女王陛下の偏愛?
「リク様の動き次第ではあるかもしれませんが、最低でも悪心を持った者の消滅。最大では……この国がなくなる可能性も考慮しないといけませんな。そんな相手を利用して、利だけを得ようなどとは考えられません。リスクが高すぎますな」
「宰相はこう言っているけど、もしかしたらもっとかもしれない。帝国との戦争に勝てても、それでは意味がなくなるだろう。利を考えるどころではない」
やれやれとため息をついている宰相だけど、言っている事は的確なのよね。
まぁ溜め息はどちらかというと、愚かな事を考える者達ではなく私に向けられているようだけど。
以前、バルテルに対して私がもっと強く言った事に対して、思い出しているんだろうと思うわ。
この場にいる者で、あの時いた者はほとんどいないから、知らずに口にしようとしていたんだろうけどね。
ともあれなんというか、バルテルに対してはちょっと私も辺りが強すぎたと今では少しだけ、ほんのちょっぴり、爪の先程の反省をしているわ。
だって、バルテルはもっと直接的だったし、いやらしい笑みを浮かべて私のりっくんを値踏みしていたようでもあるから。
しかもあの時って、りっくんと再会した直後だったから、絶対そんな事させない、と私も必死だったのよね。
……りっくんなら、きっとあの時の気持ちをわかってくれるはずよ。
その結果が、逆切れしたバルテルが私を人質に取り、王城内での凶行に走ったのだけれど。
まぁそこは、最初からある程度仕組まれていた部分もあるから、私のせいだけではないのだろうけど。
じゃないとあのタイミングで、王城に魔物が押し寄せてきたり、ヴェンツェル達多くの兵が動かせなくなっていたりなんかしないんだから。
後から調べた限りでは、バルテル自身はもっと慎重に事を運ぶ予定だったようだけど、もしかしたら帝国に利用されて何か細工されていたのかもしれないわね。
人間を爆弾にするような奴らだもの、何かのきっかけ、もしくは怒りを爆発させるように色々と仕組んで仕掛ける事だってできる可能性がないとは言えないもの。
バルテルが凶行に走る直前までやっていた会議に参加した者達の中には、帝国と通じていた者達もいたのだから。
「リクを利用しようとするなど愚かな事。あれは国を富ませる者ではなく、民を富ませる者であり、民のために動く者であると余は考えている。それを欲に駆られて利用しようとし、こちらにとばっちりが来たらたまったものじゃない。リクと接触する時は、その事よくよく考えて行動せよ」
すっかりおとなしく、黙りこくってしまった一部の者達。
ここまで言っておけば、りっくんを自分の欲のために、利益のためだけに利用しようなんて考えないわよね。
りっくんの事だから、簡単に騙されそうだし……そこは私が釘を刺しておかなくちゃね。
お姉ちゃん、りっくんのためだったらいくらでもがんばっちゃうわ!
まぁ、私が何も言わなくても、モニカちゃん達もいるし、今は例え的にも嗅覚の鋭いアマリエーレ殿下もいる。
それにユノちゃんとかロジーナちゃんとかもいるから、簡単に騙されるわけもないんだけど。
騙そうとして、利用しようとして近付いても看破するでしょうし。
でもお姉ちゃん、もうちょっとだけユノちゃん達じゃなくて、私を頼って欲しいわぁ。
何よ、創造神と破壊神って……まるっきりファンタジー世界じゃない、いやそうなんだけど。
アテトリア王国という大国の女王になった、私の影が薄いって一体どういう事なのかしら……。
なんて考えつつ、もう一度りっくんとの協力で帝国を圧倒するための軍備、獣王国との協力要請のための使者など、諸々の確認をしていった。
私の忠告が聞いたのか、りっくんの迫力を脳裏に浮かべているのか、もう二度と利用するような内容の話は出なかった。
まぁ、りっくん一人だけでももしもがあれば大変なんて言葉じゃすまないのに、獣王国が敵に回る可能性なんて考えたら、利用したいなんて考えられないわよね。
それと……。
「リク様とは、国内の一部貴族が友人として協力関係を築いてもおられるようです。誰とは申しませんが、我が国でも有力な貴族ばかり。陛下と獣王国、さらにその方たちをも敵に回すような事は、考える事すらしない方が賢明でしょうな」
という宰相の言葉が、深く効いているのだと思うわ。
私も人の事は言えないけれど、宰相も……それからヒルダも、りっくんの事好きよねぇ。
でも、私が一番りっくんの事を大好きなんだからねっ! それはりっくんも理解してくれているわよねきっとっ!
ね、りっくん!!
―――――――――――――――
「っ!?」
執務室を出て、ヒルダさん以外のヴァルニアさん達と別れ、王城の廊下を歩いていると、何故か急に背中を走る悪寒に体が震えた。
なんとなく姉さんと関わりがあるような気がするけど……いやいや、そんな事あるわけないか。
嫌な予感とか、そういう事でもないみたいだし、気にする必要は多分ないと思う。
というか、気にしちゃいけない感覚すらある……。
「どうされました、リク様?」
「いえ……なんでもありません」
体を震わせた俺を心配してくれる、アマリーラさんには首を振っておく。
「電波受信なのだわ~」
「は?」
「執念、執着、妄執……概ねそのようなものが、リクの方から感じられたのだわ。どっかから電波が飛んできたのだわ~」
「なにそれ、怖いんだけど……」
エルサがまた変な言葉を……と思ったら、悪寒を感じた理由みたいなものを教えてくれた。
執念やらなにやら、そんなのを飛ばして来るとか怖すぎる。
なんとなくだけど、深く考えない方がいい気がするので、さっさと話題を変える事にしよう。
エルサも、お気楽暢気な声音で「気にしない方が精神衛生にいいのだわ~」なんて言っているし。
「そ、そういえばアマリーラさん。何度も聞いてすみませんけど、本当に獣人の国……ティアラティア王国でしたっけ? そちらの王女様、なんですよね?」
「はい。これまでリク様にお話しできず申し訳ありませんでした。正式には、ティアラティア獣王国ですね。その獣王国を出てこの国に来てから、身分は隠し傭兵として過ごしていましたので……」
ティアラティア獣王国か……獣人が主体の国だから、獣王国ね。
確かアテトリア王国とは友好関係にあると言っていたから、ティアラティア獣王国にも人間は住んでいて、獣人しかいないって事はないんだろうけど。
「アマリーラさんはぁ、身分を明かせば特別扱いされるからぁ、自分を鍛えるためにも単なる獣人のアマリーラとして傭兵になる事を決められたんですよぉ。だから、侯爵様に雇われていた時は一応の上下がありましたけどぉ、今は同じリク様の護衛の名目で、上下はないので私と同じ身分って事ですぅ」
「……リネルト、随分と楽しそうだが?」
「いえいえ、気のせいですよぉ? ようやくアマリーラさんが突き進むのを、少しは止められるかなぁって、思っていませんよぉ?」
第一印象は、ぼんやりした印象も受けるリネルトさんを、アマリーラさんが見ていたと思っていた。
けど今では暴走しがちなアマリーラさんを、リネルトさんが落ち着かせたり止める役になっているからね――。
女王陛下は表向き取り繕えているので、深く考えずにこのままにしておく方がいいのかもしれません?
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