ヒルダさんに用を頼む
「……少々言い過ぎましたね。血が滲むほどの努力をしている、というべきでしょうか。冒険者になるため、厳しい訓練を自分に課しているようです。王城の兵士達は、これまで使用人としての勉強をしていたミラルカさんを見ているので、多少戸惑って手心を加えようとしているようですが、ミラルカさん自身がそれを断っているとか」
「そうですか。頑張り過ぎないといいけど……」
ミラルカさんは冒険者になる道筋を示して、俺のクランに所属する事になっている。
だから、兵士さん達に混じって訓練をして戦えるようにって事なんだけど……新人なわけだから、戦争が始まっても前線ではなく後方とか、直接戦わないような場所に配置しようとか考えていたんだけどなぁ。
まぁ、戦争が終わった後も冒険者を続けて行くなら、訓練して戦えるようになっておくのは悪い事じゃないか。
「それぞれの近況はわかりましたけど、そのうちナラテリアさん、カヤさん、ミラルカさんの三人は昼食後に暇はありますかね? ちょっと、連れて行きたい場所があるんですけど」
「そうですね……リク様がお呼びでしたら、真っ先に駆け付けそうではありますし、リク様が御用という事でしたら問題はありません。伝えておきます」
「はい、お願いします。その、今日はクランの建物を見に行くので、そこで働くナラテリアさん達も見ておいた方がいいかなって。ミラルカさんはちょっと違いますけど、関係はありますし。勉強や訓練の邪魔になるかもしれませんが……」
「実際に自分が働く場所を見ておく、というのも一つの勉強となるでしょう。それに、リク様と行動を共にする事によって、一層のやる気を見せるかとも存じます」
「やる気ばかりが増えても、問題かもしれませんけどね……あ、ちょっと待ってください」
では、と部屋を出てナラテリアさん達に伝えに行こうとするヒルダさんを止める。
「すみません、もう一つあるんですけど……今姉さんはどうしていますか?」
「お忙しいようで、手が離せずこちらではなく、執務室で昼食を取る事になりそう、との事ですが」
「そうですか……忙しいなら、それを邪魔するのは悪いかな? でも、姉さんに話しておかないといけない事だし、これから先にも重要になるかもしれないから……」
姉さんの事をヒルダさんに聞いて、呟きながら考える。
戦争を有利に、そして圧倒するために必要な準備として考えていた事があるんだけど、それをするには当然姉さん……女王陛下の許可がいる。
拒否や却下はされないだろうけど、話しを通しておかないとこちらも動けないからね。
「リク様の御用という事なら、おそらくこの国でも重要な事柄になるでしょうから、邪魔にはならないでしょう。それと、陛下がお忙しくされているのなら、リク様とお話しをする事で気分も良くなるでしょう」
「そうですかね? そうだといいんですけど……それじゃあ、姉さんの方にも後で。そうですね……クランの確認に行く前にちょっとだけ話ができたらと」
「畏まりました」
まずは姉さんと話して色々と確認と許可を取り、それからナラテリアさん達を連れて、クランの建物見学ってところかな。
「さて、エルサ。昼食というかモニカさん達が戻って来るまでもうすぐだと思うけど、その前にちょっと聞いておきたいんだ」
「なんなのだわ? お腹が減っているから、あんまり考え事はしたくないのだわー」
「そこをなんとか考えてくれ。えっとだね……」
空腹で無気力になりかけているエルサに、俺の考えというかお願い事が実行できるかを聞く。
もしそれができるのなら、戦争という集団戦になってもかなりのアドバンテージになるはずだ。
効果の程は、センテで実証済みだしね。
あと、昨日までは王都周辺の魔物討伐をしていたけど、今日からは魔物の数も目に見えて減っているため、毎日じゃなくても良くなったからエルサにも余裕がある。
何もない時は、俺の頭にくっ付いてのんびりうとうとしているエルサには悪いけど、今後のために協力してもらいたい。
「……リクがやっているところを見たから、できなくはないのだわ。けど、魔力もかなり使うし結構かかるのだわ」
「んー、そうか……まぁまだ猶予はあるから、そこは実際にやってみてどれくらいかかるか、によるかな?」
「多分、だわ。あと、もしやる事になったら更なるキューと魔力を要求するのだわ!」
「キューはこれまでも散々食べてるのに、まぁそれは分かったけど……魔力はどうするか」
毎食お腹いっぱい食べたうえで、おやつとしてもキューを食べているのに、まだ要求するのか。
一時期キュー不足になるかと思われたけど、少し落ち着いたみたいだし……食べつくす勢いでなければそこは大丈夫かな。
魔力の方は、俺自身魔法を使わないため余っているから、いくらでもというのは言い過ぎだけど、エルサに別けるくらいはなんて事ない。
ただ、エルサに魔力を与えるというのはどうすればいいのか……これまでは、俺から滲み出しているのをエルサが勝手に吸収していたからなぁ。
「簡単なのだわ。最近、リク自身が纏っている魔力を放出しているのだわ。あれを、限定的に放出して、それを私が浴びるだけなのだわ。魔力シャワーなのだわ」
「そんなお湯みたいに……」
「魔力風呂でもいいのだわ。まぁ溜めておける方法がなさそうだけどだわ」
「できなくはないかもしれないけど、なんとなく嫌だからそれは却下で」
「魔力に浸かる方が吸収効率はいいのにだわー」
魔力シャワーってだけでも、想像したらちょっと微妙な気持ちになるのに、俺が放出した魔力にエルサが浸かっているのを想像するのはなんというか、微妙どころか避けたい気持ちが強い。
嫌悪感とまでは言わないけどね。
ちなみに、できるかどうかは置いておいてすぐに思いついた方法としては、クォンツァイタに俺の魔力を蓄積させて、それを敷き詰める事だけど……実際にそれで、エルサの言う魔力風呂が実現するかはわからない。
とにかく、却下したのでその方法は頭から追い出しておこう。
「限定的に放出……というのは多分できそうだけど……」
今は何も考えず、ただ全身を覆っている魔力を無計画に周囲へ振りまく放出方だから、それを一部だけにするとかでできるだろう。
手っ取り早く、魔法を使う時に近い手に魔力を集めて、そこから放出するのがやりやすそうだね。
「でも、それを吸収するって、浴びるだけでできるの?」
「魔力を通り込むようにするのだわ。そうすればできるのだわー」
「……どうやるのかはわからないけど、まぁエルサができるって言うんだから、できるんだろうね」
もしかすると、契約しているドラゴンだからできる吸収方法というか、補給法なのかもしれない。
多分、契約者である俺の魔力限定でもあるんだろう。
「はぁ、お湯に浸かれないのはちょっと残念な気持ちになるわね……」
「あ、モニカさん達。おかえりなさい」
エルサとあれこれ話していると、湯上りというか汗を流したモニカさん達が何やら話しつつ、部屋に戻って来た――。
リクもあれこれと、やれる事を考えているようです。
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