正式な回答
「人間を爆発させるなど、唾棄すべき破壊工作を仕掛けてきている。確証はないが、リクやそれに連なる者達からの報告で、これが帝国の仕業だというのは確定的だ。他にも様々あるが……もはや帝国との武力衝突は避けられん。こちらからではなく向こうから侵略を企てているのは明白であり、これを受け入れるわけにはいかないからな」
帝国からの侵略を黙って見過ごすわけにはいかない。
これは当然の事だろう、戦力に大きな差があり、抵抗しても無駄というわけでもないのだから。
国が、国民が蹂躙される可能性があるのに、それを黙って見ているだけの君主なんて無能にも劣る。
「一食触発の状態に近いだろう。いつまでもこの状態を続けるわけにもいかん。近いうちに間違いなく武力衝突が起こる。つまりは戦争だ。当然我がアテトリア王国は、帝国に対し徹底的に抗戦する。それが、帝国の領土を脅かす事になろうとな。そこでだリク、正式ではないが以前もリクには問いかけた。その時の答えはすでに聞いているが、この場を持って改めて問いかける」
「はい」
予想はしていたし、覚悟も決めていた。
けどいざ問いかけられるとなると、少し緊張する。
姉さんが問いかけたい事、正式に決めて大臣さん達も聞いておきたい事、というのは話の流れでわかる。
というか、帝国との戦争に関する話に触れた時点で、なんとなくわかった。
「ではリク、我がアテトリア王国と帝国の間で戦争が起こった際には、帝国に対する者として参加をしてくれるか?」
つまり、戦争にアテトリア王国の味方として参戦してくれるか、という問いかけだ。
兵士としてとまで言わなかったのは、多分俺が冒険者だからなのと、配慮とかもあるんだろう。
あくまでも、戦力ではあるけど兵士ではなく、協力者として味方になって欲しいという意味だと考える。
そして、姉さんだけでなく、この場にいる俺やアマリーラさん達以外の全員からの頼みでもあるこの問いかけを、断る考えなど俺にはない。
「はい。謹んでお受致します。帝国の敵として、アテトリア王国を守る者として、尽力する事をお約束致します」
少し仰々しいかもしれないけど、立ち上がって片膝を突き、見様見真似で騎士っぽい礼と共に、答えを返す。
正式にという事だったから、クした方がいいと思ったんだけど……騎士っぽい礼なんて初めてだから、不格好かもしれないなぁ。
「うむ、英雄リクが味方であると正式に決まったのであれば、我が軍だけでなく全国民の士気も高くなろう。礼を言うぞリク」
おぉぉ……という、姉さん以外の人達から小さく歓声が上がる。
それを手で制し、姉さんが立ち上がって俺の前に来てしゃがみ込み、肩に手を当てた。
これで正式に、俺の参戦が決まった……と思っていいだろう。
ちなみに、姉さんは俺から離れる際に耳元で小さく「ありがとう、ごめんねりっくん」と声をかけてくれた。
リラックスモードと同じ呼び方に、他の人達に聞こえていないか少し心配したけど、皆俺が参戦する事に沸いているようだった。
ここにいる人達の中で、宰相さんくらいしか姉さんのリラックスモードでのだらけ具合を知らないだろうし、聞こえていないのなら良かった。
「さて、形式ばった事をしてしまったな。それで、リクはクランとして冒険者を率いて参戦するのだったな?」
「はい、そうなります」
マティルデさんから依頼されているというのもあるけど、俺が参戦するのはあくまで冒険者としてであり、兵士としてじゃない。
まぁ実際に戦争になったら、冒険者も兵士も大きな違いはないかもしれないけど。
命令系統が違う、とかはあるかも。
「協力関係とはいえ、冒険者や冒険者ギルドに国から直接関わる事は歓迎されない。だが、できる事があれば、こちらでも最大限の支援を約束しよう。リク一人だけで心強いが、少なくない冒険者が味方になってくれるのは、非常に助かる」
「ありがとうございます。こちらこそ助かります」
「何かあれば、遠慮する事なく言ってくれ」
冒険者のクランは冒険者ギルドの下部組織みたいなものだから、国が直接何かする事って基本的にないんだけど、支援を約束してくれるのはありがたい。
ミラルカさん達など俺が助けたというのはあったとしても、クランに所属する事も許可してくれたし、既に支援されているようなものだけどね。
ちなみに、今日俺達が出かけている間にミラルカさんだけでなく、事務方で所属してもらおうとしているナラテイアさんやカヤだけでなく、ヴァルニアさんなどにもこの先の俺の行動や戦争に関してなどを、ヒルダさんの方から伝えているはずだ。
先程、ここに連行される前に皆一緒にいたのを見ると、多分問題なく詳細説明を終えたんだろうと思う。
「リク様が我が国側で参加して下さるのなら、兵達の士気も上がりましょう。これまで、積極的に協力していただいておりましたので、漠然と参戦して下さる。味方であるとは感じておりましたが、正式に参戦を確約して下さった事で、広まればさらに士気が高まるでしょう」
感謝するように、何度も目礼しながらそう言う宰相さん、他の大臣さん達も頷いている。
つまり、俺が参戦するとはっきりした事で、兵士さん達のやる気が上がるだろうって事かな。
これまではなんとなく協力してくれるから、そうなんだろうとは思っても正式には決まっていないかったので、不安に思う人がいたのかもしれない。
まぁなんにせよ、俺が参戦すると表明するだけで喜ぶなら何よりってところかな?
「リクも含め、冒険者は独自に動いてもらう事になるとは思うが……足並みをそろえる事も考えねばならん。そこらは後日改めてとなるだろう」
「わかりました」
兵士さん達とは違うとはいっても、冒険者だって足並みをそろえなければ烏合の衆になりかねないからね。
大人数になるからこそ、ある程度は足並みをそろえるなりの措置は必要だろうと思い、頷く。
そんなやり取りをしていると、大臣さんの一人が何度も頷き、満面の笑みで発言する。
「リク様の参戦と協力。これで我が国の勝利は揺るがないものになりましたな、陛下」
「油断するでないぞ。戦争に絶対はない。それは、これまでの歴史が証明しているだろう」
「それは……確かにそうですな。申し訳ございません」
姉さんにたしなめられ、笑みを引っ込める大臣さん。
まぁ俺が参戦したからって、絶対に勝てるとは限らないからね……向こうには俺と同様に、大量の魔力を持つクズ皇帝がいるわけで。
しかも、ドラゴンと契約している可能性も高い、というかほぼ確定している状況だ。
この世界に来たばかりの俺より、魔力量は多いようだし何をしてくるかわからないため、油断は絶対にできない。
とはいえ、先程王城に戻る前にも決心したけど、ここしばらくずっと考えていた事がある。
魔物を研究し、復元利用するだけでなく改良してしまうなど、命を弄ぶ部分は元々あったけど、さらに人間を爆発させる破壊工作までやり始めた。
そんな考えの国、いやトップに立つクズ皇帝がアテトリア王国との戦争に勝ち、侵略が完遂してしまえば手が付けられなくなるだろうからね――。
帝国の侵略、その意思をリクは認める事、許す事はできないようです。
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