少しずつ追い詰められていく
「リクさん。さっきリクさんがフレイムフォグを爆発させるのを見ていたのだけど、剣とかに当たった瞬間に爆発していたわ。もしかすると、何かに触れる事で爆発するんじゃないかしら?」
「何かに触れたら……成る程、それなら!」
モニカさんの言葉でひらめく事があった。
頭上から降って来る氷の槍を砕き、炎の弾を剣で打ち返して空に飛ばし、最後に……。
「これならどうだっ!」
質量で潰すためか、土の塊、というより大きな岩。
人間二人分くらいはありそうな大きさで、魔法で固めて作られたそれを剣を持っていない左の拳で砕く。
ちょっと周囲に破片が撒き散らされたけど、モニカさんには当たっていないようだから気にしない。
ともかくその砕いた岩の破片をいくつか拾って、連続でこちらへと弾丸のように迫るフレイムフォグめがけて投げた!
「一体外れた! くぅ!」
迫る五体のうち四体には破片が当たり、宙空で爆発。
ただ一体だけは狙いが甘くて外れたため、モニカさんめがけて飛んで行った……投擲技術とかないようなものだから、四体に当たっただけでもラッキーだったかもしらないけど。
それをモニカさんの前に躍り出て、俺自身を盾にしつつ剣で斬り払う。
直後の爆発を耐え切る。
「リクさん! ごめんなさい、私のために!」
「サポートしてくれるモニカさんを守るのは当然の事だよ! それに、モニカさんのおかげで対処法ができた!」
「岩の破片を投げる事?」
「それもだけど、それ以外にもね……見てて!」
砕いた岩の破片、そのうち手軽に投げられそうなのは拳サイズくらいの物だったので、フレイムフォグに当てるにしてもちゃんと狙わないといけなかった。
フレイムフォグ自体は直線で迫るだけで、途中で曲がったりしないようだから、当てるには投げる物の面積が広ければいい!
まずは耐性を立て直して再び襲い掛かるオークを真っ二つに斬り裂き、それを別方向から迫って来ていたフレイムフォグめがけて投げた、というか蹴り飛ばした。
ついでに、アラクネの足を掴んでその後ろにいたオーガを巻き込んで投げ飛ばす!
狙いたがわず、というか大きめの体にフレイムフォグの軌道が遮られ、接触。
次々と爆発を起こしていく。
「狙い通り! だけど……自分でやっておいてなんだけど、エグイなぁ」
「リクさんじゃなきゃ、いえアマリーラさんもできるかしら? ともかく、誰でもできる事じゃないし望んでやった事じゃないのはわかるけど、これはあまり直視したい光景じゃないわね……」
オークやアラクネ、オーガなどの体にぶつかって爆発したフレイムフォグ。
そこまではいいんだけど、直撃したのは小屋程度は粉々にする威力の爆発だ。
咄嗟に思いついた事でそこまで考えていなかった、と言い訳させて欲しいんだけど……フレイムフォグの爆発の直撃を複数受けた魔物は、宙空で爆散。
言葉にするのが憚られる程、豪快に色んな物を撒き散らしていった。
爆発自体は俺がやった事じゃないけど、まさか実際に自分の目で汚い花火を見る事になるとは……。
モニカさんも言っている通り、散々魔物を倒して来ていてもちょっとどうかと思う光景だった。
「と、とりあえず、今はあれこれ言ってられる状況じゃないし、これで良しって事で!」
「ま、まぁそうね……」
多分、俺じゃなかったら最初に岩の破片を投げたように、確実に投擲を当てて爆発させていたんだろうけど。
魔物の残骸の処理も楽になったしね!
あと、爆散したのが俺達から距離のある場所だからか、余波などで飛んでくる魔法も巻き込まれたり、魔法を放つ魔物が怯んでいるのか数もさらに減っている。
そのため、爆発に怯んで直接襲い掛かって来る魔物が減る事はなかったけど、飛来する魔法の対処が一時的にだろうけど楽になった。
うん、結果オーライという事で!
「呆けている場合じゃないわリクさん!」
「っ! そうだね!」
モニカさんの言葉でハッとなると同時、複数の魔物が一気に襲い掛かって来た。
先程までは、ある程度散発的で落ち着いて対処できていたけど、今になって突然俺達を押し潰そうとでもしているかのように、勢いを付けてきた。
「空からも! モニカさん!」
「えぇ!……フレイムウォール!」
さらに空からは、先程までよりも多い多種多様な魔法が降り注いでているのが見えた。
それに対しては、モニカさんが炎の壁を空に向かって発動。
この魔法自体は本来、地面から噴き出すような炎で壁を作るものらしいから、長続きしないようだけどそれで充分。
降り注ぐ魔法のうち、炎系のものは壁と一体化して空で燃え盛り、氷はほとんどが融けて、水は蒸発して勢いを失う。
さらに風は炎と一体化した魔法の壁をさらに燃え上がらせる燃料になる。
唯一、土の魔法は熱されて少し厄介な物になるけど、他の魔法より確実な実体のある物だから対処しやすい。
「フレイムフォグも来ているわよ!」
「了解! はぁっ!」
迫るオルトスを蹴り上げ、モニカさんに手を伸ばそうとするオーガの手を掴んで、蹴り上げたオルトスにぶつけてさらに勢いを付け、炎の壁を突破してくるフレイムフォグにぶつける。
さすがに、魔物が押し寄せているので空で起こった爆発によって、爆散する魔物をのんびり眺めている余裕もなく、また別の魔物を斬り裂く作業に集中する。
それにしても、フレイムフォグは炎の壁に当たっても爆発しなかったね……。
もしかすると直接何かにぶつからないといけないのかもしれない。
当たった時の衝撃で爆発するとかかな。
「っ! せい! んっ!……この数はさすがに……」
押し寄せる魔物の対処が、少しずつ遅れている事に内心で焦る。
倒すペースよりも、魔物が迫るペースの方が早い……実際に、先程まであった魔物との距離も縮まってきていた。
ユノ達が魔物を蹴散らして、俺達が後方へ下がるのではなく、魔物の圧によって無理矢理押されてもいる。
このままじゃ、レッタさんやユノ達の方にまで魔物を通してしまいかねない……。
フレイムフォグを空中で爆破させるようにしたから、俺達を囲む魔物を爆発で押し留める効果もかなり薄いし、一部の魔物はそれすら気にしないようになってきている気がする。
空でフレイムフォグを魔物をぶつけて爆発させたためか、周辺の魔物全てが俺達を敵と認識して襲い掛かって来ているのかもしれない。
それこそ、一斉に魔物達が怒り始めたような感じだ。
「私の事は気にしないで! なんとか合わせるから、リクさんの動きやすいようにやっちゃって!」
「でも……」
叫ぶモニカさんに躊躇する。
オークやオーガ、オルトスも単体ならそれなりに対処しつつ戦えるモニカさんだけど、さすがに数が多すぎる。
一度に複数の魔物がモニカさんに向かえば、ある程度は捌けてもいずれ押し潰されてしまいかねない。
それを考慮して、常にモニカさんの前に立ち、モニカさんに向かう魔物を他の魔物をぶつける事で牽制もしていたんだけど……。
ずっと戦い続けて、モニカさんの体力も心配なのに。
「多少の無茶はやってみせるわ! 私は、リクさんの隣に立ちたいんだから。これくらいなんてことないわよ!」
「……わかった! でも、本当に無理は止めてね! 危ないと思ったら俺の後ろに下がっていいから!」
「えぇ! リクさんの邪魔になるような事はしないし、そうなるくらいなら素直に後ろに下がるわ!」
そういう事じゃないんだけど……まぁいいか。
俺の心配を余所に、グルグルと体の前で槍を回転させたモニカさんが、その回転にオルトスの双頭を巻き込み、飛び掛かって来た勢いを利用して別方向へといなす。
さらに、槍の穂先からは周囲の魔物への牽制のための魔法を放っているし、モニカさん自身も空から降って来る魔法の対処のために、炎の壁を張りなおしたりもしている。
「心配しているだけじゃ、ダメかな。よし、俺も!」
魔力放出モードの白い剣を細く長く変化させ、大上段から空を舞う魔法やフレイムフォグを巻き込みながら振り下ろす。
俺の正面、十メートル近くにいた魔物を斬り裂いて一時的に道のようなものを作りつつ、地面にめり込む剣。
この際、ある程度地形に影響のある戦いは覚悟しておこう……フレイムフォグの対処とかがなければ、もう少し楽だったかもしれないけど。
とりあえず、怒られたら後で謝るって事で、アマリーラさん達にもフォローをお願いする事にしようかな。
「俺も気を付けるけど、巻き込まれないように気を付けて!」
「ふぅ、はぁ……えぇ!」
力任せに、巨大化したままの白い剣を振り上げ、また別の方へと振り下ろす。
モニカさんが右方向にいる時は、左方向を剣で薙いで斬り払い、左方向にモニカさんがいる時は、右方向を薙ぎ払って巻き込まないように気を付ける。
「ち! ずっと魔力開放モードだったから、さすがに剣の魔力が……!」
押し寄せる魔物をある程度押し返し、かなりの数を倒せたのだけど、巨大化した剣を十回も振らないうちにみるみる剣が元の大きさへとい縮んでいった。
白い剣は吸収した魔力を剣そのもの、または使用者に還元するし、放出モードでは吸収した魔力と使用者の魔力を使って鋭さや大きさを自由に変えられる。
それこそ、切れ味を落として大きな鈍器のようにする事だってできるんだけど、そのための魔力が尽きかけているようだ。
使用者の魔力、つまり俺の魔力も流れていっているんだけど、放出するための魔力としては途中で一度変換しないといけないため時間差があるし、流れる量も限られている。
俺自身は魔力に余裕があるから大きな池や海だと例えるなら、白い剣に流れる魔力は小川を流れるようなもの。
水量……魔力量はすぐに十分な量を流す事はできない。
それを補うためには、魔力吸収モードにしないといけないんだけど、今回は控えていたからね。
まだ完全に元の大きさに戻ってはいないけど、それは俺からの魔力を流れ込んだ瞬間から使っているからだろう。
「モニカさん!」
「っ! だ、大丈夫……よ! ふぅ、はぁ……!」
剣が小さくなった事で、再び勢いとり戻して押し寄せる魔物。
通常のオークよりも体が小さく、その変わり動きが素早い個体がモニカさんに襲い掛かる。
空に張る炎の壁を発動する隙が狙われたのか、いなす事もできずモニカさんが槍の柄で受けた。
なんとか受けられたのを見て安どする暇もなく、モニカさんに手助けをしようと思って動こうとしたら、石突でそのオークの顎を下から強打し粉砕。
さらに軽く槍を引いてそのまま小柄なオークの腹に打ち込み、弾き飛ばした。
なんとか対処はできたようだけど、モニカさんの息がかなり荒い。
それも当然か、魔法具としての槍の魔法、さらにモニカさん自身の魔法、そして槍を使った魔物との戦い……どれか一つだけでも延々と続ける事は難しいのに、それを全部こなしているんだから。
なんとかして、モニカさんを少し休ませられる隙を作らないと……。
「くのぉ!」
自分の体を覆う魔力の回復が早まるけど、仕方なく白い剣を魔力吸収モードに切り替えて、数体の魔物を斬り裂く。
剣の大きさは通常時に戻ったけど、一体一体対処しないといけないからやっぱりジリジリ通されてしまう……もう少し、魔力を吸収したらまたさっきのように巨大化させて……。
「くっ!……あれ?」
襲い来る魔物への対処にかまけて、一体のフレイムフォグが近付いて来ているのに気付けなかった。
なんとか直撃は避けようと白い剣を振るいつつ、爆発の衝撃に備えたけど……その衝撃が来なかった。
「……そうか、フレイムフォグの爆発は魔力だから。というか、魔力でできている魔物だからか……っ!」
レムレースと同じく魔力でできているし、自爆も魔力の作用なんだろう。
だから、魔力吸収モードで魔力そのものを吸い取ってしまえば爆発しないのか。
というのがわかったところで、今更他の魔物達の勢いが強くていい情報とも言えない。
むしろ、至近距離で爆発した方が魔物達の動きを少しくらいは押し留めてくれるかもしれないし……いやでも、モニカさんにも衝撃がいってしまうからきけんだろう。
「どうする……どうすれば……」
焦って考えていも、いい案なんて浮かばない。
仕方ない、ここはモニカさんを危険に晒し続けないよう、ユノ達の方と合流してここで足を止めて戦い、時間稼ぎをしていた方がいいかもね。
そうすれば、いずれエルサが回収に来てくれるだろうし、ユノとロジーナがいれば魔物に押し潰されないよう戦い続ける事くらいはできる。
さすがにちょっと、俺の作戦の見込みが甘かったかなぁ……数はともかく、ここまで勢いが強いとは。
「リクさん!」
「っ!?」
そうして焦り、迷っていたのがいけなかったんだろう。
周囲への注意が薄れてしまっていたようで、モニカさんに言われてハッとなった瞬間には遅かった。
フレイムフォグの集団、十を越える数が一度に俺へ向けて弾丸のように迫って来ている。
さすがに、これを全て対処するのは難しい……! 爆発の衝撃は多分耐えられるはず、だったら!
「モニカさん!」
「え!?」
中途半端に対処するくらいなら、あらかじめ防御姿勢を取っておいた方がいい。
そう思った俺は、近くのモニカさんを抱き寄せて後ろを向く。
驚きの声を上げるモニカさんは無視だ。
「くぉぉぉぉぉぉ!!」
ドンドンドン! と連続して殺到し、俺の背中に当たった瞬間激しい爆発を撒き散らすフレイムフォグ。
それに耐えるため、足を踏ん張り背中に魔力を集中させる!
「……はぁ、はぁ」
「リ、リクさん!」
「だ、大丈夫。ちょっと痛かったし、多分服はボロボロになっていると思うけど。でも、モニカさんが無事ならこれくらいね」
連続しているのか同時なのかすらわからない数の爆発、その衝撃を全て背中で受け切る。
心配するように声を上げたモニカさんには、ヒリヒリとする背中の痛みに耐えながら笑いかけた。
一度や二度程度の爆発ならともかく、さすがに十を越える数だったから多少は火傷しているだろうなぁ。
「リクさん後ろ!」
「っ!」
安心している暇もなく、再びモニカさんの叫び声でハッとなると、後ろから別の魔物が押し寄せてきていた。
背中を見せている状態だけど、振り向いて対処すれば……!
「つぅ!」
だけど、火傷の痛みによって動きが鈍ってしまい顔をしかめる俺の動きよりも早く、オルトスの双頭の一つの顎が迫って来ていた。
さすがにこれは、背中の火傷以上に痛そうだなぁ……なんて、瞬間的に考えていたその時だった。
「え……?」
ズドン! と、大きな音がしたと思ったら、オルトスが弾き飛ばされていた。
状況が掴めず、ポカンとして飛ばされたオルトスを見ると、その胴体には大きな風穴が空いているのが見える。
えっと……?
「リクさん、上!」
モニカさんに言われて空を見上げると、何やら大きな影が浮かんでいるのが見えた。
距離があるからはっきりとは見えないけど、高度を保ちながらエルサが空からの援護射撃をしてくれたんだろう。
実際に射掛けたのは、背中に乗っているヴァルドさん達のはずだけど。
俺に襲い掛かるオルトスを狙うような精密射撃ができるのかはわからないけど、これで魔物達との戦いは楽になりそうだ……!
(どれだけの怪我をするかはともかく)危機一髪の状況を救ったのは、頼もしい空の覇者でした。
別作品も連載投稿しております。
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