張り切りエルサの急発進
ワイバーン達の動きに対する感心以外の感想戦での話としては、数体ごとに別れた後、隊長さんが簡易的に付けた数字での指示も、良かったなどだ。
アマリーラさんなんかは、ワイバーンに乗って動いていた側の人なので複数でいる事のさらなる有用性……戦略的な動きなどに感心しつつも、空を飛べる利点を大いに生かした戦闘に軽く戦慄していた。
空を飛べないのは当然として、人間やエルフのように遠くへ魔法を放つのが苦手な獣人にとって、元々ワイバーンなどの空高く飛べる魔物は天敵に近いらしいからだとか。
まぁ弓矢とかで対処できない事もないけど、水刃を避けていたのを見る限り、簡単に当たりそうにないよね。
リーバーが統率していて、通常よりも知性が高いような気がする復元されたワイバーンだからこそ、だとは思うけど。
あと、敵対する事はないんだから小声でブツブツと「なんとかして空から叩き落す方法を……」なんて呟かなくてもいいと思う……。
「では、我々はリザードブレイドの処理をした後、引き続き練度を高めるよう努めます!」
「はい、よろしくお願いします」
「ガァ、ガァゥ……」
「乗せてくれてありがとうリーバー」
この場に残る隊長さん達に挨拶。
今度はエルサに乗るため、少し寂しそうな鳴き声を上げるリーバーを撫でる。
ここから俺達はエルサに、リーバーは隊長さんを乗せて別れての行動になるからなぁ。
隊長さんも悪い人じゃないというか、リーバーも含めてワイバーン達を可愛がっている様子が端々に出ているので、嫌そうにせず乗せて欲しいと思う。
「それじゃ行くのだわー。あのトカゲもどきには負けない空の覇者たるドラゴンの真髄をお見せするのだわー!」
俺達が改めてエルサの背中に乗ると、リーバーに乗っている俺やモニカさんを見ていたからか、妙に張り切ったエルサが大きく翼を広げ、いつにも増してバッサバッサと力強く羽ばたいて浮かび上がる。
相変わらず、助走の必要が一切なく地面方垂直に浮かび上がれるのは凄いと思うけど……エルサはエルサ、リーバーはリーバーで別に比べていたりはしないんだけどなぁ。
しかも、俺から魔力が流れて蓄えている量が増えたんだろう、久々に十翼も出しているし……。
一部のワイバーンが、巨大なエルサとその背中に現れたモフモフしている十枚の翼を見て、怯えているのが見えた。
「というかトカゲもどきって……」
この世界だとドラゴンとワイバーンは完全に別物だけど、場合によっては似たような見た目だったりするんだけど。
ワイバーンをドラゴン……竜と近い扱いの場合もあるしね。
ドラゴンとワイバーンの違いって、手が翼か別にあるかで色々議論される事もあるけど……というか、この世界のワイバーンって手と翼は別だよねそういえば。
もしかしたら、呼び名がワイバーンというだけで実は、一般的なファンタジー世界のドラゴンなのかもしれない。
魔法らしいけど一応炎も吐くし……ま、まぁこの世界では、ユノが創ったモフモフした生き物がドラゴンで、ロジーナが創った空を飛ぶ爬虫類っぽい魔物がワイバーンって事でいいか。
「それじゃ、トップスピードで行くのだわー! あんなトカゲもどきとは違うのだわ。とくとご覧あれなのだわー!」
「エ、エルサ。ちょっとま……っ!!」
「「「うきゃー!!」」」
そんな益体もない事を考えていた俺の耳に届いた、張り切っているエルサの声。
いつの間にか、先程リーバーに乗って飛んでいた時よりもさらなる高度へと達していたエルサは、俺が静止の言葉をかけるのも間に合わず、一瞬で音速を越えたんじゃないかと思うくらい、凄まじいスピードで移動を開始。
音速を越えた、というのは実際のところさすがにないけど、感覚としてそれくらいの勢いだったというだけだね……ほんの数秒も経たないくらいで、リーバー達が見えなくなったどころかかなり離れていたはずの王都を通過したし……。
ソニックブームとか大丈夫かな? なんて思いつつ、心の中で徐々に加速なんて事をどこかへ忘れてきたのかと突っ込みながら、エルサの背中に乗っている一部の人が上げる悲鳴が一瞬で遠くなるのを感じた。
ちなみに悲鳴を上げていたのは、ソフィーとアマリーラさん、それからエアラハールさんだ。
ソフィーとアマリーラさんはともかく、エアラハールさんのようなお爺さんと言って差し支えない人が、「うきゃー!!」なんて高い声で悲鳴を上げるのは貴重なのかもしれない。
……貴重だからって、聞きたいわけじゃないけどね。
「魔物を発見したのだわ!」
「はぁ、はぁ……魔物と戦うよりも、よっぽど疲れた気がするが……」
「あ、あぁ。あんな、後ろに引っ張られるような感覚は初めてだ」
発見報告と共に急停止するエルサ。
ソフィーとアマリーラさんは真っ青な顔をして、息を整えているけど……ユノやロジーナはともかく、モニカさんやレッタさん、フィネさんなども似たような感じだね。
結構Gがかかっていたし、そんな事はこの世界ではほとんどないから仕方ないか。
俺? 俺は、旅客機とかで感じた事があるから、他の人よりは全然マシだ。
旅客機の離着陸とか、それなりにGがかかるからね……あれより、強く感じたけども。
エルサが飛ぶ時にいつも張っている結界がなければ、かなり危険な事になっていたのは間違いないか。
「も、もっと年寄りをいたわらんかい。川の向こうで婆さんが手招きしているのが見えたわい。知らん婆さんじゃったが」
知らん婆さんって……とりあえずその川の向こうに行くと、戻って来れなくなりそうなので気を付けて欲しい。
……気を付けるのはエルサもだけど。
後で、エルサには注意しておこう。
俺やユノ、ロジーナ以外が乗っている時は、もっと気を遣うというか徐々に加速するべきというか……そもそも、十翼も出して簡単に国を横断できる速度を出すのは危険だと言っておこう。
「それでえっと……ここは……」
とりあえず、エルサが魔物を発見したのもあるけど、まずは今いる場所の把握に努める。
明るいから多少は流れる景色なんかも見えていたけど、早すぎてどういう移動をしたのかはよく分かっていないからね。
王都がちらっと見えた事から、多分ワイバーンで出発して東側に行ったのを引き返しているのは間違いない。
そこからえっと……あぁ、遠くに見える森は多分、ロータ君と一緒に通った野盗を捕まえた場所かな。
森を横断するように切り開かれた街道っぽいのがかすかに見えるし、中央付近にぽっかりと穴があいたような場所がある。
俺がやり過ぎて、ちょっとだけ切り開いちゃった場所だと思う。
確か今は、西南のクレメン子爵領へ行く道の途中での休憩所というか、宿場みたいなのが建設中だったはず……もうできたんだったっけ?
まぁそれはともかく……。
「王都から東南。まぁ予定通りと言えば予定通りだけど……」
「ふふん、だわ。どうなのだわ? あのトカゲもどきより私の方がよっぽど空を飛ぶのが上手いのだわ」
なんて、自信満々に鼻高々な様子が声だけでわかるエルサ。
速度はともかく、飛ぶのが上手いかどうかは……どうなんだろうね?
速度を出すだけでは巧者とは言えない気がしなくもないようなあるような……?
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