南側の魔物調査方針
「街にとって、村との交流が欠かせないって、鍛冶に関する何かを村から仕入れているとかですか?」
鍛冶生産が盛んって事は、鉱石とかが必要だし、地図では村の近くに大きな山がある。
ブハギムノングがこの国一番の大きな鉱山ではあるようだけど、別の場所に鉱山があっても不思議ではないし、大きな国を維持するためには複数ある方が自然だろう。
鍛冶に関しては、鉱山の街だったブハギムノングではあまり盛んではなかったようだけど、あそこは掘り出した物を運び出す場所でもあったからね。
武具も含めて加工に関しては別の場所でという事もあるだろうから、そこは納得。
「いえ、鉱山は……あれですね。ブハギムノングに負けないくらいの大きな鉱山がありますが」
「えーっと……うん、あれですね」
フィネさんに示されて、地図から顔を上げて南を見てみると、かすかに見える大きな山。
まだまだ距離はあるけど、ブハギムノングにあった鉱山と同等なのか、王都と南の街との半ばくらいのこの場所からでも見える程のようだ。
「あの鉱山は街の方が掘り出して、地図にはほぼ書かれない程ではありますがごく小さな村があります。まぁ、鉱夫たちが住まう場所ではありますね。ただ産出量はブハギムノングにはかなり劣るようで、数も少ないのです」
「成る程、だから 地図には書かれていないんですね」
鉱夫さん達が住む村を足せば、街の近くには三つの村があるとなるけど、大まかに王都の周辺を記したものだから、省かれているんだろう。
地形とかはそれなりに書かれているけど、村などの一部はよく見ないと見逃す程小さい場合もあるし、そこは仕方ないか。
「そして、そのふもとの村は街に所属している事になっていて、そこから産出される物は街で鍛冶職人達が加工します。これが鍛冶生産が盛んな理由ですが、その分、街の食料などを付近の村に頼っているというわけです」
「ヘルサルとセンテみたいな感じなんですね」
「はい。今ではヘルサルでも農業を初めていますが、規模は違いますけど似たようなものですね」
まぁ、街の近くに農業を担当する村があるのは何も不思議な事じゃないか。
ヘルサルだって、今は農場を作っているけど以前は他から入って来る物があっても、多くをセンテに頼っていたわけだし。
王都を除けば国一番の大きさを誇るヘルサルなだけに、近くにあるセンテも発展して街になったから、規模はあっちの方が大きいんだろうけど。
「じゃあまぁ、この後はその街や村の方……南側に向かった魔物がいないか、調べるって事でいいかな?」
「異論はないわ」
「あぁ」
「はい」
という事で、街や村に被害を出さないためにも、まずはそちらに魔物の集団が向かっていないかを調べるという方針で決まった。
まぁ調べるだけじゃなく、もちろん魔物の集団を見つけたらすぐに討伐に取り掛かる予定ではあるけど。
「方針は決まったようだけど、まず真っ先に見るべきは村の方がいいわよ」
これからの事を決め、昼食を食べ進めていたところに、さっきまでの話を聞いていたロジーナからそう言われた。
「村の方を? 街の方が大きくて目立つし、魔物が向かうとしたらそっちだろうし先に見ようと思っていたんだけど……まぁ、距離は近いから、村の方を優先してもいいかな」
ヘルサルとセンテよりも近い距離に街と村二つがある……位置関係的には、鉱山らしい大きな山のすぐ近く、北西と北東に村が一つずつあり、さらにその村二つの中間から北に街がある。
街と村二つを線で結ぶと三角形になり、山を加えると菱形にもなるわけで、今俺達がいる王都方面からだと、目立つという事もあるけど街の方が近い。
とはいえ、村との距離は近くエルサでの移動だと数分かかるかどうか程度なので、どこを優先しても良さそうだし、ロジーナの忠告を気にするなら村を先に見るのも構わないだろうとも思う。
けどどうしてロジーナがそう言うのかは、気になるね。
「近いのならどうあっても大した差はないだろうけど、魔物によっては人の多い街を狙うよりも、人の少ない村。特に食糧を作る場所であるなら、そちらを狙うのもいるわ。さらに言えば、魔物は集団よ。単体や数体程度ならまだしも、群れになっているなら優先して狙うのは、食べ物である可能性が高いわ」
「食べ物……成る程」
魔物によっても様々だけど、まずは群れの存続のために食べ物など確保が重要というのはわかる。
それは生存本能みたいなものだろう、生き物である以上多分だけど避けられないものだ。
「でも、魔物が人よりも作物とかの方を優先して襲ったりするのかな?」
基本的に、魔物は例外はあれど人を襲う存在。
人以外では多種族、同じ魔物も含めて他者や物を破壊するために動く事が多い印象だ。
それは魔物を創ったのがユノではなく、破壊神のロジーナが創ったからと聞いているから納得だし、本能みたいな部分に刷り込まれている衝動とかなんだろうけど。
あと、あまり考えたくはないけど、食糧と言うなら人を狙った方が数も量も多くて理にかなっている気がしなくもない。
魔物によっては、そんな合理的な考えをしないのもいるしそちらの方が多そうではあるけど……。
もちろん人だって抵抗するし、簡単に全員がやられて魔物の食料になる、なんて事もないだろうから論理的に考えられる思考がある場合は、より簡単で人が少ない村と農作物を狙う事は考えられるかな。
「リク、魔物が全て人を襲って食べるとか考えていない?」
俺が考えている事を見透かすような目でこちらを見ながら、ロジーナが言う。
「えっと……さすがに全てとは思っていないけど、その方が多いんじゃないかとは……」
「割合としてはその方が多いかもしれないけど、基本的に雑食性を強くしてあるし。でもね、魔物であっても生き物よ。リク達にもわかりやすく言うと、摂理のようなものがあってそれを無理矢理捻じ曲げた創造はさすがの私でもできないの。それができるのは、あっちで暢気にパンを頬張っているあれだけよ」
「あれって……」
ロジーナが指を刺した方には、満面の笑みで美味しいパンを口いっぱいに頬張り、それを全て飲み込む前に、さらに追加を口に入れようとしているユノだった。
まぁ、こちらの会話には参加せず昼食に集中しているようだし、用意してもらった物はどれも美味しいからいいんだけど……確かに暢気と言われたら暢気だ。
それを言ったら、キューを口に二本程突っ込んで幸せそうにモグモグしているエルサも、似たようなものだけどね……。
というか、一応神様であるユノを指差すのはいいんだろうか? いやまぁロジーナも一応神様で、表裏一体でもあるからいい、のかな?
「あー……ん? ふぉーひはの?」
「……なんでもないわ、気にしないで。はぁ、あれと表裏一体って自分でもあまり考えたくないわね」
口を大きく開けたまま、俺やロジーナに見られている事に気付いたユノが、可愛らしく首を傾げた。
ただ、口は開けっ放し、咀嚼中の物がそのままなのでお行儀が悪いよ、ユノ。
溜め息を吐くロジーナには、苦笑しかできないけど――。
魔物は必ずしも人を襲うことが最優先というわけではないようです。
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