リクに課せられる訓練としての制限
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「目的の方角にちゃんと来たのはいいけど……上手いかどうかはどうだろう?」
自信満々なエルサの言葉に、首を傾げつつ返す。
あの速度でしばらく飛び続けていたら、俺やユノとロジーナはともかく、他の人達は酔ってしまう可能性が高いだろうからなぁ。
気持ち悪いとまではいかないまでも、今もソフィー達はただエルサに乗っていただけなのに、かなりお疲れの様子だしね。
「まぁそれはいいとして……魔物っていうのはあれかな? えーっと……」
「オーガなのだわ。ざっと三十体はいるのだわ」
「よく見えるね……俺からだと、ぼんやりと魔物らしい大きな影が複数固まっている、くらいにしか見えないのに」
遠くに集団と思われる影のようなのが見えたけど、人より大きいかも? というくらいしかわからない俺に対し、エルサはしっかりと魔物の種族も視認して把握しているようだ。
それはともかく、オーガ三十体以上か……難しくはないけど、結構危険だね。
さすがと言っていいのかわからないけど、魔物の集団の数そのものが多い西南方面ってところかな。
俺達が討伐を担当している箇所でもあるから、ちゃんとそこはわかっていて移動してくれたみたいだね。
「さて、オーガが三十体程度なら……俺一人でいいかな?」
「リ、リク様のお手を煩わせずとも、オーガごとき私達で……」
「いや、アマリーラさんは少し休んでて欲しいかな。まだ、移動の反動というか、疲れているみたいだし」
無理はして欲しくないからね。
今も、酔って吐き気がする程じゃないにしても、顔から血の気が引いている状態だし。
「そ、それならじゃ。リクの訓練とモニカ達の訓練も兼ねて共同で良いじゃろう。ただし、リクには制限を付けてもらうがの?」
アマリーラさんと同様、顔色の悪いエアラハールさんからの提案。
エルサの急発進からの高速移動は、失礼かもしれないけど年齢的にエアラハールさんの方が、ダメージが大きいみたいだ。
「俺の制限、ですか?」
「そうじゃ。ふぅ……まだまだリクは力の制御がなっておらん。多少訓練したところで、すぐにどうこうなるものではないようじゃ。まぁそれはこれまで力任せに戦ってきたツケのようなものじゃの」
「まぁ……割と面倒で一人で戦う時は、一応加減は考えますけど、大きすぎないなら周囲の影響はあまり考えずに戦ったりしていましたからね」
以前の俺、というか戦い方に関しては反省点が多すぎる。
加減していて全力ではない、というのを言い訳にしてある程度は仕方ないと思ってもいたからね。
癖みたいになっているんだろう。
それは、これまで以上に厳しいエアラハールさんの訓練を受けていると言っても、数日程度でどうにかなるものじゃない。
元々、癖がなくても加減するのが難しくて、すぐになんとかできる程の技術を身に着けるのは難しいんだけど、自分自身のせいでさらに難しくしているらしい。
「じゃから、オーガの集団にリクを放り込むんじゃ。まぁオーガくらいならリクが囲まれてもどうこうなる事はあるまい?」
「それはそうですけど……」
「そしてじゃ、オーガに囲まれたリクは……そうじゃの、大体数歩程度の範囲から出る事を禁じる。オーガの膂力は中々の物、どころではないからの。それをいかに避けつつ戦うか。最小限の動きができなければ、単なる的になる」
「制限ってそれですか。うーん……」
オーガは、冒険者ギルドで認定されている討伐ランクとしてはDランクで、新人冒険者が一定以上の評価を受けるための壁のような扱いがされていたりする。
それは冒険者として必要な諸々の素質みたいなものを試すのにちょうどいいかららしい。
オーガの膂力、つまり腕力が同ランクの魔物の中で随一であり、タフな事でも有名で、それだけなら討伐ランクはBランクとも。
ただし、動きその者は鈍重で巨体であるために細かな動きはできないうえ、エクスブロジオンオーガのような特殊な種族以外は魔法が使えない事。
まぁ簡単に言えば、単調な動きでほとんど考えられた動きをする事もなく、ちょっと身軽な人であれば基本的に危険は少ないと言われる程だ。
人によっては、細かな動きをする他のDランクの魔物の方が厄介だと言われる事もあるけど、つまりはそれだけの事を言えるくらいなら、一人前とは言わずとも半人前くらいの冒険者とも言えるわけだね。
ただしそれは単体であり、さらに言えば自由にこちらが動けるもしくは、遠くから攻撃できる手段があればこそ、ではある。
最小限の動きしかできない……数歩程度という事だから、その最低限の動きすら難しい状況でさらに囲まれているのなら、Bランク相当の攻撃を受ける可能性がかなり高いとなるわけで……。
しかもオーガって、仲間がいるのもお構いなしに攻撃してくるんだよなぁ。
つまり、いくら動きが鈍いからと言っても、いくつかの条件が合わさる事でその難易度がかなり上がるってわけだ。
「オーガに殴られたら、痛いだろうなぁ……」
「痛いで済ませられるのは、リクさんだからよね。一回でもオーガの攻撃を受けたら、通常の人は動けなくなるわね」
「油断せずに対処すれば問題なく討伐できたものを、調子に乗った冒険者が油断したせいでオーガの拳に直撃したのを見た事があるが……そいつは凄まじい速度で回転しながら吹っ飛んでいったぞ。幸い、生きてはいたがその後は冒険者を続けられなくなったな」
そんな悲惨な場面を、ソフィーは見た事があるのか……まぁ、長く冒険者を続けていれば、そういう場面に遭遇する機会もあるのかもしれないけど。
魔物も冒険者も、命を懸けて戦っているからね。
「魔物との戦いは、どんな相手であれ油断せず動かなければならんからの。例え格下の相手であれ、余裕を持つ事はあっても油断をしてはならん。その者はオーガにやられる程油断していたという事じゃな。もしその後も冒険者をしていても、同じ失敗をしたじゃろうし、命があっただけで儲けものじゃろう」
エアラハールさんからの厳しい意見。
長く冒険者を続けている人だからこそ言える事かもしれないね。
「そんな事よりじゃ、当たる前提でどうする。リクなら当たっても大した事にならん、とわかっての制限ではあるが、最初から当たる事を考えるのではなく、避けるのじゃ」
「それはわかりますけど……」
魔力のおかげもあって、勢いよく振り下ろされた武器を素手で掴んだり、当たってもちょっと痛いかなくらいで済んでいたのもあって、避けるってあまり得意じゃないんだよね。
これも、今まで楽して戦ってきた弊害と言えるのかもしれないけど。
「ふむ、そうじゃの。ではリクがオーガの攻撃に当たった場合、一度につき訓練の強度を上げるかの?」
「訓練の強度って……」
ただでさえ、現状でも詰め込み過ぎと言うくらい密度が濃く、厳しい訓練を受けているのに……今は他にやる事があるため、午前中のみの訓練だけど、それでも終わった直後はもう今日一日あとは休ませて欲しい、と思うくらいだ。
正直なところ、結界を張ろうとして無理をした時と同じかそれ以上に、短期的にではあっても疲労などが濃い。
それをさらに厳しく、ではなく強度というのは……何をされるのかわからないけど、どう考えても過剰で辛い訓練になりそうな予感しかしない――。
さらに厳しい訓練がリクに課せられる可能性が……。
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