マギシュヴァンピーレについて
俺の言葉に、レッタさんやユノとロジーナ以外の皆がゾッとしたような表情になる。
魔物や草花から魔力を吸収、というよりも俺の魔力も吸収していたという部分に特に大きな反応をしていた気がするけど、どうしてだろう?
俺の多い魔力量をすべて取り込んだらとんでもない、とかそんな感じだろうか。
それはともかく、植物にも魔力があるのは知っているし、それこそ土などの無機物などにも魔力がある。
万物全てに、というわけではないけど……とにかく魔力が完全に吸収されれば、その物の存在としての意味がなくなる、とからしい。
だから、あのままミュータントが消滅せず延々と魔力を吸収し続けたら、あの場所は不毛の地になってしまうところだったようだ。
短時間で、それに自然の魔力なども流れているから、少しの間なにも育たない程度で済んだみたいだけども。
「ある程度そういった制御ができれば別だけど、あれを使った後の不毛の大地を占領したって、意味がないでしょ? だから、そういう意味もあって主力にはなり得ないの」
不毛の大地を占領して領地としても、扱いに困るだけだからね。
作物も育たない、しかも広大な土地を得ても国の利益にはならないし、むしろ損をしそうだ。
「吸収し続けるって事は、不毛の大地とか以前に一度使ったらそこに近づけないどころか、どんどん危険が増して広がっていくんじゃないですか? リクさんみたいに対処ができれば別だけど……」
「その心配はないわ。吸収して膨張を続け、大きくなる程に影響範囲を広げる。それだけだと確かに脅威だし、その後の占領なんかもできないわ。でも、あれ……私がいた頃は、マギシュヴァンピーレと呼ばれていたけど、弱点があるのよ。それも二つね」
マギシュヴァンピーレ……ミュータントじゃなかったのか。
いやまぁ、ミュータントは俺が勝手に付けた呼び名だから当然だろうけど。
それにしても弱点か、それがあるならもしまた出てきても対処ができるかもしれないね。
俺だけでなく皆そう思ったのか、少しだけ表情が明るくなる。
「一つは、歪に作られたからなのか、その存在が不安定なせいで自壊するのよ」
「自壊?」
「えぇ。魔力を吸収し続けて、見た目は大きく許容量を増やしているように見えるけど、実際には限界があるようなの。大量の魔力を吸い続けた後は、いずれ跡形もなく消滅するわ。だから、放っておいてもいずれはいなくなるってわけ」
「確かにそれなら、安全とは言えないけどいつまでも近づけない、なんて事にはなりそうにありませんね」
存在として不安定、というのは直に見ても感じていた事だね。
「ただ、自壊するまでに付近は魔物も人も全て、周辺は壊滅してしまうけど。魔力を吸収されて生きられなくなるか、それとも飲み込まれて吸収されて、跡形もなくなるか……のどちらかかしらね」
「自壊を待つまで耐える、なんてのも現実的じゃないでしね」
あの膨張速度、多分馬に乗って逃げようとしても追いつかれる可能性が高い。
それに、近くにいるだけで魔力を吸収されていくんだ、逃げようとしても簡単に逃げられるものじゃない。
つまり、今回は俺が対処できたからいいものの、あのまま放っておけばあの時獣王国の王都周辺にいた人や魔物は、自壊までに全て飲み込まれていただろう。
これが俺を急かす際にレッタさんが言っていた、「王都が滅ぶ」という事だったんだろう。
「実際にどれだけの魔力を吸収すれば自壊するか、は作成過程によるわね。まぁそこは後で話すとして……さっきは、リクの魔力を吸収させれば自壊も早まるかと思って向かわせたのよ。周囲に大量の魔物がいてそこからも吸収していたし、リクの魔力の三分の一でも吸わせれば、許容量が多くても自壊するだろうから」
「うぇ!? そんな事を考えて向かわせたんですか!?」
さすがに驚いた。
レッタさんの目的は、ロジーナと一緒にいる事と帝国の現皇帝への復讐。
それだけが生きる目的と言っても過言ではない人だけど、そんな事を考えているなんて。
そりゃ、完全な仲間というか味方ってわけじゃないのはわかっていたけど……。
「奥の手に対する最終手段よ。あんなわけのわからない方法であれを消滅させるとは思ってもいなかったけど。というか、あのマギシュヴァンピーレを消滅させたあれ、なんなの? むしろあれの方を私が聞きたいわよ」
「あれはえっと、魔力弾と呼んでいるんだけど、内側の奥から圧縮した魔力を……って、それは今はともかく、マギシュヴァンピーレでしたっけ? 先にそっちの話を進めましょう」
魔力弾に関しては、やろうと思ったらできたという部分が大きいので、俺にもわかっていない事が多い。
ロジーナと戦った時には、ロジーナの放った攻撃を吸収したり、あの特殊な空間の壁に穴をあけたりしたし、結構いろんな形になったりもする。
攻撃手段としては便利だけど、一度使えば思っていた以上の効果が出てしまう危険な手段だしね。
あと、魔力の消費も物凄く激しい……さっき何度か魔力弾を放って消費した魔力はもしかしたら、ミュータントじゃないマギシュヴァンピーレが自壊するまで魔力を吸わせていた方が、量としては少なかったかもしれないくらいだ。
「まぁいいわ。後で詳しく聞かせてもらうわよ」
詳しくといわれても、どれだけ話せるかどうかわからないんだけど。
ロジーナも俺に視線で話をするように求めている気がするし、うぅむ……レッタさん、そのロジーナを見て俺に話せと言っているのかもしれない。
まぁロジーナは、隔離されて戦った時魔力弾を使っているのを見たというか、被害者? ともいえるからね、話を聞きたいのかもしれない。
「えぇと、どこまで話したかしら……あぁ、マギシュヴァンピーレの弱点の話だったわね。もう一つの弱点は核よ」
「核って、一部の魔物にあるっていうあれですか?」
「そうよ。核を持っている魔物は、その核が破壊されれば生きられない。それはマギシュヴァンピーレも同じくよ。ただし、その核は複数あるの」
「通常、魔物の核は一体に一つ。人で言う心臓みたいな物だと思っていましたけど……」
「モニカの言う通りよ。ただマギシュヴァンピーレは核を複数持っている。持たされているの。だからこそ存在として歪なのだけれどね。よく知っていると思うけど、傷のない核に魔力を注ぐ事で魔物を復活させるのを復元と呼んでいるわ。けど、複数の核を掛け合わせて作るからマギシュヴァンピーレは作成なの。どんな核を使って掛け合わせても、あれになるんだけれどね」
復元は傷のない核じゃないといけない、というのは初耳だけど……まぁ心臓に置き換えて考えたら当然とも言えるかな。
心臓が傷ついているのに、人が無事な事なんてほぼないだろうし。
ともかく、複数の核を持っているというのは、そういう意味だったのか。
「掛け合わせる核っていうのは、なんでも?」
「強力すぎる魔物の核だと、駄目だったわ。その核がほかの核を飲み込んでしまうの。その段階で損傷するのかなんなのか、復元もマギシュヴァンピーレになる事もなくなるわ。強力な各同士でも反発しあって駄目。一定以下……今回ここに押し寄せていた魔物であれば、ってところね。それも、できるだけ核の強さに差ができないようにしないといけないようだけど」
例えば、Sランクの魔物であるヒュドラ―の核は使えないって事だろう。
今回の魔物はBランクいたけど、特にCランクとDランクの魔物が多かったから、その辺りか。
平均的に考えるとCランクってところかな。
Cランクの魔物の核だけで、あのマギシュヴァンピーレができたと考えると、かなり脅威ではあるけども。
「結構、細かい条件があるんですね」
「元々の法則を捻じ曲げて新しい魔物を、という試みだから仕方ないわ。完成されている法則に手を加えるなんて、神に対する冒涜とも言えるわね。だから私は嫌いな研究で、反発するわけにはいかないからちょっと協力をするくらいはしたけど、それだけね」
だから、これだけの事を知っているんだろう。
そういうレッタさんは、相変わらずロジーナの観察をやめないんだけど……神に対する冒涜か。
ロジーナが魔物を作った破壊神、というのは知っているしそれを否定、もしくは捻じ曲げるような研究だから、嫌いだけど協力するしかなかったと。
復讐が目的だから、表面上は逆らうわけには良かったのだと思う。
「それから、さっきも言ったけど自壊までに吸収できる魔力は、掛け合わせた魔物の核によって変わるわ。核の数は多くても少なくても駄目。十個前後だったかしらね。でないとそもそもマギシュヴァンピーレにならないわ。歪で不安定、だからこその微妙なバランスで成り立っているのよ」
「使った核の魔物が強力であれば、魔力の許容量が増えると考えて良さそうですね」
「えぇ。今回ので言えば、押し寄せてきた魔物の核を使っているんだと思うわ。特に多かった、オーガとかかしら」
またオーガかぁ、エクスプロジオンオーガとかもあったし、何かとオーガに縁がある……嫌な縁だけど。
まぁ、オーガだけってわけじゃないから、本当に縁があるのかは知らないけど。
「それで、核がもとになっているからその核を破壊すればいいってわけですね?」
「まぁね。でも、それは第一段階までの話よ。第二段階になれば、弱点が弱点じゃなくなるわ」
「第二段階っていうのは?」
「リクも見た、あの異常な膨張よ。あれが起こる前までが第一段階。きっかけを与える、もしくは条件や日数などを付けておく事で、掛け合わせた核が活性化して周辺の魔力を取り込み始める……」
俺がマギシュヴァンピーレを見つけた時は、まだギリギリ第一段階だったって事か。
レッタさん曰く、その第二段階になると手が付けられなくなるので基本的に対処をするのであれば、第一段階でとの事だ。
まぁ俺を向かわせたのは第二段階から魔力吸収速度が上がるので、そこで俺の魔力を吸わせて自壊させようとしたみたいだね。
一応、間に合えば第一段階の時に核をつぶして倒せる可能性も考えていたようだけど、あの時そんな説明もなかったからなぁ……説明されている時間もなかったけど。
さらに第二段階で魔力吸収が一定値を超えると、第三段階に移行するらしい。
第二段階で吸収しすぎて自壊しなければ、という条件が付くけど、俺が行かなければそんな事も起こらなかっただろうとの事だ。
自我などがあるのかはわからないけど、近くに俺みたいな多くの魔力を持っている何かがない限りはある程度自制というか、調整くらいはするとか。
そして第三段階に移行すると、そこでも魔力を吸収しながら移動を開始すると。
「移動先は、魔力が多くある方向。これに関しては制御はできないけど、誘導はできるわ。私の能力とは別にね」
「能力ではないのに誘導ですか?」
「簡単よ、魔力が多い方に行くというのを利用するだけだから。例えば今回で言うと、周辺の魔物などから魔力を吸収した後は、近くにある多くの人がいる場所へ向かっていたでしょうね」
「多くの人がいる……つまりこの王都ですか」
門は破壊されていたけど、獣人さん達にはあまり多くの被害が出ていなかった。
人数による多くの魔力が減っていない以上、マギシュヴァンピーレが向かうのは獣王国の王都だったんだろう。
そこまで計算して、奥の手を投入したって事か。
「移動した後は、どうなるんですか?」
「あれだけの大きさ、でもまだ完全じゃないのだけど。そんな巨大な存在である以上動きも鈍重よ。だから、大した距離は移動できないけど、それでもここにはたどり着けたでしょうね。そして移動した先でまた魔力を吸収する。やる事は結局変わらないわ」
「対処しない、できなかった場合の結果も同じ、ですか……」
つまりは王都の壊滅。
不毛の大地になろうと、マギシュヴァンピーレを投入した帝国は獣王国の中心である王都を、完全に滅ぼしてしまおうとしていたんだろう。
獣王国は帝国から見ればアテトリア王国向こう側。
現状アテトリア王国を標的にしている以上、不毛の大地を一つ二つ作っても気にしないって事かもしれない。
「ちなみにだけど、なんで第二段階になると核が弱点じゃなくなるんですか?」
「それも簡単。あれだけ大きなマギシュヴァンピーレに対して、小さい核を狙って破壊できるかってだけの事よ。試した事はないけれど、一応第二段階以降でも核を破壊すれば、倒すことはできるんじゃないかしら」
「な、成る程……」
エルサが大きくなった時以上、どころか、最終的にはこの獣王国のお城がすっぽり入りそうなくらいにまで膨張していたしね。
それと比べれば、豆粒くらいな人が、さらに小さい核を狙うのは不可能って事だろう。
核は魔物によって大きさは違うけど、大きくても拳の半分程度、小さければ親指より小さいからね。
しかもマギシュヴァンピーレに取り込まれないように気を付けながら、奥にあるはずの核をなんて……いや、魔力弾なら可能かな?
でも、結局どこに核があるのかわからなければ、針で穴を開けるような方法で核を狙うのは難しすぎる。
しかも複数ある物だし。
何度も試すよりは、今回消滅させた魔陣広滅弾で一気にやっちゃった方が魔力消費的にも効率がいいだろうね。
というか今更だけど、魔陣広滅弾とか掌破弾や指尖弾とか、結構あれな名称だったなぁ……剣魔空斬とかもそうだけど、戦闘中などのテンションが上がった状態で技名を考えると、そうなっちゃうんだろう。
冷静になると、少し恥ずかしい気もする。
「レッタさん、それだけ知っているって事は、第二段階や第三段階になったマギシュヴァンピーレを見た事があるの?」
「研究成果だけを、って言いたいけど確かに見たわモニカ。あれは結構前の事だけど、帝国に対して武力を差し向けた王国があるの。アテトリア王国とは反対側の小国だけれど。魔物を換算しない単純な軍事力で言えば、あちらの方が上だったんじゃないかしら。だからこそ、侵略しようとしたのでしょうね」
「帝国に対して……それって、リクさん!」
「前に聞いた事がある気がするね」
確かあれは、バルテルの凶行やアテトリア王国の王都に魔物が押し寄せた後の事だったっけ。
帝国の話になった時に姉さんややハーロルトさんから、向こうの軍事力というか戦力に対して、わからない事が多いとかって。
どうやったかわからないけど、帝国側には特に大きな被害なく相手の国の軍隊を壊滅させたとかなんとか……あれって、マギシュヴァンピーレを使っての事だったのか。
てっきり、魔物をぶつけてとかだと思っていたけど。
いや、マギシュヴァンピーレも歪で法則から外れているとはいえ、もとは魔物の核なんだから、魔物の一種とも言えるのか。
「結果は、帝国に差し向けられた軍隊は壊滅したわ。一人残らず、ね」
レッタさんの言葉に、ユノやロジーナ、エルサを除く全員が言葉を失った。
それだけ、レッタさんの語った結果が衝撃的だったから――。
帝国に向かった軍隊は、文字通り全滅したようです。
別作品も連載投稿しております。
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