ネメアレーヴェと獣王国の関係
「そういったのは、全部リクに任せるの! ネメアは気にしているようだけど、リクが話していいと判断したら、私達は気にしないの」
「私達がこうなったのも、ほとんどリクのせいだから、責任取ってもらわないとね」
「俺に丸投げ!? というかロジーナ、結構人聞きが悪い事言っているんだけど!」
「本当の事よ」
などと言いつつ、手を伸ばすネメアレーヴェさんをそのままに、扉から出ていくユノ達。
確かに、原因は俺らしいけど……やろうと思ったやったわけじゃないのに……はぁ。
それにしてもネメアレーヴェさん、せっかくユノ達と会えたのに食べ物の方を優先されるとは……ちょっと不憫だ。
なんというか、苦労人ぽい印象を受けるなぁ、人じゃない可能性が大だけども。
「うぅ……お二方ともいなくなってしまった……」
「……」
「えーっと……」
肩を落とすネメアレーヴェさんに、どうしたらいいのかとオロオロしているハルさん。
少し部屋の様子を窺ってみると、先程のジェットコースターのような移動の経験があるからか、ハルさんは少し顔色が悪いくらいだ。
アマリエーレさん達は一応、立ち上がれるくらいにはなっているけど、まだ気持ち悪そうだ。
説明もされず心構えもない状態での移動だったからね、仕方ないと言えば仕方ないのかも。
とりあえず、俺がなんとかしないといけない、かな? これは。
「ハ、ハルさん。他の皆も、とりあえず座って一息つきましょう。大きく深呼吸すれば少しは落ち着くかと」
「あ、あぁ、そうですな……」
「せっかく、格好良く登場したのに、興味を持たれないのは悲しい……」
何やらまだ落ち込んでブツブツ言っているネメアレーヴェさんはともかくとして、ハルさん達に声をかけて椅子に座る事にした。
その際、ハルにお願いして全員分の飲み物も用意してもらう。
置かれていたベルをハルさん揺らし、チリーンと澄んだ音を響かせてすぐ、メイドさんが数人部屋に入ってきて頼んでいたわけだけど。
全員分の飲み物……もちろん酒ではなく、果実を絞った物やお茶やお水など、それぞれの好みに合わせて用意されている。
俺は先程の祝勝会で飲んだ果実のジュースで、ネメアレーヴェさんは落ち込みつつも俺と同じ物を頼んでいた。
自然の恵みを、というちょっと変わった言い方だったけども。
「ふぅ……」
「失礼しました、リク様。少し落ち着く事ができました」
「いえいえ、用意してくれたのは、このお城のメイドさん達ですから」
それぞれが座って飲み物を飲み、落ち着く事でなんとか話ができる状態になったようだ。
ハルさんが畏まっているネメアレーヴェさんよりも、俺に気を遣って謝るアマリーラさんには、首を振って笑いかけておく。
さっきの移動がさらに長時間続いていたら、もっと目も当てられない状態になっていたかもしれないけど、なんとかなったようだ。
まぁ、もどす程ではなかったからね。
ちなみに使用人さん達は、飲み物を用意した後は速やかに退室していった。
「ハルさん、この部屋は?」
コクコクとジュースを飲んで、持ち直しかけているネメアレーヴェさんを待つ間、とりあえずこの部屋の事をハルさんに聞く。
「重要な話をするために用意している部屋になります。ただ、軍議などはまた別の会議室がありますので、ほとんど使われておりません」
「ふぅ。僕が昔の獣王に用意させたんだけどね。ほとんどが、次代の獣王を決める場。そして面会の場と……あとは、外に漏らせない話をするような場として使っているね」
「な、成る程」
息を吐いたネメアレーヴェさんも話に加わり、部屋の用途を教えてくれる。
なんとか気持ちを切り替えたようだ。
部屋には円卓を囲むように椅子が用意されているため、ハルさんが言ったような軍議というか、会議などで頻繁に使われているのかと思っていたけど、そうではないみたいだ。
見れば、アマリーラさんだけでなくレオルさんやアールラさん、それにリネルトさんが少し回復してから部屋を見回している。
その様子から、初めて入ったのだろうと思われた。
それにしても、次代の獣王とか外に漏らせない話というのはまぁ、重要な事だからわかるけど、面会の場ってなんだろう?
「次代の――というのはいいんですけど、面会の場というのは? なんだか、この部屋に合っていないような気がするんですけど」
面会するのに円卓というのは、と疑問に思った事を口にする。
「あぁそれはね、僕と次代の獣王が面会するって事だね」
「正しくは、ネメアレーヴェ様とお会いするために作られた部屋なのです。ネメアレーヴェ様とは、獣王が生涯二度、お会いする事ができます。はっ! という事は私は用済みという事に……!?」
「回数は厳密には決まっていないんだよ、レオンハル。伝統というわけでもなく、長い間でだんだんとそうなっていったってだけなんだ。二度目だからって気にする必要はないよ」
「そ、そうだったのですか。はぁ、安心しました。いえ、獣王の座は重責も多く、しがみつく気はないのですが、まだ次代を決めかねていましたので」
えーっと、話を総合するとここはネメアレーヴェさんと獣王様が会うための場所って事だよね?
生涯に二度会えるっていうのは……。
と、疑問に思っていたのが顔に出ていたんだろう。
少しアマリーラさん達などを気にする素振りをハルさんが見せたけど、ネメアレーヴェさんが別に気にする必要はなく、秘匿するようになったのは歴代の獣王が代を重ねるごとに、少しずつそうなっていっただけだから、との事だった。
まぁ何はともあれ、二度会えるというのは獣王になった者が即位した時に挨拶をするという意味で会うのと、次代の獣王を決める際の二度、という事らしい。
獣王国や獣人への重大事がなければ、その二度で終わるため台を重ねるごとに生涯二度のみ、という事になっていったのかもね。
アマリーラさん達の様子をハルさんが気にしていたのは、獣王にのみ語り継がれる事だから聞かせていいのか、と考えたんだろう。
まぁそもそも完全に部外者というか、獣人ですらない俺に聞かせる方が大丈夫なのかな? と思いたくなるけど、肝心のネメアレーヴェさんが特に秘密にする事じゃないと気にしていなかったからいいのか。
ユノやロジーナ達の正体を話す事は気にしていたのに、自分の事はあまり気にしていないのかも。
「それで、ネメアレーヴェ様の事ですが……」
「大体予想はついているだろうけど、その考えの通り、僕は獣人の神、獣神というものだよ」
「じゅ、獣神様であらせられますか!?」
正体を明かすネメアレーヴェさんは、予想通り獣神様だったか。
予想していた俺は落ち着いて受け止められたけど、その俺や知っていたハルさんを除く全員が驚いていた。
レオルさんやアールラさんなどは、椅子から転げ落ちるようにしながら、床に伏したくらいだ。
アマリーラさんとリネルトさんは、驚きながらもそこまではしていない……ユノやロジーナの事を知っているのが大きいのだろう。
「ネメアレーヴェ様は、獣人を創られた方。レオル達は知っておるだろうが、獣王国に危機が訪れた際には自然を従えて危機を払ってくれた事もある」
「れ、歴史に記されておりますが、まさか本当にそのネメアレーヴェ様が……いえ、獣神様がご降臨なさるとは……」
ハルさんの言葉に、信じられないといった様子のレオルさん。
いや、本当に信じられないというわけではなく、その歴史や獣神様が目の前にいるという現実が、まだ受け止め切れていないというだけなのかもしれないけど。
そういえば、以前アマリーラさんが言っていたっけ、獣神様がスピリット達と獣王国の危機を救ったとかって。
自然を従えてというのは、スピリット達の事だろうか……火・土・水・風と、四代元素の魔力の塊みたいだから、確かに自然と言って差支えがないのかもしれない。
「ですがネメアレーヴェ様、あのような場に姿を現さなくとも……」
「獣人がほとんどとはいえ、姿を現すならこの部屋でって言いたいんだろうけど、僕も僕でユノ様とロジーナ様に会いたかったからね。別に僕自身、誰にも見られたくないわけじゃないし、獣王国としてはともかく、獣神としてはそのあたりを気にする必要はないからね」
エルフのアルセイス様もそうだったけど、創られた側が勝手に敬ってルールなどが決まっていってしまうんだろう。
直接会う事がほとんどなかったり、神様側には干渉力というのもあるらしく、積極的にあれこれやるわけでもないので、人側がそうした方がいいと考えてそうするだけ、とかなのかもね。
ただ、獣王になる獣人とはあっている分、アルセイス様より距離は近いんだなぁ。
「おっとリク君、そういえばリク君はアルセイスと会った事があるんだったね。アルセイスから話は聞いているし、獣王国に入ってからは見させてもらっているよ。それで、僕がアルセイスと違うのは――」
神様の中でも、交流とかはあるらしい。
まぁユノ達とも親しそうに話していたから、そうなのはわかる。
それで、ネメアレーヴェさん……様が言うには、アルセイス様はエルフを創り世界の各地に散らばらせたけど、ネメアレーヴェさんは獣人を創って国としてひとまとめにした。
獣王国の政策として、獣人を各国に行かせているというのはあるけど、それは別の話だろう。
ともかく、世界各地に散らばったエルフをアルセイス様は見守っているけど、範囲が広すぎてほとんど見るだけなのに対し、一つの国としてまとまっている獣人を見守るネメアレーヴェ様は、ある程度干渉する事があるってわけみたいだ。
これにもおそらく、干渉力が関わっているのだと思われる……というか、はっきりとは言わなくともそうネメアレーヴェ様自信が匂わせていた。
そうしたのは、俺だけでなくハルさんやレオルさん達がいたからだろう。
「ネメアレーヴェ様は――」
「僕の事は、様で呼ばなくても平気だよ。気持ちは嬉しいんだけどね。特にリク君は、ユノ様やロジーナ様の事もあるから」
「は、はぁ……それじゃあ、ネメアレーヴェさんで」
お言葉に甘えて、敬称は話しやすいさん付けにする。
ハルさん達は畏れ多いと、様付けのままだったけど……まぁ、俺と獣人のハルさん達じゃ、ネメアレーヴェさんに対する気持ちなどが違うか。
「改めて、ネメアレーヴェさんはどうして急に? 本来はこの部屋でって事でしたけど、さっきは大勢の前に突然出てきましたし」
俺の質問に、コクコクと頷いているレオルさん達。
獣神様という正体を知ってからというもの、ずっと床で頭を垂れているけど、話をするには椅子に座ってもらった方がやりやすいんだけどなぁ。
と思っていたら、ネメアレーヴェさんが座ってと促した。
少し躊躇していたけど、ようやく全員が椅子に座って落ち着いた感じかな。
「……これで話ができる態勢が整ったかな。まぁ僕は敬われすぎても面倒なだけに感じるからね。それよりは、面白い話をしていた方がいい。それにしても、リク君に丁寧な話し方をされるとなんだかむず痒いきがするけど、それは追々でいいかな。それで……どうして僕が突然広間に姿を現した事だったね。えっと、話自体はずっと聞いていたんだよ。リク君とレオンハルのね。それで――」
ネメアレーヴェさんは、姿を見せずとも獣神だからというのもあるのか、ぼかしてはいたけどさほど干渉力を使わなくともお城の中や王都内では見聞きができるらしい。
それで、俺とハルさん達……帝国に関する話を聞いていたという事だ。
いつでも見聞きされている、と考えるとなんとなく見張られている気がするけど、基本的にはほとんど見たり聞いたりしないとの事だった。
今回は、マギシュヴァンピーレが現れたのが原因。
マギシュヴァンピーレの存在を知ったネメアレーヴェさんは、獣王国のために干渉力を使ってでも対応しなければいけないかも? と思って近づいていたとか。
ただそれを俺が対処した事で、必要はなくなったんだけどあんな存在を許してはいけないと、話の流れを見守っていたらしい。
もしハルさんがアテトリア王国に協力できない、または帝国に何らかの行動を起こさない、という流れの話になったら止めようとしていたとか。
「望んでいた方向に話が進んだってのもあったけど、ユノ様やロジーナ様、マギシュヴァンピーレを倒してくれたリク君がいるからね。話をしたいのもあったし、獣人としては僕からも大義名分を与えれば動きやすいだろうと思って、姿を現したんだよ。あと、僕自身は別に自分を隠したいわけじゃないから、大勢に見られる場に出ても構わないってわけだね。獣王国、レオンハル達がどう考えるかはまた別だけど」
「我々としましては、獣神様であるネメアレーヴェ様を敬う意味もあり、そのように考えてあまり多くに知られない方がと思っておりましたが……いえ、ネメアレーヴェ様がそうお考えであれば、獣王国の者達は私がなんとでもしましょう」
「まぁそこはね、人間の国と違って多くのしがらみがあるわけじゃないからね。全くないわけじゃないけど、レオンハルが一言いえばなんとでもなるだろうね」
「な、成る程……」
「それにしてもネメアレーヴェ様。獣神様であるあなた様が、恭しく接するあのお二人は一体……? リク様程ではなくとも強者の気配を感じますし、私は実際に魔物と戦うお二人を見ていますから、獣人として敬うというのはわからなくもありませんが……」
ハルさんの疑問は、ユノとロジーナに移った。
それも当然か……獣人としては崇めて敬う対象である神様、獣神様がユノとロジーナに関しては様を付けて呼び、恭しく対応しているんだから。
見た目は、ただの人間の女の子だしなぁ。
強者の気配というのはわからないけど、実際にハルさんは魔物と戦う……というより遊びのようにしているのを見ているからね。
「んー、それはね、僕からよりもリク君からの方がいいかな? 僕は昔……遠い遠い昔からの知り合い、というのも畏れ多いくらいなんだけど、今のあのお二方に関しては、リク君の方が詳しいだろうし。ね?」
「ま、まぁそうかもしれません。えっと、ユノとロジーナは……」
ユノ達は特に正体を明かされる事を気にしていなかったし、ネメアレーヴェさんも話を聞かかせていいだろう人物をこの部屋に連れてきたのだろうから、正直に話す事にする。
とはいえ、俺の魔力や無意識だったっけ? それが原因でほとんど人間と変わらない状態でいる事や、俺が異世界からくる際に会ったからだとか、ロジーナをレッタさんが信仰しているような感じなのはまだしも、帝国との関係などは誤魔化しておく。
話をしてはいけないわけじゃないんだろうけど、長くなるからね。
「ユ、ユノ殿……いえ、ユノ様とロジーナ様がそのような存在だったとは……」
「父上もそうですが、私もただならぬ気配を感じていましたが、それも納得です」
ユノとロジーナの正体、表裏一体の創造神と破壊神だと聞いて、当然ながら驚くハルさん達。
既に知っているリネルトさんはニコニコしているだけだけど、なぜかアマリーラさんは得意気な表情で尻尾を上機嫌なのを示すように揺らしていた。
皆が驚いているのが楽しいのかもしれない――。
アマリーラさん達は先に知っている者として、驚いている人たちを見て優越感に浸っているのかもしれません。
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