魔法鎧の運用法
「だから、ワイバーン達は軍属として。王軍に組み込んで考えて動いておいた方が、他の部隊も動きやすいし指揮もしやすいんじゃないかと」
竜騎隊を空軍と考えるとしたら、これまでの軍を陸軍として、連携できる方が戦略の幅も広がるだろう。
例えば、反撃される可能性の低い空から、何らかの攻撃を加えて敵を混乱させつつ、頃合いを見て陸から突撃で打ち崩す、とか素人の俺でも考えられるくらいだ。
やりようはあるはずだし、そうするための訓練をしているようだからね。
「そうですね……自己判断を求められる場合もありますし、曖昧にする利点はあります。が、やはり大きな軍と言うくくりで考えれば、はっきりとした指揮系統の中に組み込む方が、部隊としては運用したしやすいかと。承知いたしました」
「ガァウ」
隊長さんと共に、リーバーも理解したのか少しだけ不満げな様子はありつつも、納得したように頷いた。
リーバーとしては俺やモニカさんと別けて考えられるのが、嫌だったのかもしれない。
エルサがうるさそうだけど、そのうちリーバーの不満解消のために俺とモニカさんを乗せて飛んでもらおう。
そうして、いくつかの打ち合わせとリーバー以外のワイバーン達の様子も確認した。
ワイバーン達、相変わらずと言うべきか……一部のんびりしている性格のはいるけど、皮剥ぎというか鱗剥ぎを喜んでいるのはシュールだった。
あと、センテで魔物に向かって転がしたワイバーンボウリングを求めているのもいたけど、あれ楽しかったのか。
さすがにあれを騎竜隊の兵士さん達にはできないので、リーバーに乗せてもらうのも合わせて、またやるのもいいのかもしれない。
何はともあれ、ちゃんと兵士さん達に馴染んでいたのは良かったかな。
魔物としては、それでいいのか? と思わなくもないけど。
「む、リク殿ではないか」
「ん? あぁ、シュットラウルさん。お久しぶりです」
王城内に入ると、聞き覚えのある声に呼ばれてそちらを見れば、センテでお世話になった侯爵であるシュットラウルさんだった。
侯爵軍と王軍との演習での報告や確認、侯爵軍の様子見や姉さん――もとい女王陛下への謁見などをしていたらしい。
シュットラウルさんは一人だったけど、謁見には集まった他の貴族軍を率いている人達もいたらしい。
「センテの方は、もう大丈夫そうですか?」
「うむ。王軍の協力もあり、既に落ち着いている。街内に魔物を侵入させなかった事が大きかったのだが、既に平常と言っていいだろう。もちろん、リク殿達の協力のおかげだがな」
「それは良かったです」
負傷者とかは多かったけど、魔物が街に侵入していなかったのもあって建物が破壊されたりはしていなかったから、通常通りの生活に戻るのが早かったんだろう。
俺達だけでなく近くのヘルサル、それから冒険者ギルドや援軍である王軍の協力もあったからだろうけど。
まぁ、魔物がいなくなった後の問題の多くは、俺が作った事でもあるんだけど。
「街の外はまだまだ整備する必要はあるだろうが、大きく侯爵軍を動かす事は問題ない。援助もされていたしな」
王軍が運んできた物資や、その後の周辺地域との協力で、混乱というのはほぼないらしい。
これは、シュットラウルさんの手腕によるところも大きいんじゃないかと思う。
「おぉそうだ。先程フィリーナ殿とも話していたのだがな?」
「フィリーナとですか?」
「うむ。魔法鎧に関してだが……」
「あれですか。そういえばヴェンツェルさんが言っていましたが、演習でも活躍したそうで」
「リク殿は将軍殿とも親しいたのだったな。その魔法鎧なのだが、色々と運用法を決めかねていてな。いや、ある程度は決めているのだが、街の防衛ではないのだから、センテと同じ用法では運用できまい?」
「確かにそうですね」
魔法鎧は、その防御力の高さから対ヒュドラ―戦では最前線に立ち、足止めしていた。
あれは魔法鎧を身に着けたマックスさん達と、後方のエルサを含めた援護があったからではあるけど。
ただ同じような使い方を、戦争でやるのは難しいというのがシュットラウルさんの悩みらしい。
局所的には同じ運用で良くても、場所や状況によっては、あの巨体が邪魔になる事もあるからね。
「例の、エルサ様と協力していた遠距離攻撃、あれもやってみたいのだがな。ともあれ、魔法鎧自体の数もまだ少ない。あの戦いを得て多少の改良はさせたが、やはり作るための費用と日数が問題でな」
「まぁ、すぐに量産できる物でもないでしょうから……」
改良というのは、ワイバーンの皮などを使ってさらに防御力を増したり、軽量化などらしい。
ワイバーンの皮は、ヒュドラ―戦の時のような間に合わせで貼り付けるとかではなく、ちゃんと加工して組み込んだものだから、防御面はかなり強固になったと思われる。
ただ軽量化の方は、少しだけ軽くなった程度で、相変わらず重いため身に着ける人を選ぶようだ。
軽量化で真っ先に考えるのは、装甲を削るとかだろうけど、そうなると防御用の鎧なのに本末転倒になりかねないから、両立は中々難しい課題なんだろう。
「魔法鎧の方はちょっと俺にもいい考えが浮かびませんが、遠距離攻撃の方はフィリーナとも?」
「あぁ、話をしたぞ」
遠距離攻撃は、つい最近獣王国でもやったエルサによる魔法陣? を通した矢を放つあれだ。
最初はルジナウムでだったけど、ちゃんと考えて運用したのはセンテでの事だし、あれをシュットラウルさんがやりたいと思うのは当然か。
ミスリルの矢ではなく、通常の矢でもとんでもない威力だったし。
「ただあれは特に魔力消費が多いらしくてな。エルサ様以外がやろうとすると、大量の魔力を使ってしまうため、実用的じゃないとの事らしい。それも多少の劣化も見られるとか。やれなくはないが、無理をしないとといったところか」
「そうですか……」
フィリーナがというか、主に研究はアルネとカイツさんだろうけど、あれに関してある程度考えていたのは知っている。
獣王国では使ったけど、あれはエルサがいる場所で限定的に使える戦法として考えていたから、シュットラウルさんの話にも納得できるんだけど……ただ使えなくもないのか。
ちなみに、獣王国での試験的な遠距離攻撃の一番の目的は、ミスリルの矢を運用する事なので、エルサの魔法陣による効果とは別だ。
矢としてはかなり重いので取り扱いが難しく、咄嗟に発射するのには向かないけど、落ち着いて射る事ができれば、魔法陣がなくともとんでもない威力を発揮するのがミスリルの矢だ。
俺が作った時、試しに投げるだけでも効果を示したように、それなりの厚さの壁くらいは貫通する。
……攻城戦兵器代わりに使えるかも? それがあるかはわからないけど。
「あ、そうだ。大量の魔力が必要なら、クォンツァイタを使えばいいんじゃないですか? あれは、魔法に使う魔力を補助できますし」
「それも考えたのだが、戦争で使われるクォンツァイタは、主に魔法を使う者達のための物だそうだ。余るほどの数が用意できるのなら別だろうが、準備の期間が足りないとな」
「確かに……」
クォンツァイタは魔力のタンクとして使えるけど、そのためには魔力を補充しないといけないし、 クォンツァイタ自体も有用と認められて用いられ始めたばかりなので、その物の量もまだ十分と言えない。
それに、魔力を蓄えるためにも、誰かが魔力を注ぐ必要がある。
俺を含め、多くの人が協力しているけど、それでも足りない。
魔力を消費しすぎると健康被害があるため、無理はできない事でもあるし……。
「んー、クォンツァイタって魔法鎧にも使われていますよね?」
「うむ。フィリーナ殿達の改良のおかげでな。それもあって実用化したわけだが」
「じゃあ、そこから魔力を使って遠距離攻撃の強化をするのはどうですか?」
「ふむ……?」
俺の言葉を受けて、顎に手をやり考え込むシュットラウルさん。
頭の中では色々な想定が巡っているんだろう。
魔法鎧はその重さもあって、鈍重だからそこが一番運用法で問題になる。
馬に乗って突撃する兵士さん達についていく事はできないからな……マックスさん達ですら、そこまではできなかったはず。
それなら、ドッシリ構えて魔法陣を展開して遠距離攻撃の補助をするのが適任かなと考えた。
矢を通す関係上、前に出ておく必要があるし、弓隊に向かう攻撃を前で防ぐ事もできるかもしれないし。
「数歩前に出る必要がある分、攻撃を引き受ける事もできますし。そうすれば、掻い潜ってくる相手の攻撃を防ぎつつ、強力な遠距離攻撃ができるんじゃないかと。付け焼刃と言いますか、思い付きですけど」
「いや、中々悪くなさそうだ。機を見て、先頭で突撃させれば足並みがそろわない問題も解決しそうだ。元々、単独とは言わないまでも魔法鎧を身に着けた者が、遊撃として突撃し、深く切り込む単純な用法しか思いつかなかったのだが。リク殿の考えが使えるなら、幅も広がるというものだ」
「壁兼補助役を考えていましたけど、突撃もですか。さらに、身に着ける人を選びそうですけど……ただでさえ重いのに」
魔法を、それも急遽フィリーナ達が用意したのを使えるようになった人で、さらに重い鎧を身に着けてもある程度動ける身体能力を持つ人しかできないだろう。
頭に浮かぶのは、マックスさんやヘルサルの元ギルドマスターだけど、あの二人は魔法が使えないのでこの役目はできない。
そもそも、軍隊として戦争に参加していないからやれても無理な案か。
そういった人選はシュットラウルさんがやるだろうし、俺が考える事じゃないよね……センテの時みたいに、自分で身に着けて前線に行こうとしないかと少し心配ではあるけど。
「まぁともかく、魔法鎧にはクォンツァイタが組み込まれているので、その魔力を使えば消費量もカバーできると思います」
魔法鎧を身に着けて動くためなどの魔力消費を補うために、センテでフィリーナがクォンツァイタを使えるようにしたはずだ。
他の魔法にその魔力を使えるかはわからないけど、フィリーナならやってくれそう……というより、アルネやカイツさんが喜んでやりそうだしね。
「クォンツァイタに魔力を蓄積させる必要はあるが、魔法鎧のためだけでは消費しきれなかったからな。消費すればいいと言うわけではないが、余裕はあるはずだ。リク殿の言う通り、別の事で使うのも悪くないな」
魔法鎧のクォンツァイタは、シュットラウルさんの方で補充しているし、数が多くないなら魔力が不足する事もないだろう。
「ありがとう、リク殿。有益な話を聞かせてもらった。早速だが、フィリーナ殿にもう一度話をしてくる」
「はい。あ、でもあくまで俺の考えでの提案で、絶対できると限ったわけではないですからね?」
「無理をさせないかの心配だろうが、わかっている。できなければそれはそれで別の手段を考えるさ。柔軟に運用法を考えるという事を学ばせてもらった。では――」
そう言って、足早に去っていくシュットラウルさん。
今話した事で、毎日研究に忙しいアルネ達エルフに無理をさせないか、と俺が心配していると思ったんだろうけど、ちょっと違うんだよね。
まぁ大きく違わないけど、アルネ達がさらにのめり込んで寝食を忘れないか、という心配の方だから。
……そのあたりは、フィリーナや城の人達が見てくれるだろうから大丈夫かな? フィリーナの心労負担も大きくなるかもしれないけど。
「ふぅ……」
「お疲れ様です、リク様」
「うん、ありがとうございます」
いったん部屋に戻り、ヒルダさんが用意してくれたお茶を飲んで一息つく。
シュットラウルさんと話した後も、宰相さんやヴェンツェルさん、それに部隊を率いる隊長格の人が数人程、俺に相談を持ち掛けて来ていた。
果てには、パレードなどで顔見知りになった貴族さんから、貴族軍が演習でヴェンツェルさん率いる国軍に成す術がなかった事なども相談された。
部屋に戻るだけだったのに、結構時間がかかっちゃったね。
一部、顔は覚えているけど名前が思い出せなくて、改めて自己紹介をしてもらったりして、そのせいで少し時間を取られたのもあるけど……思い出せなくてすみません。
名前を思い出せない俺に対して、無礼だと憤るような貴族さんがいなくて良かったと思う。
まぁそういう人は、貴族ですらない冒険者の俺にわざわざ相談しに来ないか、付いている護衛さんとかもほぼいなかったくらいだし。
「どうして皆、俺に軍のあれこれを聞きに来るんだろう……? 別に軍属じゃないし、戦争にくわしいわけではないのになぁ」
相談内容はいざという時の部隊の運用法や、兵士さんの配置から実際に敵とぶつかった時の想定など多岐にわたる。
果てには、陣形についてなども聞かれたけど、さすがにそこまではわからなかったのでお茶を濁すような返答しかできなかったよ。
なんとなーく、部隊陣形で攻撃的だったり防御的だったりする、というのは知っているけどそれがどういう隊列をして、どういった想定で使うのかなんてさすがに知らないからね。
誰かに相談したり、軍の外部に漏らしてはいけないような話もあった気がするけど、それだけ俺が信頼されているんだろうとは思うけど。
「皆、リク様の事を頼りにしておられるのでしょう。陛下が、リク様を頼りにしているのと同じかと。といいますか、陛下がリク様を頼れとも言っているようですし」
「姉さん……むしろ俺より、姉さんの方がそういった事には詳しいはずなのに。頼られるのは嬉しいんですけどね。答えが返せない事もありますし」
俺の独り言に答えてくれるヒルダさんだけど、姉さんが原因の一つだったか。
頼られる事は嫌いじゃないし、俺にできるならできる限りの答えを返したいけど、それができない事もあるから少し申し訳なく思う。
せっかく、相談してきてくれたのに落胆した様子で帰られるのはね……。
「相談した方の期待に応えられれば、それが一番なのでしょうが、人間ですから全ての事に答えられるわけではありませんから、仕方ありません。それでも、私が見る限り、城内での話を聞く限りでも、リク様は他の誰よりも答えを返せていると思います」
リク様が人間ならば、ですが――と言外に言っているような雰囲気を感じるけど、多分俺の考えすぎだね。
俺自身、自分が本当に人間なのか怪しく感じる事も多いし、深く考えないようにはしているけど、どこかで気にしてそう受け取ってしまっているんだろう。
「その答えが、正しければいいんですけどね」
「全ての事に答えられない以上に、正しい答えというのは難しいのではないかと。リク様は責任感がお強いために気にしておられるのでしょう」
「そうかもしれませんね……」
俺の考えで、軍隊の動きなどもある程度決まってしまうような話が多かった。
結果的に、それが意味をなさないだけならまだしも、大きな被害に繋がる可能性だってあるだろう。
責任重大だから下手な答えは返せないし、俺のせいで誰かが――となるのは嫌だ。
さすがに深刻すぎる相談はまだないから、気にしすぎなのかもしれないけど、気軽に答えるわけにもいかないし、難しい――。
親身になって相談に乗ってくれるため、リクに相談に来るという側面もあるのかもしれません。
別作品も連載投稿しております。
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