新しい調理道具はちょっと特殊
「父さんも、新しい調理道具が入った時なんかは、さっきのカーリンさんみたいな様子になっていたから、なんだか懐かしい物をみた気がするわねぇ」
「あ……モニカさん……」
「う……えーとその……できれば先程のは忘れて欲しいのですけど……」
せっかく俺が見なかった事にして、カーリンさんも新しい調理道具の方に意識が向いたので、話が逸れたと思ったのに、懐かしむような眼をしたモニカさんの言葉で、ばっちり俺達が見て気にしている事がカーリンさんに伝わってしまった。
恥ずかしそうに身を縮めるカーリンさんの顔は、これ以上ない程真っ赤だ。
「ご、ごめんなさい! 父さんは母さんに呆れられながらも、気にしていない様子だったからつい……そ、そうよね、あまり見られたくなかったよね……」
「い、いえ。いいんです……忘れてさえくれれば。こんな所で浮かれまくっていた私が悪いんですから……」
「落ち込んじゃった……」
さうがに泣いたりはしていないけど、赤い顔のまましょんぼりと落ち込むカーリンさん。
確かに、こんな所というのも立派な王城に対してどうかなとは思うけど、兵士さんなど関係者が多く出入りする場所で、歌うようにしながら舞っていたのはどうかと思ったけど……まぁ、悪いと言う程じゃない。
なんというか、兵士さん達はカーリンさんを見てピリピリした空気が和んだかのように、朗らかに目を向けていたりするからね。
そうやって見られるのも、今のカーリンさんにとっては恥ずかしかったりするんだろうけども。
とりあえず、このままこの話を続けたらカーリンさんが縮こまり過ぎて消えてしまいそうだから、話を逸らさないね。
いや実際に消えてしまう事はないんだろうけど。
「んーっと……ラ、ララさんの所へ取りに行ったと言っていましたけど、カーリンさんは何も持っていないような?」
「あ、えっとそれはですね、城下町は現在警戒中らしくて……それで、ララさんの所へ行く際に兵士の方が一緒に来てくれたんです。物が物なので、重い物もあるだろうという事もありまして。今は先に厨房へと持って行って下さっています」
「あぁ、成る程。そういう事ですか」
爆発騒ぎが起きたばっかりだし、まだ色々と調査の最中だからね。
カーリンさん一人で城下町に出かけるのは危険だと判断したんだろう……ヴェンツェルさんの姪御さんだというのは、知れ渡っているようだし。
もしかしたら、俺が連れて来た人だからという事もあるかもしれないけど。
ともあれ、まだ若干顔が赤いけど、話しを逸らす事には成功したようだ。
ちなみにモニカさんは、後ろでソフィーに軽く注意されているようだけど……「あぁいう時は見なかった事にするのが親心というものだ」なんて聞こえて来る。
親心って……別にモニカさんはカーリンさんの親でもなんでもないんだけど、まぁいいか。
「じゃあカーリンさんの方は、もう準備ができた状態と言ってもいいわけですね」
「はい。いつでもリク様のお作りになるクランが開始しても、美味しい物が作れます! と言いたいところなのですが、やはり新しい調理道具は使って育てなければなりません」
使い慣れる以外にも、鉄鍋のようにあぶらを馴染ませたりなど、使って育てるというのもある程度必要って事か。
「ララさんにも、大事に使い込めば使い込む程、調理道具として完成する物と言われました。その際に、魔物の素材を使った調理道具に関しても色々教えてもらって。だから、これからクランができるまでに少しでも使って馴染ませようかと」
「成る程……」
これから新しい道具を使うからというのもあって、さっきの浮かれカーリンさん状態になっていたのもあるのかもね。
でも、ララさんから言われたと話すカーリンさんの言葉には、何か他とは違う、俺が考えているのとはまた別の育てる道具みたいなニュアンスを感じたような?
「魔物の素材を使った物って、他と違うんですか?」
「私も使った事がなかったので、アルケニーの足が調理道具を作るのに良い物、という事は知っていましたが、詳細は初めて聞いたのですが……」
カーリンさん曰く、鉄を始めとした金属など鉱石から採取して作られる物は、ある程度馴染ませるなどの作業はあれど、特別な扱いは必要ないらしい。
まぁこれは、俺が知っているありふれた調理道具ってところなんだろう。
けど魔物の素材、つまり生き物を使った物の中でも、さらに名工が作成した物に関してはまた違ったものになるんだとか。
具体的には、持ち主や使用者を選ぶという程ではないけど、日常で使っている人以外には上手く扱えないという特殊性が付くとか。
他にも、例外を除けば本来形が変わる事は壊れる事を意味する物であっても、ほんの少しずつ使用者などに合うよう形が変わっていく事もあるとかなんとか。
要は、使う人が手入れを欠かさず大事に扱う事で、その人に合った物になっていくというわけらしい。
ちなみにこの話を聞いている時、そういえばとモニカさんが思い出し、マックスさんも同じように一部の調理道具を大事に扱っているのを思い出したようだ。
言われてみれば、俺が獅子亭で働いている時など絶対にマックスさんが洗い物や手入れを担当する調理道具がいくつかあった。
特注で作ってもらった物だから、自分で手入れしたいとマックスさんは言っていたけど、ちょっと他の調理道具とは違う雰囲気だったし、今思えばあれが魔物の素材を使って名工に作ってもらった物だったからなんだと思う。
それからもう一つ、これは調理道具に限った話ではなく、武具などにも同じ事も言えるらしい。
俺達が持っている武具の中で、詳細不明な謎の剣である俺の持つ白い剣以外、魔物素材が使われている物は、ソフィーとフィネさんが持つ剣と斧くらいだし、それはワイバーン素材を使って間に合わせで作った物だから、そこまでには至っていないだろうけど。
センテでヒュドラーを含む魔物の大群と戦う際に、兵士さんや冒険者さん達に配られた物だからね。
もちろん、間に合わせと言っても手を抜いて作ったわけでもない物だけど。
モニカさんの槍は壊れてしまったから、元々使っている魔法具の槍だし、そちらは魔物の素材は使われていないらしい。
まぁソフィーも以前使っていた魔法具の剣はまだ持っているし、同じく魔物の素材は使っていないらしいけど、場合によってはそちらを使う事もあるようだけど。
偶然、俺達はあまり縁がないようだけど、魔物の素材を使った道具に関しては他にも色々とあるようだし、名工が作成した物など興味が引かれたらまた別の機会にでも探してみようかな?
「それじゃ、カーリンさんが作る料理、楽しみにしていますね」
「はい! あ、ララさんが暇があったらリクさんに顔を出して欲しいって言っていました。まぁ特に何か用があるわけではなくて、話し相手にって事みたいですけど」
ララさんの話し相手かぁ、ちょっと失礼かもしれないけど体力を吸い取られるような、なんとなく疲れる感じもするから、顔を出すのはまた今度かな。
なんというか、個性が爆発しそうな……いや爆発しているのかな? そういう人だからね、悪い人じゃないんだけど。
もちろん今回同様お世話になっているし、ララさんのお店で買った鞄は役に立ってくれているわけで、嫌な相手とかでも全然ないから、本当に暇な時にでも顔を出す事にしようと思う――。
ララさんと話すのは、リクにとってカロリーの高い事なのかもしれません。
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