しばしの雑談
アルネやカイツさんが研究開発している、爆発する人物を判定する魔法具は、姉さん達にとって救いの手の世に感じるのかもしれない。
大きな問題だからといって、魔法具がないと誰もかれもを捕まえて、全ての人達を疑って調べるわけにはいかないからなぁ。
本当に爆発するかどうかなんて、見ただけじゃわからないし魔法具なしでははっきりと調べようがない。
そのうえ、エルサによると魔力の多い人が下手に触ると危険らしいし、そういう意味でも探すのは大変だから、この反応も仕方ないんだろう。
「はい。数日内……確か二、三日くらいでできると言っていました」
「であれば、調査で困る事もそうそうなくなるだろう。おそらく、先程の様子がおかしい者を調べる制度も効力を出すのは早くてもそれくらいだろう。取り入れて活用できる」
怪しい人物を見かけたら通報する、っている制度だね。
さっき姉さんが伝えて、公布するのは早くても明日くらいだろうし……即日たくさんの通報があるとは思えないからね。
町には出歩く人が少なくなっている影響もあるだろう。
それなりに通報されて、不審者を捕まえたとしても魔法具の完成を少しだけ待つだけでいい。
まぁ、報奨金目当ての冤罪みたいなのもあるだろうし、一日や二日の拘束をされる方はたまったものじゃないとは思うけど……さらに多くの日数をかけて調べられるよりはマシになるだろう。
「それから、爆発するきっかけの報告もしましたけど……魔法具が完成し、爆発する人物を拘束した場合は、使用許可を求めたあの地下牢に隔離するようにした方がいいかと。アルネと話していたんですけど、外部からの魔力流入によって爆発するのであれば、どこに捕らえておこうと危険です。ですから……」
フィリーナが結界を張って、外部からの魔力流入、それによる刺激で爆発するのを防ぐ、という案を伝える。
「成る程な、一か所に集めておいて外から干渉されぬようにするか。わかった、リクの案が最も危険が少ないだろう。徹底させる」
「お願いします」
捕まえた人が多くなる程、管理は大変になるかもしれないけど……下手な場所に連れて行って、そこで爆発されたらいけないからね。
それこそ王城とか、もっと人や建物が密集している場所などで多くの被害を出すような事は、させてはいけない。
今日は共助活動が上手くいって、なんとか被害は最小限と言えるくらいだったけど、いつもそうだとは限らないから。
その後は、エルフを筆頭に魔力の多い人は不審者に触れないように、などの注意点も含め、報告した爆発事件の話をいくつか確認もしながら話す。
さらにそこから、何故かちょっとした雑談のようになり、姉さんの執務室に入る際や、入った直後のような緊張はすっかりなくなっていた。
毎日のように、部屋に来てリラックスモードで話している姉さんはともかく、宰相さんなどお偉い方々が俺からちょっとした事でも話を聞きたがっていたように見えたのはなんでだろう?
あと、その流れでエルサ程じゃないけど、モフモフのぬいぐるみというか編みぐるみというか、とにかくモフモフ普及のための物の開発をお願いしていて、いずれ販売するつもりだ……という話には、部屋にいる多くの人が食いついていたっけ。
こういうのは、女性の方が反応しそうという先入観があったけど、エルサをよく撫でている姉さんや自身に立派なモフモフ尻尾などがあるアマリーラさん、リネルトさんはあんまり反応していなかったけど。
やっぱり、老若男女問わずモフモフは多くの人を魅了するんだなと思う。
そういえば、アマリーラさん達の尻尾はまだチリチリなんだよなぁ……早く手入れして欲しいけど、偉い人達に囲まれているような今の状況じゃ難しいか。
一応、執務室に入る直前、ヒルダさんやヴァルニアさん達の手によって少しだけ整えられてはいるけど。
それでも、まだ完全じゃないし……うぅむ、やっぱりモフモフが損なわれている状態というのはきになる……。
「すまないな。こやつらはあまりリクと話す機会がなく、それを窺っていたのだ。多くの国民が認める英雄と、一度じっくり話してみたいとな」
雑談の切れ目に、苦笑している姉さんに言われる。
パレードの会議だとかも含めて、何度か話した事はあるけど……言われてみれば、雑談というかじっくり話す機会っていうのはなかったね、姉さん以外。
皆、重要な役職に就いている人達だから、日頃忙しそうにしているというのもあるんだろうけど。
俺の方も、こうして話していて親しみを持てたし、いい機会だったんだろう。
もしかしたら、この機会にと言う事で姉さんが強制的に俺をここに連れて来たのかもしれない、というのは考え過ぎかな?
なんにせよ、年配の人が多いけど国の首脳陣とも言える人達も、別に特殊な人というわけではないっていうのはよくわかった。
バルテルの凶行以来、国内の浄化が進んで大臣さん達も一部は交代した人もいるみたいだけど、話していると皆気のいい人達のように思える。
もちろん、必要な時には厳しくそれぞれの役職の仕事を全うしてくれるんだろうけど。
「さて、再び全員揃った事だし、もう一つリクに尋ねておきたい事があるのだが」
「はい、なんでしょうか?」
先程、姉さんが下知を飛ばして退室した一際年配の大臣さんが戻ってきて、いくつか話したところで姉さんが切り出した。
少しの言葉と表情で、雑談で緩んだ空気を一瞬でピリッと引き締まった雰囲気に変えたのは、さすが女王陛下だね。
「私からはリクから聞いているのだが、正式にという形が欲しいと爺……宰相から言われてな」
「申し訳ありません。事は、我が国、そして軍全体の士気に関わる事ですので」
チラリと姉さんが視線を向けた先にいる宰相さん。
何度も見た事があるし、何度も話した事のある人だ。
俺の部屋に着てダラダラしている姉さんを呼びに来た事もある。
見た目は初老の男性ではるけど、実際には結構お歳らしく、姉さんからは爺とも呼ばれていて、信頼も寄せる人だね。
年齢的な事もあるのか、孫娘を見るお爺ちゃんのような目で姉さんを見ているのを何度も見かけた事がある。
ちなみに、王城内でも数少ない俺と姉さんの関係や、俺が異世界からという事などの事情のほとんどを知っている人物の一人でもある。
宰相という役職上、知っておいた方がいいと判断しての事だ。
まぁヒルダさんも知っているしね。
「リク……帝国との境界線、つまり国境は未だかつてない程の緊張状態になっている。小競り合いこそないが、兵士同士で睨み合っている状況だ。現在国交は断たれていると言っていい。向こうに潜入しているハーロルトが、こちらに戻るのに苦労しているみたいだが、あいつの事だからなんとかするだろう」
「はい……」
ハーロルトさん、取り残されているのか。
まぁ、睨み合っている場所を必ずしも通らなければ、アテトリア王国に入れないというわけじゃないだろうから、ハーロルトさんならなんとかするんだろう、という姉さんの信頼も頷けるかな――。
ハーロルトさんなら、何かしらの抜け道を使って戻って来そうな信頼感を、リクや女王様も持っているようです。
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