隔離した人達に関する報告
「クォンツァイタの魔力を蓄積してくれるのはありがたいけど……この中の全部が魔力で満たされた状態だったわ。つまり、どういう事かわかる?」
「えーっと……?」
何を言いたいのかわからなくて、首を傾げたらフィリーナはため息とともに持っていたクォンツァイタを袋の中に入れなおして、額に手を当て首を左右に振った。
「クォンツァイタはそもそも、大きさにもよるけど平均的な物で一つを満たすのにエルフが数人がかりなのよ? それを一瞬で、しかも袋いっぱいに詰まった物を満たすなんて……それにおそらくだけど、クォンツァイタが魔力を吸収して蓄積させなかったら、部屋の中はもっとひどい事になっていたと思うわ」
「ど、どれくらい……?」
「そうね。壁が破壊されるくらいはあってもおかしくないんじゃないかしら。幸い今はヒビすら入っていないようだけど……」
「そ、そうなんだ……」
エルフ数人で一つ満充填できるクォンツァイタを、袋の大きさから……えっと、大体二十個くらいかな? 入っている全てのクォンツァイタを満たしていたなんてなぁ。
単純計算で百人以上のエルフの魔力という事になるわけで。
それで、エルサが満足する以上の魔力と、部屋が散らかる程っていうのは……。
うん、色々とわからないというか理解できる範疇を越える気がしたので、あまり深く考えないでおこう。
魔力の調整に関しては、ちゃんと考えて放棄しないように気を付けるけど。
「……考えるのを放棄したわね? はぁ、まぁいいわ。人的被害がなかったし、クォンツァイタに魔力が満たされたのはこちらとしても助かるから」
何故俺の考えている事がわかったのか、とは思わない。
自分でもわかりやすい程、目が泳いだり空笑いが出ていたからね。
「クォンツァイタがなかったら、もっと酷かったのね。予想以上だったわ。まぁ私達が危ない状態になったら、リクさんは止めてくれたんでしょうけど」
「そうね。でも今度から、リクがエルサ様の魔力を補充する時は、周囲に影響がない広い場所でというのが最低限だけど、その周りには大量にクォンツァイタを配置しておこうかしら……?」
なんて呟くフィリーナ。
それ、傍から見たら儀式に見えないかな?
中央で俺がエルサに魔力を流しつつ、周囲に配置したクォンツァイタに魔力が蓄積されて一石二鳥だから、効率的ではあるんだろうけどね。
実際にどうするかは、ちょっとちょっと相談させて欲しいところだ……怪しい儀式に見られるのは嫌だし。
まぁ、俺の意見は多分却下されそうではあるけど。
「さて、とりあえず色々と言いたい事とかはあるけど……エルサ様の魔力だけでなく、図らずもクォンツァイタの魔力も満たされたわね。あぁそうそう、それと一応報告」
「ん?」
俺の魔力に関してはともかく、少しだけ落ち着くように適当な話をしてから、立ち上がったフィリーナ。
用が済んだからクォンツァイタを運ぼうという事らしいけど、何やら思い出したようだ。
「爆発する人に関してよ。リクが見つけて、隔離していた人がいたでしょ? それと、新たに魔法具で見つけた疑いのある人達も、あの隔離場所に連れて行っているけど」
「あぁ、うん」
俺が隔離した人はともかく、魔法具で判明した人に関してはあくまで疑いがある状態だけど、改めて隔離してから詳細を知らべて、色々と洗い出すようになっている。
まぁ、帝国との関わりだなんだってところだね。
複数の魔力を持つ人を判別する魔法具だから、つまりそれは通常ではあり得ない人というわけで、それがどういう経緯でそうなったのかなど。
現状では、帝国との関わりがない限り一人の人物が複数の魔力を持つことはあり得ないわけだし。
「まずは最初にリクがリクが見つけた人物からね。発見時点で、ほぼ生きているとは言い難い状況だったけど、完全に生命活動が停止したわ。本人が元々持っていた魔力が完全に消失して、体内に注入されていた別の魔力も霧散していたわ」
「そう、なんだ……」
俺が発見した時、アルネに見てもらった時点ですでに無理矢理生かされているに近い状態だった。
その人も、もう正気を保っているどころか生きて意識があるとも言えないように見えたし、仕方ない事なんだろう。
爆発するための仕掛けでもあるし、最初から帝国側は生かそうという気は一切なかっただろうし……。
「調べてもらったけど……本人の持ち物などは特になく、これと言ってどういう人物かを示す物もなかったわ。着の身着のままだったわけね。その着ている物も、服と言えるのか怪しいものだったけれど」
「確かに、ほとんどぼろ切れを纏っているような感じだったね」
どんな人かはわからないし、話せるような状態じゃなかったから思い入れみたいなものがあるとは言えないけど、やっぱり犠牲になったと言えるような話を聞くと、少し気持ちが沈むね。
まぁこれから戦争に参加するって表明しているのに、そんな心持じゃ危ういような気はするけど……。
気持ちを切り替えなきゃね。
「人物としての詳細はわからないけど、今のところこの国の人間ではないだろうと言うのが大方の予想ね。証拠となる物はなかったけど、状況的にね。これまでを考えると、あり得ないとは言えないけど……」
爆発するための条件として、外部から自分の物ではない魔力を注入する必要がある。
方法はわからないけど、帝国の研究で行われているわけだから、おそらくそれはアテトリア王国内では行われていないんだろう。
魔物の復元などの施設を作っていたりはするけど、重要な研究はさすがに目の届きやすい場所で行われるはず……というのが、フィリーナだけでなく調べてくれた王国の人の見方だそうだ。
そして、そういった研究を施すのには自国の人間を使うのが一番だとも。
だからあくまでも予想ではあるけど、帝国の民が使われたんじゃないかという事。
ただし、ナラテリアさん達のような例もあるから、こちらの国から連れていかれた人という可能性も考えて、調べを進めてもいるらしい。
とはいえ、今後確実に身元がわかる事はほぼないだろうとも考えられているとか……どこの誰かわからないわけで、それを調べる術がほとんどないとも言えるか。
「そういうわけで、リクが発見した人物についてはもう爆発するような心配はないわ。完全に魔力が消失していたから、改めて誰かの魔力、もしくは複数の魔力を注入してもね」
空の器に、水を注ぎ込むようなもので体内で変化やバランスを取るような動きはなく、ただ単純に注入された魔力がいずれ自然の魔力に溶けて行くだけらしい。
あくまでも、爆発するのは魔力を注入された本人の魔力はあるのが絶対条件なんだろう。
じゃなかったら、かろうじて生きている状態にする必要はないからね。
死体にも同じ事ができて、さらに動かせるならそれこそゾンビを作り出すようなものだし。
「あとは、完成した魔法具で調べて複数の魔力反応がある人物についてね。こちらは念のため、防御を固めた……要は、すぐ近くで爆発されてもある程度防げるワイバーンの鎧を着た兵士が対応しているけれど」
「あぁ、それはさっき見たよ。クランの建物を見る帰りだったけど……ちょっとした騒ぎにはなっていたかな」
「まぁそうよね。王都の人達全員に爆発する可能性のある人物がいるって、周知できないから」
ここ最近の爆発騒動に対して調べている、などは一応察せる事はできるだろうけど、王都にいる人達を調べてとか、こちらがわかっている事を周知させたら住民同士で疑心暗鬼になりかねないだろうしね。
それに、そんな事をしたらおそらくまだ王都内に潜んでいるであろう、爆発を含めて帝国からの工作をする人達にこちらの動きを報せる事にも繋がる。
魔法具を使って大々的に調べているから、ある程度は向こうも察知しているとしても、全てを教えるわけにはいかないとかなんとか……だったはず。
「ちょっと、やり方は考える必要があるかなと思う。マティルデさんも、騒ぎにまでなっているのは問題視していたようだし」
「そうねぇ……どれだけの騒ぎかは私は見ていないけど、あまり騒がれ過ぎるのも良くないのはわかるわ。魔法具の問題もあるから、できるだけ今のままでやるしかないんだけど……改良、はカイツやアルネに任せるけど、調べ方についてはこちらで検討してみるわ」
「うん、お願い」
「フィリーナ、魔法具の問題っていうのは? ただ、魔力が複数あるかを調べるものじゃないの?」
「それは簡単に説明すると……」
モニカさんの疑問にフィリーナが答える。
なんでも、魔法具はできるだけ屋外で使うのが望ましいらしい。
それは、屋内など空気と共に魔力が循環しづらい場所だと、色んな魔力が混じってしまって判別がしづらいからとか。
屋内で準備して、最初の数人程度なら大丈夫かもしれないけど、多くを調べるのには向いていないらしい。
調べられる人、調べる人、それに自然の魔力などが部屋の中などに籠ってしまい、まだ急造の魔法具だからこそ精度がいいとまでは言えないからとも。
だから、広く魔力が混ざらない外の方が調べるには適していると……。
俺なんかは外だとむしろ空気に混じって様々な魔力がありそう、なんて考えてしまうけど、実際はそうでもないみたいだ。
さすがに、数日で作った魔法具に高い性能を求めるのは酷な事なんだろう、というのはわかるけども……かなり急いで作ったみたいだしね。
「まぁ、騒ぎにならないようにとい配慮が必要なのはわかったわ。それで、魔法具で判明した複数の魔力を持つ人達。リクが見たというのもさっき私の方でも報告を受けたけど、合わせて三人ね。全員、例の隔離場に連れて行って、厳重に見張っているわ」
「三人もと見るか、たった三人と見るか……」
多いか少ないかは考え方によって違うかな?
王都全体で考えると、規模は大きいとは言えないけど……複数の建物を吹き飛ばし、燃やし尽くす爆炎を撒き散らすのが三人分。
言い方は悪いけど、三発あると考えたら被害は相当出てしまうだろう。
ただ、それだけでアテトリア王国に対して致命的な損害を与えられるか、と考えるとそれもまた微妙ではある。
「まだ他にもいるだろうから、そこはまだあまり考えないでおくわ。ともあれ、この三人……うち二人は私の目で見て確認したけど、少し刺激を与えたら爆発するように見えたわ。最初にリクが発見した人物程ではないけど、ね」
「じゃあ、複数魔力を持っている人はほぼ間違いなく、爆発する可能性を秘めていると考えていいのかな?」
「そうね……おそらく、きっかけを与えればバランスを崩して爆発するよう、なにかしらの措置がされているはずよ。複数の魔力というのは、爆発する以外にも持っている者はいるけど……」
複数の魔力はつまり、自分以外の誰かから魔力を注がれているという事。
ただこれは魔力を注ぐだけで、すぐ問題が起きるわけじゃないらしい、
人間一人分の魔力、もしくはエルフに対してならエルフ一人分の魔力を注いだ程度では、異物として体外に出されて終わるだけの話だとか。
まぁ多少体調崩すくらいの事はするみたいだけども。
だから、爆発するような措置にプラスして、体内に定着して危ういバランスにするための何かがあるとフィリーナは言っていた。
おそらくそれが研究によって得た措置で、大量の魔力も必要だろうという事みたいだ。
大量の魔力と言えば、レッタさんやツヴァイ、クラウリアさんにアンリさんとかもそうだし、何かしらの措置をしないといけないのは間違いないようだけど。
レッタさん達も魔法具で調べたら、複数の魔力があるのを確認している。
ただしレッタさん達に関しては注ぎ込まれた元の魔力が多すぎる事や、レッタさんの特殊能力である魔力誘導の助けがあって、低い確率で定着しているという状態だけど。
でもそれでも、バランスを崩しても爆発まではしない。
ツヴァイの所にいた研究者の一人が、護送中に血を噴き出して亡くなったとか、アンリさんの話やレッタさんの話で、魔力が定着せずに呑まれて生きられなくなった……という話は聞いているけども。
「まぁこれ以上は爆発させるための手段の研究に繋がるから、あまり知りたくはないけど……ともかく、危ういバランスで成り立つような、それでいて何かのきっかけで体内から爆発するよう仕向ける、なんて胸糞が悪くなるような措置がされているのは間違いないわ」
「そうだね……そういえば、今日俺が見た騒ぎでは、魔法具で調べて連れていかれる人は、前に発見した人物とは違ってちゃんと意思を持って話していたようだけど?」
「それに関しては、おそらく怪しまれないために一部はある程度、通常の人と変わらない活動ができるようにされているみたいね。おそらくだけど、何かの仕掛けを作動させないと、外から魔力の刺激を受けても爆発しないようになっているんじゃないかしら? 一種の安全装置ね」
「確かに、そういった何かがないと簡単な刺激で爆発しそうだし、扱う方も危険だよね」
人を人とも思わない研究でもあるから忘れそうになるけど、その研究する人や運用する人が運次第で爆発に巻き込まれるなんて、危険すぎて扱いづらい。
それこそ、無差別にとかならまだしも、一応向こうは計画的に爆発騒動を行っているみたいだし、フィリーナが言うような仕掛けがあるのは当然だろうね。
「簡単な刺激って言っても、人間に対して私のようなエルフや、リクが触れるのは実際の所、簡単で済む刺激じゃないのだけどね。まぁいいわ。それに、その安全装置があると仮定しても、私の目で見たら危ういバランスだから、触れると何が起こるかわからないわ。何が、といっても結局爆発するんでしょうけど」
「なんにせよ、危険な事には変わりないって事ね。できるだけ魔力を近づけたくないし、近付けたら爆発する可能性がある……対処が難しいわ」
「今のところ、捕まえようとしてもただ暴れるだけで済んでいるけど、これが集団で戦闘行動を起こすとかになったら厄介ね。そちらの対処は、今アルネ達に考えさせているところよ。確か、安全装置を強化の物に作用させる方法が取れるかもしれないとは言っていたけども」
何はともあれ、王都での爆発騒動だけでなく、これからの事も考えると対処法を考え出すのは必要ってわけだね。
向こうは人の命をなんとも思っていないんだから。
魔物だけでなく、刺激すると爆発する集団なんてのが出てきてもおかしくないし、その相手に近付くといつ爆発するか危険なうえ、離れて魔法で対処というのも簡単にはできないと……。
絶対に認められないけど、本当にとんでもない事を考えてとんでもない事をしようとしてくるから、絶対有利に進めようとしても油断できないね。
「とりあえず、私からの報告はこんなところね。また何かわかったら、報告するわ」
「うん、ありがとうフィリーナ。爆発する危険とかもあるから、気を付けて」
「もちろん心得ているわ。その可能性がある人物に対しては、細心の注意を払って接するようにね。それじゃ」
報告は終わったと、満充填されたクォンツァイタの袋を抱えて、フィリーナが部屋を出て行った――。
王都内だけでなく、戦争で使う手段として厄介な方法を持っているのは間違いないようです。
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