浮かれカーリンさんを発見
宰相さんと考えるアマリーラさんの文章改善案は、俺が世界の頂点たる力を持っているだのなんだのと、行き過ぎだと思う部分は宰相さんに言って、少し表現が柔らかくなるような方向性で考える。
ここはちょっと行き過ぎかな? と思う部分を指摘すれば、宰相さんが新しい言葉や文章を考えてくれると言うやり取りに終始した。
まぁ、俺にこういった文章を考えるセンスみたいなものはないから、そこは助かったし良かった。
全部俺が考えていたら、絶対に変なものになっていただろうからね。
まぁ、アマリーラさんの手紙の内容を、本人がいない所で修正しているためか、別物になっていっている気がしなくもないけど。
ちなみにだけど、姉さんもなぜかアマリーラさんと同じく、過剰な部分をさらに過剰に、誇張と大袈裟な表現を用いて称賛して伝えようとしていたらしい。
アマリーラさんと結託……でいいのかわからないけど、さらに俺に関する称賛を加えようとする姉さん達を、宰相さんとリネルトさんで止めるのが大変だったと、相談の合間に溜め息混じりで言っていた。
姉さん……何をしているんだか。
あまり接点はなく話す機会は少なかったけど、姉さんの話をする宰相さんは困った孫娘を見ているような雰囲気があり、それはいいんだけど結構苦労していそうだなぁという印象だった。
長年、それこそ先代のアテトリア国王陛下の頃から宰相をしている人でもあるらしいから、姉さんはもっと大事にした方がいいじゃないだろうか?
まぁ長い付き合いで祖父と孫娘的な感覚で、つい甘えてしまうのかもしれないけど。
この世界に、ヒルダさんも含めてだけど姉さんが気を許せる、そういう相手がいるというのは俺としても安心できるし嬉しい事だけどね。
「ありがとうございます、リク様。後ほどアマリーラ殿や陛下にも確認していただきます」
「あぁ、ちゃんとアマリーラさんにも確認してもらうんですね。もうアマリーラさんが書いた物とは全然違う文章になってそうだったので、安心しました」
「獣王国の国王陛下に充てる物ですからな。娘の溺愛しているとも聞いておりますし、文や言葉の癖などもあります。我々だけで全てを変えてしまえばそれを見抜かれ、向こうにとっては説得力のない物になってしまうでしょうからな」
獣人だから、そう言った嗅覚というか感覚的に見抜く力が鋭いのかもしれない。
それでなくても、親子であれば、特に溺愛している娘が相手なら特に癖なども熟知している可能性も高いしね。
場合によっては、親バカで盲目的だったりする人もいるかもしれないけど。
「おっと、気付けばこんな所で話し込んでしまいましたな。申し訳ありません、リク様。リク様は気取らず、ですが物おじしない部分もあり、なんと言いますか私としても話しやすい方でもありますので、ついつい」
「まぁちょっと、他の人の目は少し気になりますけど……」
王城の廊下なので、当然他の人……主に兵士さんなどが通りすがる事もあって、俺や宰相さんを見ていたからね。
まぁ話し込んでいる俺達を見て、微妙に距離を取っていたから話が聞かれたという事もなさそうだ。
もしかすると、機密を話していると見られて気を遣わせてしまったかな?
「とにかく、気にしないで下さい。それに、俺もなんというかこういった事を言うのは失礼かもしれませんけど、お爺ちゃんと話しているような気もして、楽しかったです。内容は苦笑しか出ないものですけど……」
姉さんを孫娘のように、という風に見えているのも大きいんだろう。
実際に身体的な意味では姉さんと俺は現在、血が繋がっているとは言い難いど、それでもやっぱり感覚的には姉弟なのは変わらないわけで。
だからこそ、俺から見ても宰相さんはお爺ちゃんみたいな感覚になったのかもしれない。
宰相という要職どころか、国を動かす立場の人にそう言うのはかなり失礼で不敬かもだけどね。
「ほ、私がお爺ちゃんですかな? ははは、それはいいですな。リク様のような孫ならば、自慢の孫になりそうですな」
「だといいんですけどね……はは」
楽しそうに笑う宰相さんからは、俺にお爺ちゃんと言われて悪く思う雰囲気はなさそうだ、良かった。
「ではリク様、私はこれで。今度また、相談事などではなくただ暇を持て余した老人の話を、お茶でも飲みながら聞いていただけるとありがたいですな」
「はい、色々と話を聞いてみたいと思いますので、その時はまたお誘い下さい」
特に、姉さんの愚痴とかね。
「はい。では失礼いたします」
そう言って一礼するのに俺もとお辞儀をして返すのを、好々爺という言葉がぴったりの柔和な笑みを浮かべ、宰相さんはアマリーラさんの手紙を持って宰相さんは去って行った。
なんとか助けになれて良かった……かな?
「るんるーん……ららら~」
「……えーっと?」
宰相さんと別れ、部屋に戻って準備をしてモニカさん達と、魔物の集団討伐のため出発……と思って部屋を出たんだけど、途中で何やらご機嫌でちょっと調子がずれている気がするような歌声? と軽やかに舞うように動くカーリンさんと発見した。
とんでもなくご機嫌、というのがはっきり伝わって来るのはいいんだけど、あんな様子のカーリンさんは初めて見た。
どう声を掛けたらいいんだろうか? と思っていたら、それより先に向こうがこちらに気付いた。
「はっ!! リ、リク様!? こ、これはその……」
大袈裟なほど驚き、すぐに顔を赤くしながら俯くカーリンさんを見て、俺は見てはいけない物を見てしまったんだと思う。
まぁ、浮かれているのがわかりやすすぎるくらいだったから、あんなのを知り合いに見られたくはないよね……。
王城には兵士さん達などが忙しそうに出入りしているから、見たのは俺達だけじゃないんだけど。
「あーえーっと……こんな所でどうしたんですか、カーリンさん?」
とりあえず、さっきの浮かれカーリンさんは見なかった事にして、王城の出入り口……でっかくて豪奢な馬車も出入りできるような正門ではなく、勝手口に近い、多くの人が基本的に出入りする出入口だけど、そこにカーリンさんがいるって事は、どこかに行くかどこからか戻って来たかのどちらかだろう。
基本的には、厨房付近や以前あった王城の部屋付近によくいるようだし。
「そ、その……ララさんから報せが来まして。それで、取りに行っていたんです」
「ララさんから。って事は、新しい調理道具が?」
「はい! そうなんです! ふふふ、ララさんが素敵な物に仕上げてくれて……」
新しい調理道具が手に入ったから、あの浮かれよう……というかご機嫌な様子だったんだろう。
自分の好きな物や趣味など、まぁカーリンさんにとっては仕事道具でもあるけど、そういった物を新調して届いた時とかに浮かれてしまう気持ちはよくわかる。
俺も、モフモフ関連の品が届いた時は、誰にも見られないように気を付けながらだけど、客観的に見ると変な笑いを漏らしていたからね。
そういえば、日本に置いてきたというか置いて来ざるを得なかった、あのモフモフ品はどうなっただろう? なんて考えても、戻れるわけじゃないから気にしても仕方ないんだろうけど――。
以前のリクは、モフモフ趣味のグッズ集めみたいな事にも手を伸ばしていたようです。
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