大きな角を持つ鹿の魔物
「まぁ、こっちは見た目の通り草食ね。リクの言う通り鹿で合っているわ」
「立派な角が生えてるの!」
「たしかに大きな角があるなぁ。結構、体も大きそうだ」
眼科で走る魔物、アクリスは空からでもわかる程の大きな体と雄々しい角を持っている魔物だった。
鹿っぽい見た目で、ロジーナも認めているからしかの魔物ってところなんだろうけど……多分、大きさは人間どころか、大きめの馬くらいかな?
角は巻き角で、どちらかというと鹿ではなく羊の物っぽく見えるけど、どれも先っぽは上を向いて尖っている。
当たったら痛い、では済まされないだろうなぁ。
「アクリスは、あの見た目通り走っての突進が強力な魔物ですぅ。えーと確かぁ……冒険者ギルドではCランク、条件付きでBランク相当の脅威度の魔物、だったかとぉ」
「条件付きっていうのは?」
「複数体いる場合、だったと思いますぅ。敵に対して、群れた複数を目標に突進、または攻撃をするのでぇ、単体の時より脅威度が跳ね上がるそうですぅ。私も初めて見ましたけどぉ」
やっぱり、リネルトさんがこっちに来てくれて正解だったかも。
結局討伐する事には変わりないけど、初めて見る魔物でも前もってある程度情報を得られるというのは大きいからね。
まぁロジーナでもそれなりに教えてくれるんだろうけど、微妙に不満そうな表情をする事があるし、冒険者ギルドが決めた目安の、脅威度ランクとかはさすがにわからないだろうし。
「成る程、四足歩行だからゴブリンみたいに器用ではなさそうだけど、まとまって行動、群れで連携と言えるかはわからないけど、似たよう事をするってわけですね」
「はいぃ~。他にはぁ……」
リネルトさんが知っている情報としては、アクリスは基本が大きめの体と角による突進での攻撃が主であり、フォレストウルフみたいに飛んだり跳ねたりまではしないようだ。
フォレストウルフの倍以上はありそうな体で、身軽に跳ねたりしたら脅威度も跳ね上がるか。
さらに複数体いる状態で脅威度が上がる理由として、魔法を使うらしい。
土と相性がいいのか、走る際に跳ね上げた地面の土や石、それにアクリスが立っている地面の土を使った魔法が多く、一発一発は致命的な威力ではないにしても、複数体の場合狙いを定めて同時に放つ、などの事をするようになるとか。
成る程、複数が一気に突進というのも怖いけど、集中して魔法を放つのであれば確かに脅威度と言うのは上がるか。
一発を盾で防ぐなり剣で叩き落とすなりしても、さらに次がほぼ同時に襲い掛かってくるわけだから。
さらに、大きな角はアクリスの中で最も硬く、尖っているのもあって突き刺さるため、突進と合わせて最大の攻撃となるらしい。
角に突き刺されて持ち上げられるとか、あまり想像したくないから当たらないように気を付けないとね。
「しかもぉ、役割分担をする事もあってぇ……三体や四体くらいだとそうでもないらしいんですけどぉ、あれくらいの集団、群れなら魔法攻撃と突進で分担すると思いますぅ」
一体なら脅威度Cランクで、それはつまりCランク冒険者であれば対処可能な程度という事。
突進だけでなく、魔法も使うなら二体……はなんとかなっても三体以上いると、Cランクでは確かに手に負えなさそうだ。
それこそ、Bランク相当の実力を持ったパーティで挑むのが相応しいかな。
「それはまた、さらに厄介ですね。まぁ通常の冒険者ならですけど」
「はいぃ。リク様であれば、魔法も突進もそこまで脅威にはならないかとぉ」
「多少痛いくらい、で済めばいいですけどね」
「リクはまず、受けて痛いかどうかとか考える前に避けなさい。いくら魔力があるからって言っても、それじゃあ技術なんて身に付かないわよ?」
「ははは、ようやくそれを実感して、なんとかしようという試みと訓練の途中だけどね」
「理想を言えば全部叩き落として、突進もいなせばいいの!」
「簡単に言うけど、それができれば苦労はしないんだけどなぁ」
というか、それができるのはユノとロジーナくらいだろうに。
……もしかすると、スピード戦闘を得意とするリネルトさんもできるのかもしれないけど。
なんて考えてリネルトさんに視線を向けると、「できますよ?」と言わんばかりにニッコリ笑った。
俺の考えを見透かしたわけではない気もするから、本当にリネルトさんがそう考えているかはわからないけど。
「あと他の特徴としてはぁ、よっぽど圧倒的な力を見せつけない限り、逃げる事をしないというところですかねぇ」
「逃げようとしないっていうのは助かりますね」
まぁもし逃げても、エルサが追いかけてなんとかするって方法もあるけど……村や畑も、モニカさん達があたっているゴブリンよりも近いし、そちらの方に逃げたり、別の場所へ向かって潜伏される事がないのは嬉しい。
「確実に仕留めるのならそうですねぇ。追い払う、とかでしたらそれは悪い方向に働きますけどぉ」
「そうですね。ともあれ、こうしている間にもアクリスの群れが移動しているので、さっさと倒さないといけません」
「多少移動されても、アクリスの前に出て敵として認識されれば、畑の方には被害が出ないのでとにかく急いで、というまでではないですけどねぇ」
「敵として認識、ですか。この場合は食事を邪魔する相手に対してってところですかね」
「はいぃ。人だからって、必ずしも見つけたら襲い掛かるわけでもないみたいですのでぇ」
「あれも飢えているだろうから、邪魔する敵には容赦しないでしょうね」
「望むところなの」
「飢えた獣ね。なら、私の魔力誘導も大した効果を期待できないわね」
各地に点在する魔物の集団、ここ数日その討伐を任されてからなんとなく気付いた事がある。
それはほとんどの魔物が飢えている状態だという事。
復元されて何もない平原に放り出された状態だ……復元された時に、餌を与えられているかどうかはわからないけど、かなり長い間食事をしていない状態とも言える。
まぁ例外はあって、何もない平原とはいえ植物はあるので一部の草食の魔物は、生えている植物を食べたりはしているんだろうけど。
「だからこそ、比較的近い村や街へと向かっているんだろうけど」
それは本能からなのかはわからないけど、飢えをしのごうとするために王都ではなく、周辺の村や街の方へと向かっているんだろう。
途中で別の魔物の集団とかち合って争いになり、どちらかが食料になる……なんて潰し合いもあるだろうし、その食い荒らされた後の魔物の残骸、なんてのも何度か発見したりもしているけど。
「森の恵みとかであれば、行き過ぎなければ関わらないという、一部での共存は見られますけどぉ。今回は違いますからねぇ」
当然、畑に被害が出るのなら村の人達だって黙っていられないし、なんとか追い払おうとするだろうしね。
その流れで敵として認識されて、村の人に多くの被害がって事も考えられる。
自然にできた恵ではなく、人の手で作っている作物が目標になっている時点で、被害を少なくするために魔物の討伐を任され、冒険者としても魔物の討伐を請け負っている身としては、見逃すわけにはいかない――。
飢えているとしても、人に被害を出す魔物に対しては容赦していられません。
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