女王としての在り方
「へ、陛下からのお言葉は光栄な事ですが、我々は臣下として当然の事をしたまでですので……その、頭をお上げ下さい」
「まぁ、公の場ではおいそれと頭を下げられない立場だけれど、この場ではそうしたいの。ありがとうフィネさん」
「っ! は、はい!」
女王という立場だから、簡単に頭を下げるのはあまり良くない……というのをどこかで聞いた事がある。
まぁ姉さんと関連してではなく、何かで王様とか偉い人がそうするべきではないという話で、ではあるけど。
でも姉さんとしてはお礼を言いたいし、それなら正式で改まった場ではなく、リラックスモードであるからこそ女王という身分に関係なく頭を下げるという事なんだろう……と思う、多分。
「あと、臣下という言葉が出て来たけれど、この場には臣下と欠片も思っていなさそうなのが、結構いるから。それをどうこう言うつもりはないし、だからこそここでは安心していられのだけれど……ね、りっくん」
「え、俺? あぁ、まぁ……そうかもしれない、かな?」
若干ジト目で俺を見る姉さんに、少しだけ慌てる。
国民は全て、王にとっては臣下……というのはまぁさておき、姉さんが相手だから一応この国にいても、臣下って意識は俺には低いんだろう。
だからって別に、状である姉さんをないがしろにするとか、自分が偉いなんて勘違いはしていないつもりだけど。
ちなみに、結構いると姉さんが言ったのは、モニカさん達ではなくそれ以外の人達。
ユノとロジーナはむしろ、女王様よりも偉い存在ともいえるから言わずもがな。
アマリーラさんとリネルトさんは、この国の人じゃないという事もあるけど、国とか関係なく俺の臣下だと息巻いているし……主にアマリーラさんがだけど。
エアラハールさんは冒険者歴が長いから、全く考えていないわけじゃないだろうけど、若干意識としては低いんだろう。
それから、レッタさんはそもそもあのクズ皇帝への復習と、ロジーナへの執着以外興味なさそうだからね。
多分レッタさんは、相手が女王様だからといっても多少表面を取り繕う必要がある場ならともかく、今場では普段と態度を変える事はないだろう。
女王よりさらに上というか、破壊神を崇拝しているのもあるとは思うけど。
まぁレッタさんは、センテでの事も含めて復讐のためとはいえ立場としては、帝国に協力していた人物でもあるから、公の場には出せないんだけども。
少なくとも、帝国との問題が片付くまではね。
「王も含めて、貴族にしろなんにしろ、人なんてそもそも俗物しかいないわ。そんな相手を敬う必要なんて、ありはしないのよ」
「レッタさんっ!」
そのレッタさんが、姉さんの言葉を受けてだろう、あまり大っぴらにできない発言をする。
それに対し、フィネさんが少し怒ったように鋭く声を発した。
フィネさんは貴族家付きの騎士でもあるし、レッタさんの事情は知っているけどさすがに看過できない発言だったんだろうね。
「まぁ、言いたい事はわかるわ。王や貴族なんて何が偉いのかしら? って思う事もあるし。私も含めて大体は一皮剥けば俗物である事も否定しないわね」
「へ、陛下!?」
溜め息混じりではあるけど、レッタさんの言葉を肯定する姉さんに、戸惑うフィネさん。
「考え方としてなんだけど、生まれや育ちが違うとしてもただそれだけ。人は人よ。この国ではないけれど、遠くの方にある言葉で『天は人の上に人を造らず――』なんてのもあるわ。まぁこの世界はわからないけど……」
そう言って、ユノを見る姉さん。
天は――ってのは日本で偉人さんが残した有名な言葉だね。
人類皆平等、という言葉のように聞こえるし大体そういった意味で用いられるうえ、姉さんもその意味で使ったんだろう。
実際は解釈として別の意味があったとか言われたりもするけど……まぁ俺が生まれるよりもかなり前の人が残した言葉の真意は、歴史家や学者じゃない俺にはわからないから、とりあえず考えないでおこう。
「身分、人の上下関係なんて、人が勝手に決めた事なの。ある意味正しいけど、人が人の上に立つ、人を下にする、なんて事は私は別に考えて創っていないの」
「ま、そうよね。魔物だって、群れの中で上下関係があった方がまとまるし、それと同じって事でしょ。人が勝手に上下を作り、そうして多くの人をまとめて社会を形成させていった。そこに天の……神の意思なんて関係ないわ」
ユノとロジーナ、この世界でいうところの神様がそれぞれ答える。
創造神として人を創り、破壊神として魔物を創ったからこそ、言える言葉なんだろう。
「神がそうしろと定めたわけじゃない。そういう意味では、今の言葉は確かに合っているのかもしれないの。でも、そういう習性に創ったとも言えるから、間違いとも言えるの」
「えーっとつまり、上下関係とかは人が勝手に作ったのであって意図した事ではない。けど人がそうする可能性を持って作ったのはそもそも神様だから、合っているとも間違っているとも言えないって事……かな?」
「大体そんなようなものなの」
あくまでこの世界はではあるけど、それを踏まえてユノとロジーナの言葉をまとめた俺に、ユノは曖昧に頷いた。
創造神で、創った張本人……張本神? なのに、なんでそこははっきりしないんだ……。
「ま、まぁどう創られて、何が原因かはともかく……私の考えはここだから言うし、公には言えない事ではあるけど……基本的には大きな身分差というのは、あまり意味がないと思っているわ。まぁそれで国が形成されていて、国民が平穏に暮らしているから崩そうとか、異を唱える事なんてのもしないけど」
姉さんは多分、日本で生まれ育った記憶があるからこその考えなんだろう。
俺も日本での感覚というのはもちろんあるから、その考えはよくわかるけど……。
フィネさんとか、姉さんに聞こえないようにだけど「へ、陛下の考えは少々異質が過ぎます」なんて小さく呟いていたりもするし。
女王様に意見するなんて、とか思っていそうだから届かないようにつぶやいたんだろけど。
「なんにせよ、この国の最高権力者である偉大なる女王陛下がそういう考え、というのは私にとっては悪くないと思えてしまうわね。この国で生まれて生活していたら、今頃はもっと違っただろうし……」
少し遠い目をしてそう言うレッタさんに、この場にいるほとんどの人が言葉を失う。
レッタさんのこれまでに関しては、全員が知っている事だから。
指導者、施政者、最高権力者などなど、国の偉い人達によってそこで暮らす人達は、簡単に不幸になってしまうものなのかもしれない。
「そう言ってもらえると、少しは救われる気分ね。あれと比べてしまうと、大抵はマシに思えるかもしれないし、この場で言っても信じてもらえるかはわからないけど、常に国民にとってどうするのが正しいか、というのを考えてはいるわ。できるできないはのぞいてね」
姉さんの中でも、クズ皇帝をぞんざいに「あれ」扱いになっているようだ。
まぁこれから戦争になるだろう、という中で敵国のトップに対して経緯を払うなんて中々できないし、尊敬できる部分がないから当然と言えば当然だけど――。
敵なうえに尊敬する部分がないため、リクの身近にいる人達にとてはぞんざいに扱うべき存在になって行っているのかもしれません。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。






