何かが滲み出るリク
――先に城に戻る、というか一刻も早く研究を続けたいという雰囲気を醸し出すアルネを送り出し、俺達も少しだけ片付けを手伝っていた。
大きな瓦礫などの撤去はさすがに大掛かりなので、片付けといっても小さい物の除去や、火がくすぶっていないかくらいの見回り程度だけど。
それを続けて、大分片付いたというか現場がかなり落ち着いて、そろそろ俺達も王城に戻ろうかとアマリーラさんやリネルトさんと話していた時、ててて……と一人の女の子が折れに近付いてきた。
炎に囲まれても赤ん坊の男の子を守っていた女の子だね。
「ありがとう、ございました。おかげで助かりました」
「うん、無事でよかった。でも、大丈夫? 無理はしなくていいんだよ?」
ある程度治療は済ませてあるんだろうけど、火傷が体のあちこちにある女の子が、ペコっと俺の前でお辞儀と共に感謝を口にする。
助け出した時に着ていた服は、所々焼けていたためか着替えて綺麗になっているけど、腕や足、それに顔など外に出ている部分に見える火傷が痛々しい。
「痛いけど、でもこれは勲章だから!」
「勲章?」
「うん! 弟を守ったっていう勲章! だから、痛くても我慢できるの!」
「そうなんだ。うん、そうだね。君がいなかったら、あの子はきっと助からなかった。俺が突入した時にはもう手遅れだったかもしれないからね。頑張ったね」
「うん!」
誇らしげに笑う女の子の頭を優しく撫でる。
俺が心配する必要もなく、この女の子は強くてもし跡が残ったとしても大丈夫なんだと思えた。
ただ、あの赤ん坊の男の子とは本当に姉弟ってわけじゃなかったと思うけど……まぁ、弟みたいに思って可愛がっているって事かな。
あれだけの炎に囲まれて、火傷を負っても諦めずに守ろうとした強い女の子、その弟君は色々と大変かもしれないが、頼もしくもあるか……。
なんて、姉を持つ弟として色々と考えてしまいながら、女の子が本当の両親のもとへ駆けて行くの手を振って見送った。
女の子の両親は、泣きながら深く俺に頭を下げ、女の子を連れて行った。
助けられて良かったなぁ。
「よし、少しは元気が出て来たかな」
救助活動で、多くの人を助けられたからといってそれに対する達成感みたいなものは、正直あまりなかった。
アマリーラさんやリネルトさんの報告で、被害が当初考えられていたものより少なくなっていた、と聞いてもだ。
周囲はまだ瓦礫の山だし、まだ完全に煙は晴れていないうえ、強い焦げた臭いに様々なものが混じって思わず鼻を覆いたくなる程だから、清々しい気持ちになんてなれるわけもない。
でも、助けた女の子やその両親が喜んでいる姿を見て、やって良かった、助けられて良かったという気持ちが、心の中に広がっていた暗鬱としたもやのような物を少しだけ晴らしてくれた気がする。
もちろん全てではないけど……でも、決心ができるくらいには前を向いていられる。
女の子は俺にありがとうって言っていたけど、こちらこそ助かってくれてありがとう、俺に助けさせてくれてありがとう、と言いたいくらいだ。
「アマリーラさん、リネルトさん。王城に戻りましょう」
「はっ!」
「はいぃ~」
「戻ったらキューを所望するのだわ~」
もう一度、完全に火が消し止められた周囲の状況を目に焼き付け、アマリーラさん達に声をかける。
そして、王城へと歩き出しながら……。
「エルサも頑張ったから、戻ったらいっぱいキューを食べられるようにお願いするよ」
「お腹がパンパンになるまで食べたいのだわ」
「ははは、まぁ少しは加減してよ? 王城の人達も困るかもしれないから……」
「一応、考慮しておくのだわ」
なんて、エルサへのご褒美の話をしていつもの雰囲気になるよう、自分を抑え込む。
エルサとこれまでと変わらない会話ができているのを確認してから、爆発現場から少し離れた場所で、今話している趙氏と変わらないよう心掛けながら声を出す。
「アマリーラさん、リネルトさん。それからエルサ。王城に戻ったら陛下や他の皆に報告や話をしないといけないけど、それ以外にも大事な話があるんだ。俺がそうするのがいいのかどうか悩んでいたんだけど……決めたよ」
「だ、大事な話……ですか?」
「うん。向こうがどうでもよくなったっていうわけじゃないけど、少なくともこの町に、広く見ればこの国の人達に、大きく悲しむ人が少なくなるように……そうするための決意、決心がね。あ、じゃなかった……決心しましたから」
いけないけない、自分を抑える事やいつも通りの調子で話す事に意識を向けすぎて、アマリーラさん達相手にもエルサと話すような口調になっていた。
多分アマリーラさんは特に気にしたりはしないだろうけど、やっぱりいつも通りを意識するなら、ちゃんとこれまで通り年上のアマリーラさん達と話す時は、言葉遣いに気を付けないとね。
「は……はっ! 了解いたしました! 不肖このアマリーラ、リク様のお話とあれば神経を総動員して耳を傾ける所存です!」
「わ、私も、リネルトも了解しました!」
「……わかったのだわ。ちゃんと聞くのだわ」
「うん、お願いします」
今一緒にいる皆の返ってくる言葉を聞いて、さらに決心を深めつつ、自然に笑っているように口角を上げた。
……ところで、なんで頭にくっ付いているエルサはギュッと、締め付けるようにしながら震えているんだろう?
アマリーラさんやリネルトさんも、何故か尻尾を股に挟もうとしながら体を震わせているんだろうか?
歩きながらだから、上手くいっていないけど。
帰ってきた言葉も、なんだか緊張しているようだったような気がするし……おかしいな。
俺、ちゃんといつも通りに話せていたはずなんだけどなぁ……?
後日聞いた話によると、アマリーラさん、リネルトさんの二人からはヒュドラーやレムレースを見た時の絶望感が可愛く思えるくらいで、よく失神しなかったと自分を褒めたかったと言われた。
エルサは、隔離空間でロジーナを目の前にした時が遊びに思えるくらいだったのだわ、なんて事も言っていたね。
笑顔って威嚇の意味もあるんだと聞いた事があるけど、その時初めて実感した――。
――なんだかんだあって、王城に戻るとすぐヒルダさんに捕まった。
というより、ヴァルニアさんやエッダさんなど、野盗から助けて王城の使用人になった人たちを引き連れ、俺が戻って来るのを待ち構えていたようだ。
ミラルカさん達、クランに所属する予定の人達までいて勢ぞろいだ。
そして何故か、がっしりと両腕を掴れて全員で俺を連行していく……というか、十人近い人たちが全員で掴むって、歩きにくいと思うんですけど。
それと、別に俺は逃げるつもりはないし、怒られるような事はしていないはずなのに……。
あれかな、地下牢を使った事とか? でも許可はちゃんと取ったし。
気分は捕獲された宇宙人だね……宇宙人がどんな事を考えていたのかはわからないし、地球で有名なあの古い白黒写真は実は偽物だったとか言われているけども。
とりあえず、俺は異世界からきているわけだから、ある意味で宇宙人と変わらないのかな? なんて的外れっぽい事を考えながらおとなしく連行された。
途中、ナラテリアさんだかカヤさんだかの手が、エルサのモフモフを撫でていたけど。
うむ、やはりモフモフの普及は必要だね……。
あれこれ余計な事を考えているのは、リクにまだまだ余裕があるからかもしれません。
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