建物の警備は見知った人
「あの建物を管理して、多くの冒険者を集めるのかぁ……」
門から建物を見上げ、小さく呟く。
なんというか、立派過ぎる気がしてちょっと気後れしていたりする。
内装次第だろうけど、正面玄関も門に負けず劣らず立派で、両開きのそれはワイバーン達も悠々と通れるくらい大きいしね。
と、玄関に目を向けて気付いた。
「……あれ? 誰かいますね? それも数人」
「あぁ、中にはおそらく、まだ作業をしているのもいるはずだけど、あちらはリク君のクランに参加予定の冒険者の一部に、警備を任せているからそれね。中央冒険者ギルドもそうだが、最近の王都は物騒だから。ここは象徴にもなり得る。破壊されたらたまった物じゃないしね」
「確かに、作ったばかりですからね」
爆発騒ぎに巻き込まれる、もしくは標的にされたらと考えて、警備する人を冒険者さんに依頼して頼んでいたんだろう。
この他にも、個人的な警護や警備などを冒険者さんに頼む人は結構多い……いわゆる、護衛依頼ってやつだね。
兵士さんはあくまで国に所属するから、個人的な護衛は頼めないし。
アマリーラさんやリネルトさんが、名目として俺の護衛をしているし、それと同じだ。
玄関にいる人達は、名目とかではなくちゃんとした警備として依頼を受けたんだろうけど。
「とりあえず、中に入りましょうよ、リクさん」
「うん、そうだね。って、門から玄関まで結構あるなぁ」
「どこぞの貴族様のお屋敷みたいでいいだろう?」
「あまりそこは気にしないんですけど、景観はかなり良さそうですね……」
新しい建物だからか、楽しそうなモニカさんに促されて、門をくぐる。
玄関までは結構な距離があって、警備をしてくれている人達の顔すら判別できないくらいだけど、そこに続く道は綺麗な石畳で、周辺も庭園という程ではないけど、しっかり整備されていた。
色とりどりの花が咲いているとかではないので、目を楽しませるわけではないけど、それなりに剪定されているらしい庭木が、俺達を歓迎してくれているようだった。
……暇があれば、穏やかな風の吹く晴れた日に、椅子を出して座っているだけでも気持ち良さそうだなぁ。
「って、あれはもしかしてルギネさん達かな?」
話しながら、石畳を歩いて玄関へと近づいて行くと、警備をしてくれている冒険者さん達四人いるようだけど、その特徴が見えてきた。
というより、まだ顔がはっきりわからないくらいなんだけど、特徴的な色とりどりの髪色を持つ四人組と言えば、ルギネさん達リリーフラワーしか思い浮かばない。
向こうも俺達に気付いたのか手を振っている。
「そういえば、リク君が連れて来た冒険者に頼んだわね」
マティルデさんの言葉で確定だね。
俺が連れて来た冒険者さんなんて、リリーフラワーの四人しかいないし。
クランに、という話をした人達なら他にもいるけども。
「ルギネさん、アンリさん、グリンデさん、ミームさん。警備お疲れ様です……でいいのかな?」
「リク、待っていたぞ」
「リク君、お疲れ様~」
「ふんっ」
「お腹空いた。干し肉、ある?」
玄関の傍で立っているリリーフラワーの四人。
それぞれ相変わらずのマイペースな挨拶というか、言葉が返って来る。
ルギネさんやアンリさんはにこやかに手を振ってくれているけど、ミームさんは昼食後くらいの時間なのに、もうお腹が減ったのか……よくわからない、干し肉への執着のせいかもしれないけど。
あとグリンデさん、帝国出身者としてセンテでアンリさんと同じく聞き取りをした時に、結構打ち解けたと思ったんだけど、以前のように俺にはそっけないというかプイッとそっぽを向かれた。
うーむ、気難しいと言うのとは違うんだろうけど、中々難しいなぁ。
ともあれ、四人と挨拶や少しだけ話をして、玄関から建物の中へ。
ルギネさん達は警備の依頼で仕事としているわけだから、長話をして邪魔するのも悪いからね。
「この建物が、これからどういう役割を担い、冒険者のための家か拠点か、どちらの雰囲気に傾くかはリク君次第よ。さぁ、どうぞ」
「はい……」
マティルデさんの言葉に頷き、大きな扉を開いて中へと入る。
「おぉ、広い」
「玄関ホールってところかしら。冒険者ギルドに入ってすぐと似ているわね?」
玄関をくぐった先は広い空間になっていて、天井も吹き抜けになっていた。
百人入っても大丈夫、なんて言葉が浮かんできたけど、さすがに実際百人入ったら、少し狭いかもくらいだね。
まぁ、狭いかも、という時点で十分過ぎるくらいに広いんだけど、百人も入ったらってだけだし。
「中も白いんですね……うん、いいかも」
広い玄関ホールを見渡すと、壁や柱が外壁などと同じように真っ白なのが目につく。
白すぎて光を反射して目が痛い、という程でもなく、落ち着いた感じもあって悪くないと思うし、個人的には気に入った。
「内装などももうほぼできている状態だ。色が白なのは、白色石という物を使っているからね。まぁ、柱なども含めて、内側には丈夫な木材を使っているわよ」
「木材と石材を使っているってわけですね」
「その方が、結果的に丈夫な建物になるらしくてね。それと、白色石は他の石材と違って木材との相性がいいらしい。私は専門家ではないのでよくわからないけど」
「成る程、白色石を使っているから全体的に白いんですか……」
黒曜石の白バージョン、みたいなものだろうか。
床も同じ白色石という物でできているようで、しゃがみ込んで手で触れた感触としては、大理石っぽくもあった。
軽くノックするようにしてみたけど、丈夫という言葉通り余り音は響かないね。
ただ石だからひんやりしていると思っていたんだけど、ほんのりと温かみを感じるのはなんだろう?
「白色石……確か、保温石と呼ばれる物の一種でしたっけ? 高い建材だったと思いますけど」
少し心配そうに、モニカさんがそう言った。
我がパーティの、そしてクランの金庫番でもあるから、金額とかそういう部分が気になるようだ。
「そうね。少し前に、北西にある採石場で多く産出されるようになったらしい。それで、市場価格は下がっているのだが……それでもそれなりってところね。だから、建築を早めるためと予算の関係から、木材と白色石を合わせて使っているの」
塗装なり、他の色の石材などを使えば、完成までもっと日数がかかったってわけか。
まぁ、価格はともかくとして、色としても個人的には気に入っているし、それで問題ないだろう。
エルサも白いモフモフだし、好きな色でもあるからね。
「あ、ちょうどいいところに。――ちょっといいかしら?」
「はい?」
建物内で、完成を急ぐために作業していた人だろう。
玄関ホールを通りがかった人をマティルデさんが呼び留め、何やらを伝える。
作業というより、建築に関する責任者の人を呼んで欲しいという事みたいだ。
マティルデさんの顔は知っていたようで、今日来ることも知らされていたからだろう、通りがかったその人は慌てて責任者さんを呼びに走った。
あまり慌てて、転んだりしなきゃいいけど。
白色石という石材の特徴なのか、ツルッとした表面に見えるけど全然滑る感じはないから大丈夫かな、なんて思いつつその人を見送った――。
石材はちょっと特殊で上等な物みたいです。
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