領土占領も後々問題があるようで
「アテトリア王国は既に広大な国土を持っている。そのうえ帝国の領土まで占領、統治までとなるととてもではないが持て余す。それに、今回は帝国内部の事情はあれど、占領地での民の扱いなどはよくよく考えねば内乱が頻発しかねないからな。そんな政情不安になるのが確定な場所を喜んで受け入れる程、度量は広くもない。できる事なら、帝国には帝国のままで存続して欲しい」
「まぁ、ある程度向こうへの条件やこちらに有利な条約、損害などへの補填などをさせる必要はありますが」
「そういうものなんですね……」
戦争で国同士が戦う……単純に帝国を占領してアテトリア王国が飲み込む、みたいに考えていたけど。
考えてみれば、帝国に暮らしていた人達が納得するかとか、絶対禍根は残してしまうことになるだろうとか、ちょっとだけ考えても色々あるだろうというのに気づいた。
歴史シュミレーションゲームみたいに、攻め込んで占領して国力を上げてまた別の場所へ攻め込んで――みたいなわけにはいかないか。
ゲームとは違うのは当然か。
「前皇帝に戻した後は、おそらくしばらく属国のような扱いにするのが一番だろうが……これは今ここで論ずるべき事ではないな。私自身、国土をもっと増やしたいなどの野望もない。面倒なだけだし、現状の国土で精いっぱいだ」
「戦争後も色んな多くの事を考えないといけないんですね」
「まぁ、女王としては当然の事だ。だが、まずは目先……つまり戦争に勝利せねば意味はないがな」
俺は戦争にどう勝つかとかくらいしか考えていなかったけど、女王様としてはその後の事も考えないといけない……いや、もしかしたらもっと、多分最悪の想定とかもしているのかもしれないね。
ただ戦う事に集中していればいい俺とは違って、アテトリア王国の全てが姉さんにかかっているのだから。
……少しでも、その重い荷物を肩代わりできればとは思うけど、他に俺ができる事はあるんだろうか?
ただそれとは別で、クズ皇帝と違って姉さんがさらに大きな国土を欲していたりなどという野望がない、というのは安心していたりはするけども。
「……そんな顔をするなリク。リクのおかげで、状況はかなりこちらに有利だ。戦争を考えている中であるはずなのに、明るい情報が多い。もしリクがいなければ、もっと我が国は疲弊したうえで事を構えねばならなかったかもしれぬからな。最悪の場合、戦争にすらならずに国はなくなっていたかもしれん。ヒュドラーやレムレースなど、あの状況を覆せるのはリク以外にいなかっただろう」
「ヒュドラー、レムレースですか……!? 私がいない間に、そのような魔物が……」
「うむ。まぁその辺りの話はあとでな」
ハーロルトさんもさすがにというか、当然ヒュドラーやレムレースの事を知っているみたいだ。
実際に見た事はなくとも、知名度は高いんだろう……名前と特徴とか強さとかっていうのは、ちょっと調べるなり冒険者ギルドで聞けばわかるようだしね。
「わかりました。とにかく今は、帝国との戦争に打ち勝てるよう、全力で取り組みます」
先程の話で、俺が沈んだ表情になっていたから、姉さんは元気づけようとしてくれたんだと思う。
重い荷物の肩代わり、なんて考えておきながら心配をかけていたらいけないと思いなおし、顔を上げて姉さんやハーロルトさんに向かってしっかりと頷いておいた。
「して、ハーロルト。帝国内に潜入して直に見た者からとしては、猶予はどのくらいだと感じた?」
それまでとは打って変わって、鋭い視線をハーロルトさんに向ける姉さん。
猶予……つまり戦争のための備えができる期間とか、開戦までどれくらいか、と言ったところかな。
「そうですね……内部、帝国上層部への侵入はできませんでしたが、軍は着実にアテトリア王国方面に集結しつつありました。以前にも似たように軍を集結させていた事がありますが、今回は確実に事を運ぶためか、速度は早くありません。ですが、その分魔物の方の準備も整えているようで……」
「日数をかければかける程、魔物の復元、そして戦力として加えられていく、か……。こちらも準備や備えはできる限りの日数が欲しいのはもちろんだが、急がせる必要はあるな」
「はっ! 帝国が開戦へと踏み込むまでですが、おそらく早くて二十日程でしょうか。遅ければその倍かと。あくまで、私の感覚であり、実際に向こうの上層部が何を考えているのかわからないので、時期は前後すると思われますが」
「それでも、ある程度の見通しを得られたのは大きい。ふむ、二十日か……宣戦布告、もしくは最後通牒が来るのはその少し前か。どちらにせよ、急がねばならんな……まさか、どれだけ愚かだとしても現皇帝が宣戦布告などを怠る事はないだろう。念のため、最悪の想定をして早めに準備は進めるがな」
「はっ!」
要は、宣戦布告でこれから戦争を仕掛けるよ、となるまであと少しってわけだ。
話しを聞いていて二十日もあるのかぁ、なんて俺は漠然と考えたけど……実際はこれから軍を動かしたりとかまだやらなければいけない事もあるため、全然時間に余裕があるわけじゃなさそうだ。
ちなみに、宣戦布告などをしなければどうなるかというと、場合によっては周辺国から非難されたうえ、戦中も戦後もかなりの損失が生まれるだろうという事らしい。
早い話が、宣戦布告すらしないような国だから、周辺国は中立ではなく敵対しても構わないだろうとか、そんな感じだね。
一応、国際条約的なのはある程度あるみたいだから、さすがにクズ皇帝がどれだけ自分勝手で帝国上層部を力で無理矢理掌握していたとしても、宣戦布告や最後通牒をしないなんて事はないだろう。
まぁ、姉さん達はその可能性も考えて行動していくみたいで、関所……つまり国境方面は既に固めつつあるけど、さらに強化する方面で話をしていた。
「苦労を掛けたな。ハーロルトはしばらく休め」
「いえ、有事が迫っております。帝国の現状を見たのもあり、粉骨砕身、アテトリア王国と陛下のために尽力する所存です」
「そのためにも休めと言っている。アメリも心配していたぞ?」
「そ、そこでアメリを引き合いに出すのは、卑怯ではありませんか?」
「リクが協力してくれて、こちらは勝利が確定していると言っても過言ではない。だがそれでも、何が起こるかわからないのだ。しばらくはアメリと過ごしておけ」
「は、はぁ……」
アメリさんを出されたら、ハーロルトさんとしても弱いらしい。
故郷で一緒に育った人、とかだけでなく男女的にも色々あるっぽいし、姉さんは以前から邪推していたからなぁ。
ハーロルトさんの様子を見るに、満更でもない様子だしアメリさんもそれは同じだ。
姉さんは大袈裟に勝てるような事を言っているけど、戦争だし何が起きるのかわからないというのはその通り。
絶対に生きて戻れる保証がないんだから、今のうちにお互い色々と話しておいた方がいいだろう、というのは俺も同意する。
「アメリさん、話すとハーロルトさんの事ばかりですよ? それに、ハーロルトさんがいない間、暇で仕方ないって言っていました」
「あいつは……リク様になんて事を話しているんだ……」
「城下町に繰り出して、お店の人とかとそれなりに交友をしているみたいですけど、やっぱりハーロルトさんが近くにいてくれる方がいいと思います。今は少しでも」
ララさんとか、よく話し相手にしていたみたいだからね。
でもやっぱり、アメリさんとしてはハーロルトさんと話したいだろう、これから先の事を考えると、積もる話もあるだろうし。
「わ、わかりました。リク様にまで言われてしまえば、私に反論はできませんね……」
そう言って苦笑するハーロルトさん。
「リクは、その着の使い方をもう少し自分、もしくはモニカに向けた方がいいと思うが……まぁ、そういう事だ。重要な任務をこなして戻って来たばかり。なに、もう少しくらいならばハーロルトがいない穴を、ヴェンツェルにでも埋めさせる」
「……ヴェンツェル様が、逃げ出さないかの方が心配になってしまいそうですが。いえ、陛下のお心遣いありがたく」
礼をするハーロルトさん。
俺に関しては……確かに最近、あまりモニカさんと話す機会が少ないなぁと、言われて思った。
いやまぁ、クランの事とか色々と話はしているんだけど、何でもない事というか他愛のない事で笑い合うようなのって減ったなぁ、という感じだ。
ハーロルトさんに言った事もは、俺にも当てはまるか……もう少し、余裕のある時はモニカさんの事を気にしておいた方がいいかもしれない、嫌われたくないしね。
「まぁ、戦争が想定される、どころか確定的だ。変なフラグは立てないようにな……」
「ははは、気を付けます……」
この戦争が終わったら、みたいな事だろうか。
前世が日本人である姉さんらしい言いように苦笑する。
「……リクなら、フラグなど全てなぎ倒しそうではあるが」
「フ、フラグ……とは一体……?」
ハーロルトさんはフラグの意味がわからず、頭上にハテナマークを浮かべていたけど、わからない方がいいと思い、俺も姉さんも特に説明しない。
ともあれ、誤魔化しつつハーロルトさんと二人で、姉さんの執務室を辞す。
ハーロルトさんは自分の家、というかお屋敷? に向かうようだったので、そこでアメリさんと話をするつもりなんだろうと、手を振って見送った――。
――ハーロルトさんからの情報を元に、さらに姉さんが宰相さんを始めとする文官さん達と検討し、戦争への備えや準備を急がせる方針となり、王城がさらに慌ただしくなった翌日。
「えーっと、もう何度か話はしていますけど……」
何度目かになる、集まった冒険者さん達の前に立っての宣言というか演説というか……とにかく、大勢を前にしての話をした。
というのも、今日からクランが本格始動。
今日ばかりは一部、クランの建物周辺の警備を担当している人達以外の全員が依頼などを受けず集まっている。
まぁその警備をしている人達にも、声が届くようになっているから、実質的には総勢二百名近く……正確には百八十六人、三十二パーティが建物内に集められているわけだ。
ちなみに、パーティ数は平均で一パーティ五人くらいだけど、パーティを組んでいない人もいる。
そういう人は後で、他のパーティなどに編成されたりするけど、まぁそこは本人の希望次第かな。
冒険者の依頼とかはこれまで通りでやってもらうとしても、いざ戦争になればパーティ単位だったり、さらに複数のパーティでの行動が求められるからだ。
単独で動く可能性はあるかもしれないけど、今のところは想定していない。
「お疲れ様です、リク様。こちら、冒険者ギルドにある各員の実績になります」
「実績などから、最適と思われるパーティ間の組み合わせはこちらです」
「あとこちらは、ソロでの活動がメインのクラン員、クラン員になる際にパーティを抜けてソロになった方の、各パーティとの相性を想定したものです」
「想定としては、期間が短いので全てのパターンを試すのは難しいでしょうが、エアラハールさん協力の下、各組合せでの模擬戦などを行い、試していく予定です。ご確認ください」
「は、はい……ありがとうございます」
クランにある俺専用らしい執務室、要はクランマスターの部屋になるわけだけど、クラン員となった冒険者さん達への話を終えた後、その執務室で男女二名ずつ計四人から束になった書類を渡される。
書類を渡して来たのは、冒険者ギルドからの出向事務員で、元々ギルドの方でそういった仕事をしていた人達。
男性二名は、トルスタルさん、コクリアスさん、女性二名はニルヌカニアさんとカレリーさんだね。
各クラン員の実績がまとめられたのを渡して来たのがニルヌカニアさんで、組み合わせ票を渡してくれたのがコクリアスさん。
各パーティにソロのクラン員を合流させるための相性票は、カレリーさんによるもので、コクリアスさんは模擬戦の提案などをしてくれた。
冒険者ギルドから出向してきてくれた人達は、もちろんながらギルドで得られる情報に詳しい。
さらにマティルデさんからできる限りの情報閲覧の許可が得られているため、活動実績などを参考にできるため、クラン員となった冒険者さん達をまとめるための助けとなってくれるようだ。
書類を受け取り、全部確認しなきゃなぁと思いつつ少し気分が重い。
書類というか事務作業的な仕事からよく逃げ出すヴェンツェルさんの気持ちが、少しわかったかも。
他にも部屋には複数の机が用意されており、モニカさんやナラテリアさん、カヤさんなどもいる。
モニカさん達は、クランの運営資金の入出や冒険者さん達への報酬などの確認をしているみたいで、あちらもあちらで大変そうだ。
「うーん……ミラルカさんはどの冒険者パーティとも、不明点が多いようですけど?」
「まだ冒険者になりたてですので、実績がなく判断が難しいのです。実力は、冒険者になる際の試験で備えていると判断されていますが……」
「成る程」
ミラルカさんは、俺が冒険者になるよう勧めた人だけど、依頼という依頼をまだ受けた事がないからね。
訓練は王城の兵士さん達や、エアラハールさんから少しだけ手ほどきを受けて、実力としては短期間ながらも確実に付けているようではある。
けどどのような依頼をどのようにこなしたか、などの実績もなく情報としてはほぼないに等しいため、どういったパーティに編成させるのがいいのか、などの判断はできないか。
答えてくれたコクリアスさんの言葉を証明するように、パーティとの相性票は大半が不明か、様子見など一度試してみないとわからないような事が書かれている。
まぁ兵士さん達とも打ち解け合って訓練をしていたから、ある程度人となりとしてはコミュニケーションが取れる人物なのはわかるけど……パーティに入り込めるかは別だからなぁ。
クラン員になる前からパーティを組んでいる人達は、当然そのパーティで完結し、戦い方なども定まっている事が多い。
そのため、後から一人新人を追加してバランスが崩れたりする可能性もあるため、中々難しいところだ。
本人のコミュニケーション能力というより、経験の方が重要か。
「とにかく、早いうちに一度模擬戦などで色々と組み合わせを見て行かないといけませんね」
「はい。エアラハール様は既にクランの中に詰めておられ、さらに一部の冒険者が集っているようですが……」
何やら、言葉に詰まるカレリーさん。
「ん、どうかしたんですか?」
「いえ、元Aランクの冒険者という事もあり、教えを乞いたいと願う人は多いのですが、既に何人か逃げ出そうとしているようで。訓練が激しいと言いますか、最初から課した訓練が厳しすぎのようです」
「さらに、リク様と共にクランを盛り立てるならばこれくらい、とアマリーラ様とリネルト様が参加したクラン員に発破をかけ、激化しているようです」
「あの人達は……」
エアラハールさんの訓練が厳しいのはまぁわからないでもない。
戦争に備えてという側面もあるし、冒険者をするだけでも魔物との戦いが多く、命を懸けているわけで生存のためと考えれば当然だと思う。
けど、そこにアマリーラさん達が加わったら……なんとなく想像できるけど、訓練がそもそも生存できるかどうかの厳しさになってもおかしくない。
アマリーラさん、喜々として参加者達を殴り飛ばしてそうだし……。
訓練を課す側の人達は、やたらと張り切っているようです。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。






