リクへの訓練評価
「リク様が怪我を!? おのれオーガめ……塵芥も残さず滅して……」
「いやいや、もうオーガは全部倒していますから、これ以上は……」
服があちこち破れていたり、モニカさんに手当てされて布が巻かれている状態の俺を見て、憤慨するアマリーラさんを止める。
怒りがオーガの残骸に向いているけど、もう動くのはいないからね。
これ以上何かやるのはさすがに死体蹴りが過ぎる。
後片付けとして、埋めるとかならまだしも……。
「ふむ、予想していたよりも怪我は少ないようじゃの」
俺の全身を観察し、エアラハールさんが呟く。
もっと大きな怪我、もしくは多く怪我をすると予想されていたのか。
なら、訓練としては上々の成果と言えるのかな?
「そうみたいなの。リクが感覚を掴むまでもっとかかるか、それとも感覚を掴んでもその影響でもっと怪我をすると、考えていたの」
「……なんとか、怪我は少なくて済んだけど。でもやっぱり、ユノとエアラハールさんが考えた訓練法だったんですね」
「そうじゃの。戦闘訓練という意味では、単純にオーガの集団に囲まれながら戦えばと思ったんじゃが……」
「リクだけ特別なの。リクはもう少し、魔力についてのあれこれを知っておいた方がいいと思ったの。ちょうどよく、ロジーナが魔力に意識を向けさせていたし、結界の練習も始めたからなの」
「俺だけ……か。あまり嬉しい特別じゃないけど、おかげで色々わかったよ」
もう少し説明して欲しかったとは思うけど、実際話として聞くよりも、実践で培った方が俺としては覚えやすいだろうし、そういう部分も考えてだったんだろう、多分。
「怪我の具合や数、それに上から動きを見ていた限りでは及第点と言ったところじゃの。まぁ悪くないわい。細かい部分は、通常の訓練の際に近くで見てみんとわからんがの。ただそちらはワシではなく、ユノの領分じゃ」
怪我が少なくて、褒められたと思っていたら及第点と言われた。
厳しいなぁ。
「それはともかくじゃ、ちょいと見せてみぃ……ふむ」
「エ、エアラハールさん……?」
ひょいっと、腰に下げている俺の剣をエアラハールさんが鞘から抜いて観察する。
ジーっと剣その物を見る目は鋭い。
ちょっと欠けたりもしたから、怒られるかもなぁ……。
「思っていたより、無茶な使い方はしていないようじゃの。途中で突きを多く繰り出して、後は拳や足を使っていたおかげかの」
「一度だけ、オーガの腕を斬り落とそうとして失敗したので……それで、斬るのは控えめにして突きなら折れにくいと……」
殴る蹴る、それから投げる事に頼ってしまったけど……とりあえず突きを使っていた理由などを話す。
「剣に頼るばかりではないのは、悪い事ではない。特にリクは、剣に頼らずとも十分以上に戦えるからの。じゃが少々、悪い方に考えて慎重になり過ぎじゃ。どうせなら、この剣を折るくらいには使ってほしかったところじゃの」
「……折って良かったんですか?」
錆びた剣は、あくまで折れないよう俺が力加減をするための物としてだと思っていた。
それに、エアラハールさんからも折らないように戦えと言われていたし……折れてしまったら、その後は素手で戦うしかできなかったけど、実際はその方が戦いやすかったとも思う。
剣を持っていたから右手が塞がっていたし、突きはできるとしても、オーガの攻撃を受け止めるとか絶対できなかったからね……。
魔力に覆われている状態ですら、強い衝撃と痛みが来る威力を受け止めたら、魔力を通していても剣が破壊されてしまうし。
でも、折れてしまえばそれを気にしなくても良くなるし……なんて考えていたら。
「もちろん、折ってしまったら怒っていたところじゃ。リクが扱う物の耐久度に合わせて、加減をして戦う事を覚えさせるためじゃからの」
「やっぱり、怒られるんですね……」
なら、折らなくて良かったと一安心。
「じゃが、序盤の戦い方は剣とは関係なくいただけなかったの。オーガの攻撃を避けるような素振りがほとんど見られんかった」
剣を返されながら、そう注意される。
確かに序盤、というか魔力に意識を向けるまではほとんど、殴られたら殴り返して、とかの泥仕合みたいな様相だったから言われるのもわかる。
訓練の本質を考えず、ただオーガを倒す事を考えていたのも原因だろうけど……痛みや衝撃はあれど、耐えられるから自分の耐久を頼りに無茶な戦い方をしていたなぁ、と終わった今では思う。
「本来はオーガを倒すのではなく、避ける方が重要だったんですね」
「うむ。まぁ一切オーガを倒さない、というのもそれはそれで問題じゃったが……最終的に本質に気付けたのなら、こちらもとりあえず及第点じゃの」
「はぁ……」
手放しで合格、みたいな評価ではなくずっと及第点……まぁ俺が悪いんだけど、ちょっとへこむなぁ。
エアラハールさんが厳しすぎるとは思うけど、でもそれは俺の望んだ事でもあるから仕方ないか。
「私は、動きが良くなった後半から、リクがばったばったとオーガを倒すと思っていたの。それができなかったから、私からも一応及第点って事にしておくの」
「合格はできたみたいで良かったけど……本質は避ける事だって話なのに、俺がオーガを倒すのは……」
「最初はそうなの。でも、外側の魔力を意識して感覚を掴んだなら、できたはずなの」
「うーん、そうは言っても、オーガはタフだし……剣を突き刺すくらいじゃ中々致命傷は与えられなかったからなぁ。力任せにぶん殴っていいんなら、できなくもなかったんだろうけど」
「お爺ちゃんの意図は伝わっているのに、私の意図は完全に伝わっていないの。まったくなの……!」
「はぁ、ユノは言葉足らずなのよ。見た目の年齢相応に精神性もなっているのかしら? それじゃリクもわからなくなて当然よ。――レッタ、離しなさい」
「あん、ロジーナ様ご無体な……」
「ロジーナ……?」
レッタさんが撫でまわす手を振り払い、ロジーナがこちらに来る。
首を傾げる俺を余所に、モニカさんやソフィー、フィネさんの手を引いて俺の前に並べた。
これになんの意図があるのか……。
「復習よりリク。さっきのように外部の魔力に意識を集中して、感覚を呼び覚ましなさい」
「えーっと……」
この場で? という疑問は飲み込み、とりあえずユノの方に視線を向けると、少し頬を膨らませてむくれていたけど、首は横に振らなかったのでやればいいんだろうと理解。
むくれているのは、ロジーナが入って来たからだろう、相変わらず仲がいいのか悪いのか微妙だ。
「ん……」
よくわからず、並んで立つモニカさん達を前に目を閉じて、オーガと戦った時のように深く集中。
自分の外側の魔力に意識を集中……しようと思って気付いた。
体を覆う魔力が元に戻っている、体内から滲み出た魔力で補充されたんだろう。
「ごめん、ちょっと魔力を放出するから待ってて」
「はぁ、不便ね。もっと慣れて感覚を鋭く尖らせれば、今のままでもできるようになるはずだけど、仕方ないわ」
溜め息を吐くロジーナに謝りつつ、一旦皆から離れた――。
まだ体を覆う魔力がそのままだと、外側の魔力を感覚で掴めないようです。
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