アマリーラとリネルトの関係
「傭兵としてというのはわかりましたけど、シュットラウルさんとかはこの事を?」
「知りません。いえ、もしかしたら気付いていた可能性はあるかもしれませんが……少なくとも、私やリネルトから打ち明けた事はありませんし、向こうから問われた事もありません」
もしかしたら、シュットラウルさんは姉さんみたいになんとなく察しているというか、気付いている部分はあったのかもしれないけど……アマリーラさんが隠しているから、気付いていないふりをしていたのかも。
完全い気付いていない、という可能性もあるけどね。
「あくまでもいち傭兵として扱われたかったんですよねぇ、アマリーラさんはぁ。まぁ身分を明かしたら他国の貴族である侯爵様がぁ、傭兵としてでも獣王国の王女殿下を雇う事なんてできませんよねぇ」
まぁ、下手をしたら外交問題になったりする……のかな?
アテトリア王国から見たら他国の王女様、本来なら国賓として迎えてもおかしくないわけだし、そんな人を傭兵として雇うのは貴族として外聞がよろしくないとか、そういうのもあるかも。
「……リネルトさんとアマリーラさんって、どういう関係なんですか? 結構昔からの知り合いみたいな感じがしますけど」
二人を見ていて、ふと気になったので尋ねてみる。
これまでは友人関係とかそれだけかなって思っていたけど、アマリーラさんの身分を知っていると、じゃあリネルトさんの方は? なんて疑問に感じる。
さすがに、リネルトさんの方は王女様って事はないと思うけど……一応アマリーラさんとリネルトさんが対等の関係と表向きになっても、なんとなくアマリーラさんの方が上っぽい雰囲気を出しているし。
暴走したら遠慮なくリネルトさんが止めるけどね。
「リネルトとは、幼い頃からの付き合いになりますね。獣王国の王族付き第四王女……まぁ、私の事になるのですが、その専任親衛隊員になります。隊と言っても、リネルト一人なのですが」
「親衛隊……」
親衛隊って聞くと、アイドルの熱狂的なファンが一瞬だけ思い浮かんだけど……絶対違うよなと頭を振って浮かんだイメージを振り払う。
あれだ、王族とか偉い人に張り付いて護衛したりする部隊の事だろうね、日本だと近衛って呼ばれたりする。
一人で隊って言うのもおかしな気はするけど、ともかくリネルトさんはアマリーラさん専任で、護衛する人って事でいいんだろう。
「獣王国、というより獣人はぁ、人間よりも幼い頃にその子の資質などが表に出てわかりやすいんですよぉ。それでぇ……」」
リネルトさんの話によると、人間よりも早いうちから素質がわかるらしい獣人。
本人や親の意思などもあるけど、大抵はその素質に従って伸ばす方向で教育がなされるみたいだ。
当然だけど、人間と同じく素質があるからといって放っておいても伸びるわけがなく、宝の持ち腐れになってしまう。
そのため、幼いうちから素質に合った場所で暮らす事も多くあり、リネルトさんもそんな一人だとか。
リネルトさんの場合は、戦闘系の素質……多分、獣人が使える魔法というのも関係しているだろうけど、そこから親衛隊になる事が決まったと。
年齢的にも近く、顔を合わせた時にすぐ親しくなったから、アマリーラさんの親衛隊になったという経緯も教えられた。
つまり、二人は幼少期からずっと一緒だったという事だ。
息の合った掛け合い? ができるのは長い付き合いだからというのもあるんだろう。
「私やリネルトのように、獣王陛下を始めとした王族、それ以外の要職に就く者の一部は……」
さらにアマリーラさんからの補足では、親衛隊はリネルトさんのように幼少期から育成する事がほとんどで、誰の親衛隊になるかが決まるのも早く、その後はこの二人のように一緒に過ごす事が多いのだという。
その方が、共に成長してお互いの行動や考え方などもわかるようになりやすく、守りやすいからだとか。
確かに幼い頃から一緒にいれば、お互いの事はよくわかっているだろうし、そこから護衛をするのもやりやすくなる……のかもね。
俺は誰かを護衛とかってあまりやって来ていないし、逆に守られる方にもあまりなっていないというか、必要なかったからよくわからないけど、とりあえずそういうものなんだろうと思っておく。
「リク様、すぐにお着替えをお持ちしておきますので、どうぞごゆっくり」
「あ、はい。ありがとうございます」
アマリーラさん達の事情を聞いていると、大浴場に到着。
俺達の話を黙って聞いていたヒルダさんが、俺の着替えなどを取りに向かってくれた……アマリーラさん達のもだね。
とりあえず顔の汚れなどは、姉さんの執務室に入る時に落としてもらい、上に羽織る物を貸してくれて、所々焼けて穴が開いている服を隠してはいるけど、火事現場から戻ったばかりで結構ボロボロだからね。
見えない所はもちろん汚れたままだし。
という事で、執務室での話が終わって部屋を出てからは、大浴場へ向かっていた。
早くお風呂に入ってさっぱりしたいし、アマリーラさん達の尻尾がチリチリのままだから、手入れもして欲しい。
もちろん、俺は男湯でアマリーラさん達は女湯、別々で俺が手入れをするわけがないけど。
「リク様、お背中を……」
「いえ、それはいいですから! アマリーラさんとリネルトさんは、しっかり尻尾や耳の汚れ……まぁ全身だとは思いますけど、とにかく汚れをしっかり洗い流して来てください! それじゃ!」
「あ……リク様ー!」
俺の後ろについて、男湯に入ろうとするアマリーラさんを押し留め、リネルトさんに任せてダッシュで別れる。
後ろからアマリーラさんの叫び声が聞こえた気がするけど……王女様が、男の背中を流すために男湯になんて駄目ですからね! なんて心の中で叫びながら振り切った。
まったく……。
「しっかり洗うのだわ~」
「はいはいっと……」
とりあえず大浴場に入って、一息つきながら体の汚れを大まかに洗い流し、お次はエルサ。
エルサは燃え盛る家の中などに入ってはいないけど、近くにいたためか、モフモフの毛が少し黒ずんでいたりと煤汚れや、灰が毛に絡まっていたりしている。
念入りにエルサの毛を洗い流しながら、時折よく大浴場で一緒になる兵士さん達と雑談などを少々。
王城内にいる人限定ではあるけど、公衆の大浴場だからね、もちろん俺以外にも人がいる。
百人入っても大丈夫! と言いたくなる程の広さなので、混雑する事はほとんどない。
ちなみに、本当に百人入っても洗い場も湯船もかなり余裕があったりする。
これが男女別って事は単純に二倍って事で……王城とはいえ屋内にこんな広い浴場を作るのは、素直に凄いと思った、何度も入っていて今更だけど。
何はともあれ、エルサをしっかり洗った後は、自分の体の汚れ綺麗にして、行くりと湯船に浸かった。
爆発と大火災から執務室への連行と、張りつめていた気持ちみたいなものが、溶けるように緩んでいくのがわかる。
あ~、このまま寝てしまいそうなくらい気持ちいい……あ、こらこらエルサ、湯船で泳いだら駄目だぞー、兵士さん達は笑って気にしていないようだけど。
なんてやり取りをしつつ、存分に心の洗濯をした――。
お風呂は命と心の洗濯です……もしかすると魂の修復も速まるかもしれなかったりしなかったり……多分しない?
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