大食いも力の一つ
「ではリク様、我々獣王国は総力を挙げ、アテトリア王国に協力する事をお約束いたします」
「はい、お願いします」
あれから、別れを惜しみつつも魔力の取り合いにならないよう、必ず近いうちにまた呼び出すことを約束してフレイちゃんには戻ってもらった。
その後、改めてハルさんやレオルさん達が戦争での協力を約束。
獣王国王都の門が壊されたり、避難している獣人さん達を呼び戻したりと、復興が大変だろうから総力を挙げてというのは無理しすぎないで欲しいとも思うけど、心強い。
直接的な戦力だけでなく、後方からの支援が受けられるというのは、戦争をするうえで重要だしね。
「僕も協力したいんだけど、直接的にはちょっと難しいかな。力には限りがある、と言えばリク君にはわかるだろうけど」
「……そうですね」
ネメアレーヴェさんが言っているのは、干渉力の問題だろう。
こうして姿を現して話しているだけでも、少量ながら干渉力を使うらしいし、俺とフレイちゃンとの繋がりを作ったのもそうだ。
それに、獣神として時折姿を見せたり干渉したりしているようだから、戦争に対して直に関わる程の干渉力は使えないと思われる。
まぁ干渉力を使い果たして、よくわからないけど俺の魔力がどうのこうので、ユノやロジーナみたいに人間に……ネメアレーヴェさんは獣人にかな? ともかく、神様ではなくなるのは避けたい。
こうして、神様側として色々話してくれるだけでも大助かりだからね。
「リクさん!」
「モニカさん……えっと、これは……?」
戦争協力の確約をもらって、ネメアレーヴェさんも姿を消した……とはいえ、話をするくらいの干渉力を使うのは問題ないらしく、何かあればハルさん達との相談くらいはできると言い残していたけど。
そうして、獣神様と話ができた事や、獣王国に伝わる伝説を目の当たりにした事などを話つつ、大広間へと戻る。
途中、アマリーラさんが主導、というより扇動と言える気もするけど、とにかく俺を称賛するばかりになってかなり困ったけど。
ともかく、戻って来た大広間で俺を見つけて駆け寄ってくるモニカさんに声を駆けつつ、惨状に戸惑った。
「ぐぅ……これ以上はもう……」
「腹が……破裂してしまいそうだ……」
「うっぷ……!」
死屍累々という言葉が正しいのか、ほとんどの獣人さん達が仰向けで床に転がっていた。
それぞれが何か呻くように言葉を漏らしているけど、一つ共通しているのは、転がっている全員のお腹がぽっこりと膨らんでいる事だろう。
あと、女性の獣人さんが口元を押さえて込み上げて来る何かを堪えているようだけど、こんなところで我慢しきれなかったら大惨事だ……女性としてのあれこれも悲劇になりかねない。
ちなみに、転がらず無事でいる獣人さんのほとんどは、給仕を担当している男女の使用人さんらしき人達だね。
他にも無事な獣人さんはいるにはいるけど、そちらは何故かある場所に向かって平伏していた。
「……リクさんがユノちゃん達と消えた後、すぐにユノちゃんが戻ってきて簡単に事情を教えてもらったのだけど」
何も言わず、ネメアレーヴェさんに連れられて消えたから、モニカさんには心配をかけてしまっていたかもしれない。
それを考えると、ユノやロジーナがさっさとここに戻って話をしてくれたのは良かったのだろうと思う……ネメアレーヴェさんは少しかわいそうだったけど。
「そのあと、ものすごい勢いで料理を食べ始めて……いつの間にかどれだけ食べられるかの競争になっちゃったのよ」
「競争?」
大食い対決とか、そんな事になったのかな?
「えぇ。結果は……見ての通りよ」
「あぁ、うん。成る程……」
モニカさんが視線で示す先、平伏している獣人さん達の先でもあるそこでは、ユノとロジーナ、それから少し体を大きくしたエルサが、争うようにして料理を食べ続けていた。
勢い未だ衰えず、むしろ空腹状態が極まった状態で食べ始めたばかりかと錯覚する程の勢い。
ネメアレーヴェさんと話したり、フレイちゃんと再会している間もずっと食べ続けていたのかな? あの勢いで食べ続けていたとなると、どれだけの量が消費されたのか……。
元々ユノとロジーナにエルサは大食いだけど……そのうち、胃袋は宇宙だとか言い出さないか不安だな、食費的な意味でも。
「ふぅむ、ユノ様方は確かに見た目に騙されてはならぬようですな。一部の者達があぁなるのも、仕方ありません」
「ハルさん……」
俺と共に戻って来たハルさんが、感心したようにユノ達の様子を見て呟く。
レオルさんを始めとした会議室にいた他の皆も、一様に頷いている。
……アマリーラさんだけ、何故か誇らしげだったけどこれはもういつも通りにすら思えるから、気にしない方がいいかもしれない。
「ここにいる獣人さん達があんな事になっていますけど、いいんですか?」
俺もそうだけど、経緯を見守っていても戸惑っている様子のモニカさんの疑問。
モニカさんは巻き込まれないようにというか、俺と一緒に獣王国に来たヴァルドさん達人間は無事だけど、平伏する獣人さん達に戸惑っているようだ……さもありなん。
あ、無事だと思ったけど、フラッドさんとロルフさん、トレジウスさんといった男性冒険者と、一部のアテトリア王国兵士さんが、獣人さん達に混じって床に転がっていた。
参加していたらしい。
無事な人達は、そんなフラッドさん達をあきれ交じりで見ているから、必ずしも戸惑っているわけではなさそうだけど……それはともかく。
「集まった獣人さん達って、戦える人達ですよね? 一部例外はいるんでしょうけど……そんな人達が、ユノ達に平伏するっていいんでしょうか?」
戦える獣人さん達だから、戦いを目の当たりにしてとかならわかる。
というより、そんな獣人さん達は戦う力を重要視していると思うんだけど……大食いでユノ達に向かって平伏するというのはね。
「リク様も知っての通り、獣人は力を重んじます。もちろん、力弱き者に対して扱いを悪くするわけではありませんが……ともかく、その力というのはあらゆる事に対してです」
「それは……ただ多くを食べる事でも、ですか?」
「無論です。食事はすなわち体を成す力となります。力の源と言ってもいいでしょう。それを大量に、多くを取り込む事ができるのはそれだけで力とも言えます。もっとも、ユノ様やロジーナ様の素性がわかった今となれば、私含めて平伏するのは問題ありません」
つまり、大食いでもそれができるなら、食物を取り込む大きな力がある、とハルさんは言いたいのだろう。
ユノ達に向かってというのは、ネメアレーヴェさんより格上の神様であるから、という事情を知っていれば問題は確かにないんだろうけど。
ここにいる獣人さん達、少なくとも今平伏している人達や床に転がっている人達は、ユノ達がそうだとは知らないはずなのに。
ネメアレーヴェさんが恭しくユノ達に接していたのを見ていた獣人さんもいるだろうけど……まぁ、ハルさんがいいというのならいいのかも?
「……ちょっと、極論な気もするけど……獅子亭を見ていれば、わからなくもないわ、リクさん。お客さんの多くは、力が漲っていた人たちも多いでしょ?」
「それは確かに……」
微妙に納得しきれていないのがモニカさんに伝わったのか、フォローするように言われる。
獅子亭に来る人達の多くは、マックスさんが大盛系の料理を出す事もあってか、冒険者も含めて沢山食べる人達が多かった。
もちろん、小食な人もいたしメニューの全てが大盛系ってわけじゃないけど。
要は、よく食べる人は元気があるって事なんだろう。
「あ、リクなの! 話は済んだの?」
「うん、まぁ。思わぬ再会とかもできたし、話をして良かったよ」
話している俺達に気付いたのか、ユノが手を振りながら俺を呼ぶ。
その手には、ユノ自身の顔よりも大きい骨付き肉が握られていたけど、あまり気にしないようにしつつ近づいて答える。
「はぁ……はぁ……」
ユノ達に近づいて気付いたけど、仰向けで荒い息を吐くレッタさんを発見。
獣人さん達と同じくお腹がポッコリしている気がするけど、こちらは苦しそうというよりも、恍惚とした表情と息遣いだった。
……確実にロジーナ関係だと思われるので、いつものレッタさんという事で触れない方が良さそうだ。
「リクも食べるの! 無限に料理が出て来るの!」
「いや、さすがに無限には出てこないと思うけど……まぁいいか。話ばかりであまり食べていなかったし、俺もお腹を満たす事にするよ」
さすがに食料には限界があるだろうし、俺達というか主にユノ達が全てを食べ尽くすわけにはいかないけど、大丈夫かな? と思いつつ、中途半端に終わっていた食事を再開させた。
微妙にひきつった笑みを浮かべる使用人さん、それからレオルさん達を見ながら……。
あ、よく見てみれば床に転がっている獣人さん達の中に、レカインさんなど、ネメアレーヴェさんと一緒に移動しなかった王子様や王女様方がいた。
勝負を挑んでしまったんだ――。
「うーん、さすがに食べ過ぎたかしら? ちょっと、ユノちゃん達に釣られてしまったわ」
「そうだね。さすがに食べ過ぎて朝は入らなかったし……」
「リクもモニカも、小食なのだわ」
「なのー」
「軟弱ね。レッタは違ったのに」
「う……うぷ……も、もちろんです、ロジーナ様。ロジーナ様と食事をご一緒できる機会、逃す手はありませ……う……!」
宴会……もとい祝勝会から一夜明けて、泊まった獣王国王城の一室で、食べ過ぎを気にするモニカさん。
俺もそうだけど、あれからもしばらくものすごい勢いで食べ続けるユノ達に釣られるように、いつも以上に食べてしまい、朝食は食べられなかった……まだお腹が重い気がするくらいだ。
昨日、お城の食料を食べ尽くす勢いだったユノとロジーナ、エルサはそれでもたらふく朝食を頂いていたが。
レッタさんは、体の限界を越えそうでかなり苦しそうだけど、嬉しそうでもあるから相変わらずだ……ただ、もしも込み上げてくる何かが抑えられない時は別室で色々とお願いしたい。
「さて、えーっとこの後は……」
「もうしばらくしたら、見送りの準備が整うらしいわね。それまでは特に何もないわ」
「だったね」
食べ過ぎ云々の事はともかくとして、今日の予定を簡単に確認。
アテトリア王国に向けて出発するのはもちろんなんだけど、ハルさん達がどうしても見送りたいとの事だったので、その準備を待つ間は少し余裕ができているってわけだ。
それなら獣王国王都の観光でもしてみたいな、とは思ったけどさすがにそこまでの時間はなさそうだ。
アテトリア王国の方も気になるし、予定を伸ばすわけにもいかないから、残念だけど今回は観光を断念。
まぁ獣王国としては、魔物が押し寄せた後の復興もあるし、もっとちゃんとした時に観光して欲しいだろうからね。
「是非とも、リク様には獣王国をよく見て欲しかったのですが……仕方ありません。あぁ! リク様の素晴らしさを全国民に知らしめるチャンスだったのに!」
とは、王都を見て回る余裕まではないと話した時のアマリーラさん。
全国民にって、なんか大事になりそうだから勘弁してほしい。
あと、俺は王都をという事で話したんだけど、なんとなくアマリーラさんは獣王国内全体をと言っているような気がした。
「特にやる事はないけど……ユノ、ロジーナ」
「ん、どうしたのリク?」
「……何よ?」
やる事がなくて、エルサと一緒に朝食後の満足感でうとうとしていたユノとロジーナに呼びかける。
ロジーナは、微睡む気持ちのいい瞬間だったのか、声をかけられて嫌そうにこちらを見たけど、食っちゃ寝をしていると太るよ?
「昨日はマギシュヴァンピーレの事や、ネメアレーヴェさんとかハルさん達との話もあったから聞けなかったけど。そろそろ教えてもらいたいんだ」
「……何か、不遜な事を考えていた気がするけど、まぁいいわ」
胡乱な目でこちらを見るロジーナには、太るなんて事を考えていたのを察知されかけたようだけど、それはともかく。
「何を教えるの?」
「結界の事だよ。獣王国への移動中まで練習していたし、ユノ達が何かやっていたのはなんだったのかってね」
ずっと俺に練習を強要、とまでは言わないけど……割と強めに練習するようにとよく言っていたユノとロジーナ。
そりゃ、結界は役に立つけど今の状態だと、成功したと言っても戦闘中咄嗟にできるものじゃない。
前もっての備えで作っておく、なんて事もできなくはないけど、本来の魔法としての結界とは違って失敗とも言えるものだから、結界をずっと持続させる事もできない。
失敗させる段階で、俺からの魔力の流れを切るためで、繋がりがないわけじゃないから俺の意志で結界を解く事はできても、持続するための魔力を追加する事ができないんだ。
だから、最初に込めた魔力分の持続しかしないし、長く持続させるために魔力を多く籠めるのも現状では魂の影響でできない。
籠めすぎると、痛みとかが激しすぎてとても結界として成り立たせられないからね。
「落ち着いたら話すって言っていたからね。及第点とは言われたけど、一応成功もしたし」
急いでいるわけでもないし、特にやる事がない今が一番ユノ達に話を聞くチャンスだ。
「わかったの。んーと、あれは簡単に言うと結界の内外を隔絶するものなの」
「内外を……うーん、それは複数の結界を重ねたものみたいに? ほら、センテでやったような」
元々、強固な結界は空気穴なんかを作らなければ、隔絶するためのものと言えるけど……ユノのニュアンスとしてはまた別な気がする。
そこで、センテを覆った結界の事を思い出した。
あれは赤い光とかすらも通さなくて、センテの人達は皆無事だったし、そもそも時間の流れも変わっていたと聞いたし、確かに隔絶という言葉があっている気もするからね。
「近いけど少し違うわ。あれは、無理矢理空間を切り取って隔絶させたようなもの、と考えればいいわ」
「ユノ達がやったのは、無理矢理じゃないって事?」
「言葉で説明するのは難しいし、リクだけじゃなく人に理解できる領域じゃないわ。まぁ、リクみたいな馬鹿魔力で強引にやるのではなくて、世界や理に働きかけて隔絶させた、ってところね」
「仕組みなんかは、気にしない方がいいの」
「そ、そうなんだ……」
俺を馬鹿にしているわけではないようだ――馬鹿魔力、というのは元々言われていた事なので気にしないけど――ともかく、センテで俺がやった時と同じような状況と、結界の性質をユノ達がそうしたって事らしい。
詳しく聞いてもわからなさそうだ、というのは高次元魔力とかの話でも経験済みなので、掘り下げないでおこう。
「でも、ユノ達がやったのは、センテのと同じような感覚はなかったけど」
「あれはお試しだったの。それに、リク以外にもモニカや私達も入っていたから、隔絶した効果はほとんどなかったの」
「ほとんど、って事は少しくらいはあったのかな?」
「本当に微々たるものよ。リクが前にやったのは強引だったのもあって不安定。ただそれでも流れが外と内で違っていた。けど私達がやったのはそれの逆」
「逆?」
「外と内の流れが違う、というのは同じなの。けど、私達がやるのは――」
結界に特殊な性質を持たせて内部状況を変えよう、という事のようです。
別作品も連載投稿しております。
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