皆の予定と戻って来た二人
「あぁリク、遅くなって済まない。――しかしモニカ、そう言うな。普段というかこれまでは、一部を除いてお湯につかる事自体あまりなかっただろう」
「ソフィーの言う通りですけど、あれに慣れると、お湯に浸かれて体が解れる感覚は、忘れられませんからね……体が痛んでいますので、しばらくはお預けですが……」
やっぱり湯船に浸かれないのは、女性陣にとっても残念な事みたいらしく、ちょっとだけ元気のないモニカさんにソフィーやフィネさんがあれこれと言っているようだ。
ともあれ、そんなモニカさん達を迎えつつ、姉さんやナラテリアさん達に連絡をしてくれたヒルダさんも戻ってきて、昼食になった。
昼食中はこれからの予定の確認だ。
ソフィーとフィネさんはこの機会というか、やらなければいけない事が減ったので、暇ができたためユノ達と一緒に城下町の様子を見に行くらしい。
一応気を付けるようだけど、爆発騒ぎに対する偵察みたいな事でもあるらしい。
「そういえば、今日くらいからアルネやカイツさん達が作った魔法具が、実用化されるらしいね」
「あぁ。種族ごとの魔力波形を見極めて、さらに複数魔力を持っている者を見つける……実際には不自然な魔力の量や性質の違いを見分けるらしいが、その間道具が完成したのだったな」
「うん。これで、爆発するような人を見つけて騒ぎが収まるといいんだけど……」
「どうでしょう。一定の効果を示して、多少の助けにはなるかとは私も思いますが……相手も警戒して慎重に動いていますからね」
魔法具を完成させたアルネ達が、まだまだ数は少ないながらも作った先から運用するとの事らしい。
爆発の前段階から、俺達が発見して隔離した人みたいに様子がおかしいかはわからないけど、これで怪しい人を見つけられる確率が高くなるはずだ。
すべて解決する、とまでは思わないけど一助になってくれるといいな。
その他、エアラハールさんは午前中の訓練後は、俺達程じゃないけど兵士さん達の訓練の指導をするようで、俺達の訓練後にどこかへと行った……昼食くらいは一緒に食べてもいいと思うんだけどなぁ。
女性を追いかけているとかじゃない事を祈ろう。
それからアマリーラさんは当然のように俺と予定を共にする……と主張したのだけど、リネルトさんに止められた。
獣王国との関係で、色々と折衝があるらしい。
手紙の方は昨日のうちに修正してもう送ったらしいけど、色々と大変そうだ。
モニカさんは、俺と同じくクランの建物確認のため一緒に行動。
その前に、姉さんと話す事がある俺の事は、待っていてくれるらしい。
先に確認に向かうとかでも良かったんだんけど、俺もモニカさんと一緒に行動できるのは嬉しいので、反対はしない。
まぁ、モニカさんと二人でではなく、ナラテリアさんとかもいるし、マティルデさんとも話さないといけない、と伝えるとちょっと不満そうだった。
マティルデさんの方は元々予定にあったからともかくとして、モニカさんも俺と二人でじゃないから不満に思った、とかなら嬉しいなぁ。
近いうちに時間を取って、モニカさんと城下町に繰り出すのもいいかもしれない……やる事が色々とあって、時間が取れるかが問題だけども。
――昼食後、各自それぞれの予定通りに動き出し、モニカさんを部屋に待たせての王城、女王陛下の執務室前。
忙しいらしい姉さんは、部屋まで来る時間も惜しいようで、執務室で話す事になっていた。
以前は、姉さんや宰相さんだけでなく、明らかなお偉いさんというか大臣さん達もいて、どこぞの面接みたいな状況だったのを思い出して、執務室の扉の前で少しだけ緊張。
見張りの兵士さんに見られているけど、不審人物のように訝しがられていないのは救いだ。
まぁ俺の顔とか知っているしね。
「さてそれじゃ……って、ん?」
見張りの兵士さんに頼んで、扉の中にいるはずの姉さんに報せようとした瞬間、中から豪快な笑い声が聞こえて来る。
何やら聞いた事のある声な気がするけど……。
「まぁ、中に入ってみればわかるかな。お願いします」
見張りの兵士さんなら、誰がいるのかはいるところを見ているはずだからわかっていると思うけど、実際に執務室に入ればわかるだろう。
そう思って、兵士さんに頼んで中に声をかけてもらうと、すぐに姉さんの声で入室の許可が下りた。
こういうところでは、基本的に見張りの兵士さんが中に誰が来たのかを報せて、それを受けた部屋の中にいる人が許可をする、というのが一般的らしい。
女王陛下の執務室で、中にいるのが国の最高権力者だというのもあって、一般的と言うのが正しいのかはわからないけど。
「失礼します……と、ヴェンツェルさん、マルクスさん」
「リク殿、しばらくぶりだな」
「センテ以来ですね。お元気そうで何よりです。王都に戻ってからのご活躍も、聞いております」
中に入ってすぐ目についたのは大柄な男性……軽装ではあるけど、盛り上がった筋肉を隠そうともしない筋肉ダルマ……は言い過ぎか。
目立つ大柄な男性は、この国の軍トップの将軍であるヴェンツェルさん。
外にまで聞こえてきた豪快な笑い声はヴェンツェルさんだったのか、どうりで聞き覚えがあると思った。
その隣でにこやかに話しかけて来るのは、三十代くらいの男性で、マルクスさんだ。
二人共、センテから戻って来ていたのか……。
「ヴェンツェルさん、マルクスさんも無事で何よりです。王都への途中に魔物がいたと思いますが……」
「うむ、今しがた到着してな。センテでの事も含めて、陛下に報告していたところだ」
「魔物に関しては、道中何度か。センテに迫っていた魔物を見ていれば、あれくらいは少なく見えますし、どうとでも……と思ってしまうのは、感覚がおかしくなっているのでしょう」
マルクスさんが苦笑しているけど、確かにセンテでの戦いを考えたら、魔物の集団……数十程度の群れなんて、少なく見えてしまうのも仕方ないと思う。
しかも、ヒュドラーだけでなくAランクやBランクの魔物がひしめき合っている、ってわけでもないんだから。
もちろん、相手は魔物で油断して挑めば手痛いしっぺ返しがあるだろうけどね。
まぁ軍として動いていたヴェンツェルさん達に、油断はないだろうし数の上でも苦戦するような事はなかっただろうと思う。
「その報告で、魔物を探し回っていたために帰還が遅れたともあったがな。まったく、血気盛んなのは若い兵士達に任せておけばいいだろうに……」
そう言って、部屋の奥で溜め息を吐いている姉さん。
あと隣に立つ宰相さんも同じく溜め息を吐いているね。
「も、申し訳ありません陛下。ついと言いますか……ただ事ではないと思い……」
なんでも、魔物の集団を何度か発見しているうちに、これはただ事ではない事がまた起きているのではないか? と考えたヴェンツェルさん。
王都への帰還よりも、魔物を探して討伐する方を優先する事があったらしい。
だから、数日程度ではあるけど戻ってくるのが遅れたみたいだね――。
ヴェンツェルさん達が引き連れていた多くの兵により、もしくはヴェンツェルさんによって一部の魔物は駆逐されていったのかもしれません。
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