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神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移  作者: 龍央


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1885/1950

リクの下に集まる者達(一部)



「……えーっと?」


 大きな玄関を出てすぐの光景を見て、なんとか絞り出したのがそれだった。

 というか、よくわからずそれくらいしか声を出せなかったというのが正しいかな。


「これは一体……?」


 俺と同じく、隣のモニカさんもその光景を見て固まって戸惑っているようなので、俺だけじゃなかったと感じて少し安心。

 いやいや、安心している状況じゃないね。


「うむ。まだ全てではないが、今日リクがここに来る事は報せていたからね。一目見る、または挨拶をと集まったんだろう」

「……狙っていましたね?」

「……なんの事かしら? ふふ」


 ジト目を向けるとそっぽを向いてとぼけるマティルデさんだけど、笑いが堪えきれていない。

 おそらく俺やモニカさんが驚く反応を見たくて、そう仕向けたんだろう。

 外で広がっていた光景、それは……多くの、多分百人近い人達が玄関を出てすぐの場所に整列していた。

 軍の兵士さんのように一糸乱れぬという程ではないし、服装も含めた装備も様々だけど。

 

 ルギネさん達リリーフラワーのメンバーなど、よく見知った人達が先頭になり、玄関から続く門への道……というよりちょっとした庭のような場所で俺を見上げている。

 ……玄関は、階段という程ではないけど、数段上がった少しだけ高い場所だからだろうけど。


「集まったのは仕方ないと思いますけど、これどうしたらいいんでしょうか……?」


 整列している冒険者さんの視線は全て俺に注がれているようだし、何やら期待するような目の人もいる。

 集まった理由が理由だから、そうなるのはちょっと緊張するけど仕方ないとして……ずっとこのまま並んでいる状態っていうのもどうかと思う。

 そんなわけで、わかっててか俺の少し後ろに下がったマティルデさんに小声で聞いてみる。

 まぁ、皆が何を期待して、どうすればいいか全然わからないわけじゃないんだけど……。


「皆、リク君からの言葉を待っているようね。何か言ってあげれば、盛り上がるんじゃない?」

「盛り上がる必要はあまりないと思いますけど……」


 近所迷惑だし……と思うけど、よく見れば離れた門の向こうで冒険者さんではない人達が、覗き込んでいるのが見えた。

 野次馬というか、冒険者さんが大量に集まって来たから、何事かと思って見に来たとかだろうか?

 まさか、近隣住民の人が俺を見に来たなんて事は……これまでの事を考えるとあり得ないと言えないのがなんとも。

 それにしても、マティルデさんの答えは俺の予想通りで、やっぱり俺が演説よろしく何か言わないと収まらないようだ。


 なんとなく、センテで見た侯爵軍、王軍、冒険者の連合軍を前にシュットラウルさんが演説していたのを思い出していたし、そうなんだろうなぁと思っていたけど。

 一応、センテでの戦いの時に似たような事はやっているし、同じような雰囲気だからね。

 というか出撃前みたいにやる気満々で、今にも走り出しそうな雰囲気な人もいるし……まだクランが始まる前だし、戦争も始まっていないですからね?

 ここにいるって事は、帝国と事を構えるっていうのは皆理解して納得済みなんだろうけど。


「今後の皆のやる気にも関わる可能性もあるわ。ここはビシッとリク君が格好いいところを見せればいいのよ」

「格好いいところって……」


 それを期待しているのは、どちらかと言うとマティルデさんのような気がしなくもない。

 モニカさんの方に視線をやったけど、最初の驚きからは抜けたようだけど、まだ若干戸惑っている感じもあり、さらに俺に任せる感が出ていたのでどうにかするしかないか。


「……上手くできるかわかりませんけど。はぁ……んんっ!」


 溜め息と共に、戸惑いやら何やらを吐き出し、わざとらしく咳払いして気持ちを切り替える。

 シュットラウルさんやマルクスさん、それにヴェンツェルさんとかみたいに大勢を前にして格好よく決めたり、士気を高める言葉が出せるかはわからないけど……。

 俺は俺らしく、自分の考えと言葉を伝えよう。


「えーっと……ここに集まってくれている人達は、これからクランとして一つの集団になります。とはいえ冒険者であり、皆さんそれぞれにこれまでの活動ややり方もあるでしょうから、どんな事でも一つの集団として行動をしろと強制するものではありません。ですが、皆さんご存じの通り今後多くの冒険者の力が必要になる場面があるはずです」


 まぁ、戦争の事だな。

 ここにいる冒険者さんには、全員クランへの加入前の意思確認などで、ある程度帝国と事を構える可能性なんかも伝えてあるはずだから、明言しなくても伝わっているだろう。

 はっきりと帝国とか戦争と口にしないのは、門の向こうからこちらを見ている人達がいるからで、冒険者ではない人達にまで報せてしまう事を避けたから。

 親しい人ならともかく、王都に暮らす一般の人には姉さん……ひいては国からの公表や報せがあるだろうし、俺から広めてもいい事はなさそうだしね。


「あくまでここでは、冒険者同士の交流や情報交換をしつつ、依頼などをこなして下さい。自分達で依頼を受領する事も特に禁止しませんが、クランには中央冒険者ギルドのギルドマスターから、様々な依頼が持ち込まれる予定です」

「……そこで私か」


 こうなれば自棄ってわけではないけど、マティルデさんも巻き込んじゃえ。

 というか、マティルデさんが仕掛けた事でもあるっぽいから、その責任の一旦みたいなものはになってもらわないとね。


「……ここ最近、王都周辺を騒がせている魔物の集団は皆わかっていると思う。それに関しては、冒険者の協力、王国兵士の協力、そして何よりここにいるリクの協力を得て、ほとんどが討伐された」


 一呼吸程溜めて話し始めるマティルデさん。

 俺の名前が出た部分で「おぉぉぉぉぉぉ!」と、波のように冒険者さん達から声が上がった。


「だが、まだまだこれからも油断できる状況ではない。この中にいる一部の冒険者は経験しただろうが、絶望するほどの魔物の大群、強力な魔物が群れている状況等々だ」


 ヘルサルや王都、ルジナウムなどの事でもあるし、センテでの事でもある。

 ルギネさん達もそうだし、他にもセンテとかで見た覚えのある人達がいるからね。


「それらが今後起こらないとも限らない! だから私は……」


 それから、マティルデさんが優先的にクランに対して冒険者としての依頼を回す事。

 報酬などは仲介する以上クランや冒険者ギルドにも割り当てられるが、その割合がクランからの依頼の場合は冒険者側に多く配分される事なども話していた。

 要は、冒険者ギルドから何度が高めにはなってしまうけど、様々な依頼がクランに持ち込まれ、それを俺達クラン側が所属する冒険者に割り振る形になるってわけだ。

 冒険者さんとしては、安定して依頼を受けられて報酬が増える。


 対してクランは仲介手数料を少額ながら頂き、運営資金にしたりなどができる……けど、俺自身の資金がとんでもない事になっているっぽいので、そこはあまり重要じゃないし必要性も少ないため、割合としてはかなり少なくするようマティルデさんと話してある。

 まぁクラン自体、本当に他国でのクランとしての機能を持ちたいからとかではなくて、帝国との戦争のためだからね。

 それが終わった後の事はまだ考えていないけど、他国にはいくつかあるらしいクランとは方針ややり方が違うのは仕方ない。

 あと冒険者ギルドは、通常の依頼よりも利益が引くなってしまうデメリットがあるけど、その代わりに全体での依頼達成率を上げられる見込みができるうえに、信頼できるクランがあれば任せやすい。


 さらにクランが冒険者を管理してくれる事で、冒険者ギルドとしても諸々の手間が減って助かるんだそうだ。

 あと、クランから大量の魔物の素材が運び込まれて、そこから得られる利益なども見込んでいるらしいし。

 悪く見ても、依頼料から差し引かれる冒険者ギルドの手数料割合が減る事で減益しても、トントンくらい。

 よく見れば利益は倍増とからしいけど、そちら方面は詳しくないのでよくわからない。


 日本ほど複雑っぽくはないんだけど、経済学とか高校生だった俺には難しすぎるよね。

 元々そっちに興味があったわけでも、成績優秀で数字に強いわけでもないし。

 っと、考えが逸れたけどともかくマティルデさんからクラン、冒険者ギルド、そして以来の関係性などが大まかに伝えられ、集まった人達の多くが盛り上がっていた。

 特に劇的にというわけではないけど報酬が増える事や、依頼達成からのランク査定に有利な事が、その理由だろう。


 冒険者ギルドだと、一人一人を見て相応しい依頼かどうかまで、詳細に考える事が中々できない。

 けどクランだともう所属員を把握して、それら冒険者に相応しい依頼を渡す事も可能……というかまぁ、これが一番俺の肩にのしかかって大変だと思う事なんだけども。

 ともあれ、結果的に依頼達成率が上がれば、ランクアップ、そしてさらに報酬アップも夢じゃないってわけだね。

 おっと、あれこれ考えている間にマティルデさんの話が終わったみたいだ。


「今の話のように、基本的にはこれまでと大きく変わらず、冒険者として過ごしてもらいます。大きく変わるのは、冒険者ギルドに行くのがこれからはこのクランの建物になる事くらいかと。あぁ、こちらの建物内では、所属する人に対して美味しい食事も出ますし、休憩する場所などもあります。食事に関してはさすがにいつでもというわけにはいきませんが……なんと、王城で修業中の料理人による、しかも可愛い女性の手作りです!」

「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」


 カーリンさんをだしにしてしまったけど、冒険者さん達は今日一番の盛り上がりを見せた。

 特にむくつけき男性冒険者にそれが顕著だけど……王城で、という部分には女性冒険者さんも喜んでいるようだ。

 美味しい料理を期待しているんだろうね。

 元々カーリンさんは王城に来る前から一人前と言える腕前で、今は修行というより手伝いに近いようだけど、やっぱりネームバリューというか王城って言った方が通りが良さそうだったからね、間違いじゃないし、美味しい料理は期待していいと思う。


「……リクさん?」


 あ、カーリンさんの事を可愛いって言ったからだろうか、隣のモニカさんからものすごい圧と地獄の底から這い上がってきたような声がした。

 カーリンさんが可愛い女性、と言うのは間違いじゃないけど……後で本人にも、そしてモニカさんにも謝っておこう。

 決して他意があるわけではなく、客観的事実として、あと盛り上げのためにそう言っただけだから、と内心言い訳しつつ、モニカさんの方は見ないようにして冒険者さん達への話を続ける。

 というより、そろそろ締めないと盛り上がり的にもご近所さん迷惑が過ぎるかな。


「今はまだ開始前で、こちらも手探りな部分があります。至らない点も多々あるとは思いますがよろしくお願いします!」


 これ以上変な事を言う前にと、ちょっと強引気味に締める言葉と共にガバッと頭を下げる。

 するとそれを待っていた、と言わんばかりにマティルデさんが俺の前に出た。


「各自、依頼やクランへの貢献のため、これからも励む事を期待する!」

「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」


 少し大袈裟なくらい腕を振りながら叫ぶマティルデさんに、整列している冒険者さん達がそれぞれ腕を振り上げ、叫びというか歓声を上げた――。



「最後のは、あれで良かったんですかね? 俺のもそうですし、マティルデさんの最後の言葉に関しても……」


 最後に大きな盛り上がりがあった後は、各々解散となって、ようやく整列していた冒険者さんがいなくなったところで、マティルデさんに聞いてみる。

 ほとんど美味しいところをマティルデさんに持っていかれたような気がするけど、まぁそこは気にしない。

 やっぱり俺にはあぁいう風に振る舞うのは難しいし、向いていなさそうだからね。

 無理をして失敗するよりはマシだろうし。


 ちなみに冒険者さんは、ルギネさん達警備依頼を受けている人はともかく、他の人達は建物内の見学をファガットさん達に迷惑をかけない程度に、一階部分に限り許可されている。

 それ以外にも、意気揚々とクランの本格始動まで冒険者ギルドの依頼をこなそうとする人、自己の鍛錬や訓練に励もうとする人など様々なようだ。

 全体で言えるのは皆、意気軒昂いきけんこうと言える雰囲気だったというところかな。

 それだけでも、突発的で俺自身もかなり驚いて戸惑ったけど、さっきのように皆の前で話した甲斐があったのかもしれないね。


「もう少し、リク君としての強さというか……我の強い冒険者を率いるところを見せた方が良かったとは思うわね。兵士とは違って冒険者は個人での活動が多いから、それぞれにやり方や考え方があるから、上に誰かを付けて素直に従うようなのは少ないもの」

「そうですか……そうですよね……」


 中には、誰かに命令されるのが嫌で、自由の多い冒険者になったという人もいるみたいだからね。

 もちろん、自由が多いという事はそれだけ自己責任な部分もあるけど。


「あと最後の私の言葉ってのは、貢献をするために励めとってところかしら」

「そうですね、もう少し具体的に行った方が伝わりやすかったんじゃないかなって。ほら、帝国とのあれこれとか……」


 多分、貢献とか励めというのはクランや依頼に関してだけでなく、帝国との戦争に関しても含まれているんだろうと思う。

 はっきりした事は、外だし部外者にも聞こえてしまうだろうから言えないにしても、もう少しわかりやすくした方が、受け取る冒険者さん達もやりやすい、考えやすいんじゃないかって。

 まぁクランの方向性とかは伝えているし、加入したからって安心して怠けるような人は、俺達もマティルデさんも選んでいないとは思うけどね。


「あれくらいでちょうどいいと思うわよ。皆、最年少でAランク、だけでなくSランク。そして数々の偉業を成し遂げたリク君にあやかりたくて来ているんだもの。リク君が具体的に行ったら、無茶しそうなのが大勢いたから」

「やり過ぎないように、ふわっと伝えた感じですか。それにしても、俺の偉業って……」

「……単独でヒュドラーを、それも複数。しかも討伐不可と言われていたレムレースをこれまた複数討伐するなんて、偉業と言わずになんて言うのか私には他に言葉が見つからないわ。他にもまだまだあるけど」

「そ、そうですか……」


 ジト目でそう言うマティルデさん。

 それに関連して、色々と仕事が増えているようだからヒュドラーとかが野放しになるよりは、当然ましなんだろうけど……とりあえずその視線は甘んじて受けておかないといけないかな。


「リクさんに頼まれちゃったら、自分の許容量を越えて頑張っちゃうってのはわかるわね。私もそうだし……ルギネさん達なんか、寝る間も惜しんでやり過ぎちゃんじゃないかしら? 最近は、アンリさんもその気が出て来たし。あ、アマリーラさんを想像すればリクさんにもわかりやすいかしら?」

「モニカのそれは、他の冒険者とは違うと私は思うけど……まぁいいわ。人の事は言えないし」


 モニカさんの言葉にマティルデさんが何やら小さく呟いているけど、よく聞こえないしまぁそっちはいいとして。

 アマリーラさんかぁ、あの人なら確かになぁ――。



リクが号令を発すれば、アマリーラさん並みにわき目も降らずに直進するような人は多いのかも?


読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。

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