駆逐されるデュラホース
「あっ、しま……!」
余計な事を考えて集中が少し途切れてしまっていたからか、二体のデュラホースが俺の左右から抜けて行こうとする。
かろうじて一体は足を斬って止められたけど、もう一体は一瞬で剣の届かないところまで行ってしまった。
このままじゃ、俺の失敗でデュラホースが村に到達してしまう……! と思った瞬間。
空から複数の槍が振ってきて、走り抜けたデュラホースを串刺しにし、地面に縫い付けた。
槍は水を固めた物で、デュラホースが動かなくなるとともに、形を崩して単なる水になって地面にしみこんで行った。
遠距離から、しかも見えていないだろう場所へ正確に魔法を打ち込むなんて、こんな事ができるのは……。
「……レッタさんか。助かったぁ」
おそらく魔力誘導の能力があるおかげなんだろう、基本的に魔法は目視した相手に放つか、適当にばら撒いて当たればいい、という使い方になるのが多い。
シュットラウルさんの侯爵軍との演習でも、軍の人達が放った魔法はばら撒く系だったし。
でもレッタさんは、魔力誘導で相手の距離など正確な位置が見えてなくても把握できて、確実に命中させられると考えて良さそうだ。
魔力貸与で膨大な魔力を有しているし、使う魔法も強力……武器の扱いは不慣れのようだけど、それを補って余りある能力だね。
固定砲台、もしくは護衛を置いての後方支援など、もしかしてレッタさんってかなり戦略的に有能……?
「リク、よそ見しない!」
「わ、わかった!」
ロジーナの鋭い注意を受け、再びデュラホースへと意識を向ける。
いけないいけない、油断してまたデュラホースに抜けさせたら、せっかくの作戦が台なしだ。
それからは、しばらくの間デュラホースへと集中して戦った。
とはいえ、第一段階から半分以上の数を減らしていたため、あまり長い戦いではなかったけど。
ユノやロジーナ、それにレッタさんの遠距離からの魔法支援のおかげで、計画通りデュラホースが村に到達する事なく、全て討伐できた。
「はぁ……ちょっと疲れたなぁ。身体的というより、精神的に」
デュラホースを全て討伐し、オークも含めて止めを刺して回るアマリーラさんの狂気みたいなものは見ない事にして、地面に座り込んで大きく息を吐く。
計画が上手くいったとはいえ、村に魔物を近づけさせない戦いというのは結構神経を使ったから、疲労はそこまででなくとも、精神的な疲れを感じていた。
ずっと緊張状態だったからね……途中で、別の事を考えたりはしていたけど。
「あれくらいで疲れたなんて情けないわね。そんなのでこの先大丈夫かしら? 戦争をするのよ? 同じ状況ではなくても、似たような状況になる事もあるし、誰か、何かを守りながら戦う事だってあるわ」
「それは……確かにそうなんだけどね」
ロジーナの言う事はもっともで、戦争ともなればこれと似たような状況はいくらでもあるだろう。
基本的に現状で予想されているのは、帝国からの侵略戦争なわけで……村を守るなんて事もあるかもしれない。
それでなくても、帝国からの兵や魔物から、味方を守るって事だって考えられる。
「これまでも、何かを守る戦いみたいなのはやって来たけど、さすがに今回は余裕がなさ過ぎたからね。デュラホースは考えていたより走るのが速かったし」
「まぁ……私もそれは少し予想外だったわ」
「ロジーナも?」
デュラホースは破壊神のロジーナが創った魔物だから、走る速度とかも含めて全て把握済みと思っていたんだけど。
「おそらく核から復元する際に、何か仕込んだんでしょう。そもそも、首の断面が炎で燃えているなんて、本来はないはずよ」
「え、あれ、デュラホースの標準じゃなかったんだ」
「まったく、エルフも関係しているけど、人の欲深さは始末が悪いわね。こんな魔物も利用するなんて。理性どころか本能があるかすら怪しい、ただひたすら直進するだけしか能のない魔物を、変化させてまで使うなんて……ねっ!」
忌々しそうに言いながら、ロジーナは既に止めを刺されて完全に動かなくなったデュラホースの体に手を突き刺し、中から何かを引き抜いてそれを握りつぶす。
おそらく、デュラホースの核を抜き出して破壊したんだろう、これでもうあのデュラホースは復元する事ができない。
やっている事の意味はわかるし、なんらかの手段で回収されないためにも必要かもしれないけど……見た目が小学校低学年のロジーナがやると、迫力というか中々な狂気を感じる。
鼻歌を歌いつつも、「リク様の手を煩わせおって……」なんて呟いて、ほんのり笑顔でオークやデュラホースに止めを刺して回っているアマリーラさんと、どちらがより狂気的か、いい勝負かもしれないなぁ。
「リク―、こっちは終わったのー」
「お疲れ様ユノ。さて、出遅れたけど俺も作業を開始するかなぁ」
手を振るユノにこちらも手を振り返し、立ち上がる。
オークはともかくとして、デュラホースは危険度的にもロジーナの要望的にも、止めを刺すだけではなく核を確実に潰す必要があった。
巡り巡って、どこで再び復元されるか……というかそもそも、核を放っておいたら誰かが何かしたというわけでもなく、そこからまた新しく発生する可能性があるらしい。
魔物の素材活用とか、人の生活に関わっている部分もあるので全ての魔物に同じ処理をする必要はないけど、ロジーナとしてはデュラホースをできる限り駆逐しておきたいようだからね。
「さっさとやって、永遠にデュラホースを見ないようにするのよ」
「はいはい。でも、ここにいるだけが全てじゃないんでしょ?」
「それはまぁ。でも、核を潰して全体数を確実に減らすのは、私のためになるわ」
過去の汚点とロジーナが考えているようだから、まぁできるだけ見る機会を減らしたいんだろう。
全体数は知らないけど、少なくともアテトリア王国ではかなり珍しい魔物でもあるため、この先遭遇する機会があるかはわからないけど……。
ともかく、粛々と核を潰す作業に入る事にした。
動かない魔物の体を斬り裂き、核を取り出して潰すのはエグさを感じる作業だったけど、日頃討伐証明部位を切り取って持ち替えるとか、素材を切り分けるなんて事もして慣れていたから、精神的ダメージは少なくて済んだかな。
全くないわけじゃないけど、これから先戦争に参加するとか、散々魔物を倒して来たんだから今更気にしない方がいいんだろうとも思う。
「よし……っと。オークの方も片付いたみたいだし、あとはエルサやモニカさん達を待つだけかな」
「リク様! リク様のお手を煩わせた者共をの始末、完了いたしました!!」
「はい、ありがとうございます。さすがアマリーラさんです、早いですね」
「ふへへ……リク様に褒められましたぁ」
デュラホースの核を全て潰し終わって息を吐くのとほぼ同時、猫っぽく細長い尻尾と耳を揺らしたアマリーラさんが報告に来てくれた。
まぁ、遮る物のない見晴らしのいい場所だから、オークを全て倒したのは見えていたんだけど……褒められ待ちっぽいアマリーラさんに笑って応える。
あまり他人に見せられないような表情で喜んでいるアマリーラさんだけど、獣人の国の王女様なんだよねぇ。
本人からは、あまりそこは気にしないで欲しいとは言われているけど……。
アマリーラさんとしては傭兵で冒険者、そしてリクの従者的なポジションを求めているのかもしれません。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。






