リクとモニカの協力戦
ブックマーク登録をしてくれた方々、評価を下さった方々、本当にありがとうございます。
「ふぅ、っと。リクさん、なんだか見覚えがあるような、違うような魔物がいるんだけど?」
「ゴーストっぽいのがいるよね。あれがなんなのかあわからないけど、周囲にいる魔物からすると、本当にゴーストてわけじゃないと思う。一応気を付けておいた方がいいかも」
「わかったわ」
「じゃあモニカさんは俺の後ろでサポートを。ユノとロジーナは少し広がって魔物と。レッタさんはその後ろで魔力誘導を」
「やってやるのー」
「ま、適度にやってやるわ」
「ご勇姿を目に焼き付ける役目はお任せ下さい、ロジーナ様」
俺の言葉通り、それぞれが陣形という程ではないけど動きやすいようにする。
若干一名、俺の言葉が聞こえているのかどうかわからない様子な人もいたけど、位置取りはちゃんとロジーナ達の後ろで前に出ないようにしているのでいいか。
ちゃんと魔力誘導もやっているようだし。
その証拠に、こちらに踏み出そうとしていた魔物のいくつかが、二の足を踏んでいるように見える……体内や周囲の魔力を揺らがせて混乱させているんだろう、詳細はよくわからないけど。
「打ち合わせ通り、俺とモニカさんが南側、ユノとロジーナは北側をお願い! レッタさんはロジーナから離れないように!」
「えぇ!」
「了解なの!」
「仕方ないわね!」
「もちろん、私がロジーナ様から離れる事はないわ!」
魔物達が俺達の登場と魔力誘導などで戸惑っている間に、ユノ達と背を向け合い向かう方向を見据える。
俺は後ろにモニカさんを置いて南方向、獣王国の王都が現在地の北にあるので、押し寄せる魔物を倒して押し留める役目だ。
ユノとロジーナは北方向、門の方向の魔物に向かって王都へ押し寄せる魔物の圧を少しでも減らす役目だ。
少しずつユノ達が門へと進み、俺達は押し潰されないよう戦いながら後退し、できるだけ王都へと近付くように考えている。
切り込んでもいいんだけど、さすがに魔物の数が多すぎるからね。
ちなみに、魔物に苦戦してユノ達の進行速度などが遅すぎたりするようであれば、エルサに回収してもらう予定だ。
そのエルサは……。
「うん、あっちは行ったようだね。後で空からの援護はあると思うけど、冒険者さん達を降ろすまでは見込めないし、数も少ない。だから基本的に俺達だけで切り抜けるようにするんだ!」
「誰に言っているの、その程度問題にもならないわ!」
「私は、とにかくリクさんのサポートに集中するわね!」
レッタさんの魔力誘導から漏れたか、それとも振り切ったか、飛び掛かって来るオーガを斬り払いつつ、空を見上げて飛び去って行くエルサを見送る。
冒険者さん達は、別の場所で陽動のような事をやってもらう予定だ。
魔物に押し潰される心配が少ない、端の方でだね。
王都だけでなく、俺達への魔物の圧を減らす役目でもあるんだけど、そのためにはエルサが移動しなければいけない。
元々ヴァルドさんの弓隊は魔物が広がる範囲や数に対して、少ないから、完全な援護は見込めないけど、エルサが移動中は一切の援護がないと言っていい。
まぁそれも込みで、一緒に戦い慣れているモニカさんと、魔物に囲まれてもなんとでもできるだろうユノ達がここにいるんだけども。
油断するつもりはないけど、ヒュドラーやレムレースと戦った事を考えれば、最高でも大きめなBランクの魔物くらいなら、数が多くても脅威に感じないからってのもあるけども。
もちろん、俺も含めて全員永遠に戦い続けられるわけではないので、離脱はちゃんと考えているからこその、エルサによるお迎えだ。
できれば王都の門まで切り開いて到着したいけど、遅くなり過ぎた場合は冒険者さん達の回収を優先しつつ、俺達も回収してもらうようになっているんだ。
その後は、どれだけ魔物の数を減らしたか、王都の方に余裕ができたかによって色々考えているけど。
「リクさん! はぁっ!」
「っと、ありがとうモニカさん」
「このくらいならなんでもないわ、任せて!」
考え事をしているから、というわけではなく、俺より早く飛来する火の玉に気付いたモニカさんが、槍に込められている魔法を発動して打ち落としてくれる。
周囲の魔力にはちゃんと反応できるようにしているけど、それ以上にモニカさんの反応の方が早いとは。
「さすがモニカさんだね、と!」
「アマリーラさんやリネルトさんに鍛えられたからね、これくらいは! 反応が遅いと、容赦なくやられるのよ、訓練でも、ね!」
「成る程!」
背後でユノやロジーナが魔物を斬り倒す音を聞きながら、こちらも突出してきた魔物を剣で斬り、別の魔物をモニカさんが槍で突き倒す。
密度が濃い訓練のおかげで、俺だけでなくモニカさん達もかなり成長したみたいだ。
伊達に、毎日のように新しい打ち身を作っていないってわけだね……できれば、打ち身は勘弁して欲しいけど。
「っ! リクさん!」
「これは任せて!」
モニカさんの声に弾かれるように反応し、魔力放出モードの剣の腹を広く大きくする。
魔物達を避けるように、俺達の頭上めがけて山なりに飛来する魔法の数々を、着弾するまでに白い剣を振るって全て打ち落とす。
氷の刃、土の塊、火の玉などが弾かれて周囲の魔物へと降り注ぐ……見えない何かに体が斬られた魔物もいるようだから、風の刃とかも混ざっていたんだろう、見えないけどなんとなく魔力は感じているから対処はできているね、よし。
でも魔物達は弾かれた魔法で致命傷を受ける事すらなく、むしろその隙を狙って横から迫って来ていたけど数体は、モニカさんに任せる。
ぐるぐると槍を回転させながら、魔物を切り抜けて俺の後ろへと戻るモニカさんは、槍捌きもかなりの物になっているみたいだ。
「ここからが本番だね!」
「そうね!」
さすがに数が多いし、倒しても後から魔物がどんどん迫って来る。
レッタさんの魔力誘導ではさすがに全てを留める事はできないし、多少速度を遅くしてくれる程度。
最初の戸惑いなどももうなく、俺達を完全に敵として認めたようで、どんどんと魔物達が俺達との距離を詰めて来るし、魔法も間断なく飛んでくる。
そんな魔物達に対し、正面から来るオークを斬り倒し、その動きのまま右から飛び掛かるオルトスの顔面を蹴り飛ばして潰す。
左方向から来た魔物は、モニカさんが槍で突き、払い、さらに火の壁を使って妨げてくれる。
頭上めがけて飛んでくる魔法は、数や種類などを瞬時に判断。
「モニカさん!」
「えぇ! リクさん、一歩後ろ!」
「了解!」
モニカさんと声を掛け合いつつ、避け、対処できる物は剣やモニカさんの魔法で打ち落とす。
時折、手元でグルグル回した槍で弾いていたりもしたけど、盾に近い使い方をするのはマックスさんから教えてもらったらしい。
さらに、モニカさんの声で一歩下がり、少し北に進んだ背後のユノ達の方へと後退する。
「ふぅっ! リクさん!」
「わかった!」
猫を人のサイズにしたような魔物、アダンラダが飛び掛かって来るのを、モニカさんが槍の柄を振り上げてかちあげる。
それに合わせて、アラクネの胴を真っ二つに斬った勢いで体を回転させ、浮いているアダンラダを蹴り飛ばして別の魔物へぶち当てた。
「なんだか、以前までより戦いやすいよ、ありがとうモニカさん」
「私だって、ずっとリクさんの戦いを見て来たんだから。近くで見ると相変わらずすさまじいけど、それでも訓練して、ちゃんとついていけるようになってきているわ。まぁ、リクさんが本当の全力を出して戦えば、別だろうけど」
「今の状態なら、むしろこちらの方が全力みたいなものだよ」
センテから王都に戻る途中で発見したアルケニ―との戦闘時より、モニカさんとの連携がうまくいっている。
まぁあの時は、俺が自分の力を使いこなせていなくて、ほぼ力任せに戦っていたからが一番の原因だけど。
俺自身が教えられた魔力開放後に、周囲の魔力の動きを感じられているのもあるけど、それよりもモニカさんの動きが鋭く、俺に合わせてサポートしてくれているのが大きいんだろう。
厳しい訓練をしていた成果が出ているんだろうね、段々と楽しくなってきてすらいるくらいだ。
「せいっ! っと……こんなものかな?」
「ふふ、リクさんも力の加減が上手くなってるわね」
「まぁ、俺もずっとモニカさん達の訓練を見てきているからね。一緒に訓練もしたし、ある程度は合わせられるよ」
「って事は、やっぱり全力じゃないんじゃない?」
「あ……」
語るに落ちたとはこの事か。
まぁ確かに、魔力を開放しているし全力で力を振り回すという事はしていないけど。
それでも結構派手に動いているのに、モニカさんはそれに合わせて動いてくれる。
今だって話しながら、フレイムウォールだっけ? 炎の壁で一方向からの魔物を留めつつ、空から降って来る氷の槍をモニカさんが槍で砕いてくれている。
しかも、その砕いた氷の槍はちょうどいい拳サイズで、俺の方に飛ぶようにしているから……。
「ふん!」
複数の氷を掴んで投げ、または蹴って周囲の魔物に散らして攻撃もできる。
剣だけだと、下がりながらなのもあって受け身になるから、離れた場所に攻撃できる手段を用意してくれるのはありがたい。
「リクさんが魔物を倒してくれるから、そのための手段を作るだけでいいのは、楽でいいわね!」
「モニカさんだって、遠くからの攻撃を防いでいるし、魔物を留めて守ってくれるからこっちもやりやすいよ!」
モニカさんが守り、俺が攻撃して迫る魔物を蹴散らす。
魔物を投げ飛ばしたり、斬り捨てたり、他にも蹴り飛ばすくらいはやっているのに、モニカさんは絶対にその先にはいないようにもしてくれる。
さすがに訓練の成果が出ているとはいえ、加減が多少できるようになったくらいで、まだ魔物を飛ばした先を全て味方に当たらないようにするのはできていないのに、だ。
モニカさんも言っていたように、俺の事を見ていてくれたから動きなどがある程度わかって暮れているんだろうと思う。
「ふっ! はぁ! リクさんには近付かせないわ!」
「んっ! モニカさんにも!」
右から俺に魔物が向かって来ればモニカさんが槍で斬り、弾き、左からモニカさんに魔物が向かえば、蹴り飛ばし、投げ飛ばし、斬り捨てる。
決して俺より前に出ないようにしつつ、決してお互いに魔物が近付かないように立ち回る。
これが、誰かと一緒に戦うって事なんだろうか?
「っと!」
「さすがモニカさん!」
頭上から迫る魔法を避け、避けきれないものは槍で防ぐモニカさん。
「これくらい、埋め尽くす程だったレムレースの魔法に比べれば、なんとでもなるわ!」
「確かに、あれを見ていたら、隙間がある分対処はできるようになっていてもおかしくない、のかな」
レムレースは数百の魔法すら同時に扱う。
俺が森で一対一で戦った時は、どちらかというと強力な魔法ばかりだったけど、弱めの魔法なら壁のように空間を埋め尽くす程の魔法を使う事だってできるし、実際にそのように魔法を使っているのを見ているからね。
ただあれは、空を覆う程巨大な状態じゃないと多分使えないっぽいし、俺が森で戦ったのは弱っていた事や人間サイズくらいだったから、また違うのかもしれないけど。
ヒュドラーと一緒に来た時は、白い剣の魔力吸収モードであっさり倒したから、俺はそういった空間を埋め尽くす程の魔法を受けてはいないしね。
「ただそれだけでこの雨のような魔法に対処できるのは、凄いと思うよ!」
「なんて、私以上に魔物と魔法を対処しておいて、何を言っているのかしらね! レッタさんのおかげで、魔法の威力自体も弱くなっているし、魔物も鈍足化しているから落ち着いて対処できているだけよ!」
「確かに、レッタさんのおかげっていうのは俺の方も大きいかなぁ」
なんてのんきな事を話しつつ、近くに来ていたオーガを横から真っ二つに斬りつつ、力を失ったオーガの体をこちらへ来ようとしていた別の魔物へと蹴り飛ばす。
そうしながら、チラリと俺達の後ろにいるレッタさんの方に目を向けてみると……。
「はぁ、はぁ……ぐへへ」
おおよそ、女性がしていていいのか疑問が生じる程の恍惚……いや、邪悪な笑みを浮かべ、鼻から血をポタポタと垂れさせていた。
直接魔物と戦っていないのに息が荒いのは、魔力誘導の疲れとかではなく、ロジーナ達を見て興奮しているからかもしれない。
最近、レッタさんの変態性が常軌を逸し始めている気がするのは気のせいだろうか……?
ロジーナだから、レッタさんに襲われても大丈夫だろうけど……いや、本当にレッタさんが襲うとは、さすがにちょっとくらいしか思っていないけど……。
「あっちは見なかった事にしよう……」
「リクさん!」
「うん!」
レッタさんはともかく、モニカさんの合図でまた一歩北へと下がる。
少しずつ、確実に魔物を倒しながら門へ向かって後退をしていく。
常に魔物に囲まれて、間断なく魔法なり魔物なりが襲ってくる状況だけど、強力な魔物が少ないのもあってこのままずっと戦っていられそうな気にもなるけど、慢心はしない。
俺一人なら、ある程度長時間戦えるだろうけど……。
「っと! モニカさん!」
「っ! ありがとう、リクさん!」
オルトスがモニカさんに飛び掛かるのを、横から二つの頭を斬り落として防ぐ。
Bランクのオルトスはそれなりに大きな体でも素早く、さすがにモニカさんも簡単に対処できる相手じゃないからね。
こういった、強めの魔物は俺が率先して倒すようにしている。
力だけのオーガなどは、多少モニカさんもやっているけど、それは綺麗に槍で受け流せているからだ。
とにかく、なんとかかんとか危なげなく魔物を倒してはいても、地上を埋め尽くす程の魔物がいるわけで。
向こうはどんどん新しい魔物が襲ってくるし、こちらはずっと動き続けなければいけない。
俺やユノ達、魔力誘導に集中しているレッタさんはともかく、モニカさんはずっと戦い続けられないからね。
現に、モニカさんはさっきから結構な汗を流しているし……息は、少し上がって来たかなってくらいだけども。
「さすがに、魔物が減った気が全然しないわね。上から見てわかっていた事だけども」
「まぁね。こうして一体一体倒しているだけじゃ、いつ終わるかもわからないよ。だからこその作戦なんだけど」
この作戦は、魔物を殲滅する事が一番の目的じゃない。
まずは一当たりして、できるだけ魔物が獣王国の王都に向かう勢いを削ごう、という作戦だ。
戦い続けている獣人さん達も、魔物の勢いが弱まれば休む猶予ができるかもしれないし、それこそ反撃する余地が生まれるかもしれない、というかそれを期待しての事だ。
門が壊されているのは予想外で、ちょっと焦ったけど……むしろこうして魔物を引き付けられれば、守っている獣人さん達も楽になるはずだ、向こうにはアマリーラさん達も行っているしね。
「なんにせよ、リクさんの作戦通り、保たせて見せるわ。伊達にアマリーラさんやリネルトさんと、激しい訓練はしてきていないもの」
少しだけ荒い息を吐きながらそう言うモニカさんは、疲れを見せないようにか意気込んでいるようだった――。
モニカはほぼ全開で戦っているため、長時間の戦闘継続は難しいのかもしれません。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。






