキマイラに向けて剣を横に一閃。
しかし剣が悪いのか腕が悪いのか、その剣はあっさりキマイラの左腕に当たり、傷を付ける事もできていない。
「ひっ!」
「コル!」
「……火の魔力よ……」
剣が効かなかった事で、あっさり足を止めてしまたコルネリウスさんに、キマイラが右腕を薙ぎ払うように振るう。
危ないと思ったのも束の間、振るわれた腕にカルステンさんの火の魔法がぶち当たり、軽く焼きながら少しだけ勢いを緩め、さらにフィネさんが投撃したフランキスカが当たる。
すべての勢いを殺して、腕を止める事こそできなかったが、それらのおかげで振るわれた腕の軌道がずれて、コルネリウスさん頬を掠める程度に終わった。
「コルネリウス様!」
「フィネ!?」
「……闇の魔力よ……」
「RYU!?」
腕が掠めて、頬を叩かれたように少しだけ後ろに飛んだコルネリウスさんを、フィネさんがキャッチ。
そのまま後ろに連れて下がろうとするのを、カルステンさんが援護する。
闇と言っていたから、目を見えなくする魔法なのだろうか……キマイラが戸惑って頭を振りながら標的を探している。
……よく見ると、目の周りに黒い靄のような物が掛かってるから、視界を遮る魔法なのだろうと思う。
「……無事か?」
「ええ、助かりました!」
「……」
カルステンさんの所まで、コルネリウスさんを連れて下がったフィネさん。
二人の頑張りで、何とかあっちは危機を脱したようだ。
未だコルネリウスさんに向かったキマイラは、標的を探しているようだから、猶予はそこまで無いけど、少しだけの時間があれば大丈夫だ。
「ふっ!」
「はぁ、なの!」
コルネリウスさん達の様子を見ながら、俺に襲い掛かって来たキマイラに剣を真っ直ぐ突き立てる。
キマイラの額へ鍔近くまで深々と突き刺さり、そのままキマイラの勢いが止まる。
尻尾の蛇だけは最後までピクピク動いてたけど、それも直におさまる。
ユノの方も俺の真似か、呼気を出すような掛け声を出して目にもとまらぬ速さで剣を振る。
一瞬で最初のキマイラと同じようにバラバラにされたキマイラが、地面に落ちた。
「コルネリウスさん、フィネさん、大丈夫ですか!?」
「何とか、大丈夫です!」
突き刺した剣を抜いて、コルネリウスさん達の方へ駆け寄る。
ちょうど、キマイラからコルネリウスさんを連れて離脱したところだ。
「……痛い……痛いよ……」
キマイラの腕で、頬をはたかれたコルネリウスさんは、左耳から口にかけて傷を受けたようだ。
血が滴るその部分を手で押さえながら、痛みを訴えてる。
……結構無謀にキマイラへ挑んだにしては、その程度の傷で済んだ事を、フィネさん達に感謝するべきじゃないかと思う。
「ユノ、行くぞ!」
「わかったの!」
キマイラをバラバラにしてこちらへ駆け寄るユノに声を掛け、未だ標的を探してキョロキョロしているキマイラへ二人で走り寄る。
「はぁ!」
「せい、なの!」
俺の剣でキマイラの首元を切断。
ユノの剣で足と腕を切断。
間が見えなくなっていたキマイラは、声を上げることなく絶命して地面に崩れ落ちた。
「ふぅ」
「倒したのー」
暢気な声を上げるユノと一緒に、一息吐く俺。
ちらりと後ろを見ると、フィネさんが布を取り出し、コルネリウスさんの手当てをしているようだ。
「GURYAAAAAAA!!」
不甲斐なく手下を5匹全て倒されたボスキマイラが、怒りを露わにしえ大きく吠えた。
体が大きいからか、その声はお腹に響いて来る。
「あとはあいつだけか」
「私がやっつけるの」
「待ってくれユノ」
「どうしたの?」
見上げる程の巨体を見ていると、ユノが何気ない事のように呟いて向かおうとする。
それを止めて俺が前に出る。
「試したいというか、ちょっと練習台になって欲しいんだ」
「練習台なの?」
「あぁ。俺は魔力調節が上手くできて無い事があるだろ? 魔法を使って調節の練習をさせてもらおうと思ってな」
「……わかったの。リクは魔力調節をしっかり練習した方が良いの!」
残るはボスキマイラ1匹だから、俺に向かってさえくれれば他に被害が出るような事はない。
だからこれを利用して、魔法を練習する絶好の機会だと考えた。
巨体だから、生命力も高いだろうしね。
ユノは王城での戦いで、俺の使った風の魔法の余波で魔物達の中心に飛ばされたことを思い出したのか、練習する事に賛成してくれた。
……その節はすまん。
魔力調節の失敗は、リクも反省しているようです。
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