体内魔力操作
「……そういえば、ユノが魔力って言っていたっけ」
落下のあれこれや、実際にやってみると全然オーガの攻撃を避けられない状況にいっぱいいっぱいで、ユノの言葉が頭から抜けていたのを思い出す。
魔力を意識するって言っていたけど……散々殴られて体のいたる所がジンジンとした痛みを感じる中、魔力に意識を向けるのは難しいけど……。
でも、ユノの言っていた事だから、きっと何かあるんだろう。
とにかく、近くに迫っていたオーガを殴り飛ばし、別のオーガに剣を突き込んで蹴り飛ばしつつ、意識して深く入り込むような集中をする。
「体内の魔力を感じるのは、まぁもう慣れたけど……ぐぅ! 痛いなぁもう!」
オーガだけに集中していないからか、いやもともとあまり避けられずに殴られていたけど、それでも痛みについつい口のような言葉を漏らしてしまう。
自分の体内にある魔力を感じる事自体は、慣れてきているからすぐにできる。
けどやっぱり、動きがおざなりになってしまって避けるどころじゃないな……。
「でもユノが言っていたし、無駄な事でも意味がないわけでもないはずなんだけど……お?」
特に意識したわけじゃない。
相変わらず自分の体内で流れる魔力の動きを感じる程度だ。
けど一瞬、ほんの一瞬だけ体内の魔力が不自然な動きをした。
不自然というと勝手に動いたように感じるけど、実際は自分が動くのに合わせて魔力も動いただけだ。
ただその行動は、剣でオーガを突き刺し、抜くついでに蹴り飛ばすという何度やったかわからない動作後の反動……動きの後の隙というべきか。
それを短縮して、横から来たオーガの振り下ろされる腕を避ける事ができた。
これまでだったらわかっていても体が動かせず、もしくは間に合わず、直撃していた物だったと思う。
「もしかして……俺がこうしたい、こう動きたいというのに反応して体内の魔力が動いている?」
疑問を口に出して呟きつつ、さらに意識を深めて魔力を感じる。
すると、俺の動きに合わせて魔力が体内で動いているのがわかった。
体を動かすために筋肉が収縮しているのに近いだろうか……特に強く動かす部分に魔力が集まって濃くなっている。
「おぉ、体が動かしやすい。というか今までになく素早い動きができている……かも?」
体内の魔力に意識を向けているせいで、さらにオーガの攻撃が避けづらくなるかと思っていたんだけど、実際にはその逆で、むしろ動きやすくなって地面に描いた円から出る事なく、前後左右、斜めからも迫るオーガの攻撃を避けられている。
まぁそれでも、何度か当たってしまって全て避けられているわけじゃないけど。
「でも、もし殴られたとしても……っ! よし、これならあまり痛くないっ!」
ゴブリンの時にやった魔力の放出とは逆、むしろ体を覆っている魔力をさらに濃く、オーガの攻撃に備えると多少の衝撃や痛みはあるけど、これまでよりも痛くないし、衝撃その物も小さくなった。
どうやら、魔力が受け止めてくれているからこそ、意識的に体を覆う魔力を濃くする事で衝撃や痛みを吸収してくれているようだ、と思う。
「これは便利だね……まぁ、もっと濃くすると衝撃自体も感じなくなるとは思うけど……難しいか」
戦闘中という事もあるけど、体を覆う魔力をさらに濃くしようと体内から送っても、表面から魔力が散ってしまって思った以上に濃くならない。
多分何か方法があるのかもしれないけど、今はこれで十分か。
痛みは多少感じるけど、我慢できないわけじゃないし怪我や血の滲みが酷くなる程じゃない。
「とりあえず、魔力が尽きるまではこのまま戦えそうだね……」
戦闘が長引いても、やられる心配はなくなった。
さっきよりも、オーガの攻撃事態避けられるようになっているし……このままモニカさん達の到着を待って、その後オーガを殲滅すれば実戦訓練は終了だ。
多分だけど、訓練の成果としては及第点になるとは思う。
いやまぁ、魔力を意識するまではオーガの攻撃に当たりまくっていたし、それもあってエアラハールさんからは何か言われるだろうけど。
九割は攻撃に当たっていた先程とは違って、半分以上避けられるようになった今なら、成長と言う意味ではギリギリ合格なんじゃないかなぁ……と愚考する次第です、はい。
……むしろ、九割攻撃を避けられるようになれ、とか考えられていたらどうしよう? と思わなくもないけど。
「少しずつオーガも減ってきているし、このままでもいいとは思うけど……」
集団の外側でモニカさん達が頑張っているのか、様子は見えないけど俺を囲んでいるオーガの攻勢が、ほんの少し……もしかしたら勘違いかと思うくらいごくわずかだけど、緩くなっている気がする。
気持ち、オーガの密集度も下がっているようにも思う。
まぁ俺が蹴り飛ばし殴り飛ばす事もあるからかもしれないけど。
でも……。
「なんというか、便利だしこれまで以上に力任せよりは、考えて動けるようになっていると思うんだけど……ちょっとこれじゃない感があるんだよなぁ」
「GYAGYA!!」
俺に振り下ろされたオーガの腕を避け、ついでに二の腕辺りを切りつけつつ、お腹に剣を突き刺し、抜くついでに蹴り飛ばす。
こなれて来た動作でもあるし、現状では最も有効な動きなんだけど……なんとなく違う気がした。
引っかかっているのは、ユノの言葉。
確かユノは、魔力を意識する以外にも言っていたはずだ。
「なんだっけ……俺は分厚い魔力で覆われているとか。確か、外側の魔力に意識を向けろ……だったっけ?」
ユノの言葉を思い出すも、探知魔法を使っているわけでもないし、使えないのだから外側の魔力というのがよくわからない。
結界と同じく探知魔法も使える方法が? と思ってちょっとイメージしてみたけど、やっぱりノイズに邪魔されて使えない。
以前よりは、ほんの少しだけノイズが弱まっている気がしたけど……それが魂の修復が進んでいるからか、それとも戦闘中で他にも意識が向かっているからかは判然としない。
ただ、ユノが言っていたのは使えないはずの魔法をなんとかして、とかではない気がする。
「分厚い魔力で覆われているから気付きにくい、とも言っていたっけ。もしかすると、それが邪魔なのかな? うーん……」
体を覆う魔力は今、オーガの攻撃を防御するためさらに分厚くしている。
避ける動作に慣れて、さらに攻撃が当たらなくなってきているとはいっても、やっぱり当たったら痛いからね。
けど、ユノの言う事が俺の考えていた通りなら、防御のための分厚い魔力その物が邪魔になるって事で……。
このまま戦ってもいずれオーガは殲滅できるだろう、けどこれは訓練でもあるわけで、もしエアラハールさんがユノの言葉も織り込んで考えていたら、今のまま戦って終わらせてはいけない気がする。
「エアラハールさんがどう考えているかはわからないけど……そもそもユノと打ち合わせというか示し合わせていたのかすらわからない」
でも訓練をお願いしたのは俺だし、それがこの先役に立つのなら試す価値は十分以上にあるよね――。
訓練と考えればやらない手はないとリクは覚悟を決めたようです。
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