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神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移  作者: 龍央


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1915/1950

特殊な空間の創造



「我等が創りし理」

「我等が破壊せし理」

「我等が座すべき全ての中心」

「我等が起つべき全ての果て」

「存在の位相、原初にして透明」

「空虚なる位相、終焉にして混濁」

「世の始まり」

「世の終わり」

「「二つの相対せし絶対せし有と無を内包する間の顕現」」


 ユノからロジーナと、相反する言葉を交互に発していた声が重なり、同じ言葉を紡ぎ出す。

 朗々と響き渡るそれは、結界の中で静かに、けどはっきりと響き渡り、耳の奥を鈴の音が心地よく揺らしているようにも聞こえた。


「「白く黒い中心にして果て。理を越えた理。有であり無である存在を異とする我等の位相」」


 声の圧力のようなものに圧されて、ただただ黙って聞くだけしかできない俺とモニカさん。

 結界の外には聞こえていないのだろう、エルサは目的地へ向かって飛行しているだけだし、他の皆はこちらを気にしつつもそれぞれで話しをしたり、備えをしている。

 この声は、鼓膜を揺らす音を聴いて、他の何かをする事はできず、ただ黙って聞いているしかできないはずで、だからこそ外には響いていないのだとわかる。

 なんだろう、少しでも音を発して邪魔をするのが憚られる、邪魔をしてはいけない、したくないと思ってしまうような響きなんだ。


「「顕現するは空間。我等を包むは……」」


 重なる言葉を途切れさせ、再び交互に声を発し始める。


「遍在し、有を受容する波の空」

「偏在し、無を排斥する凪の地」


 一呼吸おいて、ユノとロジーナの息が重なった。


「「現れよ。我等が座するべき場所。起つべき場所。『神の御所』!!」」

「っ……!」


 ピィィン――と、何かが張り詰めたような空気が耳をつんざく。

 心地よいと思っていたユノ達の声から急な変化で、痛みすら感じる事に顔をしかめる。

 モニカさんも同じだったようで、両手で耳を押さえていた。


「はぁ……ふぅ」

「や、やっぱり、最低限とはいえ疲れるわね」

「今の状態だから、仕方ないの。この体だし」

「えっと……?」


 耳鳴りのような張り詰めた空気、緩む事はないけど痛みを感じる事はすぐになくなり、こちらを振り返ったユノとロジーナに声をかけつつ辺りを見回す。

 なんだろう、同じ結界内で半透明なその向こう側には、さっきまでと変わらず他の人達がいるんだけど、何かが違う感覚がある。

 見え方が変わっているとかではないんだけど、空気感とか雰囲気とか、目で見えない何かが変わっているのだと思う感覚が消えない。

 ……何か、以前にも経験した事があるような感じでもあるし、もしかして俺、これを知っている?


「モニカ、ちょっとそれ貸してなの」

「あ、私にも。というよりここまで協力してあげたんだから、私の方が先よ」

「え、えっと……あぁ、一つだけじゃないから」


 振り返ったユノとロジーナは、髪が頬に張り付く程汗でぐっしょりしていた。

 やり遂げた感と疲労感を醸し出しつつ、モニカさんに近付いて、俺の結界練習に付き添うために持っていたタオルを受け取っている。

 さっきまでなんというか、アマリーラさんじゃないけど本当の意味で神々しさすら感じていたくらいなのに、今目の前で汗を拭いているユノ達は、いつものように小さな女の子にしか見えないね。


「それでえっと、何をしたんだ? 何かが変わった、というのは感覚でわかるんだけど」

「私には、何かが変わったかわからないんだけど……」

「モニカは初めてだから仕方ないの。リクは何度か……二度なの? とにかく、経験した事があるから感覚的に覚えているんだと思うの」

「だから、経験した事のあるリクはなんとなく空間が変わったってわかるんでしょうね。リクは知っているんだったかしら? 『神の御所』、これに聞き覚えは?」

「あーえっと……あぁ!」


 ロジーナに名を教えられて、記憶を探ると思い当たる事があった。

 確か、こちらの世界に来る前にユノと話した場所だったっけ。

 でも待てよ、二度って事は……あぁそう言えば、ロジーナに隔離された時もその『神の御所』に近いだったか、同じだったかって空間だったっけ。

 ……言われて見れば、なんとなく肌で感じる感覚があの空間と似ているような気がしなくもない。


 いやまぁ、おぼろげすぎてなんとなくそう思うってだけだけども。

 特殊な空間とはいえ、二回とも状況も特殊だったからその空間内の感覚を気にして覚えていられる程じゃなかったからね、仕方ないと思う。


「でもなんだか……言われて見れば感覚的には同じように感じはするんだけど、でも少し違うような?」


 言葉にしづらい部分ではあるんだけど、俺が経験した『神の御所』とはほんの少しだけ違うような気がする。

 気のせいと言われればそれくらいの、ほんの少しの感覚でしかないんだけども。


「良く気付いたの!」

「なんでそんなにユノが自信あり気なのよ。まぁでも、違うというのは確かよ」


 腰に手を当てて胸を逸らすユノにをジト目で見ながら、そう言うロジーナ。

 モニカさんは、ある程度の話を聞いてはいたらしいけど、それでも初めての事なのでキョロキョロとしている。

 まぁ、『神の御所』という空間に入ったのは初めてだから、よくわからないから半信半疑みたいな部分もあるんだろう。


「さっき『神の御所』って言っていたけど、違うっていうのはどういう……?」

「リクがこれまで経験したのとは違う空間、似て非なるものってところなの。近い性質だけど、その向きは逆方向を向いているの」

「向き?」


 結界内をユノとロジーナが何かして、『神の御所』という特殊な空間にした、というのはまぁなんとなくわかるけど。

 けど空間に対して向きというのはどういう事なのだろう?

 できるかとかどうやってとかは、多分聞いてもわからないから気にしない。


 さっきユノ達が朗々と発していた言葉に意味があったりしたんだろうけど、魔法じゃないとは思う。

 魔力が感じられなかったし。


「んー……」

「リクにわかるように説明しようとしたら、数十年かかるだろうからあまり気にしないでいいわ」

「数十年って……いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないかな?」


 ユノが首を傾げて悩むのをロジーナが止めたけど、俺ってそこまで頭が悪いと思われているのかな? 頭がいい方だとは思っていないけど。


「そもそも人間……リクが人間かは置いておいて。人間が理解できるかも怪しいわ。数十年って言ったけど、あくまでもし理解できるならってだけで、大半は一生を費やしても理解できない可能性の方が高いでしょうね」

「そ、そうなんだ」


 俺だけ特別に頭が悪くて理解できない、という意味ではなかったらしい。

 良かった、と安心するけどもう少し勉強はしておいた方がいいのかも。

 とりあえずで済ませていた日本での学校の勉強という意味ではなく、この世界の事とか色々とね。

 まぁそれは諸々が落ち着いてからでいいとして……。


「ユノ達以外は理解できないのはわかったけど、その向きというのが違ったら何かあるの? というか、『神の御所』の中にいるって事は……」


 日本からこの世界に来る際、ユノと話した時はわからなかったけど、ロジーナと戦った時は脱出した後が大変だった。

 一時間いたかどうか程度で、外では一か月近く俺が行方不明になっていたからね。

 一応、半透明な結界の外を見ると、他の人達がいるのが見えるけど。

 ロジーナが俺を引きずり込んだ時みたいに、すぐ隣にいたアマリーラさんやリネルトさんがいなくなる、という事はないのは少し安心かな。


「今は最小限の力だし、向きもリクが知っているのとは別だから問題ないわ。結界の持続の関係で、どうせすぐになくなるわよ」

「問題ないって言うなら、安心だけど」


 最小限の力と向きの関係などはよくわからないけど、ロジーナがそう言うなら大丈夫なんだろう。

 何か企んでいる風でもないし、ユノも頷いているからね。


「とにかく、なの。モニカには事前に少し話していたけど、結界の練習はこの空間を作るためなの。この空間なら、結界の内側に作っていても位相の関係でそのものには影響しないの。だからいくらでも暴れられるの」

「……リクが全力で暴れたら、絶対に影響しない、とは言えないのだけどね。私の造った空間から逃げ出したわけだし」

「えーっと……」


 少し違うらしいけど、ともあれここが『神の御所』という空間になったのだとしたら、結界は多分境界線としてあるだけで、叩いても殴ってもビクともしない……というか影響を与える事は出来ないんだろう。

 それこそ、ロジーナと戦った時のように、魔力弾でなんとかするくらいかな。

 激しく戦ったうえ、ロジーナから光線だとか衝撃だとかでも大丈夫だったしね。

 というかすごい今更だけど、そんな空間に穴を開けられる魔力弾って一体……?


「と、とにかく結界内……じゃない。空間内であれば結界を破壊できないと考えていいわけだよね。でも、内側からって?」


 そもそも結界は外から内側を守るためのものなのに、それを内側からの影響を心配するって。


「リクの使い方ならそうなの。多分初めて見たのがそういう使い方だったからなの。でも応用すればこんな風に別の空間を内側に作る事ができるの」

「それができるのは、私達のような存在くらいなものだから、応用と言えるかはともかくね。んで、内側からの影響を考えなきゃいけないのはまぁ早い話が、この空間でリクやモニカ達を鍛えるためよ」

「鍛える? でも、訓練場とかでちゃんと訓練しているし、わざわざ結界内をこんな空間にしてまでなんて……」

「必要ないと思っているのでしょうけど、ここでやるのは少し違うわ。いえ、実際にやる事は普段の訓練と大きく変わらないかもしれないけど」

「一部は違うの。特にリクは、色々とやらないといけないの。だから結界と『神の御所』が必要なの」

「うーん……ま、まぁ、とにかく俺にそれが必要なのはわかったよ」


 相変わらず説明を省く癖があるユノの言葉から何をするのか見当もつかないけど……そういう事なんだと納得しておこう。

 理解はできなくともね。


「ま、そこらの話は落ち着いてからね。モニカはわかっているわよね?」

「さすがに、未だにリクさん達の言う『神の御所』?というのがなんなのかはよくわからないけど、えぇ、わかっているわ。リクさんだけでなく、私達にも必要な事よね」

「それだけで十分よ」


 感覚で空間が変わった事がわからないためか、戸惑ってはいるようだけど、モニカさんが深く頷く。

 それを見て、ロジーナも満足そうに頷いた。

 私達、か……モニカさんだけでなく、ソフィーとかフィネさんとかも承知している事なんだろうな。


 むぅ、前もって話して欲しかった。

 ……クランが始まったり工作拠点を潰したりとかで忙しかったから、話す機会や余裕がなかったんだろうけど。


「何はともあれ、なの。ここで必要な事をするために、リクには結界を作る必要があったの」

「だから練習を急かしていたのか」

「えぇ。結界は境界をも定める力を持っているわ。ほんの少しだけど。だからその中でなら、別の空間にする事もできる」

「センテでも似たような事をリクはやったの。あれは手順が違うし、外でリクが……リクを乗っ取った意識が二つの光を使って、その影響で世界がほんの少し加速した結果だけど」

「世界が加速……?」

「そこも気にしなくていいの」


 また、俺には……というか人間にはわからない事なんだろう。

 俺が意識を乗っ取られた時、いや乗っ取られたかどうかすらあやふやな段階で、センテの街全体を多重結界で包んだ。

 その際、外と隔絶された事で内外での時間経過が少しズレたような話が合った気がする。


 あれは単純に結界を重ね過ぎた結果のように思っていたけど、実際は赤い光だの緑の光だのの影響があったのかもしれない。

 高次元魔力だったっけ、普段魔法を使うための魔力とは別の魔力を使ったわけだし、神様的な力とも聞いたから、それが影響したなら何が起こってもおかしくない、かな?


「なんにせよ、リクに何故必要なのかとか、どうして『神の御所』なのかとかの詳しい話はまたにするわ。そろそろ、空間そのものが崩れるから」

「空間が崩れる?」

「結界の持続が終わりかけているのよ。境界になっている結界がなくなれば、空間も維持できなくなるわ。維持するだけの力も、維持させるだけの創り方もしていないのだから」


 そうロジーナが言い終えた瞬間、見計らったかのようにキィィィィン――という再び耳をつんざく音が聞こえ、咄嗟に顔をしかめながら耳を手で覆う俺とモニカさん。

 その瞬間、さっきまで感じていた『神の御所』特有の感覚、言葉にできない何かが一瞬で消え去った。

 ……俺が気になるから、少しだけやって見せるって話だったけど、もっと気になる結果になっちゃったなぁ。

 まぁ、落ち着いたら話してくれるらしいし、ご褒美じゃないけどそれを聞くためにまずはここまで来た目的を果たしてからだね。


 ユノ達の話や、『神の御所』に驚いて、飛んでいるエルサに乗っている事すら忘れかけていた。

 とにもかくにも、そちらに集中しよう。


「もうすぐ目的地なの。話はやる事をやってからなの!」


 空間が戻ると共に、結界が消えて行く中、進行方向を示すユノ。

 そちらを見てみると、大きな建物とそちらを目指しているであろう地面に蠢く無数の影がかすかに見え始めていた――。



「……レッタさんは、とりあえずロジーナに任せておくとして」


 結界が完全に消え去った後、遠目に見える獣王国の王都を見据える。

 レッタさんは何故か……というか、おそらくユノとロジーナが『神の御所』を創り出す際のポーズ? みたいなのを結界の外から見て悶絶していたんだろうけど、鼻血を出しながら倒れていた。

 まぁそちらは気にしないでいいと思う、出血量が多いような気がするけど何やら笑い声が小さく漏れているし。


「アマリーラさん、リネルトさん。まずは王都に近付きます!」

「はっ! リク様の命、しかと獣王国へとお伝えいたします! まずは、あの有象無象の魔物どもが向かう先へとお願いします!」

「エルサ!」

「わかったのだわー」


 王都が見え、段々と近づくにつれて騒がしくなるエルサの背中。

 乗っている皆がそれぞれいつでも動けるよう準備しているからだね。

 地上では、魔物達がひしめき合っているのが見える。

 高度があるからってのもあるだろうけど、集合体恐怖症の人が見たら目をそらしたくなるような光景だ。


 それが、アマリーラさんが指し示す王都へと向かっているのがわかる。

 さらに、アテトリア王国の王都やセンテ、ルジナウムなどでは見かけなかった空を飛んでいる魔物もいるね。

 エルサの方が高く飛んでいるためか、向こうからは発見されていないようだけど……というか、全ての魔物が獣王国王都へまっすぐ向かっているようで、周辺の警戒をしているような感じではない。


「もしかしたら、アテトリア王国で大量の魔物が押し寄せてきた際にも、空から見下ろしたら似たような光景だったのかも……」

「はっきりとはわからないけど、魔物の種類なんかは違っていても、光景としてはそうなのかも。ほら、点のように見えるけど赤く光っているわ」




いよいよ、獣王国王都に到着間近なようです。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。

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