不審者の取り締まり
「皆様からの謝意、確かに受け取りました。ですが今回の事だけでなく、多くの人が助かったのは私一人の功績ではなく、協力してくれた方々がいたからで……」
俺も立ち上がりながら頭をフル回転させて、この場に相応しい言動を心掛ける。
姉さんに迷惑をかけるわけにはいかないからだけど……ちょっと偉そうになってしまったかな?
自分の事を私、なんて言った瞬間には背中にゾワゾワとした変な感覚があったけど。
慣れない事を言うもんじゃないなぁ。
ともあれ、大きな失敗はしていなかったようで、何故か感心されながらもう一度全員が着席する。
ようやく少しは落ち着いた、かな。
なんとなく偉い人達に見られているのも、少しは慣れた気がするし。
「してリクよ、今回の事……どう思う?」
「確証はないので、はっきりとした事は言えないのですが……」
少しの間を置いて、姉さんから問いかけられる。
不審者の発見から別の場所での爆発、火事現場での救助活動など……それぞれを見て、こうだろうというのはあるけど、確証がない事が多く断定はできない。
そうとしか考えられず、おそらく間違いではないと思っているけど、ほとんど推測だからね。
「良い。リクの考えを聞きたいのだ。正しいかどうかは関係なく、申してみよ」
他のお偉いさん達も頷いているし、現時点での俺の考えを聞いておきたいみたいだ。
まぁ推測でもいいというのなら、ここにいる人達に隠す事じゃないし、話しておくべきかな。
「あくまで状況からの推測ですけど……帝国の工作であり、人間を使った破壊と混乱を撒き散らすよう、仕向けているのだと考えています。それに先程報告した中にもありましたが……」
推測であり、確定ではないという事の念を押しておいて、考えていた事を話す。
大体は、アマリーラさん達やアルネとかと話した事でもあるけど……。
もし推測通り、東門での小規模爆発がきっかけに俺達が発見した不審者や、王都北西で起こった爆発と火事が起こったのであれば、作為的である事。
つまり、帝国の研究の成果が施された人間を使って、こちらの国に被害をもたらそうとしているのだろう、との考えだ。
レッタさんからの話や、その他の情報や状況などから、ほぼ間違いないとは思っているけど。
まぁでも、用意周到なのか慎重なのか、あくまで帝国がそういう考えで動いていると誰かから聞いた程度であり、その帝国からだという絶対的な証拠って、実はほとんどないんだよね。
だからまだ絶対とは言えないし、こちらで起こった事を使って帝国を糾弾、という事も中々できないでいるんだけども。
「そうか……やはりリクも、我々と同じ方向で考えているのだな。しかし厄介だな……人間が爆発という許されざる方法で、我が国を害そうとしている」
「陛下、リク様の報告にあったように、通常の様子ではない者を拘束し、調べるというのはいかがでしょう? それであれば、爆発による被害を減らせるかと」
眉を寄せる姉さんに対し、大臣さんの一人がそう提案する。
えっと、あの大臣さんは何を担当している人だったっけ……王城で何度かすれ違って顔を覚えているし、その時に挨拶をして少し話をした事はあるんだけど。
……考えてもわからないから、多分忘れてしまったんだろう……聞いた覚えはあるんだけどなぁ。
思い出せない事は置いておいて、その大臣さんの提案についてだ。
「すみません、いいですか?」
「リク、申してみよ」
おずおずと手を挙げる俺に、姉さん達の視線が移り、発言を許可された。
別にある程度は自由に発言できるとは思うんだけど、なんとなくこうしないといけない気がした。
というか、国の偉い人達がほとんど集まっている空間だし、自由気ままに発言できる程俺の度胸は据わっていない。
「そのですね、先程の報告で不審者の……おそらく爆発するだろう人間の特徴を伝えましたけど、それが全てかどうかはまだわかりません。どうあれ、爆発をするための目的地にはその本人が移動しているんです。意思があるかどうかはわかりませんが」
フラフラと移動して来ていた人が、急に爆発した……という目撃情報はあったけど、それが俺達の発見した不審者と同じかどうかはわからない。
というより、俺達が発見した不審者は移動する様子もなかったため、既に目的地に到着していたのだろうけど、それまでどうしていたのか……。
あの様子で、大通りなど町に出ている人が少なくなったとはいえ、誰もいないわけじゃなのに不審に思わなかったのはおかしい。
「つまりリクは、目的に到着するまでは他の民と変わらず、見分けが付かないように過ごしていると考えているのか?」
「そこまではわかりません。けど、そうじゃないともっと爆発する前後で、似たような人物の目撃情報があるはずだと思うんです」
それこそ、俺達が見つけた不審者と同じ状態の人が歩いていたら、通報とかされてもおかしくない。
いや通報されて当然だろう。
でもそんな話は聞かない……なら、よく見ればおかしいと気付けるかもしれないけど、最低限町の人達に溶け込めるくらいの動きや見た目の可能性がある。
まぁ、服とかはどうにもできないだろうけど、ぼろ切れを纏っている人、というのはみかけなくもないからな。
好んでそういう服を着ている人もいるらしいし。
「成る程な……であれば、不審な者を探して捕らえれば解決できる問題でもないか。だが、ある程度の効果は見込めるだろう。そうだな……よし。王都の者全てに伝えよ……」
俺の話も踏まえて、改善案というのかはわからないけど姉さんが決断し、下知を飛ばす。
内容は、王都城下町……だけでなく王城も含めての警備強化。
そして、不審者への警戒をしたうえで、民からも広く情報を求めるとの事。
つまり不審な者を発見したら通報しろって事だね。
ちなみに通報し、爆発云々に関わらずとも犯罪を犯している者であれば報奨金も出すらしい。
言い方は悪いが、お金で釣るというわけだ。
ただこれは、長く続けば悪用されかねないため一時的な措置である事、そして真偽を調べる手を緩めない事などを、取り締まる側にも徹底させろ、という事だった。
姉さんの命令を伝えるためだろう、並んでいるお偉いさんの中で特に年嵩……お爺ちゃんと呼んでも差し支えない人が立ち上がり、皆に深々と礼をして退室していく。
年齢のためか動きはゆっくりしていたけど、背筋は伸びていて、足もしっかりしているようだった。
もしかすると、見た目よりは若いのかもしれない。
「魔法具の完成が待たれるな……要望通りの物ができれば、もっと的を絞って取り締まる事ができるだろうに……」
状況の報告ばかりで、アルネが言っていた魔法具完成の事をまだ話していなかった。
確か、数日だったかな? それ以内で完成すると言っていたはずだね。
「それでしたら、もう完成の目途が立っているようです、陛下」
「それはまことか!?」
姉さんが勢いよく立ち上がる。
他の人達、幾人かが同じようにしているけど……それだけ、爆発する人をはっきりさせる方法を求めていたんだろう――。
確実に判定する方法は必要みたいです。
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